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社員全員が「時短勤務の子育てママ」 情報共有とジョブシェアで進化し続ける職場

株式会社ルバート
取り組みの概要
ルバートのメンバーは、全員が子育て中の女性社員。「これまでのキャリアを生かして活躍したい」と考え集まっている。そんなメンバーが時短勤務でも高いパフォーマンスを発揮できるよう、試行錯誤を経て業務改善とジョブシェアを実行していった。属人化しやすい業務をエクセルで一覧化し、できるだけ無駄なタスクを廃止し、可視化・透明化を進めている。情報は全て同じサーバー内の資料で管理し、社内では「チャットワーク」を活用して報連相。自由な働き方を実現すべくスキル向上とノウハウ共有もマニュアル化し、「残業なしで高い生産性を発揮する」「自分が急に休んでも回る体制づくりをする」という意識を共有している。子育てをしながらだと時間をやりくりしづらい夜や早朝の業務はアウトソースするなど、社員に寄り添う形で改善策を実行中。
取り組みへの思い
自分を社会で活かしたい女性は世の中にたくさんいる。その力を生かしたいと考える企業もたくさんある。一方で、やりがいを持ちながら子育てと両立できる事務案件は少なかったり、「子育て中だからこの程度の業務で」と制限され、キャリアアップを実現できないケースもある。「すべての働きたいママの力を生かす」事例となりたい。
受賞のポイント
1. トップの実体験をもとに、試行錯誤を繰り返して進化し続ける取り組み
2. 徹底した情報共有で、互いに助け合う意識を高めている
3. 働きやすさだけでなく、過去の経験を生かす「やりがい」も得られる

コミュニティを法人化させた使命感

代表取締役/谷平優美さん

子育て中の女性社員ばかりが集まり、全員が時短勤務。普通に考えれば制約が多そうな状況なのに、試行錯誤を経て、高い生産性を発揮できる体制を実現している。それが株式会社ルバートだ。

同社の原点は、子育て中のママが集まったコミュニティだった。その発起人である谷平優美さんは、自身が悩みながら歩んできた経験をもとに「すべての“働きたいママ”の力を生かせる社会を作りたい」と語る。

「割に合わないから専業主婦」もわかる気がした

「20代はバリバリ働いていた」と振り返る谷平さん。新卒入社した人材サービス会社と転職先で人材紹介事業に携わった。28歳で退職し、30歳で第1子を出産する。

「仕事は続けたかったので、フリーでキャリアカウンセラーをやったり、ブリザーブドフラワー教室を開いてみたりと、働き方を色々模索しました。そこで初めて『母親が育児をしながら働くのは大変』だと知ったんです」(谷平さん)

ベンチャー企業で役員を勤める夫は忙しく、平日はワンオペ育児が当たり前。待機児童問題から認可保育園には入園できず、滑り込んだ認証保育園は高額な保育費が必要だった。投資とは思っていても子育てと仕事を両立すると、お金が飛んでいくばかり。「割に合わないから専業主婦のほうがいい」と考える人が多いのもわかる気がしたという。

同じような悩みを持つ人と情報交換がしたい……。そんな思いから、谷平さんは「船橋ワーキングマザーの会」を設立する。その後、「ママハピ」というサークル名で、教育関連企業や幼児教室などの協賛を得て、ママ向け支援イベントを開催していった。 

「当時のイベントは、子育て中のママが3か月稼働して、やっと数万円もらえるような規模の事業でした。本気で女性活躍を推進し、搾取ではなくしっかり雇用を実現するなら、ちゃんと稼げるような事業にしなきゃいけない。それで法人化したんです」(谷平さん)

何より、谷平さん自身が「家庭を軸にしながら自分の力を生かせる仕事」を求めていた。楽しく働いていた20代の頃のように、再び仕事に打ち込みたい。楽しい働き方を知った女性は、自分と同じように、その後も楽しく働きたいと思うのでは……? 事業戦略も見込みもないまま、使命感だけを頼りに法人としてのルバート(旧ママハピ)が立ち上がったのだった。「子どもが小さいから、稼げなくても自分らしく好きなこと」だけではなく、心も財布も満たされて納税にも貢献することで、社会に認められていく人を増やすことも女性の地位向上には必要だと感じている。

「当初はオフィスもなく、みんな在宅で働くというスタイルでした。ところが、『真面目な人が多くて働きすぎてしまう』『すぐ相談できずストレスになりやすい』という問題が起きました。納品スケジュールに合わせて無理をしたり、1人で何人分もの業務を抱え込んでしまったり。そんな状況が続いて、なかなか人が定着しませんでした。決定的だったのは、私が2人目を出産する直前の時期に、ナンバー2として期待していた人から『独立のため退職したい』と言われたことでした」(谷平さん)

