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誰でも、どんな年代でも成長していける体制を! 役職・階層・部署・情報格差ゼロの「バリフラットモデル」

株式会社ISAO
取り組みの概要
役職・階層・部署・情報格差が一切ない「バリフラットモデル」を運用。かつて62ヶ月連続経常赤字という業績悪化に見舞われた同社は、2011年から代表取締役・中村圭志さんのもとで組織改革に取り組んだ。事業に関する数値や給与・等級といった人事情報など、社内情報を徹底的にオープン化。社員間の情報格差をなくし、誰もが現状を把握して会社へ提案できる体制を作って、中間管理職や階層を必要としない組織を実現させた。個人の目標や活動は自社開発した社内コミュニケーションサービス「Goalous(ゴーラス)」を利用して共有。また、それぞれの社員がキャリアの相談相手として「コーチ」を指名。このコーチを含む最大7名を自身の評価役として選び、人事考課を決定する。20代から60代まで幅広い年代の社員が「いかにして顧客へ価値提供するか」を考え、日々行動している。
取り組みへの思い
管理職になると、現場から外れ人や組織を管理する内向きの仕事が主になり、社外に向けた価値創造への貢献や、専門性が下がることで、本質的な意味での生産性を生み出せなくなっていく人が多い。これが、従来の階層型組織における管理職の悲劇であり、「会社にぶら下がる人材」を生む原因になっている。誰にでもチャンスがあり、どんな世代でも成長していける体制が必要だと考えている。
受賞のポイント
1. 100名を超える組織で、階層・役職の一切ない組織を実現
2. 部署、役職、階層をなくすことで、誰もが生産性向上に向けて挑戦できる組織に
3. ビジョンを再定義し、情報のオープン化を進めて「バリフラットモデル」へ

部長も課長もマネジャーもチーフもいない組織

代表取締役/中村圭志さん

あの人は仕事をしていない、あの人は上の顔色ばかり気にしている、なぜあの人に評価されなきゃいけないの……? 組織で働く人なら、多かれ少なかれ上司への不満を抱いた経験があるのではないだろうか。

とはいえ上司側もきっと、ただ楽をしているわけではないはず。上と下に挟まれ苦悩しているかもしれない。プレイングマネジャーとして自身の業績とマネジメントの両立に苦心しているかもしれない。

どこにでもある会社の風景。しかし株式会社ISAOは違う。この会社には中間管理職がおらず、それどころか一切の階層が存在しないのだ。誕生したばかりのベンチャー企業の話ではない。創業から20年、社員数100名を超える会社なのに。

上司ではなく「コーチ」とともに歩む

ISAOで働く人たちの名刺には、携わるプロジェクト名や肩書きも一切書かれていない。部長も課長もマネジャーもチーフもいない。経営トップである中村圭志さんの名刺にも「代表取締役」とは書かれていない。これを同社は「バリフラットモデル」と名付けている。

バリフラットモデルのもとでは年齢や経験に関わらず、全員がそれぞれのミッションを持つ同僚同士だ。例えばかつて運用部門の部長職を務めていた50代男性の場合、現在は営業のエースとして活躍している。人事や総務、経理といったコーポレート系部門はプロジェクトとして組織され、担当社員が本業と兼務する形で進めている。

こうなってくると気になるのは組織のマネジメントだ。上司がいない環境で、誰が人をマネジメントしたり、育成したりするのか。中村さんは「従来の階層型組織に比べて、確かにバリフラットモデルでは人の面倒を見たり、育てたりする意識が弱まりやすい」と話す。上司がいれば、部下の面倒をちゃんと見るのは基本。それが階層型組織の強みだ。バリフラットモデルにはそれがない。

そこでISAOでは「コーチ制度」を生み出した。社員全員に「コーチを持つ義務」があり、自分の成長のために適した相手を一人ひとりが選ぶのだ。このコーチから仕事に必要なスキルを学んだり、メンターとして対応してもらったりする。50代が30代を指名することもあれば、逆のパターンもあるという。

人事考課においては、コーチを選ぶのと同じように、社員全員が「自分を評価する人」をコーチ含め最大7人まで任意で選べる。誰が誰を選んだか、また誰が誰にどんな評価を付けたかはすべて社内に共有されているため、「都合のいい人選」も「えこひいき」もできないという。こうして集まった評価を最終的にコーチ役が取りまとめ、中村さんが参加する人事プロジェクトでの議論を経て、各人の給与や等級評価につながっていくのだ。

