自分の市場価値とは?変化の時代に通用する3つのスキルと高め方

将来の予測が困難なVUCAと呼ばれる時代。これまでの常識ややり方が通用しなくなり、求められるスキルや経験の評価も変わりつつある。転職を考えている人はもちろん、今すぐに転職しようと考えていない人も、自分自身の「市場価値」を意識しておく必要がある。変化が激しい時代の市場価値とは何か。求められるスキルや価値の高め方とは。リクナビNEXTの藤井薫編集長が語る。

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市場価値のキーワードは、需給バランス・時間軸・空間軸

皆さんは、自分の市場価値について、考えたことはありますか?
人材における市場価値は、基本的には「需要と供給のバランス」で決まります。

需要サイドは企業。企業が求める経験やスキルなどの要件を満たせる人材の供給が少なければ、市場価値は高まります。供給サイドの量と質がポイントになるわけです。特定の経験や希少なスキルを持つ人材は、需要は高いけれど、供給は少ないので市場価値は高くなります。

一方で、市場価値を決める要素には、「時間軸」と「空間軸」も関係します。「時間軸」は業界が急いで必要とする人材です。需要者サイドがマーケットを拡大している業界が、急いで採用したいと求める人材の市場価値は上がりやすくなります。

「空間軸」とは、地域内で希少性がある人材。例えば、「〇〇県に〇〇〇のスキルや経験を持つ人が足りない」といった場合に市場価値が高まります。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

市場価値と自分の喜びが重なることが重要

働く人の多くは仕事のプロですが、転職活動のプロではありません。自分のプロフェッショナリティは市場の中でどのくらいのポジションにあるのか、需要バランスや時間軸・空間軸で考えてみましょう。

ただし大事なことは、市場価値が高い状態と、自分自身の喜びが重なることです。リクルートが5000人を対象に実施した「働く喜び調査」では、その共通項に「Clear(自覚)」「Choice(選択)」「Communication(コミュニケーション)」の3C構造(※図1)が見られました。

図1:「働く喜び」を生み出す3C構造

「働く喜び」を生み出す3C構造画像

「Clear」とは、自分の持ち味を自覚していること。「Choice」は、その持ち味を活かせる場所を選択していること。「Communication」は、持ち味に向かって上司や同僚と密にコミュニケーションし、相互期待が得られていること

大リーグの大谷翔平選手がいい例です。二刀流の選手になりたくて、エンゼルスという球団を選び、ファンや球団から大きな期待をもらい、自らも持ち味を活かして期待に応えている。市場価値が高いだけでなく、自分の持ち味が活かされた満足を得ることがとても大切なのです。

市場価値が高そうだからと興味もないのに無理矢理その領域に進んでも、自分の持ち味を活かせなければ、充実感は得にくいでしょう。例えば、魚なのに空を選んで、「もっと高く跳べ」と言われても辛い。選ぶべきは海であり、泳ぐこと。自分の持ち味に目を向けず、市場価値だけに目を向けることは避けたいものです。

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常に市場価値が高いと言われる3つのスキルとは

不確実性が高く、複雑で曖昧なVUCAの時代では、市場価値もどんどん変化します。今年人気が高かったタレントが、来年も人気があるどうかはわからないのと同じです。

また、専門スキルにおいてはこれだけやっておけば市場価値が上がる、というパターンも約束されていません。今、市場価値が高いからといって、それが未来永劫に続くわけではない、ということです。

ただし、市場価値の変化に強い人材の要件はあると思っています。いわゆるポータブルスキルです。特に汎用性のある「見立て力」「仕立て力」「動かす力」をご紹介していきましょう。

1.課題の分析、仮説の設定ができる「見立て力」

どんな変化の時代にも、物事を俯瞰して構造的に課題を特定する力は重要です。例えば、企業やサービスをデジタルで変革するDXはIT化自体が目的なのではなく、実はビジネスモデル変革であるということに気づけるか。

その本質的なポイントは、顧客体験の向上であることを認識しているか。こうした課題設定力やゴール設定力は、人によって圧倒的な差があります。

例えば、動画配信サービスであれば、カスタマーサクセスのために価格を下げるという発想だけではなく、どのシーンが最も観られているかを分析し、視聴者の没入感やドキドキ観などのエンゲージメントを高める仮説を構想できるプロもいる。これこそまさに「見立て力」のお手本でしょう。

2.課題解決のための設計ができる「仕立て力」

「仕立て力」は、特定した課題解決や構想した仮説を検証するために、どんなプロダクトやサービス、戦略を考えられる力です。プロトタイピング力、MVP(Minimum Viable Product)力といってもいいかもしれない。最小限で検証可能な仮説検証のテストプログラムを作る力です。

車をフルモデルチェンジするのに、粘土でモックアップを作っていたらゆうに半年はかかってしまう。でもVRと3DCADを使って2日で「こんなデザインでどうでしょう」と提案できる力を持つ人もいます。