ちょうどいい案件が見つからない

会社存続の危機にさらされ、谷平さんは「本気で状況を何か変えなきゃいけない」と感じたという。

「働きやすいよう自由に、という考え方が裏目に出たのだと思います。在宅勤務が最も自由度が高いように見えますが、実際のところはみんな、仕事をしすぎてパンクしてしまう。目指す文化醸成もできない。メンバーには快適に働ける状態とは程遠かったようです」(谷平さん)

この経験から、現在では「基本出社、申請すれば在宅勤務可」という体制になった。前提として、在宅での仕事は本人の申請希望がない限りないようにしているという。

谷平さんの採用方針も大きく変わった。創業期は優秀な人を求め、出せる限りの高い給与を提示していたこともあったが、業務過多や連携不足が顕在化して人がすぐに入れ替わってしまう状況を変えるため「柔軟に働き、収入よりも時間を優先したい人たち」に採用ターゲットを絞り人数を増やしたのだ。それまでの業務量やタスクの種類を明確にし、複数人で分解して仕事を回せるジョブシェア体制を仕組み化した。

「オフィスワークで短時間勤務、かつ柔軟に働けるようにしたら、一気に応募が増えました。単純作業だけではなく、それなりに責任を任され、価値を創造できるような仕事がしたいと考えている方との出会いが増えました。バリバリ働くほうに振り切るか、単純作業のパートで我慢するかという選択肢だけだと、『仕事の面白さを知っている人』からすればちょうどいい案件が見つからないんですよね」(谷平さん) 

ルバートの現在の体制は、こうした試行錯誤の末にたどり着いたものだ。チャットツールなどを活用し、社内外のコミュニケーション内容や資料を全員が見られるようにしておくこと、マニュアル精度を上げたことで、業務の引き継ぎもスムーズに行われるようになった。

谷平さんは常日頃、「自分が休みやすい体制を作りたければ、日々小さなことも情報共有を続けてチームで仕事をすることが大事だ」と社員に言い続けているという。「手放して人に頼ることも大事なスキルだよ」とも。

「私自身が、かつては仕事を手放せない人でした。でも出産のときはどうしても仕事ができません。だから人に頼らざるを得なかった。過去の世界の価値観を押し付けず、制約人材に合った仕組み化が大事だと思い知った。その経験が生きています」(谷平さん)

各社員は週3、4日の勤務中心。月内の稼働時間を守れば、行事や習い事、子どもの急な病気などがあっても仕事量に合わせて柔軟に出勤・退勤時間を変更できる。毎朝のミーティングで全員の業務の進捗をチェックし、休みの際は他メンバーに引き継ぎをする。自由度が高い分、時間対成果は重視し、話を聴くトップとの個別ミーティングも月1回実施。こうして現在も試行錯誤を続け、「オフィス内キッズスペース」「外出時のランチ補助」「月1回の家事代行補助・全体ランチ会補助」など、働く女性に必要な施策を次々と実行している。スタッフが自ら意見・提案をする場面も増えパフォーマンスが向上した。

「気を遣わない環境がいい」と語る太田真友子さん

女性だけが我慢したり、妥協したりすることがない社会を

仕事の面白さを知っている人が経験を生かして働き、子育ての時間もしっかり確保できる。そんな「ちょうどいい案件」に魅力を感じて、ルバートには新しい仲間がどんどん集まって来ている。

「気を遣わないで済む職場」がいい

京都府出身の太田真友子さんは、北海道出身の夫と結婚後、千葉へ移り住んだ。互いの実家は遠く離れているため、子どもが熱を出したときにも頼れる人は近くにいない。そんな状況ではあったが、子どもが3歳になったタイミングで仕事を始めたいと思うようになった。

「独身時代はずっと事務職でした。小さな事務所で、事務員は私だけ。お茶出しから会議資料の作成まですべて1人でやっていたんです。間に合わなくてこっそり休日出勤していたこともありました。完璧主義なところがあって、今でも『やるからにはやりきりたい』という思いがあります」(太田さん)

そんな太田さんだからこそ、「子どもを理由に職場に迷惑をかけたくない」という思いも強かった。自分の性格は自分でよくわかっているが、小さな子どもがいる時点で、必ず急な休みをとるときは来る。子育て中はただでさえ、使える時間が限られているのに、職場の人に迷惑がられていないかと思い悩むことはしたくないと考えた。そのため仕事探しでは「気を遣わないで済む職場」を求めていた。全員が子育て中のルバートは、まさにうってつけの環境だったという。

連携のために必要な最低限の決まりと月内の稼動時間を守れば、何曜日に、どんな時間帯に働くかは個々の判断に委ねられている。子どもの用事で出勤できない日は、あらかじめ全社共有しているカレンダーアプリに登録しておく。

