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ベテラン社員が持つ「宝の知見」を、銭湯で受け継ぐ!入浴剤の老舗企業を変えた若手中途入社メンバーの提案とは

株式会社バスクリン
取り組みの概要
社内の知見伝承と銭湯文化の活性化を目的に、公認部活動として「銭湯部」を発足。銭湯巡りや社内勉強会「バスクリン大学」によってベテランから若手への知識・技術の伝承や交流を行っている。
背景にあった課題
約半数の社員が50代と高年齢化が進んでおり、近年入社した若手社員への知見の伝承が急務となっていた。
取り組みによる成果
入浴剤や銭湯といった自社商品に直結する知見が伝承され、新たなマーケティング活動にもつながっている。
担当者の想い
中途入社ならではの視点で「社内には宝のような知見がある」ととらえ、それをベテラン社員から積極的に受け継ぎたいと考えて行動を起こした。

「知見の伝承」「銭湯文化の衰退」という2つの課題に向き合う

銭湯での裸の付き合いを通じて知識を伝承

1893年創業の「津村順天堂(現 株式会社ツムラ)」をルーツに持つ入浴剤のパイオニア企業、バスクリン。日本人にはなじみ深い有名商品を扱う企業だが、専門性が問われる業務も多く、採用が活発ではなかったこともあり、社内の高年齢化が進んでいた。

世の中では銭湯の廃業も相次ぎ、入浴形態も様変わりしつつある。長年受け継がれてきた知識をいかにして伝承していくか――。老舗企業が直面した課題に立ち向かったのは、外部からやってきた中途採用の若手メンバーたちだった。

「50代社員が約半数」高年齢化が進んでいたバスクリン

2006年、ツムラ内の家庭用品事業部門が分社化される形で独立したバスクリン。同社は、40・50代の社員が多数を占めている。ツムラ時代から続く入浴剤の歴史を知り、深い専門知識を持った人材は、あと20年も経てばほとんどいなくなってしまう。そのため、ベテランから若手への技術・知識の伝承が急務となっていた。

一方、かつて入浴剤を世に広めるために必要不可欠な場所だった銭湯は、時代の流れで廃業が相次ぎ減少の一途をたどっている。同社の事業は、一般家庭用の入浴剤製造販売がその中心であるが、入浴文化を守り、発展させていくことが使命。事業の原点ともいえる、銭湯を活性化することは、入浴文化をリードしてきた同社にとって、見過ごすことはできないともいえる事象であった。

中途入社のアイデアマンが感じたこと

そんな状況の中で、後に「バスクリン銭湯部」を立ち上げる2人の20代中途社員が入社した。ベンチャー企業での新規事業開発を経験したこともある高橋正和さん(ダイレクトマーケティング部・バスクリン銭湯部部長)と、総務・人事のキャリアを積んできた齊藤翔大さん(総務部総務グループ・バスクリン銭湯部人事)だ。

「看板商品『バスクリン』や『きき湯』の知名度は高く、社内にはどことなく保守的な雰囲気が漂っていました。外の世界から見れば、日本の入浴文化を知り尽くした知見をもっとマーケティングに生かせると思ったんです。入浴剤市場をリードしてきたバスクリンだからこそ、もっともっとできることがあると感じました。」

高橋さんは、入社当時の思いをそう振り返る。社内のベテラン社員には、宝のような知見がたくさんあるのでは――? そう考えて企画したのが、社員交流イベントとして2カ月に1回の銭湯巡りを実施し、裸の付き合いを通じてベテランから若手へ知識・技術の伝承を行う「バスクリン銭湯部」の構想だった。同期入社の齊藤さんはアイデアマンの高橋さんに共感し、「知見の伝承や、社内と銭湯の活性化は当社にとってとても大事なこと。総務部の立場で活動がきっちりと続くように支えていきたい。」と思い参加した。

活動を進めるために高橋さんが協力を求めたのは、人事責任者を兼任して社内のキーパーソンの一人である久保康一さん(総務部部長)。有志の集まりではあるものの、「バスクリン」の名称を対外的に使えるよう、会社公認の活動にしたい。そんな相談をしてアイデアをもらい、社内規則で認められていた文化系部活動としてスタートさせた。若手に声をかけつつ、久保さんからの働きかけもあってベテラン社員がどんどん入部。銭湯巡りを開始してみると、裸の付き合いの中で商品の由来や開発秘話、会社の歴史など、さまざまなことをベテラン社員から教わった。「これは全社共有すべき話だ」と感じ、社内勉強会の「バスクリン大学」を企画。これにより、女性社員も伝承の場に参加できるようになった。

