インポスター症候群とは?陥らないための3つの心がけを公認心理師が解説

「周りの人に褒められたり、仕事で評価されたりしても、嬉しさよりも不安を感じてしまう…」「本当の自分はそんな力があるわけではなく、そんな評価に値しない」と、ネガティブに捉えてしまう。そんなことはありませんか?こうした「インポスター症候群」と呼ばれる心理傾向について『本当の自分を見失いかけている人に知ってほしいインポスター症候群』の著者で公認心理師でもある小高千枝さんに詳しく聞きました。

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インポスター症候群とは?

仕事でうまく行っていても喜べず、むしろ自分の至らないところを意識してしまったり、チャンスを与えられても「私にはとても無理です」と過剰に反応してしまったりする。インポスター症候群とは、そうした自分で自分の力を認められず否定的に捉えてしまう心理傾向のことを意味します。

インポスター(Imposter)は、英語で詐欺師や偽物の意味であり、1978年に心理学者のポーリン・R・クランス博士と、スザンヌ・A・アイムス博士が、社会的に成功している女性たちのインポスター現象を論文で発表。FacebookのCOOを務めたシェリル・サンドバーグ氏が自著『LEAN IN』の中でインポスターの心理状態にあったと触れたことで、広く知られるようになりました。

インポスター症候群の特徴は?

インポスター症候群の特徴は人それぞれで、様々な症状があります。ここでは、特によく見られる症状をご紹介します。

自分を過小評価してしまう

努力して成功を収めたり、実績を積んだりしても、自分が認められることに疑いを持ったり、評価されることに不安を感じたりしてしまいます。自信が持てず、自分を過小評価してしまう。褒められと居心地が悪く、つい否定するようなことを言ってしまいます。

チャレンジを避けてしまう

うまくいったこともたまたまタイミングや運が良かったからだと、自分の実力と信じられないため、失敗を恐れてチャレンジを避けてしまいます。以前は主体的に行動できていたのに、周囲の評価や称賛に対して自分の気持ちが追いつかず、新しいことに挑戦する意欲を下げてしまうこともあります。

人の目を気にして自由に発言できない

何らかのプラスやマイナスの目線で見られているのではないかと感じ、過剰に人の目を気にしてしまう。自由に発言や発信することができず、自分の考えよりも相手にとっての正解を言ってしまうこともあります。

一人で仕事を抱え込む

自分の能力が偽物であると思い込んでいるため、見破られないために一生懸命取り組み、一人で抱え込んでしまいがちです。「私ごときが人に仕事をお願いするなんて申し訳ない」という思いから、自己犠牲的に一人で頑張ってしまいます。

このほか、インポスター症候群に陥ったとき見られがちなことは、以下のような思考傾向です。

  • 人からほめられても素直に喜べない
  • 周りからの期待が増えていくことに恐怖を感じてしまう
  • 今の自分のポジションは、実力よりも運でつかんだものだと思う
  • 今のポジションが崩れてしまうのではないかと不安に感じる
  • 自分のことを、たいしたことのない人間だと思う
  • 自分が無能だとバレたらどうしようという恐怖感がある
  • いつも偽りの自分を演じているような意識がある
  • 人とのコミュニケーションや自分の考え方に自信がない
  • 何か任せられると「〇〇さんの方がうまくできるのに」と思う
  • 毎日が全然楽しく感じられない

インポスター症候群に陥ると自己肯定感が弱くなり、自分のことを信じられない心理状態になっているため、周りから判断を仰がれることが大きな精神的負担になったり、期待される役割をこなすことが重荷になったりします。

やらなければいけないことに対応できたとしても、常に不安がのしかかっている状態で、前向きなエネルギーが失われがちになります。

インポスター症候群に陥りやすいのはどんな人?

インポスター症候群に陥りやすいのは、仕事の上での昇格など何らかのステップアップがあったときや、プロジェクトを任されたりプレゼンを高く評価されたりしたとき、また新しい仕事や責任を与えられたときなど、想定以上の評価や期待を感じたときです。

しかし、そうした環境になるとだれもがインポスター症候群に陥るというわけではありません。心理的背景や社会的背景が影響してきますが、勤勉な人、相手に気遣いができて空気を読んでしまう人、自己主張が苦手で相手を受容する傾向がある人、完璧主義な人は、謙虚に完璧に求めすぎるがゆえに陥りやすいようです。

また、特にSNSが普及したことで、多くの人が陥りやすくなっていると感じます。SNSでは、ちょっとした投稿でもある日突然アクセス数が上がって、一躍注目の人になってしまうことがあります。

