1990年代半ばから2000年代前半に生まれた若年層、いわゆる「Z世代」と呼ばれる若年層が、社会で働き始めています。世代・トレンド評論家の牛窪恵さんは、物心ついた頃から厳しい社会情勢にさらされてきた今の10代、20代には「不況免疫」があると言います。著書『若者たちのニューノーマル~Z世代、コロナ禍を生きる』(日経BP)で、Z世代130 人に独自アンケート&オンライン取材を実施した牛窪恵さんに、「Z世代のリアルな仕事観や働き方」について、お話いただきました。
世代・トレンド評論家・マーケティングライター 牛窪 恵さん
インフィニティ代表取締役。立教大学大学院・ビジネスデザイン研究科客員教授。修士(MBA/経営管理学)。日本マーケティング学会会員、同志社大学・創造経済研究センター 「ビッグデータ解析研究会」部員。財務省 財政制度等審議会専門委員。内閣府「経済財政諮問会議」政策コメンテーター。日経新聞および日経MJ広告賞選考委員。
新著『若者たちのニューノーマル~Z世代、コロナ禍を生きる』(⇒)をはじめ、「おひとりさま(マーケット)」「草食系(男子)」など、トレンド、マーケティング関連の著書多数。NHK総合『所さん!大変ですよ』、フジテレビ系『ホンマでっか!?TV』、日本テレビ系『ウェークアップ! ぷらす』ほか、テレビのコメンテーターとしても活躍している。
目次
「不況免疫」があるZ世代の特徴とは?
Z世代の定義には諸説ありますが、『若者たちのニューノーマル~Z世代、コロナ禍を生きる』(⇒)では「Z世代」は1993年~2004年に生まれた16~27歳(2020年時点)と定義しています。
Z世代の「Z」の語源はアルファベットのZから来ているもので、アメリカのマーケティングの世界で、おもに1970年代生まれを「X世代」、おもに1980年代~90年代前半生まれを「Y世代」、その次が「Z世代」に分類されます。
日本では一般に、1980年代後半~90年代後半ぐらいの生まれが「ゆとり世代」で、「Z世代」と少し重なっていると言われます。現在、おもに20代半ば~30代前半の「ゆとり世代」は、子どもの頃からガラケーやインターネットに親しんでいたデジタルネイティブですが、「Z世代」は小・中学生の頃からLINEなどのSNSを楽しんできた人たちです。
1990年代半ば以降に生まれたZ世代にとって、世の中は不況、災害、テロ続きでした。1995年の阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件に始まり、2001年のアメリカ同時多発テロ事件、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、そして2020年の新型コロナウイルスといった、大きな社会情勢の変化にさらされています。
こうした社会の中で生きてきたZ世代は、「自分もいつ大きな事件や災害に見舞われるかわからない」と心の片隅で常に思いながら暮らしています。
消費についても特徴的です。車や家は「レンタルでいい」と考える「ゆとり世代」対し、Z世代は「将来的に財産になるから、持っておいたほうが安心だ」と考える傾向があります。家や車を購入することを、将来の基盤を築くための財産だと捉えている人も多いのです。
「コミュ力(りょく)」を周りのために使うZ世代
小・中学生時代から環境教育やボランティア教育を受けてきたZ世代は、どうすれば社会のために役に立てるかという「社会貢献」に敏感です。誰かの役に立ちたいという意識が強く、SNSも単なる「映え(ばえ)」の手段ではありません。
誰かを元気づけたり、癒やしたりするためにSNSで画像をシェアすることが多く、社会や周りへの貢献意欲が強いのが特徴です。
こうした意識は働き方や仕事観にもはっきり現れています。自分だけ評価されたり、自分だけ昇進したりしたいとは思わず、「自分の存在がどう社会の役に立つか」「みんなと喜びをシェアしながら働きたい」と思う人が増えています。
氷河期の荒波にさらされた「団塊ジュニア世代」両親の影響
こうしたZ世代の仕事観は、両親の影響も大きく受けていると考えられます。Z世代の両親は、おもに「団塊ジュニア世代」にあたる40代後半~50代前半です。
団塊ジュニアはバブル崩壊後の不況期に就職氷河期を経験し、大企業の倒産や終身雇用の崩壊を目の当たりにしています。運良く就職できても、同世代の人口が多いため組織内での競争が激しく、昇進・昇給に苦労しながらなんとか生き抜いてきた人たちが多いのです。
団塊ジュニア世代の両親を見て育ったZ世代は、親と共に就活する割合が高く、その影響もあり、大手企業への就職や公務員になりたいという安定志向が強い。一方で、企業規模に関わらず、IT系など次世代に必要なスキルや経験が積める業界への就職を望む「成長志向」が強い様子も見てとれます。
ただし、Z世代は会社に対して過度な期待をしません。いつ会社がなくなるか、自分が見捨てられるかという強い危機感を抱いており、スキルを磨き続けなければ食べていけなくなる可能性も考えています。その一方で、中国やアメリカの若者のように、自身の技術やスキルだけでのし上がってやろうという野心はそれほどありません。
