「仕事を頑張れない自分をなんとかしたい」「仕事を頑張れないのはなぜだろう」。そんな悩みを抱えたビジネスパーソンに向けて、これまでに1万人超のメンタルを救ったという「金髪アフロと赤メガネ」がトレードマークの精神科医&メンタル産業医 井上智介先生に、やる気が出てこない原因や対処法のアドバイスを伺いました。
仕事を頑張れないのは甘え? 仕事を頑張れない3つの原因
「やるべき仕事はあるのにどうしてもやる気が起きない」「集中力が続かずに頑張れない」など、仕事を頑張れない時期は誰にでもあります。では、頑張れない状況に陥ってしまう理由には何があるのでしょう。大きく3つのポイントから見ていきましょう。
職場環境や人間関係に原因がある
まず、頑張れない理由の多くを占めるのが、人間関係です。主な理由としては、以下が考えられます。
- 上司や同僚に評価してもらえない
- 求められるレベル、期待値が高く、頑張りを認めてもらえない
- 励ましや労いの声かけなど、心理的サポートが得られない
- 困ったときに助け合う風土がない
- 上司の言っていることがコロコロ変わり、信頼関係を築けない
- 重要な情報を共有してもらえない
働く環境にこのような人間関係があると、心が疲弊し、頑張る意欲が削られていってしまいます。
ワークライフバランスの悪さに原因がある
ワークライフバランスが取れていない状況が続くと、心身の負担も積み重なっていきます。以下のような状況が続くと、業務中の集中力もなくなり、心身ともに頑張れなくなってしまいます。
- 仕事量が多すぎて、残業が続いている
- 家族との時間、趣味の時間が取れない
- 電話やメール対応に追われ、常に気を抜けない
- 在宅ワークが続き、オンとオフの切り替えができない
仕事自体へのモチベーションの低下に原因がある
仕事に対する価値や目的を見失うと、頑張る力も失われてしまいます。
- 自分の仕事が、組織への貢献につながっている実感がない
- 何のための仕事なのかが分からない、目的を共有されていない
- 自分のスキルと、仕事の難易度が合っていない
こうした理由によりモチベーションが下がると、仕事でのミスやトラブルが増え、ますます自信を失うことになります。
仕事を頑張れないときの対処法
上記のようなさまざまな理由が絡み合うと、どんなに意欲にあふれていた人でも、「もうやりたくない!」「これ以上は頑張れない!」「投げ出してしまいたい!」という気持ちになっていきます。
長い社会人人生ですから、いつでもフルパワーで頑張れる人なんていません。誰にでも浮き沈みはあり、頑張れない時期があっても当たり前。その大前提に立った上で、できる対処法を考えていきましょう。
対処法は大きく2つ、「エネルギーをためること」「現実的なアプローチをすること」です。具体的な方法を解説していきます。
いつもより1時間長く寝る
エネルギーをためる方法の1つ目は、睡眠を取ることです。疲れたらとにかく睡眠を取りましょうというのは、誰しも聞いたことのあるアドバイスだと思います。睡眠は「心と身体」、両方を休ませられる唯一の方法だからです。
では、どのくらい寝ればいいのか。「7~8時間は寝ましょう」と言いたいところですが、すでに仕事を頑張りすぎている人は「8時間も睡眠を確保できない」というケースも多いのではないでしょうか。
そこで試してほしいのが、「普段の睡眠時間より1時間だけ長く寝る」ことです。今5時間しか眠れていないのなら、6時間寝てください。たった1時間長いだけでも、朝起きたときのリフレッシュした気持ちはかなり変わってくるはずです。
身体的な心地よさを与える
エネルギーをためる方法の2つ目は、身体的な心地よさを与えること。身体が心地いいと感じるリラックス時間を作ることも欠かせません。自分にとって「この時間が一番幸せ」と思えるようなリラックス方法を知っている人は、その時間を作ってみましょう。大事なのは、身体的な心地よさです。
とくに思い当たらないのなら、マッサージに行く、ストレッチをする、温泉で体を温めるなど、一般的なリフレッシュ方法を試してみてはいかがでしょう。身体が心地よい状態にならなければ、「また頑張ってみよう」という気持ちは生まれません。