個人の目標や活動は自社開発した社内コミュニケーションサービス「Goalous(ゴーラス)」を利用して共有。SNSのように写真とコメントを投稿して、社員からの反応を即時で得られるようにもしている。

60代になっても現場の第一線で奔走

この体制のもとで働く社員からは「変な責任、無駄な責任を問われることがなく、のびのび働ける」という声が聞かれた。

グロースハッカーとして担当サービスの収益向上に携わる前澤俊樹さんは、「いろいろな役割で会社に関われるのがうれしい」と話す。自社サービスだけでなく、コーポレートブランディングや人材採用などさまざまなプロジェクトを掛け持ちしているという。

「ISAOには『お前は自分の部署の仕事に集中しろ』という雰囲気がないんです。会社全体を見て、自分の価値を発揮できる場所を探しにいくという感覚です」(前澤さん)

かつての親会社であるCSKの技術職出身で、転籍してISAOで働き続けている原崎正弘さんは現在60歳。「以前は階層意識の強い会社にいて、自分自身もある程度役職を経験してきたので、『そういうのはもういいかな』と思っているんです」と笑う。

コーチに選んだのは1歳下の前述したバリフラットモデル採用後に営業のエースになった社員。年齢が近いこともあって、良いことも悪いこともストレートに意見してくれる。「あえて厳しいことを言ってくれる人を選んだ」のだという。

「コーチとは『自分が掲げた目標に対してどうあるべきか、何をするべきか』を話し合っています。その場面で遠慮されてしまうと、逆につらいですよ」(原崎さん)

60代になっても、原崎さんは現場の第一線で奔走している。そうやって成長を続けながら、誰かから自身の経験やスキルを頼りにされる瞬間に心地よさを感じるのだそうだ。

年齢に関わらず、すべての社員が最前線で活躍している。

「日本の管理職の悲劇」とは

ISAOはもともと、大手ゲーム会社であるセガ(現株式会社セガホールディングス)とCSK(現SCSK株式会社)のグループ企業として1999年10月に創業した。その後、豊田通商グループの傘下へ入って事業を多角化していくが、2000年代半ばには5年連続で経常赤字を記録するなど、経営状況は極めて悪化していたという。そんな中、2010年に現社長の中村さんが就任した。

「ISAOという会社は、赤字続きでも『親が金持ちだからやって来られた』側面があるんです。創業以来いろいろなことをやってきましたが、7事業あるうちの6事業が赤字でした。このままでは新しい親会社からも見放される。とにかく会社として生存しなきゃいけない。そんな状況でした」(中村さん)

当時200人近くの社員を抱えていた同社だが、業績が悪いことに慣れきって、焦っている人はいなかったという。経営陣も仲が悪く、社内には無意味な派閥も形成されていた。

「当時の若手社員で、飲み会で上司から『お前は○○派か、どうなんだ!?』と詰め寄られたいうことがありました。これは半分冗談だったとは思いますが、いわゆる大企業病と言われるような状態だったわけです」(中村さん)

階層意識にがっちりと支配された組織からバリフラットモデルを採用した組織へ。その改革はどのように進められていったのだろうか。

新たなビジョンのもと、「楽しく」「成長できる」組織を目指す

就任当初、中村さんは外部コンサルタントに依頼して、全社員を対象にモチベーションサーベイを実施した。結果は散々で、会社へのネガティブな声がほとんど。コンサルタントからは「こんなアンケートは見たことがない。この会社は死にかけている」と言われたという。「体力がないので、手術をしたら即死する」とまで。

そうした状況の中で、中村さんが任命したプロジェクトメンバーにより、ISAOのミッション・ビジョン・スピリッツを新たに策定し、掲げ直した。現在に続く「ニッポン発!億人を熱くするサービス実現」というビジョン。これを組織の最大の目的とした。

次に、「楽しむ」ことを大切にする人たちが集まる会社にしたいと発信した。人生の大部分を占める仕事において、楽しくて実のある時間を過ごせているかどうかは、そのままQOL(Quality of Life=生活の質)にダイレクトに直結する。

そして、社員がこの環境の中で成長できることを重視した。不規則で先が見えない世の中では、一人ひとりの個人が強く生きていかなければならない。会社としては、一人ひとりの能力を使い潰すのではなく、事業を一緒にやって盛り上げていくことでwin-winになりたい。そんなメッセージだ。

創業から10年を超えて組織は階層化していたが、ビジネスは赤字続き。その原因は生産性向上を伴わない「中間管理職仕事」をしている人が多いことだとも指摘した。そもそも、中間管理職は楽しいのか? 世の中の中間管理職の人たちは本当に幸せなのか?

