• TOP
  • アーカイブ
  • 採用力強化のための目標が「離職率100%」!? エンジニアと本気で向き合う、エンジニアのための会社

採用力強化のための目標が「離職率100%」!? エンジニアと本気で向き合う、エンジニアのための会社

株式会社MapleSystems
取り組みの概要
「離職率100%」を掲げ、新しいスキルを求めるエンジニアのステップアップを応援している。自社の採用力強化のため、2018年1月に採用広報として離職率100%という目標を掲げたのが始まり。これには、社員がスキルを磨ける環境を最優先し、会社として個人の成長を応援するということ、そしてスキルアップの先に、会社を巣立っていくことをも応援したいという思いを込めている。エンジニアだからこそ、会社に頼り切るのではなく、どこでも通用する武器を身につけておいてほしい。そんな考えから案件そのものの契約金を開示し、どれくらいの給与が欲しいか、どんなスキルを身につけたいかを考えてもらっている。エンジニア同士の出会いの場や、勉強会のための場を提供する活動も進め、メイプルシステムズへの応募数は増え続けている。
取り組みへの思い
前職の人事時代、「離職率を下げる」というミッションにモヤモヤしていた。離職を思いとどまらせるのは会社都合であり、社員にとってのベストな選択とは限らない。今は無理に退職を止めず、笑顔で送り出している。それがとてもうれしい。
受賞のポイント
1. 個人の成長を本気で考える「人と会社の新たな関係性」を示した
2. 在籍中はもちろん、退職後の成長も考えて人材育成に取り組んでいる
3. 「辞める前提」があることで、結果的に社員の定着につながっている

エンジニアは学び、変わり続けなければいけない職業

鴛海敬子さん(経営管理部 取締役 人事部長 CHRO)

「離職率100%を目指す」。

衝撃的な文言で、一度見ただけでは意味がわからない人もいるかもしれない。しかしこれを掲げるメイプルシステムズは本気だ。同社のコーポレートサイトでも大々的に紹介されている。普通の会社なら、離職率は0%を目指すのが当たり前ではないだろうか。この目標の裏側には、エンジニアを取り巻く現実と会社側の都合とのせめぎ合いがあるのだ。

100%を目指しているけど、実際には低い離職率

メイプルシステムズは、自身も現役エンジニアである代表取締役・望月祐介さんが立ち上げ、SES(エンジニア派遣事業)を展開する企業だ。自身もSESの現場でずっと働いてきた望月さんには、その経験から得た揺るぎない思いがある。

エンジニアは知的好奇心旺盛な生き物。そして、変化の激しい業界で生き抜くために新しい技術やトレンドを学び、変わり続けなければいけない職業でもある。しかし1社のプロジェクトに派遣され、同じ仕事に関わり続けるだけでは、そうした学びの機会が得られずスキルが伸び止まるかもしれない。それが、SESで働くエンジニアの根本的な課題――。

メイプルシステムズも同じSESであるため、エンジニアの成長を阻害してしまう可能性は常にはらんでいる。一方ではさまざまな顧客、さまざまな案件があるので、自分に合った成長環境を探すこともできる。もし成長できる環境がなければ、他へ行けばいい。「エンジニアなら、それが当たり前だよね」とずっと言ってきた。

そんな思いを理解し、エンジニアが成長するための環境を作るために同社へ加わったのが鴛海敬子さんだ。

「この考え方を『離職率100%』として表現し、採用活動でも掲げるようになりました。離職率100%というのは、決して社員全員に辞めてほしいという意味ではありません。エンジニアだからこそ、会社に頼り切るのではなく、どこでも通用する武器を身につけておいてほしいという意味を込めているんです」(鴛海さん)

一般的に企業は、そして人事は、自社の離職率0%を目指すのが普通なのかもしれない。でもこれは、よくよく考えてみれば会社都合の考え方なのではないか。メイプルシステムズで離職率0%を目指すことは、エンジニアを一つの場所に縛り付けてしまい、成長の機会を奪うことにもつながりかねないからだ。