参考:リクルートキャリア 就職みらい研究所 就職プロセス調査(2020年卒)
「二刀流」でリスクヘッジ Z世代の仕事観
彼らの仕事観を知る上で、重要なキーワードは「二刀流」。「仕事」と「結婚・出産(育児)」、「仕事」と「趣味(プライベート)」を両立させ、ワークライフバランスを大切にすることが当たり前だと考えています。
女性の場合、学生時代から出産・育児に関する知識が豊富で、就職活動ではワークライフバランスを叶えられる企業を選ぶ傾向が強くなっています。今回行ったオンライン取材では、高齢出産は母子ともにリスクがあることを認知し、学生時代から卵子凍結で不妊に備えようと考える学生も数人いました。
一方、男性の場合も結婚して子どもができたら育児休暇を取り、育児を担いたいという声が多く聞こえてきました。その背景には、メディアやSNSで「イクメン」がフューチャーされたことや、大学のキャリアセンターが行ってきたキャリア教育の影響もあるようです。
「二刀流」を実現するために、あえて第一志望の企業には行かないという学生も増えています。仕事がハードな人気企業より、ワークライフバランスを実現できる第二志望、第三志望の会社に就職するのです。あるいは、本当は営業やクリエイティブなど希望する職種があるのに、「二刀流」を叶えるためあえてバックオフィスの仕事を選ぶ傾向も強まっています。
「副業」「ジョブ型雇用」でスキルを磨く
Z世代にとっては「副業」も「二刀流」の一種です。景気や会社の業績が悪化したときのために、未来の可能性を増やしておきたい、ひとつでも多くの選択肢を残しておきたいと考えているのです。
ある調査によれば、「副業」をしたいと考える20代男女は約7割弱に上るといいます(※)。Z世代が「副業」する目的は、収入を増やすことだけではありません。多面的にスキルを磨くことを、会社や社会に「何かあったとき」のリスクヘッジと捉えています。
※リクルートキャリアの兼業・副業に関する動向調査(2020)でも、20代・30代の若手層が、兼業・副業に高い関心を示している。(⇒)
「ジョブ型雇用」を求めるZ世代も増えています。「ジョブ」と呼べるスキルを日々身につけることが必要不可欠と考えているからです。これまでの日本企業に多いジョブローテーション型のキャリア形成では、短期間で部署異動することになり、スキルが蓄積されにくい。リモートワークが浸透する中、勤務地を選べない地方転勤も嫌がります。
その会社で働いている先輩社員がどのようなスキルを身につけ、どのようなキャリアを描いているのか、SNSを駆使したリアルな情報収集に余念がない学生も多いですね。
起業する若者も増えていますが、かつての「ヒルズ族」のように有名になりたいとか、稼ぎまくりたいと思っているわけではありません。既存の仕事や業種の枠にはやりたいことがないと感じ、起業して枠を取り払い、自分流のスタイルで自己実現を果たしたいと考えています。
あるいはより良い社会にしたい、好きな仲間と働きたいということもモチベーションとなり、複数の小規模企業を起業するZ世代も増えています。
会社への帰属意識が薄く、転職は当たり前という意識
Z世代は、会社にしがみつくような帰属意識は希薄です。目指す社会を実現したい、仲間と楽しく働きたいという志向が強く、目立って上司に気に入られたいとか、同期を出し抜いて昇進・昇給したいという志向はほとんどありません。
トップダウン型のマネジメントで仕事を詰め込み、社員を会社に縛りつける昭和型の企業は、そもそも就職活動の段階で敬遠されてしまいます。最初からその後の転職も想定して企業選びをしているとも言えます。
これからは、Z世代を受け入れる側の企業も変わる必要があります。業務プロセスが孤立し、情報が連携されないサイロ化された組織構造を改め、業務効率や全体の効率を再定義したり、部署横断型の組織変革を起こしたりすることで、昭和型の組織から脱却しなければなりません。
「1on1ミーティング」や「雑談タイム」で仕事での悩みや相談を聞いたり、プライベートでの関心事を知ろうとしたりと、丁寧なコミュニケーションを心がけ、お互いの理解を深めることも有効です。
これまではヒエラルキーに則り、年功序列の縦割り型組織でもなんとか企業運営ができていました。しかしコロナ禍でM&Aがこれまで以上に急激に進み、DX(デジタルトランスフォーメーション)も加速する一方です。
労働人口が減り続ける中、Z世代が活躍できる企業へと転換しなければ人手不足に陥り、企業経営に支障をきたすこともあるのではないでしょうか。
Afterコロナ経済再生のヒントはZ世代にあり
Z世代の価値観は多様であり、ライフスタイルや主義・志向を重んじます。とはいえ、大人が若者の考え方に阿ってサービスやビジネスを作ればいいというわけではありません。
これまでも述べた通り、若者たちの行動を観察し、対話することで、時代に何が求められているのかを敏感に察知することが得策です。政府もいま、副業やワークシェア、人材シェアリングなど、多様な働き方を推進しようとしています。afterコロナにおける経済再生のヒントも、ニューノーマルな若年層の価値観を細やかにウォッチすることで、見えてくるはずです。