人に話を聞いてもらう
エネルギーをためる方法の3つ目は、人に話を聞いてもらうことです。もう頑張れないと疲れ切った心を、一人で抱え込まないことが何よりも大切です。
そこで家族や友人、大切なパートナーなど、自分のことを否定しない人、信頼できる人に、「仕事を頑張れない」という正直な気持ちを話してみましょう。周りにそういう人がいないのなら、会社の産業医や心療内科の先生、カウンセラーに相談するのも一つの手です。
カウンセラーを利用するというと、ハードルを高く感じる方がいるかもしれませんが、「自分のつらさを吐き出して共感してもらえる」存在として捉えてみてもいいでしょう。
話を聞いてもらい、否定されずに受け入れてもらう経験をすれば、自分を責めなくてもいいことが分かってくると思います。
自分から積極的にフィードバックを求める
エネルギーがたまってきたら、現実的なアプローチを取っていきましょう。まず考えられるのは、自分から積極的にフィードバックを求めることです。人間関係が原因で仕事が頑張れなくなっている場合、周りの環境を自ら変えていくしかありません。例えば、以下のようなアプローチがあるでしょう。
- 上司との定期的な面談を自分から提案して、フィードバックをもらう
- 上司から何を期待されているのかを確認する
- 上司や同僚と仕事の進捗を話し合う時間を作る
自分から動かなければ、周りが変わることはありません。何もアクションを起こさないままでは、状況は改善しないと心して、まずは一歩動き出してみましょう。
仕事以外で人生を充実させる
現実的なアプローチの2つ目は、仕事以外で人生を充実させること。仕事だけが人生ではありません。自分を成長されるもの、満たすものはほかにもあると割り切って、趣味や家族の時間を設けるのも一つの方法です。仕事は適度に続けていきながら、趣味に没頭して休日が楽しみになれば、人生全体で幸せ度が上がっていくでしょう。
転職を検討する
現実的なアプローチの3つ目は、転職を検討することです。いろいろやってみたけれど、心も体の元気になれず、仕事への意欲が出てこないのなら、思い切って転職するなど職場環境自体を変えていきましょう。
特に具体的な体調の悪化など症状として表れている方がいれば、無理して今の環境にこだわる必要はありません。ほかの選択肢があると分かることで、心も軽くなっていくかもしれません。
大事な人が悩んでいたら…と考えてみよう
「仕事を頑張れない」という人の多くは、すでにめいっぱい仕事を頑張ってきた人です。そうした方に、「誰にでも頑張れないときはありますよ」とお話ししても、「周りの人はすごく頑張っている、自分だけができていない」と自信を失っていて、声が届かないことが少なからずあります。
そんなときは、「もしあなたの一番大切な人が、同じように『もう仕事を頑張れない』と悩んでいたら、何と声をかけますか」と考えてもらいます。すると「無理しないでほしい」「あなただけじゃないよ」などと温かい声がたくさん返ってきます。それなのに、自分に対しては「仕事が頑張れないなんて甘えだ」と厳しく捉えてしまっているのです。
皆さんも、「頑張れない」「しんどい」と思うときがあったのなら、一度自分から離れて「もし大事な人がそうだったら」と考えてみてください。そこで出てきた言葉をそのまま自分自身に投げかけてほしいと思います。
メンタル産業医・精神科医 井上 智介さん
兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話を重視した精神的なケアを行う。さらに、すべての人に「大ざっぱ(rough)」に、「笑って(laugh)」人生を楽しんでもらいたいという思いから、SNSや講演会などで心をラクにするコツや働く人へのメッセージを積極的に発信中。『職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)、『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』(大和出版)など著書多数。