すると、自分が努力して手にしたという実感がなくなり、リアルな自分とのギャップに人をだましているようで自己嫌悪に陥ったり、自分に対して否定的になったりしてしまう。人気を維持しようと必死になっているうちに、肝心の自分の生活がつまらないものになってしまう。前向きな意欲やエネルギーが低下してしまう。こうした状況に陥りがちなのです。

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インポスター症候群を防ぐ3つの心がけ

好きなことに意欲的に取り組めない、普通にできていたことをしんどく感じる、目の前のことに追い込まれているような気がするなど、自分の中でいつもと違う変化を感じたら、心の不調のサインかもしれません。

インポスター症候群を未然に防ぐ、あるいは少しでも克服するためには、次のようなことを心がけてください。

1.意識的にリフレーミングする

別の枠組みから、物事をとらえ直すことをリフレーミングと言います。例えば「失敗」は成功したい気持ちが強いほど落胆が大きくなります。「失敗=よくないこと、避けなければいけないこと」と捉えているからです。「失敗=成功するための経験値を1つ増やした」という枠組みで捉えれば違ってきます。

仕事を抱え込んでしまう人も、「仕事を任せる=負担をかける」との思い込みをリフレーミングしてみましょう。

任せることによって相手がどう成長するか、自分が抱え込むことで締め切りに間に合わなくなるよりも、仲間と共有して納期に間に合わせるほうが次の仕事につながるなど、少し視野を広げて捉え直しましょう。日ごろからリフレーミングを意識することで、ものごとを柔軟にポジティブに捉えることができます。

2.心理的居場所を作る

インポスター症候群は冒頭でご紹介した通り、病気ではなく、心理傾向の一つです。心のクセのようなものですから、克服するためにも未然に防ぐためにも、心をフラットにできる自分を追い詰めない環境、ゆるみを持たせられる心理的な居場所を作ることが大切です。

気の置けない人と過ごす時間でも、のんびりできる場所でもいいのです。自分が生き生きとしていられる環境に身を置いて、一旦リセットして、自分のペースを取り戻しましょう。周囲と比べない、情報を取り込まないためにSNSと距離を置くなど、デジタルデトックスをする時間を作ることも有効です。

3.人生脚本を見つめ直す

人は無意識に脚本に書かれた役割を演じて生きる傾向があります。幼少期は、育った家庭の価値観やルールなど親から受けるメッセージによって脚本が構築されていくことがあります。

そして、思春期になると社会のルールと自分の育った環境のルールの違いに葛藤が生まれ、自分なりの人生の脚本を築き上げていくようになっていきます。インポスター症候群に陥りやすい自分に厳しい人や生真面目さがある人、何々すべきと考える人は、一度、自分の中で作ってしまった脚本に囚われがちな傾向が見られます。

何々すべきという考え方は、自分の中のルールであって、世の中は必ずしもそうではありません。「何が自分を縛り付けているのか?」を問い、自分の中にある思い込みや抑圧に気づいたら、その部分を書き変えてみましょう。納得できる生き方に軌道修正でき、自己肯定感が高まることにもつながっていきます。

頑張った自分を認めよう

インポスター症候群は、「一生懸命努力して頑張っているからこそ生まれる可能性がある心の傾向」だと私は思っています。もしすでに、自分はインポスター症候群に陥っているのかもしれないと感じたら、まずは頑張った自分の証しなのだと認めてあげて、一呼吸おいて考えてください。

そして、自己解放して素の自分に戻る時間を持ちましょう。体をほぐすことが心をほぐすことにもつながります。晴れている日に散歩に出かける、リラクゼーションを受けるなど、心身をゆるめる時間を意識的に設けてみてください。

メンタルヘルスケア&マネジメントサロン代表
公認心理師 小高千枝氏

メンタルヘルスケア&マネジメントサロン代表 公認心理師 小高千枝氏 プロフィール画像絵本作家になりたかった夢と、人格形成における人間の心に触れたいとの思いから幼稚園教諭として従事した後、一般企業にて人事、秘書、キャリアカウンセラーなど、多くの人のメンタルケアサポートに携わる。個人カウンセリングや企業におけるメンタルトレーニングなどを行い、メディアでも活躍。著書に『心理カウンセラーがこっそり教える やってはいけない実は不快なしぐさ』(PHP研究所)、『本当の自分を見失いかけている人に知ってほしいインポスター症候群』(法研)など。

取材・文:中城邦子 編集:馬場美由紀
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