6人の会社で、「オランダ1カ月滞在」も可能な海外渡航制度を運用 リターンにとらわれずビジョンへ向かうための決意
合同会社こっから
6人の会社で、「オランダ1カ月滞在」も可能な海外渡航制度を運用 リターンにとらわれずビジョンへ向かうための決意
合同会社こっからニューヨークで資本主義の最先端を感じ、これからのポスト資本主義を考える。キリマンジャロ登頂で自分の限界に挑戦する。国民の幸福度が世界一高いと言われるコスタリカの実情を見て、知って、感じる。事業開発のために1カ月間オランダに滞在する。モンゴルでゲルに宿泊し、遊牧民と馬に乗って大草原を駆け巡る……。
これらは、旅行サイトのプランでもテレビ番組の企画でもない。社員数6人の会社が社費を投じて実施した海外渡航制度の一例だ。
「Playful Planet Quest」(通称:PPQ)と名付けられたこの制度は、ビジネスのアイデアやインスピレーションを得ることで新規事業につなげたり、体験から学んで自己開発につなげたりすることを目的に運用されている。年間予算は1人あたり15万円。その使い道や頻度は自由なので、東南アジアに年2回行く人もいれば、自腹で予算を足して地球の裏側へ行く人もいる。
この独特な制度を作った「合同会社こっから」は、6人の代表社員で構成されるスタートアップ企業だ。それぞれ2〜3カ月くらいの準備期間をかけて「旅人」をサポートし合っている。物理的に現場にいる必要がある仕事は引き継ぎをし、リモートでの対応が可能な場合は現地でも仕事をする。
制度を利用するにあたり決められたフローは、事前の承認書提出のみ。あとは、「旅先から帰ってきたら何らかの形で体験を全員にシェアする」という約束事だけだ。
売り上げに影響しないように準備をしているというが、それでも6人の会社で、1人が1カ月抜けたことがあるという事実には驚かされる。しかも、取り組みそのものによる経済的な効果は一切求めないという。
「『オランダで仕事ができたらいいね』とか、『海外で自分たちのサービスを生かせたらいいね』という願望レベルの話を、よく6人でしていました。それを狙ったわけでも何でもないんですが、PPQを実施し、外部へ発信し続けたことで、それが現実になったんです」
そう話すのは代表社員の1人、巴山雄史さんだ。各々の経験を生かし、日本で磨いた人材開発や組織開発のサービスをシリコンバレーや台湾などで実施する機会にも恵まれたという。「求めないことによる成果なのかもしれない」と巴山さんは分析する。他にも、海外事業2案件がこの取り組みをきっかけに動き始めたそうだ。
しかし、何よりも成果として感じているのは、この体験が「自分たちの糧」になっていることだという。
「情報を簡単に取得できる時代になっても、結局は『体験する』豊かさには敵わないのだと思います。さまざまな国で体験したことをメンバー同士でシェアすることで互いの刺激にもなり、『次はどこに行こうか』と常に外に対してアンテナを張るようになりました」(巴山さん)
目の前のタスクに追われるのではなく、世界に向けて視野を広げたい。新たな人脈を築き、将来的な事業拡大へのきっかけをつかみたい……。
6人がそう考えるようになった背景には、「こっから」ならではの創業ストーリーがあった。
「こっから」には、前身となる団体がある。現在のメンバーのうち5人が大学時代に作った「学生団体こっから」だ。そのメンバーが10年後に再集結して、今の合同会社こっからを作った。
奇しくも、メンバーはほとんどが人材領域で活躍していた。無理をすれば古巣からの仕事にありつけるかもしれない。実際のところ、それぞれの出身企業から仕事を受注できる可能性は高かった。しかし彼らは、単なる業務のアウトソーシングのような仕事は受けなかった。
「結局それって、『ライスワーク』(食べるための仕事)になってしまうよね、という話をしていました。僕たちは『人生を、Playfulに』というビジョンを掲げて、人生を楽しむためにここに集まっています。ライスワークが一概に悪いとは思いませんが、ライスワークそのものにとらわれてしまっては、何の意味もないんです」(巴山さん)
そのこだわりがあるがゆえに、創業当初は余裕が持てなかったという。みんな、頭の中は「常にいっぱいいっぱい」。互いに「まだ大丈夫だよね」と確かめ合いながら、赤信号をみんなで渡るような感覚で日々を過ごしていたという。
「その状況を抜け出すためにも、『攻めの一手として何か突飛なことをやらないか?』という話をしたんです。もともと5人で会社を興すときから、『1年の3分の2は休みたいなー!』とか『海外にずっといたら面白いな!』とか、いろいろな夢を語っていました。その実現に挑戦したいと思いました」(巴山さん)
