【コーチングのプロに聞く】仕事のモチベーションが上がらないときの理由と対処法

「仕事のモチベーションが上がらない」とモヤモヤしていませんか?その背景にある原因を理解すれば、モチベーションの持ち方・上げ方が変わるかもしれません。

キャリアカウンセリングやコーチングの経験豊富な組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏に話を聞きました。

女性社会人が考え込んでいるイメージ
Photo by Adobe Stock
粟野友樹氏組織人事コンサルティングSeguros
代表コンサルタント 粟野友樹氏
筑波大学大学院(野外教育)を修了後、人材業界等での営業やキャリアアドバイザーを約15年経験。
2018年にSeguros(組織人事コンサルティング)として独立。
延べ20社の社外人事としての中途・新卒採用支援や、
リクナビNEXT「転職成功ノウハウ」等の転職系記事の監修を担当。
Podcast番組「アワノトモキの読書の時間」運営。
国家資格キャリアコンサルタント。

Twitter@Tomoki_Awano FacebookPodcast

仕事におけるモチベーションとは何か

仕事をする上でのモチベーションとは、「目標に向けて行動する・活性化する力」であると私は考えています。

モチベーション、とだけ聞くと、個々人がそれぞれの領域で率先して考え、解決すべき課題のように思えるかもしれません。

しかし、実際には経営側・マネージメント側にとっても、企業を支え発展させていくための、ひいては世の経済を回すための従業員のパフォーマンスアップに直結する重要な課題なのです。

それだけに、昔からさまざまなモチベーション理論が研究・開発されてきました。原因に着目したもの、プロセスに着目したものなど、その考え方は実にさまざまです。

ここでは、いくつかの代表的な考え方を紹介します。

説明・特徴 補足・注意点
フロー理論 ▼アメリカの心理学者、ミハイ・チクセントミハイによる
▼内発的に動機づけられた活動に取り組む時の人の主観的な経験(客観的にどうかではなく、自分がどう感じるかが大事)に注目した理論。
▼フロー体験を通じて、人は能力やスキルを磨き、成長していく
※フロー:没入感覚を伴う楽しい経験。時を忘れての無我夢中でめり込む時の感覚。その取り組み自体が内発的報酬=やりがいや意義になる
▼ただ、自分が気に入った仕事や、“楽(やりやすい)”な仕事に取り組むことを推奨するものではない
▼今はフロー状態でも、能力が高まると退屈する→仕事の難易度を上げて挑戦するといった、変化や波があることが前提
達成目標理論 ▼Elliot & McGregorなど、多数の研究報告がある
▼何らかの課題を達成する場面(仕事の成果)で、目標を分類し、どのように課題達成へ向けて動機づけられ、行動するかといったプロセスを明らかにするもの
▼ある仕事に取り組んでいるとき、現状はどのタイプに自分が分類できるかを知り、その状態が自分にとって好ましいかどうかを判断する際の参考になる
▼必ずしもきれいに分類されるわけではない
認知的評価理論 ▼アメリカの心理学者、エドワード・デシなどが代表
▼内発的動機付けと外発的動機付けの関係性に焦点をあてた理論
▼基本的には、内発的に動機づけられている状態だと人はモチベーション高く仕事に取り組むと考えられるので、その状態を作れるように働きかけることができる
▼アンダーマイニング効果もあるので、自分がどういった状態にあるのか、どちらに動機づけられているのかを振り返ることも大事
セルフ・エフィカシー ▼アメリカの心理学者、アルバート・バンデューラによる
▼自分の人生に影響する事象を自分が制御できるという信念。自分がやりたいと思っていることの実現可能性に対する認知・評価
▼4つの情報源(達成体験、代理体験、、社会的説得、生理的・情緒的喚起)がセルフ・エフィカシーを獲得する上で重要
▼「自分が全てコントロールできると考えれるようになりなさい」という考えではく、あくまで主観的な信念・認知の程度問題
▼逆にいえば、自分ができることととできないことをしっかり認知して仕事に取り組む状態ともいえる

※参考文献
鹿毛雅治『モチベーションをまなぶ12の理論』金剛出版, 2012
池田光『きほんからわかる「モチベーション理論」』イースト・プレス, 2008

8,568通り、あなたはどのタイプ?

