キャリアアップとは?実現のためのステップと方法など

仕事を続けていると、「キャリアップはしたいけれど、どうすればいいのかわからない」「自分にとってのキャリアアップって何だろう」という悩みに直面することがあります。

キャリアアップを考えるヒントを、豊富なキャリアカウンセリング経験を持つSegurosの粟野友樹氏に教えてもらいました。

キャリアアップを積み上げるイメージ
Photo by Adobe Stock
粟野友樹氏組織人事コンサルティングSeguros
代表コンサルタント 粟野友樹氏
筑波大学大学院(野外教育)を修了後、人材業界等での営業やキャリアアドバイザーを約15年経験。
2018年にSeguros(組織人事コンサルティング)として独立。
延べ20社の社外人事としての中途・新卒採用支援や、
リクナビNEXT「転職成功ノウハウ」等の転職系記事の監修を担当。
Podcast番組「アワノトモキの読書の時間」運営。
国家資格キャリアコンサルタント。

Twitter@Tomoki_Awano FacebookPodcast

キャリアアップとは何か

キャリアアップの一般的な解釈は、より専門的な知識や高い能力を身につけ、経歴を高めて自分の市場価値を上げる、ということになるでしょう。

その先に実現したいことは、「年収を上げる」「より高度なスキルを身につける」「高い役職を得る」「社格を上げる(大手企業に転職する)」など、人によってさまざまです。

ですが、一般的にキャリアアップという言葉から連想されるこうしたイメージは、その活動が行政によって推進されてきたこともあり、企業のみならず教育機関においても掲げられることばです。

【参考】厚生労働省「(最新)令和2年度向けCUパンフレット」(PDF)

つまり現代では、特に若い世代の人々にとっては、世間や会社、学校から与えられた概念、といえます。

私は、そろそろこの自発的ではない“盲目的なキャリアアップ思考”からは脱却すべきではないかと考えています。

その理由は2つあります。

1つは、社会の変化に伴って企業も変化し、それに伴い個人に求められるスキルも変化していること。近年の働く環境は、世情の移り変わりによる変化が目まぐるしく起こっており、従来型では価値を見い出せないケースも見られます。

もう1つは、少子高齢化によって働く期間が長くなり、これまでのような60歳、65歳をゴールとするキャリアモデルが通用しなくなってきていること。私たちは、昨今よくいわれる、人生100年時代に突入しているのです。

30代・40代ぐらいまでは何とか昇進できても、いずれ自分より優秀な若手ライバルが出現してくる。そうすれば、数少ないポスト争いに半世紀近くも勝ち続けなければならない、ということになります。

こうした現実を考えても、「成長がすべて」「勝利こそすべて」式のキャリアアップ概念を見直す時期にきていると思うのです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

時代に合ったこれからのキャリアアップとは?

これから目指すべきは、「いまの自分の幸せや大事にしたいことを重視したキャリアアップ」だと私は考えています。

先にも述べたとおり、10年後や20年後、社会も企業も働く環境もどうなるかわからない中で、20代の若手社会人が10年後のありたい姿を描き、そこから逆算してキャリアプランを考えることはかなり難しくなっています。

きっちりとプランを立てても、状況が変化すれば思い描いた通りにはいきません。そうなったときの失望感、不平・不満は大きく、その後の自分の行き先を見失ってしまうこともありえます。

もちろん、計画的にキャリアを思い描くことは悪いことではありません。ただ、そこに単なる昇給や昇進といった条件にこだわり過ぎることなく、自分の幸せを中心に考えてみてほしいのです。

働く上での幸せとは、人それぞれですが、ひとつ例を挙げるなら「仕事をすること、そのこと自体を楽しむこと」です。

これは、今手掛けている仕事を「自分が達成したい大きな目的・目標(地位、年収など)」のためにしていると考えるのではなく、今、手掛ける仕事を大事にするという考え方です。

目の前の仕事の中から、自身の気づきや、周囲の人のつながりが生まれる。そこに価値がある、と考えることで自身の幸せとキャリアアップを両立できるでしょう。

よりうまくできる、より質の高いものを生み出せるといったことにも繋がるため、職人的な在り方といえるかもしれません。

このように、世間一般で言われているようなキャリアアップではなく、自分の幸せを追求することで、自分にとって理想のキャリアアップを実現できるでしょう。

ただし、そのような状態を維持していくには、環境の変化に応じてキャリアプランを柔軟に捉え直していく必要があります。

ライフステージや自身を取り巻く環境の変化が起これば、自分にとって大事にしたいことや価値観は変わってきます。そこからキャリアプランを切り離して考える必要はありません。折に触れ、人生という枠の中でキャリアプランを更新していきましょう。

