AIの「先生」としてシルバー人材を活用、新たな雇用を生み出す――「GOOD ACTION アワード」受賞・株式会社ライトカフェ

Webサイトやシステム構築のトータルソリューションを提供する株式会社ライトカフェ(従業員数約180名)では、AIアノテーションというITスキルが必要とされる業務に、現在60代のシルバー人材が従事(12名、2021年3月19日時点)。「AI×シルバー人材」を実現しています。

その取り組みは、リクナビNEXT主催の「第7回 GOOD ACTION アワード」(※)を受賞するきっかけともなりました。今回は、代表取締役の榊原喜成さんに、成果や今後の展望などを詳しくうかがいました。

※「働く個人が主人公となり、イキイキと働ける職場を創る」。2014年度から始まった「GOOD ACTION アワード」は、そんな職場での取り組みに光を当てて応援する取り組みです。

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▲株式会社ライトカフェ 代表取締役 榊原喜成さん

AIに正しい日本語を伝える「先生」としてシルバー人材が活躍

――沖縄の拠点を始め、青森や札幌、福島などにサテライトオフィスを開設するなど、積極的に地方展開されていますね。

榊原 きっかけとなったのは、青森県八戸市へのサテライトオフィス開設です。ある社員が家庭の事情で地元の八戸に戻らねばならなくなり、離職を検討していたのですが、非常に優秀な人材で、会社としてはぜひ残ってほしかった。

そこで、以前から人材確保に課題感を覚え、当社発信で新たな雇用機会を創出したいという思いを持っていたこともあり、八戸へのサテライトオフィス設置を決めました。

この事例をもとに、現在「応募者先行型」、つまり希望者が手を挙げるという形で各地方にサテライトオフィスを積極的に展開し、その地域での人材確保、雇用創出を実現しています。

――今回のAI×シルバー人材の取り組みは、青森・八戸のサテライトオフィスによるものだと伺っています。「日本語AIアノテーション」という、AIに正しい日本語を教える業務をシルバー人材に任せようと思われたきっかけは何ですか?

榊原 AIの精度を高める学習方法の一つとして「機械学習」があります。目的に沿った正しい情報を学習させるためには「教師データ」という正解データ、つまり先生の答えや解説が重要になりますが、その教師データに関連する情報タグを付加していくことを「アノテーション」と言います。いわば、AIに正しい日本語を教える「先生」のような業務です。

このアノテーションの精度が低ければ教師データの精度が下がり、AIの精度にも大きな影響を及ぼすため、非常に重要な業務です。

当社ではこれまで、ベトナムで日本語AIアノテーション業務を行っていましたが、この業務のニーズが増えるにつれ現地の日本語人材では対応しきれなくなり、新たな体制づくりが急務となっていました。

八戸のサテライトオフィスと、八戸市シルバー人材センターは以前から交流があり、「青森は真面目な県民性、といわれることもあるように、一つの業務に腰を据えて根気強く取り組む人が多い」とうかがっていました。

そこから、「シルバー人材の中には語彙力が豊富で、今ではあまり使われないような日本語まで知っている人も少なくない。パソコン操作さえできれば、アノテーション業務もお任せできるのではないか?」と考えました。

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真面目に根気強く取り組む姿勢が、アノテーション業務と合致

――重要なIT業務をシルバー人材に任せることに懸念はありませんでしたか?また、シルバー人材センター側の反応はいかがでしたか?

榊原 「アノテーション業務をシルバー人材に!」と思いついたものの、本当にできるだろうか…という若干の懸念があったのは事実です。シルバー人材センター側も、前例がない仕事であり、希望者が集まるかどうか不安だったようです。

ただ、何ごともやってみなければわかりません。シルバーの方々がこの仕事に真面目に取り組んでくだされば成功する可能性は高いと信じ、実行に踏み切りました。

そもそも、IT業界では未だ、シルバー人材の活躍の場をほとんど創出できていないのが現状。地方での雇用創出だけでなく、シルバー人材の雇用も自ら生み出していきたいという思いがあり、八戸市シルバー人材センター側で応募を募っていただいたところ、6名もの方が応じてくれました。

そして2020年3月に業務スタート。本当は、導入研修は直接顔を合わせて行いたいと考えていましたが、コロナ禍でそれが叶わず、東京側の運用チームと青森側のシルバー世代の方々を遠隔ツールで繋いでの、オンラインレクチャーとなりました。

AIとは何か、アノテーションとは何かという解説から、実際の作業説明まですべて遠隔(オンライン)でとなると、抵抗感を覚える人もいるのでは?と懸念しましたが、それはまったくの杞憂で、すぐに飲み込んでいただけましたね。

アノテーション業務はどうしても単調な作業になりやすい面がありますが、皆さんすぐに仕事を覚え、現在も真面目に根気強く取り組んでくださっています。

――業務を開始してもうすぐ1年、今に至るまでに壁にぶつかったり、思わぬ課題に直面したりしたことはありますか?

榊原 全くありませんでした。それどころか、この1年を改めて振り返って、「メリットしかなかった」とすら感じています。

シルバー人材の皆さんは、基本的にはサテライトオフィスで業務を行っています。シルバー同士で教え合い、相談し合いながら進めていただくようにしたことで、仕事への理解だけでなくチームワーク、一体感なども醸成できました。

昨年の秋以降はテレワークも取り入れていますが、常時TV会議システムをつなぎ、いつでも話しかけられる環境を作っています。

成果物については社員がチェックしますが、勤務態度や仕事に対するスタンスを指導する必要はなく、マネジメント負荷はほぼありません。「仕事が楽しい」「夢中でやっていて、気づいたら終業時間だった」との声をいただけるのが嬉しく、我々も刺激を受けています。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

地方展開の積極化とシルバー向け業務の拡大で、新たな雇用を創出したい

株式会社ライトカフェ代表取締役の榊原さん

――今回の取り組みを経て、会社の中で何か変化したことはありますか?

榊原 一連の取り組みは定期的に社内広報しているのですが、そこから伝わるシルバーの皆さんの働きぶりが、社内にいい影響を与えてくれていると感じます。皆さんの頑張りに関心を持ち、応援している社員が多い。

また、シルバー人材にも十分IT業務をお任せできるということがわかったのは会社としても大きな収穫でした。今後は、日本語アノテーション以外にもお願いできる業務の幅を広げ、シルバー人材の雇用をさらに生み出したいと思っています。

例えばですが、青森県では農業人口の減少という問題に直面しています。そこで収穫時期をAIで判断するなど、アグリロボティクスを取り入れることが課題解決につながると見込まれます。その際、農業に従事した経験のあるシルバー人材に、業務の一部に携わっていただく…などが考えられます。

すでに存在する業務をお任せするだけでなく、シルバー人材の方向けの業務を我々が開拓していくことも必要だと感じています。

今回の取り組みを受け、「地元に帰って働く」という働き方を希望する社員がさらに増えていくでしょう。

当社としては、地方でのIT人材確保につながるうえ土地勘のある社員のもとサテライトオフィスを展開でき、そして社員にとっては会社を辞めずに地元で活躍できる、という双方のメリットがあるので、この動きをさらに加速させたいと思っています。

そして、ゆくゆくは各地のサテライトオフィスで、シルバー人材の雇用拡大にも注力したいですね。「地域の課題解決×シルバー人材」という取り組み事例を、着実に増やしていきたいと考えています。

リクナビNEXT主催「GOOD ACTION」公式サイト

ライター:伊藤理子 写真:平山諭
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