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「廃校宿泊体験」で経営理念を形にする!地方創生に本気で取り組む企業が実現したユニークなイベント

株式会社LASSIC
取り組みの概要
地元の廃校を活用して全社イベントを開催。郷土食によるパーティーやアクティビティ活動、宿泊を通じて、離れた拠点にいる社員同士の交流を図り、地域住民や自治体との関係性を深めた。
背景にあった課題
地方創生を理念に掲げつつも、全国に拠点を展開する中でその浸透が難しくなっていた。また、拠点間での社員交流にも限界があった。
取り組みによる成果
廃校という印象的な場所での宿泊で社員の交流が深まり、地域住民との交流を通じて理念を体感できるイベントとなった。同様の試みを全国へ展開しようという動きが社内で起きている。
担当者の想い
「既存事業で関わりのある自治体へより貢献したい」「長期継続する地方創生に取り組みたい」という思いを持ち、関係者を巻き込んでイベントを進めた。

理念浸透を図る企業と、廃校の利活用を探る自治体の思い

アクティビティとして小学校の掃除や杉の間伐体験を実施し、地域住民と社員が交流

地域活性化に向けた試みが全国各地で進む中、「鳥取発 ITで、地方創生」という独自の理念を掲げる会社がある。地元自治体の婚活イベントに自社開発のアプリを応用したり、豊かな自然を生かした森林セラピー事業を提案したりと、さまざまな活動を通じて鳥取を盛り上げてきたLASSIC。その動きは、日本中へ広がりつつある。

そんな中、同社は鳥取県内のユニークな場所を活用してキックオフイベント(全社会議)を行った。舞台は、廃校となってしまった小学校。その背景には、地方創生を実現するために理念を浸透させたいという強い思いがあった。

活動の幅を広げる中で、「地方」の意識が薄れつつあった

LASSICは、最新の技術を駆使して各地の地域活性化に取り組むIT企業だ。現在では鳥取のみならず、全国へ拠点展開を進めている。しかし、大阪や福岡などの都市部にも拠点を開設していく中で、「地方創生」という理念を日々の業務の中で意識しづらい社員が増えているという課題があった。また顔が見えづらい拠点間のコミュニケーションも徐々に難しくなりつつある。理念の浸透を図るとともに、社員が心を一つにできるような場を作る必要性を感じていた。

全国の社員が集う年2回のキックオフイベント(全社会議)は、従来は本社がある鳥取市内のホテルなどで開催していた。「もっとインパクトのあるイベントにして社員の交流を促せないだろうか」。2015年のキックオフ開催にあたり、経営陣を中心にそうした声が挙がりつつあったという。

一方、鳥取県智頭町の山郷地区では、少子化の影響で2012年に廃校となった旧山郷小学校の利活用が課題となっていた。地元の智頭杉をふんだんに使用した新校舎の落成からわずか15年。まだまだきれいな、杉の香りが漂う建物を生かすため、交流施設「R373 やまさと」として運営を始めていた。

「廃校に100人が泊まる」という初の試みに挑戦

もともと、智頭町役場や地元の振興協議会とは、森林セラピー事業を通じて交流があった。管理部門のマネージャーとしてキックオフイベントの企画・運営を手掛ける上村正哉さんは、その縁から旧山郷小学校を視察する。同社の拠点が多い関西や、新幹線停車駅である岡山から特急1本でアクセスできる好立地だ。

「学校という特別な場所でキックオフを開催すれば、童心に帰って楽しく交流できるという効果もあるのではないか……」。下見をしてすぐに気に入った上村さんは、この場所での一泊二日のキックオフ開催を経営陣に提案し、快諾を得た。社内からは安全面や衛生面での不安の声も挙がったが、女性専用の教室スペースの確保や、周辺の浴場施設の活用によって払拭した。

とはいえ、この場所はもともと大人数での宿泊を想定したものではなく、施設は小学校として運営していたときのまま。役場や振興協議会の関係者、地域住民の協力を得て、郷土食でのパーティーができるよう当日の料理を準備してもらったり、100名を超える宿泊場所としての部屋割りを検討してもらったりと、初の試みに向けた準備が進んでいった。