中村さんは常にそんな疑問を抱いていたという。

「誰が言ったか」ではなく「何を言ったか」

全社員との面談、本当に必要な事業の見極め、再定義したビジョンのもとでの自社サービス開発……。さらに改革の手は人事制度にもおよんでいく。それまでは個別交渉で決まっていた給与を、部長以上の全員が参加する人材評価会議で、等級ごとに評価する方法へ変更した。

同時に進めたのが情報のオープン化だ。一人ひとりの目標や達成に向けたスケジュール、工数などの情報をオープンにした。2014年には全員の給料までオープンになった。

「情報がオープンになると、組織がフラットになるんです。権力の源泉は『情報』。情報を持っている中間管理職と持っていない一般社員が議論すると、勝つのは当然前者。情報こそが力だから、それを全員で共有することにしました」(中村さん)

若手が良いアイデアを持っていっても、上司が「自分しか知らない会社情報」を繰り出してダメ出しをする……。そんな場面をなくしたのだ。「誰が言ったか」ではなく「何を言ったか」。実力のある人が議論で勝つ体制にしていった。

そうなると、社内での「上から下への伝言ゲーム」は無駄になり、中間管理職は徐々に不要になっていく。2011年時点でのISAOの役職者は22人だったが、それが2013年には9人に。最終的には当事者である部長職の面々が「もうこうした役職はいらないのではないか?」と議論するようになった。自分たちも直接事業に貢献し、生産性を生む動きをすべきだと。

このフラット化の過程では、既得権益を奪われて反発し、去っていった人もたくさんいた。そんな中で中村さんが発信し続けたのは、「ミッション・ビジョン・スピリッツに代表されるISAOの価値観がいちばん偉い」のだということだった。

中間管理職という存在への中村さんの疑問は、今も潰えないままだ。

「日本の一般的な賃金カーブでは、20代でゆるゆる上がり、30代から傾斜がきつくなり、マネジャーになる40代くらいで一気に上がりますよね。一方で実力のカーブも20代から伸びていきますが、管理職になると専門性が下がり、生産性を生み出せなくなっていく人も多いのが現実です

私はこれが、日本の管理職の悲劇だと思っています。若いうちは『実力に給料が見合わず』不満を持ちますが、管理職になれば上がるだろうと我慢してやっていく。しかし40代以降は、実力と給与が逆転して『会社にぶら下がる』状態になってしまう。ISAOでは、実力の曲線を正しい方向で維持したいんです」(中村さん)

管理職になることで成長が止まる可能性があるのなら、その人事は「誰かにババを引かせるようなもの」ではないか――。そう指摘する中村さんは、今日もISAOが大切にするミッション・ビジョン・スピリッツを発信し続けている。誰にでもチャンスがあり、どんな世代でも成長していけるバリフラットな組織の中で。

(WRITING:多田慎介)

受賞者コメント

中村 圭志 さん

前澤 俊樹 さん

バリフラットモデルを推進する上で大切にしてきたのは「オープン」「トップのコミットメント」「絆」の3つです。ISAOでは、情報自体が権力の源泉だと考えています。そこで自社開発した「Goalous」(ゴーラス)というコミュニケーション型目標達成サービスで、情報をオープンにしていきました。権限を奪われたかつての管理職に対しては、絶対に元の階層型組織には戻らないというトップの強いコミットメントが重要でした。また、どうしてもこの変化に戸惑う人には、ISAOスピリッツの一つである「家族的キズナ」やコーチ制度で関わり続け、壁を乗り切ってきました。 以前管理職だったメンバーは、管理をするという仕事がなくなり、新しい役割で自分の価値を発揮しなければならなくなりました。50代で初めて営業職に挑戦したり、一人きりで新規ビジネスをスタートし、ISAOの新たな中核事業へと育て上げた社員もいます。管理職を務めていたのはもともとポテンシャルのある人たちなので、新たなミッションでも奮起し、エースとして活躍しています。また、若手は自分で会社の情報をどんどん取りにいけるようになり、彼ら発の新たな事業も生まれています。

審査員コメント

藤井 薫

世の中では「ティール組織」や「ホラクラシー」など、新しい組織の形が注目されています。ISAOさんが実践しているのは、「そこまで情報を透明化するのか」と感じるほどの“バリ”フラット。それだけでなく、互いが互いを支援しあえるようなコーチ制度もあり、ケアの重要性も感じました。管理職をなくすことで、内向きになりがちな視点を外向きにした組織。学ぶべきことがたくさんあると思います。

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。