公務員、教員が副業・兼業。多様な経験を本業に活かし、ナレッジを社会に還元する――「GOOD ACTION アワード」受賞・一般社団法人KAKEHASHI、学校法人新渡戸文化学園

「働く個人が主人公となり、イキイキと働ける職場を創る」。2014年度から始まった「GOOD ACTION アワード」(※)は、そんな職場での取り組みに光を当てて応援する取り組みです。先ごろ、第8回目となる「GOOD ACTION」の受賞企業が発表されました。

今回は、受賞団体の一般社団法人KAKEHASHI、学校法人新渡戸文化学園の取り組み内容を詳しくご紹介します。

※「働く個人が主人公となり、イキイキと働ける職場を創る」。2014年度から始まった「GOOD ACTION アワード」は、そんな職場での取り組みに光を当てて応援する取り組みです。

「GOOD ACTION アワード」受賞者インタビュー記事一覧はこちら

一般社団法人KAKEHASHIと
一般社団法人KAKEHASHI 高橋正和さん(左)学校法人新渡戸文化学園 平岩国泰さん(右)

なぜ前例のない「公務員、教員の副業・兼業」に踏み切ったのか?

働き方改革の一環として、社員の副業・兼業を認める企業が増えています。

本業とは異なる知識のインプットや経験の機会を得ることで、さらなるスキルアップやキャリアアップにつながるほか、副業・兼業で得た知識や経験が本業にもプラスの効果をもたらすと期待されているためです。

そして、その動きが公務員や教員にも広がりつつあります。

一般社団法人KAKEHASHIは、横須賀市の職員が副業として設立した法人。「熱い想いを持つ人の声を聴き、想いを実現する架け橋になり世の中をもっと良くする」ための活動を行っています。

学校法人新渡戸文化学園は、幼稚園から小中高、短期大学までを有する学校法人。現在では小中高教員の約半数の教員が何らかの副業・兼業を行っています。また、民間人材を「副業教員」として迎え入れることにも注力しています。

慣習や取り巻く環境などから、未だ禁止されていたり、制限が厳しい場合が多かったりすると言われる公務員や教員の副業・兼業。なぜあえて難しい領域に挑んだのか、両団体に詳しく伺いました。

地域に暮らす人々の想いを形に─一般社団法人KAKEHASHIの取り組み

一般社団法人KAKEHASHI
一般社団法人KAKEHASHI 代表理事/高橋正和さん

一般社団法人KAKEHASHIは、現役の横須賀市役所職員である高橋正和さんと山中靖さんが2020年に設立した法人。個人や企業などの「想い」を実現するサポートや、それを阻害する課題の解決などを行っています。

設立のきっかけは、高橋さんたちが2018年に参加した横須賀市役所の研修。街に出て、いろいろな人の声を聞きながら課題を探し、それを解決するための政策を考えるというグループワークを行う中で、市民のさまざまな声に触れたそうです。

「横須賀に対する熱い想いを持った人や、アイディアは持っているけれどそれをどこに相談すればいいのかわからないという人などと話す中で、『横須賀を思う方々の力になりたい』と考えるようになりました。そこで、市役所職員の有志で市民の方々の声を聴くという自主活動を続けていたものの、行った先で渡す名刺がないことや活動費の負担などが大きく限界を感じ、当時の市長に法人設立を直談判しました」(高橋さん)

横須賀市役所は挑戦する心、変える心を大事にしている自治体。市長の方針もあり、前例踏襲を良しとしない風土があります。公務員が副業で法人を立ち上げるという前例のないチャレンジにも、許可を出してくれたそうです。