キックオフイベントの舞台となった旧山郷小学校

智頭町への思いを深め、社員の心が一つに

1日目は全社会議とパーティーを開催。この中では、智頭町とLASSICの連携協定が取り交わされるという、同社の経営理念を現すシンボリックな場面があった。小学校に宿泊するという非日常的な空間の中、深夜まで社員の交流が続き、初めて顔を合わせるメンバー同士の絆も深まったという。2日目にはアクティビティとして小学校の掃除や杉の間伐体験を実施。地域住民と社員が交流するきっかけを作った。

この特別な試みは、同社の社員にどのような変化をもたらしたのだろうか。

子どもの頃にバカ騒ぎをした記憶が蘇る

「以前は、このような泊まりの全社イベントがあっても、“軽く飲んで食べて寝てしまう”というパターンが多かった。この日は小学校というシチュエーションで、子どもの頃にバカ騒ぎした記憶が蘇ったのか、皆で遅くまでボードゲームに興じるなど普段とはまったく違うイベントになった」。福岡から参加した藤吉英則さんはそう振り返る。

福岡という都会の拠点で仕事をしている藤吉さんにとって、日頃は地方創生という理念を実感する機会があまりなかった。智頭町のイベントではそれを身近に感じ、「ゆくゆくは九州でも、旧炭坑などを活用して開催したい」と思うようになったのだという。キックオフ後はこうした声が高まったことから、もともとは本社メンバーのみで構成していた運営委員を、全国各拠点から代表を出して構成するように変わった。社員それぞれが愛着を持つ地域にこの事例を展開し、全国各地で交流を深めていきたいと考えている。

童心に戻ってゲームを楽しむ社員

成功体験を全国に広げていく

LASSICの事業全般の営業兼シニアコンサルタントを務める佐久間高広さんは、森林セラピーを通じた企業研修やメンタルヘルス対策の提案に構想段階から携わってきた、智頭町とLASSICとの「パイプ役」的な存在。特別な思いで今回のキックオフイベントに参加した

「100人規模のイベントを都会で開催すれば、食事の準備などで多額の費用がかかる。そこを地域のつながりや人間力で助けていただけたことも大きかった」と語る。2日目のアクティビティで清掃や間伐体験を行ったのは、地域の方々への恩返しの意味もあったのだという。

「地域貢献と称して地方にやってきても、利益が見込めなくなってすぐに去っていく企業が多い。1年ぐらいで帰るなら、むしろやらないほうがいいんです。地域の人が稼げて、自社もしっかり利益を出せる、そんな事業を長期的に作っていくことを大切にしています」

廃校に泊まり、大きなイベントを地域の人々とともに作り上げた2日間は、「鳥取発 ITで地方創生」という理念を形にしたものだった。そして、智頭町に対するLASSIC社員の思いは一段と深まることとなった。人口減や過疎化に直面する地方には、まだまだ利活用の余地がある施設がたくさんあるという。さらに同社では2017年、歴史的建造物としての評価も高い旧鳥取高等農業学校跡地へ本社を移転予定。今回の成功体験を糧にして、同社はまさに、全国各地へとその理念のすそ野を広げようとしている。

智頭町とLASSICとの「パイプ役」となった佐久間さん

受賞者コメント

若山 幸司 さん

社員が主体的に取り組んでくれた成果だと思います。当社は経営理念で「鳥取発 ITで、地方創生」を掲げています。現在全国に9拠点あるのですが、社員間のコミュニケーションがしづらいと思っていました。これまでは鳥取市内のホテルなどを使っていたのですが、「地方創生」という理念を感じられるようなキックオフができないかと社員に投げ掛け、廃校を活用したいという意見が上がってきました。廃校の体育館で二次会を行い、社員みなが童心に返って楽しめたようでコミュニケーションが活性化され、密度の高い場とすることができました。

審査員コメント

若新 雄純

LASSICさまが最初に寄せていただいた応募書類。その一つひとつの言葉がとてもロマンティックだと感じていました。地域貢献といった経営理念を社員全員が常に意識することは簡単なことではないと思いますが、それを言葉にし直すことで、理解の深まりが生まれたのだと思います。理念の深まりを通して、こうした活動を継続していくことがとても大切だと感じています。

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。