これこそが、これからの時代に合ったキャリアアップの考え方だと私は思います。

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キャリアアップを実現させる基本の3ステップ

上記ではこれからのキャリアアップについての私見を述べましたが、まだまだ採用されていくであろう既存の概念や論の中には、いま自分のキャリアに正面から向き合うために活用できるものがあります。

ここからは、理想のキャリアアップを実現させる上で、もっとも一般的な方法を紹介しましょう。

Step 1. can(自分の経験スキル、できること)を洗い出す

最初のステップは、過去から現在までの棚卸しです。

これまでの経験スキル、人脈などを振り返り、モチベーショングラフなども活用して、注力してきた仕事、保有している資格、継続的に学んでいること、やりがいに感じたこと、影響を受けた人や書籍、転職や異動、昇進、仕事や顧客との出会い、転機となったこと、困難を感じたことなどを洗い出します。

この作業によって、自分が大切にしている価値観やどんなことを目指してキャリアを歩んできたのか、などが明らかになります。

Step 2. will(将来実現したい姿、理想像)を考える

次は、キャリアビジョンを考える作業です。キャリアビジョンは、プランを通じてこうありたい自分の最終形態、ともいえるでしょう。

Step 1.を実践する過程で浮かび上がってきた、大切にしたい価値観、仕事や会社などの環境が変わっても自分の中で変わらない人生のテーマなどから、キャリアビジョンを描いていきます。

3年後でも5年後でも10年後でもいいので、目標とする人などをイメージしながら、「こういうビジネスパーソンになりたい」「こういう働き方・生き方をしたい」「こんな立場になっていたい」を言語化するといいでしょう。

Step 3. must(実現のためにやるべきこと)を考える

最後は、現在の自分と理想像とのギャップを埋めるために、いま何をするべきかを考えます。

もし自己実現のために資格取得が必要と考えた場合は、おおよその必要学習時間や試験時期が決まっているので、明確にミッションを立てられるでしょう。

マネジメント経験や、同職種での経験値を増やす/深化させるなどの場合は、過去の経験や周囲の人の姿からイメージします。

ほかにもある!キャリアアップを実現させる方法

上に述べた方法をチャンレンジしていて、

  • 自分に合った水準がわからず、高いwillを記入してしまう
  • 抽象的になってしまう
  • can、will、mustを記入すること自体が目的になり行動に移れない

という状況に陥ったときのために、もっとシンプルな方法も紹介しておきます。

それは、「目の前のやるべきことに全力で向き合う、努力する、行動する」ことです。

そして、これまでの失敗も成功も含めて、経験の中で学んだことを自分なりに解釈して意味づけし、今後のキャリアや岐路での選択に生かしていくことです。

どんなに頑張っても成果が出ないことはありますし、挫折感を味わうこともあるでしょう。ですが、そのプロセスも無駄ではありません。自分を知るのに必要な経験だったと考えてください。

たとえ計画通りではなかったとしても、こうした経験が思いがけず次につながっていくものです。

もうひとつ、心に留めておいてほしいことがあります。

それは、理想だと思う仕事でも自分に適性がなかったりできないことは、ポジティブにあきらめること。

憧れと適性は別物です。自分がダメだったわけではなく、向いていなかっただけなのです。

未練を断ち切って何かを捨てると、何らかのタイミングで新しい仕事や人、チャンスと出会うことでしょう。

キャリアアップしたければ、まず行動する

自分主体のキャリアアップをあらためて考え、明らかにしてみたとき、「いまの会社ではキャリアアップできそうにない」と感じる人がいるかもしれません。

しかし、まずは今の会社でキャリアアップの道を探ってみましょう。

現場で行動を起こした上で自身のキャリアアップには繋がらないという結論に至れば、転職する、独立する、副業する、学ぶなどしてキャリアの選択肢を広げていく。これが、次のステップになります。

今の会社でキャリアアップする

最初にするべきことは、会社の人事制度(評価/報酬/等級)や人材開発の制度や方針(社内異動制度、社内ビジネスコンテストなど)の確認です。

社内の制度や仕組みを活用し、自分の評価や立ち位置を知ることで、自分の強みや弱み、今後目指す方向や目指すキャリアパスを実現するための道筋のヒントを得ることができるでしょう。

ポイントは、評価面談などで上司に自分のキャリアパスについての希望を伝えたり、相談をするなどして、方向性のすり合わせを行うこと。

そして、今の仕事で一定の成果を出すために、上長や人事担当者にアプローチする、研修などに参加する、積極的にリーダー経験を積む、部署内での企画運営を行うなど、自分なりのアクションを起こしましょう。

メリット・デメリット

メリットは、仕事や待遇などの環境の変化が少ないこと。ロールモデルやサポートなど社内の人的ネットワークを活用しながら、これまでの経験スキルをベースに、安定的・計画的なキャリアアップが可能です。