横須賀市をより良くするため、市民の課題解決や新たな価値創造に尽力

GA表彰式一般社団法人KAKEHASHI
GOOD ACTION審査員・アキレス美知子氏と

KAKEHASHIが行っているのは、熱い想いを持っている人の「架け橋」になる活動。まずは市民の声を聴き、市役所に解決できる窓口がある場合は、そこにつなげます。

KAKEHASHIが共に取り組むことで解決できそうな内容であれば、課題解決に動きます。

例えば、現在のKAKEHASHIのメイン事業である「SUCOYACA Puree」の開発・販売は、農家の声を聴き生まれた商品。味に変わりはないのに、大きく育ち過ぎたり傷ついたりした野菜が通常よりも大幅な安値で取引されている、という課題に触れ、「ピュレとして加工して商品化する」ことで通常価格でやり取りできる仕組みを整えました。

このほかにも、さまざまな人の声を聴くことで得た「いろいろなジャンルの方同士をつなぐ」という手段を用いて、課題解決や新たな価値創造につなげています。

例えば、鉄道車両のドア製造を手掛ける市内の企業とKAKEHASHIが連携する会社をつなぎ、技術者雇用を支援しました。ほかにも、市内のケーキ屋と農家をつないだり、ホテルと子育て施設をつないだりして事業化を実現しています。

「時代は刻々と変化しているので、横須賀市を良くするためには、今までと同じことをやっていてもだめ。常に新しいことに挑戦する姿勢が重要だと考えています。たとえ周りから否定されたとしても、信念を持って突き進むことを徹底しています」(高橋さん)

一般社団法人KAKEHASHI
KAKEHASHIの課題解決の考え方(KAKEHASHI公式サイトより)

社会全体で教育を担うために─学校法人新渡戸文化学園の取り組み

学校法人新渡戸文化学園
学校法人新渡戸文化学園 理事長/平岩国泰さん

ほとんどの学校や教育委員会で禁止されている「副業・兼業」。しかし新渡戸文化学園では強い問題意識のもと、教員の副業・兼業に踏み切り、かつ民間の複業人材を受け入れています。

現在、小中高の教員の約半数が副業や兼業を行っているほか、一般企業で働く社員やカメラマン、区議会議員、デザイナーなどさまざまな分野で活躍する人材が副業教員として働いています。

「日本の多くの教員は、大学を出てそのまま教員として就職しますが、そのことが社会と学校の隔絶を招いていることは否定できません。学校と家の往復だけで、質の高い授業を実施し続けるのは難しく、教員こそもっと社会を広く知るべきだと考えています。そして、日本の教育における教員への依存度が高すぎることにも課題感を覚えています。民間の社会人が教壇に立つなど、もっと社会全体で教育を担うべきだと思っています」(理事長の平岩国泰さん)

教員の副業・兼業を促進し、民間の「副業教員」も受け入れる

学校法人新渡戸文化学園
GOOD ACTION審査員・若新雄純氏と

現在、新渡戸文化学園の教員が行っている副業の内容は実にさまざま。塾の講師をしている人もいれば、大学で教鞭をとっている人、YouTuberや舞台俳優にチャレンジしている人もいます。いずれもそれぞれのサードプレイスを見つけ、本業と両立しながらイキイキ働いています。

「当初は、保護者から『先生が不在の日があって大丈夫なのか?』と懸念する声がありましたが、教員1人だけでクラス運営を抱え込まないよう『チーム担任制』を導入し、互いにフォローし合うことで課題を解決。そして出勤日には全力で授業に取り組み、成果や結果を追求することで、保護者への理解へとつながっています」(平岩さん)

そのような中で、従来通りの働き方を続けている教員ももちろんいます。学園では、教員の副業を推進する一方、こうした教員の考えを尊重することも忘れていません。さまざまな考え、立場、姿勢の教員たちが混ざり合い、互いに刺激し合うからこそ、職員室の中に多様性が生まれ、活気にあふれているそうです。

この教員の変化はまた、生徒にも確実に好影響を与えています。

日本財団の「18歳意識調査」と同様の質問を新渡戸文化学園の中学・高校の生徒に行った結果、「社会への関心」「自己肯定感」を測るスコアが全国平均よりも大きく上回っていることがわかりました。

「生徒たちの顔つきが変わってきているのが一番の変化。将来やりたいことや、未来のテーマを見つけたという生徒が多く、希望を感じています。イキイキとしている教員の姿を通して、学びは学校の中だけではなく、社会全体が学びの場であるということを、これからも生徒たちに伝えていきたいと思っています」(平岩さん)