「お客さまからのメールなども普段から共有しているので、他の人が早上がりしなければいけないときなどは『代わりに返しておきますね』といったフォローができるんです。互いに思いやりを持って仕事情報を共有しているので、「ああ、○○さんのあの件ね」という感じで、違和感なく代わりに対応できるんですよね」(太田さん)

「ゆくゆくは勤務時間を伸ばしたい」と話す磯部恵さん

勤務条件だけでなく、仕事そのものへの満足度も高い

2017年10月にルバートへ入社した磯部恵さんは、時短勤務ながらイベント統括の業務で活躍している。8歳と5歳の子を持つ母として、「普段は16時には幼稚園へ迎えに行けるよう動いている」と話す。イベント関係者へ連絡・調整をしながら全体の進行管理をしたり、当日の運営を指揮したり、出展者へヒアリングしたり……。多岐にわたる業務をスピーディーにこなせるのは、前職での「経験」があるからだ。

「結婚前は採用広告を扱う会社で、原稿制作や営業、内勤などさまざまな職種を経験しました。締め切りと時間に追われる毎日だったので、膨大なタスクをこなしていくことには慣れているんです」(磯部さん)

イベントをともに進める谷平さんのことを「圧倒的なスピード感でどんどん仕事を進めていく人」と話す。そんな磯部さん自身も「仕事ではスピード感を大切にしたい」と考えているのだとか。

「谷平さん自身も、他の社員もみんな子育て中。だからこそスピード感を持って仕事をしなければいけないんです。私の場合、そうやって『バリバリ働ける』ことが楽しいんですよね。勤務条件だけでなく、仕事そのものへの満足度が高いことも、ここで働き続ける理由です」

ルバートでは、ライフスタイルにあわせて柔軟に働き方を見直すことができる。「下の子どもも小学生になって、落ち着いてきたら、もう少し勤務時間を伸ばしたいです」と磯部さんは展望を話してくれた。

代表取締役の谷平さんも、これからの活動を見据えている。

「顧客企業の女性社員向けに研修を実施した際に聞いてみると、20代女性で『30代になったら専業主婦になりたい』と話す人も少なくないんです。でも、子どもが大きくなり、いざお金の現実にぶつかってから働こうとしても、選択肢が限られてしまいます。

もちろん、すべての人に『キャリアを継続して働き続けるべき』と押し付けるつもりはありません。ただ、中長期でみると結果的に自分の人生でも家計面でも、早く働き始めればよかったという先輩ママが多いのも事実。夫が家事・育児に参加できない家庭もまだまだ多いのが現状です。それらを乗り越えて、女性ばかりが我慢したり、妥協したりすることがない社会、話題にもあがらないくらい当たり前に女性が戦力になり続けられる社会を作りたいですね」(谷平さん)

(WRITING:多田慎介)

受賞者コメント

谷平 優美 さん

私にはもともと、起業するつもりはありませんでした。しかし勤めていた会社を退職して妊娠・出産して以降は、無理なくゆるくフリーランスで働こうとしても待機児童になり、無認可の保育園だと保育料が高額で働いても赤字になってしまうという現実にぶつかりました。「日本って、働き方をスライドしようとしても難しいんだ」「だったら働かないほうがいいの?」と違和感を覚えたんです。それを何かしら発信したくて、ママ友を作って情報交換する市民活動を始め、社会に影響力を持つために法人化したのがルバートです。 現在の社員は全員時短ママですが、最初からこの体制でやろうとしていたわけではありません。私もかつての価値観から、できるだけ長く働ける優秀な正社員がほしいと思っていました。でもそれでチームを組んだら、私の論理を押し付けてしまった社員が疲弊して辞めてしまうということが続きました。状況を変えなければ、同じことの繰り返しになってしまう。そこで恐る恐る、1人あたりの負荷を分散させるために業務を分けて、人員数自体を増やしたら、結果的にうまくいきました。 時短社員のママで業務を進めるようになって、1人1人の仕事の質や売上が上がりました。求人を出した際に応募してもらえる人の質も上がりました。まだまだ途上ですが、「この会社で働けてよかった」と言ってもらえるようになったことを、本当にうれしく思っています。介護の必要な男性社員やフルタイムで働くことを希望しない若者など、制約のある方で成果を出すことへのヒントになれば幸いです。

審査員コメント

若新 雄純

いろいろ試しながらやってきたという「試行錯誤感」がとても表れている取り組みです。世の中にはたくさんのアワードがありますが、働き方や職場のあり方には「これが正しい」と言えるものがありません。だからこそ、根本的な問題と向き合ってチャレンジし続けることが大切なのだと思います。試行錯誤とは、失敗を繰り返しながら続けていくこと。ルバートさんは参考にできる例が外部にほとんどない中で向き合い続けてきました。

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。