しかも今は、一つの要素だけで何かを作ることは少なくありません。例えば、電気自動車にしても貿易、政治、法律、素材、電池そして、他の交通インフラやサービスとのシームレスな接続や社会的な習慣など、総合的なバリューチェーン・バリュージャーニーで仕立てを考えていかなければいけません。

専門知と別の専門知を新結合し、総合智としてワクワクとつなぐプロデュース力こそが、もっとも難易度が高く、変化の時代に価値の高い「仕立て力」といえるでしょう。

3.周りを巻き込み、協力を得る「動かす力」

「動かす力」は、人を巻き込んでいくスキルです。仕掛け力といってもいいし、上述したプロデュース力の大きな要素でもあります。巻き込むときに必要になるのが、パーパスやコンセプトです。人をワクワクさせる志や目標、目的があるからこそ、人は巻き込まれる。

パーパスやコンセプトに共感するからこそ、人は自発的に従来の制約や境界を越境して動いてくれる。お金だけで人は動いてはくれません。目的に向かって人を動かす力を持っているか。人の持ち味の組み合わせの妙を理解しているか。何かをやるには、動かす力が求められるのです。

「見立て」「仕掛け」「動かす」をすべて持っている人は、決して多くありません。「見立て」が上手な人もいれば、「仕立て」が上手な人、人を「動かす」のがうまい人もいる。

だから、それを自覚しておくこと。そして足りないものを磨いたり、仲間に補ってもらう姿勢を持つことも大事です。失敗しても構わない。変化の時代には、試して失敗して学び続けることが大事です。

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学び続け、成長し続けられる人が、市場価値を得る

今、世界のトップ経営者たちが、「クチネリに学べ」と注目する書籍の一冊に、ブルネロ・クチネリの『人間主義的経営』があります。クチネリは北イタリアにあるカシミアメーカーですが、技術を愛し、商品を愛し、職人を愛した人間的な経営をし、サステナブルにカシミアを作ることに成功しています。世界全体が加速度的に変化しているときに、あえて自然と人間の尊厳・夢・志を尊重する企業が注目されているのです。

例えば、DXは何のためにあるのか。この問いに対し、世界は「CX(カスタマーエクスペリエンス、カスタマートランスフォーメーション)のためであり、SX(サステナブル・トランスフォーメーション)のためである」と、語っています。カスタマーサクセスと持続的な成長を実現するためにこそDXはあるということです。

しかし、CXとSXを実現させるものは何かといえば、CX(コーポレイト・トランスフォーメーション)です。今、求められているのは、企業の事業のあり方自体を変えることなのです。

シンガポールのDBS銀行は、顧客体験をデジタルによって圧倒的に変えて、世界バンクアワードの1位になりました。ところが日本では、何のためにDXをやっているのか、わからない企業が多い。問われているのは、「何のために」という本質から考えることです。CXのためにこそ、DXはある。顧客体験を良くし、顧客の未来への良き転換を支援することにDXを使う。こうした大きな視点が不可欠です。

不確実な社会とは、熱しやすく飽きやすい社会です。コンビニのスイーツ棚は、2週間で入れ替わることもある。あっという間にコモディティ化してしまう。それを、デジタルを使って、どうサステナブルにしていくか。

そして同様に、すべての職業スキルも、コモディティ化の圧力を受けていきます。そうならないために必要なのは、学び続けることです。かつてシリコンバレーの著名な創業者は、イソップ物語のウサギとカメでいえば、「怠けないウサギが欲しい」と語っています。学び続けることが、極めて大事だからです。

また別の巨大ITプラットフォーマーのCEOは、企業のトランスフォーメーションを推進するため、「達成者ではなく、学べる人を採れ」と人事に伝えたそうです。過去の業績の達成だけではなく、未来に向かって学び続けられる人こそが高い市場価値を持つということです。

それこそ「十分に実績を上げてきたから」と過去の栄光にひたり、もう新しいことは学ぶ必要がないと考えてしまう人は、これから市場価値を高めていくことは難しいと思います。

自分の市場価値を測るための方法

自分の市場価値を測る際に重要なのは、「他流試合」を意識することです。社内だけではなく、業種・業界・職種を超えたコミュニケーションによって、自分の知識やスキルの高さを把握することができます。また、これまで意識していなかった意外な市場価値があることに気づくことがあります。

また、市場価値を測る具体的な方法としては、副業をする、SNSの活用、求人情報をチェックするなどが挙げられます。具体的な事例とともに解説していきましょう。

副業をする

副業を始めることで、自分の強みを新たに認識できる場合もあります。例えば、作業計画と実績のズレを確認し、適切な対処を行う進捗管理の仕事をしている人がベンチャーで副業を始めたら、「そのスキル、ITプロジェクトのマネジメントに絶対に重宝されますよ」と言われ、プロジェクトマネージャーの仕事をするようになったそうです。

SNSを活用する

SNSでの発信も有効です。自分の持ち味や成果を発信すると、レスポンスが得られたりする。これは、仕事に限らず、趣味でもそうです。マンガが好きで、SNSを通じてその知識の高さを発信していたことで、マンガ関連の仕事に繋がった人もいます。周囲から見れば、意外に高い評価を持っていることがあるのです。しかし、知られていなければ、評価しようがありません。