現状を改革したい、より良くしたいとの強い想いが新たな挑戦を生む

公務員、教員の副業・兼業は、これまで前例がほとんどありませんでした。

そんな中、KAKEHASHIの高橋さんは「横須賀市をより良くしたい」との想いで、市役所職員ながら個人で副業として一般法人の立ち上げに挑戦。

新渡戸文化学園は教員と生徒の幸せを追求するため、学校を挙げて副業・兼業による「学校ダイバーシティ」に取り組んでいます。

全国の自治体や学校はもちろん、なかなか副業解禁に踏み出せずにいる一般企業や、そこで働く個人の背中も押してくれるような先進事例と言えるでしょう。

今回の受賞について、KAKEHASHIの高橋さん、新渡戸文化学園の平岩さんは次のように語ってくださいました。

「2018年に参加した市役所の研修が、私の転機になりました。積極的に街に出て、いろいろな方の声を聴くことが私たち市職員のやることなのではないか。横須賀市役所、そして横須賀市全体を良くするためにもそれが必要なことではないかという使命感にかられ、ここまで走り続けてきました。これからも、世の中を良くする懸け橋となれるよう、さまざまな声に耳を傾け、課題解決や価値創造につなげていきたいと思っています」(KAKEHASHI・高橋さん)

「新渡戸文化学園では、面白い経歴を持ち、面白い経験を積んだ先生がたくさん働いています。先生方のうち約4割が、企業勤めの経験がある点もユニークな点。職員室の中にダイバーシティ(多様性)があるのは私たち自身が成長するにあたって非常に重要ですし、それを生徒たちの幸せにつなげて行きたいと思っています。今回の受賞を日本の教育のために活かしたいし、取り組みを日本中の学校に還元していきたいですね」(新渡戸文化学園・平岩さん)

2021年度 GOOD ACTION審査員よりコメント

KAKEHASHIさんと新渡戸文化学園さんの取り組みにはいくつかの共通点があります。

第一に、変革に対する強い思いと行動力、第二に市民や社会など組織の外に目を向けたこと、そして役所や学校という保守的な組織で、副業・兼業という就業形態をトップがしっかりサポートしていることです。

KAKEHASHIさんは、市民の声から得た、役所では解決できないような課題に対し、いろんなジャンルの市民同士をつなぐことで新たな価値創造を実現させています。
新渡戸文化学園さんでは、さまざまな経験を積んだ教師にそれを教務で活かしてもらうことで、生徒が考え方、スタイル、価値観など、人としての多様性を学べる環境を提供しています。

いずれも、思いを持った個人から始まり、「組織のあたりまえ」を覆すチャレンジをして、ありたい姿を実現している素晴らしい取り組みだと思います。今後のさらなる進展を楽しみにしています。

審査員プロフィール

アキレス美知子氏アキレス 美知子 氏 (あきれす みちこ)

SAPジャパン特別顧問/横浜市参与
三井住友信託銀行取締役/G20/EMPOWER日本共同代表
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上智大学比較文化学部経営学科卒業。米国Fielding大学院組織マネジメント修士課程修了。シティバンク銀行、モルガンスタンレー証券、住友スリーエムなどで人事の要職を歴任。資生堂執行役員、SAPジャパン常務執行役員を経て、2021年に三井住友信託銀行取締役に就任。2014年より横浜市参与も務めている。

2017年世界女性サミットおよび2019年G20でジェンダー平等を推進するW20の東京大会実行委員を務める。2017年には米国DiversityGlobal誌による「グローバルダイバーシティにおいて最も影響力のある10人の女性」に選出される。

2020年よりG20のアライアンスEMPOWER(Empowerment and Progression of Women’s Economic Representation)の日本共同代表なども務めている。

リクナビNEXT主催「GOOD ACTION」公式サイト

ライター:伊藤理子 写真:狐塚勇介
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