仕事のモチベーションが上がらない理由とは

さて、このように理論や考え方が多く存在していても、モチベーションを持ったり上げたりすることができずに悩む方は少なくありません。

仕事のモチベーションを上げられない主な理由として以下のようなケースがあります。これは、私自身の経験、転職相談やコーチングなどを通じて実感していることです。

【理由1】目標を見いだせない、見いだしたくない

目標を見いだせない、あるいは見出したくないのは、自分が希望する職場での状況と現状に乖離があるからです。

具体的なところでは、

  1. 仕事がつまらない(意味がないと感じる、容易すぎる、達成・実行できない、成長できない)
  2. 正当に評価しされない(年収、時間労力と見合わない)
  3. 組織、人、社風が好きになれない
  4. 会社の方向性と合わない(会社のビジョンに共感できない)

などの状況が考えられます。

一例を挙げるなら、営業でトップになりたいのに、現状は目標達成率が50%。これでは希望と現状の乖離が大きすぎて、モチベーションは上がらないでしょう。

【理由2】目標設定はできても、それを実行する意義を見いだせない

これは、例えば営業職の方が、月○件という営業アプローチを設定するとき、自分の想定を遥かに超えるような数を上司から言われるようなケースです。

成果を上げるには必要なことだとは理解しているものの、行動量ではなく、質にこだわった営業をしたいと考えている場合、高い行動量の設定に意義を見出せないのであれば、モチベーションの活性化も持続化も期待できません。

【理由3】中長期的なモチベーションとなると保てない

短期間ならモチベーションを持つことができても、中長期的になるとそれを維持できない。そのようなケースでは、下記の理由が挙げられます。

  • やっていることが自分に合わない
  • (世間的に)いいこと・よさそうなことを無理にしようとしてしまう

8,568通り、あなたはどのタイプ?

【初級者向け】仕事のモチベーションが上がらない場合の対処法

それでは、モチベーションを上げる・維持するためのシンプルな方法を紹介します。

1.小さな行動を起こし、それを習慣化する

ポイントは、小さな行動から小さな成功体験を得ること。そうすると、「自分はできる」という自己効力感が高まり、徐々にモチベーションが上がっていきます。

3行でいいから毎日日記を書く、5分だけストレッチをする、本を5ページだけ読むなど、どんな些細な行動でもOKです。

2.サポーターを見つける

モチベーション不足でも仕事を続けるには、半強制的にやらざるを得ない環境をつくることがポイント。その環境づくりには、サポーターを置くという手段も有効です。

例えば、下記のようなアクションを参考にしてみてください。

〈やらざるを得ない環境づくりのためのサポーター例〉

  • 職場の同僚などに「○○を○○までにやります!」などと宣言し、彼らにはそのフォローをお願いしておく(ときとして「できていないよ」という指摘も必要だと伝えておく)
  • 会社での目標設定について上司としっかり話し合い、自分が成すべきことや目指すことを共有する(握っておく)。
    【例】「この半期で○○に取り組んで実行できるようになれば、チームリーダーを任せられる」という話があった場合、そのために上司と定期的にMTGをしたり、適切なタイミングでのフォローをお願いしておく。
  • タスク管理ツールやカレンダー等のリマインド機能を利用して、自分自身でやることやその期限を具体的に設定する。

このように、サポーターには周囲の人であったりツールであったり、またそれらの掛け合わせがいいとも考えられます。いろいろ試しながら、ご自身の状況に合ったサポーターを見つけましょう。

3.リフレッシュする

疲れているために前向きに考えることができず、モチベーションが上がらない可能性もあります。仕事以外の時間をつくり、気分転換を心がけましょう。

【中級者向け】モチベーションを上げるための3ステップ

ある程度成功体験を積むことができれば、次はもう少し具体的に、ロジカルにモチベーションについて考えたい人もいるかと思います。

世の中には、メジャーリーガーの大谷選手がやっていた「マンダラチャート」や、4つの要素の組み合わせで考える「ikigaiチャートなど、ロジカルなモチベーションアップ法が溢れています。

ここでは、複雑なフレームワークを用いずとも試せる、ごく一般的な方法を紹介します。

Step 1. パーパス(why)を見いだす
「なぜこの仕事をするのか」という存在意義を見いだす

Step 2. キャリアビジョン(where)とミッション(what)を考える
「こうなりたい」というゴールと「何をするか」というミッションを考える

Step 3. キャリアプラン(how)を考える
ゴールに至るまでの計画を立てる

この方法でもっとも重要なのは、パーパス(Why)です。ここをしっかり認識していないと、計画通りにいかなかったときに「ダメだった」という失望感で、モチベーションが下がってしまいます。

