「地方×中小企業×運輸業界」をフィールドに多様な人材が活躍 ダイバーシティ推進で社員が成長し、新規事業が生まれた
大橋運輸株式会社
「地方×中小企業×運輸業界」をフィールドに多様な人材が活躍 ダイバーシティ推進で社員が成長し、新規事業が生まれた
大橋運輸株式会社「ダイバーシティ」という言葉が広く聞かれるようになって久しい。しかし、この言葉を身近なものとしてとらえている人は案外少ないのかもしれない。組織に多様性を持たせるための取り組みは大企業では進んでいるものの、日本の働き手の大多数が属する中小企業での事例はまだまだ乏しいからだ。
だからこそ、従業員数100名強の大橋運輸(愛知県瀬戸市)の現状には驚かされることが多い。男性中心の職場だと思われがちな運輸業界にあって、女性や外国籍、LGBTQ+、障がいのある人など、多様な人材が活躍している。
過去10年間にわたりダイバーシティ推進に取り組んできた大橋運輸。その動きをさらに加速させているのが、2018年に中途入社した岡田 桃歩さん(総務課 採用担当)と、同年に新卒入社した女性の担当者Aさん(総務課 CSV・ダイバーシティ推進室)だ。
岡田さんは先輩社員から「10年前の社内は男性ばかり。今はまったく別の会社になったようだ」と聞かされたことがあるという。
しかし同社では現在、女性取締役1名、女性管理職3名を筆頭に、数多くの女性社員が活躍している。雇用形態に関わらず週3日・1日4時間からの勤務を可能とし、出社時間は午前・午後どちらにも対応して柔軟な働き方を実現。福利厚生についても雇用形態による差はない。ドライバーや事務職など女性社員の職種も多様だ。
「約10年前、最初に短時間社員として女性が入ったときには、社長が『女性だから採用するのではなく、能力のある優秀な人だから採用する』というスタンスで選考に臨んでいたと聞きます。当時入社した2人の女性社員が経営戦略と総務を担当し、そこから大橋運輸のダイバーシティ推進が始まりました」(Aさん)
初めて外国籍社員を採用したのは2015年。業務用部品輸送などの下請けを中心とした事業構造を変えるべく、独自に引越し事業を立ち上げたタイミングだった。その際に、引き取った不要な家具などを海外へリユースする事業も始め、外国籍社員の必要性を感じることに。最初の採用では社長がフィリピンへ行き、現地で会社の想いを伝えながら面接を進めた。
現状、外国籍社員は7人。フィリピン、中国、台湾、ネパールと出身国はさまざまだ。Aさんは得意とする英語を生かして通訳スタッフも務めながら、2020年からは社内で日本語教室を開き、外国籍社員のサポートを進めている。
LBGTQ+の人や障害のある人も大橋運輸では活躍している。多様な人材を受け入れる上で、採用担当である岡田さんは「単に入社してもらうだけでなく、その人たちに活躍してもらうことこそ重要だと考えている」と話す。
「採用活動では、応募者となるべく時間を取って会話をしています。女性活躍の起点のように、本人の『やりたい』という想いや、会社の考え方への共感を大切にしたいからです。制度面では一人ひとり悩みが違うので、入社後に困っていることがないか頻繁にヒアリングして対応しています」(岡田さん)
組織の多様性を高めていく過程には難しさもあった。発達障がいのある人を採用した際には、本人の困りごとを察知することができず、早期退職につながってしまったこともあるという。
「私たちは事前に発達障がいの知識をインプットしたつもりでしたが、その知識があるがゆえに、『こんなことに困っていませんか?』と先入観を持って接してしまっていたんです。しかし、本人の困りごとは違うところにありました。知識に偏らず、一人ひとりの個性と向き合うことが大切だと痛感しました」(Aさん)
社内ではこうした失敗経験も含めて共有し、理解を深めるための活動も行っている。
社長は全社員に向けて、LGBTQ+や障がいなどの個性について「特別なことではない」と頻繁に発信。管理職向けにダイバーシティに関する社内テストを実施するなどして理解を広げ、部署ごとに落とし込んできた。
なぜ大橋運輸は、これほどまでにダイバーシティ推進に注力するのか。背景にあるのは人材不足だけではない。陣頭に立って組織作りを進めてきた鍋嶋 洋行さん(代表取締役社長)は、「運輸業界は長らく男性社会だったが、従来のように男性だけでチームを組んでいては会社の成長が頭打ちになってしまう」と語る。
「運輸業界では長年にわたり、ドライバーをはじめとした働き手の長時間労働是正が課題となっています。その解決のためには、仕事に人を合わせるのではなく、『人に対して仕事を合わせていく』必要があると考えていました」(鍋嶋さん)
物量と時間に厳しく縛られる運輸業では、一つひとつの案件を完遂するため、「人」に無理をさせざるを得ないこともある。異業種出身である鍋嶋さんは、この構造を変えるために逆転の発想を取り入れた。一人ひとりの状況や個性を踏まえて、適切な「仕事」を合わせていくことを決めたのだ。
「一人ひとりに仕事を合わせていく発想だからこそ、多様な人材を受け入れることができました。ダイバーシティを推進することで新規事業も生まれ、かつては下請け業務中心の体制でしたが、現在では売り上げの9割を自社事業が占めています。業界全体を変えていくことは難しくても、身軽に動ける中小企業なら、考え方一つでダイバーシティを推進していけるのではないでしょうか」(鍋嶋さん)
ダイバーシティは、中小企業にこそ意味がある。鍋嶋さんは力を込めてそう話す。
大橋運輸は個人向けのサービスとして、遺品整理・生前整理の事業を手がけている。これこそまさに、ダイバーシティ推進によって生まれた新規事業だった。
「女性社員が営業スタッフとしてお客さまと向き合うようになり、遺品整理や生前整理に関するニーズが多数寄せられるようになりました。お客さまに安心してご相談いただき、サービスを活用してもらうためには、社内の多様性が欠かせないと強く感じます。そもそも、お客さまも多様です。障害のあるお客さまへ提案する際には、障害のある社員の知識や経験がとても重要なのです」(岡田さん)
Aさんは、「社内の視点が多様になることで成果物の精度が高まる」と話す。
「個人的には、多様な人たちと仕事をする中で目的意識が磨かれたと感じています。多様性のあるチームにはさまざまな考えを持ったメンバーが集っているので、会議などを進める際には目的の共有が欠かせません。『今日はこの目的について話します』と伝え、明確にゴールイメージを共有する習慣が身につきました」(Aさん)
組織としての進化を続けてきた大橋運輸。2017年には、経済産業省が進める「新・ダイバーシティ経営企業100選」を受賞した。運輸業界の中小企業としては初となる快挙だった。地元においては幼稚園や小学校で交通安全教室を開催するなど、さまざまな形で地域貢献活動を続けてきた。
こうした受賞や活動は同社のブランディングにつながり、近年では応募者が顕著に増加している。万全な教育体制を取るために「優秀な方でもお断りせざるを得ない、心苦しい状況もある」(岡田さん)という。
大橋運輸の取り組みがさらに知れ渡れば、日本の中小企業の常識は塗り替わっていくのかもしれない。
(WRITING:多田慎介)
※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。
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