デメリットとしては、既存の仕事や役割を通じて、自分に対する周囲の評価などが固定化されていたり、先入観を持たれたりしていること。年功序列などのしがらみも考えられるので、短期間での大きな変化は期待できないでしょう。

副業でキャリアアップする

ここで言う副業は、高収入を得ることが目的ではなく、自分が得たい経験やスキルを得ることが目的です。加えて、自分の経験スキルを相対化することにもなります。

例えば、下記のようなケースです。

本業:人事で人事制度設計を担当
副業:大手企業の制度修正、スタートアップ企業でゼロから制度設計など
目的:自分の経験スキルを別の角度から判断することができる
本業:営業でマーケティング領域も勉強中
副業:組織人員が不足しているスタートアップベンチャーや地方企業企業で営業+マーケティングマネジメントなど
目的:現職ではすぐに得られない経験スキルを養うことができる

最近は企業側が副業を認めるケースが珍しくなくなり、副業斡旋サービスも増えています。中には副業マッチングに力を入れている地方自治体もあり、一度リサーチしてみるといいでしょう。

メリット・デメリット

メリットは、現職に軸足を置きながら副業を行うので、大きく環境を変えずに経験スキルの深化や挑戦ができること。副業での経験が現職に生かせる可能性、転職時の付加価値になる可能性も期待できます。

デメリットとしては、労働時間や体力的負担など、現職業務への影響が懸念されること。副業の内容によっては、アルバイトや請負業務のようなアウトソーシング要素が強くなり、経験スキルとしては中途半端で、小金稼ぎに終わってしまうかもしれません。

転職でキャリアアップする

転職活動は、自分に向き合う格好の場であり、自分なりのキャリアアップを考える機会としても有効です。

自分のキャリアを振り返って意味づけること、他者からの評価や見られ方を知ったり、多種多様な会社や仕事の存在を知ったりすることで、自分が向いていること/向かないこと、できること/できないことを認識できる好機といえます。

メリット・デメリット

メリットは、いまの自分が求める理想のキャリアアップに合わせて仕事内容や環境、待遇などを、短期間で大きく変えることができる可能性があること。

デメリットは、転職先が見つかるか、転職先に馴染めるかを含め、希望通りの転職ができるとは限らないこと。現職よりも成長がない、転職先のカルチャーに合わず活躍できない、などキャリアアップに適さない転職となることも考えられます。

また、現職と転職活動の両立は、時間的、体力的、精神的な負担もあるでしょう。

そのような状況に陥らないために、企業研究が必要になります。自分の希望とも照らし合わせ、入念なリサーチを行いましょう。

自分の心で決めることがキャリアアップの第一歩

繰り返しになりますが、ここまで述べてきたキャリアアップの方法はすべて、素の自分と向き合い、「自分の幸せ」「大事にしていること」とは何なのかを探り、キャリアアップの意味を自ら定義することから始める、というものです。

まずは、素の自分と向き合うために “ひとりぽつんといる状態”をつくることをおすすめします。

この方法は、これは日本でカウンセリングの分野を切り拓いたといわれる友田不二男氏による論(※)に依拠しているのですが、人は「ひとりぽつん」といるときに変化、成長をするもの、という考えに基づいたものです。

※参考:諸富祥彦『カール・ロジャーズ入門─自分が“自分”になるということ』コスモスライブラリー、1997年

もう少し具体的にいうと、人というものは、たとえ物理的に1人でいたとしても、内面ではいろいろな他者の声(上司は…、家族は…、大学時代の仲間は…など)が聞こえてしまう。自分がこうなりたいと思い描く理想の姿も実はその影響を受けたものになってしまう、という傾向があります。

そのような余計な声を排することで、自分と向き合うのにふさわしい環境になる、ということです。

自分自身に向き合うという意味では、自分の好きなことや趣味など、無心になって没頭できることを試してみるのもいいでしょう。方法は何であれ、他人から見た自分に捉われないところに身を置いて、自分に向き合ってみましょう。

自分のキャリアアップを考える上で、一般的な「キャリアアップ(年収、地位等の向上」という言葉のイメージに囚われたままでは、いかに時間をかけて練られた計画であっても、うまくいくのは一瞬です。

その一瞬は満足や達成感を得られますが、またすぐに自分自身がつくる影や、世間・他人から見た自分の影に踊らされ、「もっと偉くなりたい、他人より稼ぎたい」など、終わりのない苦行になりかねません。

そのような状況に陥らないためにも、世間一般でいわれるキャリアアップをいきなり試すのではなく、不確かで不安かもしれませんが、まずは自分自身の幸せな働き方や生き方を探っていってみてください。

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取材・文:笠井貞子
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