全員が代表社員だから上下関係はない。フラットな組織だからこそ、たった1人の反対意見がその他の意見と同等の力を持つ。そのため意思決定には時間がかかるのだという。1人でも納得しなければ案を白紙にするし、揉めたときには独特な緊張感も漂う。しかしPPQだけはすんなり決まったのだそうだ。
外部から見れば非合理的にも思えるこの取り組みを、なぜ続けているのか。巴山さんは、6人が大切にしている「あり方が現実をつくる」という考え方について語ってくれた。
「例えば、口ではどれだけ前向きなことを言っていても、心のどこかで(無意識も含めて)『上手くいくわけがない』と思っていれば、結局は失敗してしまう。そんなことはよくあると思います。逆も然りで、僕たちの起業がまさにその例だと思うのですが、『友だちと起業するなんて、お金で揉めて失敗するに決まっているじゃないか』と周囲に言われながらも、『いや、きっとうまくいく』と何となく確信があった僕らは、どのラインを成功とするかはさておき、起業してもう3年となります。
要は『何とかしようと表面上だけで行動すること』でもなく『とにかく何事も前向きにとらえるのだ!』という作られた心構えでもなく、「自身のありのまま」がそのまま現実として起こるということです。
このままの自分じゃダメだ! という自己否定をエネルギーにして成長することもあるのですが、それだけだとどこかで息切れしてしまいます。『ありのままの自分でいい』という自己受容ができたときに湧いてくるポジティブなエネルギーは、ワクワクするようなアイデアやインスピレーションにつながり、それが現実を形作ります。そして、自己受容はチャレンジしたり、異質なものに触れたりすることで進むもの。この取り組みを続けている決定的な理由はそこにあります」(巴山さん)
PPQに飛び立つとき、社内では「なぜその国でなければならないのか?」「そこに行くことによって何が生まれるのか?」を合理性だけではなく感性にも訴えて問いかけあう。そのときの判断基準は「人生を、Playfulに」というビジョンの体現につながるかどうか。そのため、その国へ渡航したことによる持ち帰りや、売上増、案件獲得といった短期リターンにはこだわっていないのだという。
「すぐには実にならない商売の種の発見だったり、メンバーの人材開発だったり、会社としてのブランディングだったり、ビジョン体現観点での自己肯定感であったり……。さまざまな価値があって良いと思っています。年に1人15万円という投資額は、人件費、人材育成費などの観点でとらえた場合、経営財務にそこまで影響する額でもありません」(巴山さん)
今後、社員が増えていってもこの取り組みは続くのか? 巴山さんは「続けていきたい」と話す。投資コストが制度の展開を妨げる要因にはならないとも。
こっからでは現在、2人が東京、4人が福岡という2拠点で分かれて働いている。3カ月に一度、全員がそろう経営合宿を開催し、「これからのPPQ」についても話しているという。そこで合意したのは、「PPQだけは全員が何としても大事にしたい」という思いだった。
(WRITING:多田慎介)
巴山 雄史 さん
2016年に創業し、仕事が増えて目の前のことでいっぱいいっぱいになっていました。「Playful」というビジョンを掲げているのに、そうなっていない現状がありました。そこで、意図的に僕たちがビジョンと向き合う「スペース」を作るため、夢物語として語っていた「海外へ行けたらいいな」を突き詰めて形にしたのがこの制度です。 誤解を恐れずに言えば「ビジネス上の成果はどちらでもいい」と考えて始めましたが、取り組みを通じてメンバーが外に目を向けるようになった結果、日本のグローバル企業の海外拠点でワークショップを行ったり、オランダで出会ったベンチャー企業との事業開発も進んだりと、新たな変化も起きてきています。
守島 基博 氏
この取り組みは、正直に言うと最初は「何のためにやっているのか」よくわかりませんでした。しかしよく見ていくと、新規事業開発と自己開発の両方を推進する仕掛けであることが見えてきます。かつ、「Playful」とある通り、この会社で働くことが楽しくなり、新しい仲間やお客さんを呼び込むきっかけともなると感じています。非常に感動しました
※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。
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