とはいえ実際には、エンジニアの成長を考えた手厚い体制を整えていることで、同社の離職率は非常に低いという。

「私たちはいつも、所属するエンジニアに『自分自身の成長のためならいつでも辞めていいよ』と言っています。最初から『いずれは辞める前提』で話しているので、包み隠さなければいけないことはなくなります。結果的にみんな、どんなことでも相談してくれるんですよ」(鴛海さん)

どんなに優秀な人でも離職を止めない

包み隠すことがないのは、社員だけでなく会社も同じ。メイプルシステムズでは、すべての社員に「案件単価」を公開している。どのクライアントから、いくらの売り上げを得ているのか。求められるスキルはどの程度か……。

「社員にはそうした情報を見た上で、自分が望む収入や、学びたいスキルに応じて案件を選んでもらっています。やってみて『やっぱり見直したい』という相談を受けることもあります。もちろん、できる限り柔軟に対応しています」(鴛海さん)

会社に依存することなく、技術・ビジネスの両面で「どこでも通用するスキル」を身につけてもらう。そんなポリシーのもとで人材育成に取り組み、案件が本人のキャリアにどんな価値をもたらすのか、現役エンジニアである社長自らもエンジニア本人へ提案している。

スキルとは何も技術的なことだけではない。スーツ着用を嫌がるエンジニアに、「スーツを着ても仕事ができるようになるスキルを身に着けてもらう」ことで仕事の幅が広がることもある。その際には「スーツ着用が必須の金融系の開発プロジェクトに入ってみては?」と提案することもあるという。

学び続けるために、勉強会のための場所の提供も行っている。また月に1回、「メイプルバー」として渋谷のBARを貸し切って交流会を開催し、エンジニア同志の新たな出会いも支援している。こうした活動は、そのまま同社の採用力向上にもつながっている。

さらには、メンタルヘルスやキャリアの相談に乗ってくれるカウンセラーとの面談の場を設けたり、社員が会社に期待することを定期的にアンケートツールで確認したりといった取り組みも実施。「会社は社員の期待に応えられているか」と、常に自問自答し続けているのだ。

「以前、ある新入社員がツイッターで『有給って、なんで入社半年後じゃないともらえないの?』とつぶやいていたんです。それを見た社長がすぐに反応して、『変えられるなら変えようよ』と。結果、入社後すぐに有給を付与する制度が生まれました」(鴛海さん)

こうしたスタンスと取り組みによって、メイプルシステムズへ応募するエンジニアの数は増え続けているという。事実、「離職率100%」を掲げてから約1年の間に、65人のエンジニアを採用した。同社の規模や現状の採用市場を考えれば、驚異的な数と言えるだろう。

ここまでやって入社した人に、辞めていくことを前提に働いてもらうというのは矛盾しているのでは? そんな疑問に鴛海さんは「もちろん寂しさはありますよ」と応じながら、こう続けた。

「どんなに優秀な人でも離職を止めません。当社からマイクロソフトにエンジニアとして転職した人もいますが、優秀な人がここでさらに成長し、離職した後に、『元メイプルシステムズ』として私たちの企業ブランド価値を高めてくれれば何よりだと思っています」(鴛海さん)

エンジニアの宮内諒太さん

「元メイプル」のブランドが広まっていく未来

こうした独自のスタンスは、どのようにして築かれていったのか。

メイプルシステムズは、SESで働いていたエンジニア仲間が「エンジニアだけの会社」として創業した企業だ。3年前までは社長自身も現場へ出て、バックオフィス業務もすべて1人でこなしていたという。その頃までは社員数30人ほど、相変わらず100%エンジニアの会社だった。

転機が訪れたのは2017年。自社サービスの開発が動き出し、大型の資金調達を行った。目標は4年後の上場。そこでバックオフィスの充実を図り、鴛海さんが2017年11月に加わることとなった。ここから同社は、採用力強化に向けて動き始めた。

離職率100%という刺激的な文言を打ち出すにあたり、最初に行ったのは現社員への説明だった。ともすれば「俺たちに辞めろということか」と誤解されてしまう可能性もある。当時の約30人のエンジニア全員と直接会い、「定着は会社が強制する者ではない。みんなが選ばれる会社を作っていきたい」と語りかけていった。