この状況に陥らないためには、パーパスを明確に持ち、見失わないこと。そうすれば、計画通りにいかないときにも広い視野と柔軟性をもってほかの道を模索していけるのです。

例えば、「転職における社会の不平等を解消したい」というパーパスを持っている25歳の人材開発会社に勤務する人が、35歳で新しい人材サービスを提供する会社を起業したいというキャリアビジョン(where)を立てたとします。

このビジョンに向けて、2年以内に経営企画室に異動して経営業務に携わり、30歳でコンサル企業に転職して経営コンサルの経験を積むというミッション(what)を考えます。

それが、もし計画通りにいかなかったとしても、「転職における社会の不平等を解消したい」というパーパスさえ揺らがなければ、挫折してあきらめるのではなく、NPO法人の設立、キャリアカウンセラーとして独立、人材開発会社内で新事業を起こすなど、起業にこだわらずにパーパスを実現するほかの道を模索するはずです。

そういうわけで、パーパスがとても重要なのです。

とはいえ、この方法を実際に試してみると、「理屈はわかるが全てを一度に設定するのは難しい」と感じる人もいるかもしれません。

特に初めての場合、世間一般的に認められたいという要素が強すぎてパーパスが壮大になってしまったり、あれもこれもと積んでいくうちに抽象的になってしまいがちです。あるいはシートに記入したことで満足してしまい、その後は日々の仕事や生活に追われて、実践や確認、変更、更新まで至らない、などということもあるでしょう。

そもそも、無理に急いでモチベーションを上げようとする必要はありません

待つ、時間をかける、そして行動し、習慣化しながら、少しずつパーパス、ビジョン、ミッションを具体化していきましょう。

その上で、この方法を試してみてうまくいかないな、と感じた時は対処法1~3に立ち戻り、成功体験を積み重ねていきましょう。

自分の才能を知ることもモチベーションを上げる手がかりに

個人的に試して役立ったと思えたのが、100万部越えのベストセラー本『さあ、才能に目覚めよう ストレングスファインダー2.0』です。

この本からわかるのは、自分の才能(ここでいわれる才能とは、自然に、勝手に繰り返し現れる思考、感情、行動という意味合いのもの)にはどんな傾向があるかを知ること、そしてそれに正直に向き合えるかどうかが重要だということ。

ストレングスファインダーの診断ツール(書籍購入者には付属で利用可能、ツール単独の利用は有料)を使ってみると、自分の才能を知る手がかりが見つかるかもしれません。

この分析を通して、自分がなぜか勝手にやってしまうこと・やれてしまうことを見つけることができれば、モチベーションアップのヒントになります。

モチベーションを上げることより成果を上げることを考える

モチベーションを上げる方法をいくつか紹介してきましたが、極論を言うなら、仕事とモチベーションは別次元であるとも考えられます。

なぜなら、前述のストレングスファインダーで触れたように、自分がなぜか勝手にやってしまうこと・やれてしまうことと仕事がつながっていれば、モチベーションなど意識しなくても自然に仕事ができてしまうに違いないからです。

中には、社会人として成長したいという一心でモチベーションを上げるための研修に参加したり、大学院に進学したりと、いきなりハードルを上げて頑張ろうとする人がいますが、一気にやろうしても一過性のもので終わってしまうケースも見受けられます。

ただ、モチベーションとは何かのアクションを起こす際に役立つ「着火剤」や「刺激」のようなもの。

仕事そのものは、基本的にモチベーションが高いと感じる場面より、淡々と取り組む日常業務や、大変さを感じる場面の割合が多くを占めます。

そのため、モチベーションの有無や高低に一喜一憂する働き方を続けると、「モチベーションが高くないと成果を出せない」といった、仕事のロスやムラが発生してしまうのではないかと思います。

自分がマラソンランナーだったとしましょう。走るのがとにかく好きで楽しいがゆえに、トレーニングでの走りにも高いモチベーションは必要ありません。

しかし走ること以外のハードなトレーニングとなると、やりたくない、逃げ出したいと思う場面が出てきます。

それでも「これは試合で成果を出すため(モチベーション)の、やらなくてはいけない仕事」だとわかっているからやる。このプロセスが練習の成果となり、実績を左右するわけです。

働く上でのモチベーションもそのように、特に中長期的に考えると、まずはモチベーションに影響を受けることなく取り組める、自分なりの仕事や環境を見出していく。成果こそを上げるためには、そんな試行錯誤が大事になってくるのではないかと考えます。

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取材・文:笠井貞子
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