求人情報をチェックする

転職サイトで興味のある求人情報を定期的に見ることも意味を持ちます。関心ある業界の求人を見続けていると、意外な関連情報が出てきて、自分が気づかなかった選択軸・関心軸に気づく可能性もあります。

例えば、ITコンサルティング会社を探していたら、成長著しい野菜問屋が立ち上げた新規事業のDX求人に出会うことになるかもしれません。

求人情報を見るときに注意したいのは、社名のイメージにとらわれ過ぎないこと。とりわけ大手企業の場合には、様々な事業を展開しています。ある事業部では価値を評価してもらえなかったけれど、別事業部では高く評価されることもある。社内における空間軸の違いです。

実際、会社はどんどん変化していくもの。社名だけで判断せず、事業の内容、プロジェクトの内容など、高い粒度で見ていきましょう。

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市場価値を高めるために、20代、30代ですべきこと

では、市場価値はどう高めればいいのでしょうか。必要なことは、常に市場と対話し続けることです。それが、高いところに自分のポジションを置くヒントです。自分自身は、どんなポジションに位置されるのか、理解し続けること。

データの世界でよく言われる4つのサイクルを、私は「SSCCサイクル」(※図2)と呼んでいます。「見える(See)」「わかる(See)」「できる(Can)」「かわる(Change)」の略です。見えるとわかる。わかるとできる、できると変わる。これは、人材の市場価値でも同じです。

まずは、自分の市場価値をまず可視化すること。自分のポジションや価値がわかると、次にやるべきことに気づく。実際にできるようになると、自分自身のキャリアも変わっていく。変わると、さらに新しい可能性が見えてくる…。市場といろんな形で対話し、他流試合をすることで手に入れられるサイクルです。

図2:市場価値を高めるための「SSCCサイクル」

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20代は「見立て」「仕立て」スキルを磨く

20代は、既存のルールや上司の指示に対して従順にならざる得ないことも多いでしょう。そこでお勧めしたいのは、全仕事の5~20%くらいを目安に、社内の指揮命令系統ではない領域の仕事に挑んでみることです。心のコンパスが動くところを見つけて、常にやり続ける。誰にも言われないけれど、自分の持ち味だと思える仕事をしてみる。

そのためにも、既存事業で「見立て」「仕立て」を意識してみましょう。課題特定力を磨いていけば、今の仕事の生産性を高められるかもしれない。そうなれば、生まれた余白の5~20%で、もっと持ち味を活かせる新しい挑戦ができるようになるでしょう。

30代は「動かす力」を磨く

30代は、経験を積み、自分自身で意思決定権を持てるようになった人も多いと思います。個人のスキルを研鑽するのはもちろん、チームビルディングする力と、意思決定してヒト・モノ・カネを動かす力を意識して磨いていくようにしましょう。また、既存事業を最大化するだけでなく、ちょっと違った観点で変化を起こしていくことも意識してみるといいでしょう。

上長に言われてきたことをやるだけではなく、自分で考えて動いてみる。自分で意思決定して、売上と利益、短期と長期、スピードと品質など多様な要素の対立、コンフリクトの中で、覚悟を持ってリソースを動かす。チームビルディングして、トライ&エラーをやってみる。

新しい取り組みは、転職の面接でもよく問われることです。目立たない事業であったとしても、変化を起こした経験を持っていれば、間違いなく自分をアピールすることができます。こうした取り組みも、市場価値を高めることができるでしょう。

自分の価値をどう世の中で役立てるかを考える

キャリアや市場価値を考えるときには、企業と個人という二項型の考え方になりがち、というところにも注意が必要です。今の時代はもっともっと視点を高めていくことが大切になると考えています。

例えば、この世界をもっと良くすること。サステナブルに地域社会に貢献すること。自分だけの給料を上げるためでなく、どう世の中に役に立てるか、という視点で自分の価値を考えてみる。世界や地域社会をより良く変えていくために、何が必要になるのかを意識してみる。

「自利利他」(※自らの修行により得た功徳を、自分だけではなく、他のためにも利益をはかること)という言葉があります。ただ、他を利することだけを考えていては、サステナブルは難しいのです。

だから、自分も利して他者も利する、と考えてみる。これは「大我」につながります。自分のことだけを考えるのは、「小我」。これは古い時代の価値です。これからは、未来に向かった市場価値を、ぜひ考えていってほしいと思います。

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<プロフィール>

株式会社リクルート
HR統括編集長 藤井 薫

『リクナビNEXT』編集長 藤井 薫1988年にリクルート入社後、人材事業の企画とメディアプロデュースに従事し、TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長などを歴任する。2007年からリクルート経営コンピタンス研究所に携わり、14年からリクルートワークス研究所Works兼務。2016年4月、リクナビNEXT編集長就任。2019年4月、HR統括編集長就任。リクルート経営コンピタンス研究所兼務。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)。

取材・文:上阪徹  編集:馬場美由紀
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