会社を踏み台にしていけ

2018年8月に入社したエンジニアの宮内諒太さんは、前職でもSESを展開する企業に所属していた。そこでは、退職の希望を切り出した際に「今やめられると、案件単価の問題でマイナスになっちゃう」と言われたそうだ。

「こっちは技術を身につけたくて前向きに次を考えているのに、会社からはお金の話ばかりされました。それが強烈に、悪い印象として残ってしまっていました」(宮内さん)

だからこそ、メイプルシステムズの方針を魅力的に感じた。出会いは、先輩エンジニアがメイプルバーへ誘ってくれたこと。離職率100%の考え方を詳しく聞き、入社を決意したという。

「一つの場所にとどまるのは、エンジニアにとってはナンセンスです。だから、いろいろな事業やサービスに関われるSESはいいと思うんです。でも現実は、契約やらお金やらで一つの場所に固定されてしまうこともある。その点でも、自分で必要な案件を選べるメイプルシステムズの進め方は魅力的でした」

現実的な給料面にも魅力があったという。他社では、同じ言語をずっと突き詰めていって給料が上がることが多いが、そのためには4年くらいかかることもある。それがメイプルシステムズでは最初から興味のあるプロジェクトや言語を選び、自分の収入も自分で選ぶことができる。「会社を踏み台にしていけ」と言ってくれるから、「この案件なら、どれくらいの期間で関わりたい」という会話も率直にできる。

「この間、うちを卒業した人がメイプルバーに来ていたんです。それを見ていたら、『自分も卒業後に関わり続けたいな』と感じました」

友だちなら「次に行きなよ」とアドバイスできるのに

卒業後もずっと関わり続けたい。エンジニアにそう言ってもらえるのは、鴛海さんにとって何よりの成果なのかもしれない。

「私は前職でも人事にいたのですが、そこで与えられる『離職率を下げる』というミッションにモヤモヤしていました。友だちから転職について相談されたら、「3年も頑張ったんだから次に行きなよ」と言うかもしれない。でもその相手が自社の社員だと、「あと2年は頑張ろうよ」と言わなきゃいけないんです。

メイプルシステムズなら、自分が本当にやりたかった人事の仕事ができます。無理に退職を思いとどまらせるのではなく、その人の成長につながるなら全力で退職を応援し、送り出すという仕事です。今は無理に退職を止めなくていい。それがとてもうれしいです」(鴛海さん)

会社が、人事が笑顔で送り出してくれるから、卒業後もずっと関わり続けたいと思うエンジニアが増えていく。そうしてステップアップし、多方面で活躍するエンジニアたちが、「元メイプル」のブランドを広めていく日もそう遠くないのだろう。

(WRITING:多田慎介)

受賞者コメント

鴛海 敬子 さん

エンジニアは、就職や転職を考える際に「この会社が好きだから入社する」というよりは「この技術を触りたいから入社する」という動機で動く人が多いと感じています。2〜3年で会社を辞める人が多いのもそのため。だから、エンジニアに「長く働いてほしい」というのはそもそもナンセンスなんです。当社代表は自身が現役のエンジニアであることから、その事実と向き合い、「圧倒的な成長を応援したい」という思いで離職率100%を掲げました。 社員のスキルアップを応援するため、定期的にエンジニアを集めたイベントを開催したり、 毎週日曜には社外のエンジニアさんも集めて自習室を開いたりと、さまざまな取り組みを進めています。みんなでキャリア相談ができる場所、悩みを打ち明けられる場所があることはとても大切だと感じています。 離職率100%を打ち出してからは、入社してくれるエンジニアが圧倒的に増えました。前年度は28名でしたが、今年度は60名以上。リファラルが促進され、社員がどんどん友だちを紹介してくれるという動きにもつながっています。大事な友だちに紹介したくなる会社になれたのだという実感が持てました。

審査員コメント

若新 雄純

今年から新たに設けた「Cheer Up賞」には、勇気を持って試みたことに価値を見出し、応援したいという思いを込めています。メイプルシステムズさんは「全員が辞めてもいい」という覚悟でこの取り組みを進め、結果的に離職率が下がりました。この新しい実験でどのような発見があったのか? 体制の安定よりも社員の成長を大事にすることがどんな未来に結びつくのか? 今後も応援しながら、一緒に見ていきたいと思っています。

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。