「バスクリン銭湯部」を立ち上げた高橋さん(右から3人目)と齊藤さん(一番右)

マーケットや顧客へ伝えていくべき「大切な知見」

バスクリン銭湯部は、社外への発信も積極的に行っていった。若手部員が外部メディア『東京銭湯 -TOKYO SENTO-』 で銭湯の魅力を発信するコラムを執筆したり、グループ会社である大塚製薬の社内報にコラムを掲載したり。また、かつては町づくりの起点となっていた銭湯文化を再現するため、「銭湯ふろまちライブラリー」などのコラボ企画も実施している。

メンバーは20代から60代まで幅広い顔ぶれとなり、活動の広がりとともに、当初の目的であった社内伝承も深みを増していく。

伝承は、新たなマーケティング活動にもつながる

入浴文化や入浴剤にまつわる知識は、ベテラン社員にとっては「知っていて当たり前」な情報だった。そのため、以前は特別な機会を設けて若手に語ることもなかったという。しかし新しく入社した若手にとって、それはマーケットや顧客へ伝えていくべき大切な知見だった。

入社36年の大ベテランである川久保崇司さん(信頼性保証室室長、総括製造販売責任者)は、「かつての製品開発秘話や失敗体験、銭湯のまめ知識などを若手社員にたくさん語るようになった」と話す。銭湯へ出かけた際はもちろん、社内でも若手と気軽に会話する場面が増えたという。

積極的な社外発信の結果、大手量販店の商品企画担当者からのアプローチで「銭湯」をテーマにした新たな入浴剤売場を作ることにもつながっている。銭湯巡りやバスクリン大学で得た知識は売場作りにもダイレクトに生かされ、業務にもプラスの影響をもたらしているという。中途入社メンバーである梨本里美さん(ダイレクトマーケティング部・アシスタントマネジャー)は、「例えば “入浴剤の香り開発に詳しい人”は世の中全体で見てもレアな存在。バスクリン大学に参加することで、日本の老舗企業ならではのマニアックな知識を得ることができ、日々のマーケティング活動に生かされている」と手応えを語る。

グループ会社である大塚製薬の社内報にコラムを掲載

「もっと教えてほしい」「もっと語り伝えたい」

高橋さんから思いをぶつけられ、協力するようになった久保さんは、「中途入社のメンバーがこんなにも会社のことを考えてくれていることがうれしかった」と振り返る。ベテラン社員には、守ってきた入浴剤の知識や入浴文化に対する思いを若手に伝えていく責任があると考えるようにもなった。何より自分たちには、もっともっと語り伝えたいことがあるのだと気付いた。

外の世界からやって来たメンバーだからこそ、純粋に自社の事業に根付いた取り組みを「部活動」というフランクな形で始められたのかもしれない。「ベテランの先輩方から、もっと知識や経験を学びたいです。バスクリンや銭湯に関する“宝の知見”を聞けば聞くほど、ますます仕事が面白くなっていくので」。高橋さんはそう結んだ。

大手量販店とのコラボ企画

受賞者コメント

高橋 正和 さん

バスクリン銭湯部の発起人であり、部長をしております。日本の伝統文化と言える銭湯ですが、20年前の10,000件から現在は2,500件と大幅に減っています。日本のお風呂文化と歩んできた当社の一員として、銭湯という原点を守りながら、自社で受け継がれてきた伝統や知識を学びたいと考え、取り組みを始めました。

齊藤 翔大 さん

銭湯部では人事を担当しております。本日は誠にありがとうございました。当社の歴史から、製品の誕生秘話、ベテラン社員の武勇伝まで、様々な話を聞くことができる銭湯部の活動は、貴重な学びの場となっております。今後も組織活性化、銭湯活性化に向けて積極的に取り組みを広げてまいります。

審査員コメント

アキレス 美知子

新しい視点を持つ中途入社の社員が年齢層の高い先輩社員の知識に「コア・コンピタンス」を見出し、自社を語る上で欠かせないお風呂の文化を銭湯を通じて活性化させていく発想がすばらしいと感じました。世界でいちばんお風呂好きである日本人にぴったりの、創意工夫にあふれた活動。ぜひこれは続けてほしいですね。こうした活動は社内にフォーカスすることが多く、内向きになりがちだと思います。せっかくの活動なので、より広く外部に向かって発信する機会を増やしていただければと思います。

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。