あくせく働くのではなくもっと楽な生き方がしたい。こんな考えはアリですか?【シゴト悩み相談室】

キャリアの構築過程においては体力的にもメンタル的にもタフな場面が多く、悩みや不安を一人で抱えてしまう人も多いようです。そんな若手ビジネスパーソンのお悩みを、人事歴20年、心理学にも明るい曽和利光さんが、温かくも厳しく受け止めます!今回は、気楽にマイペースで働きたいという29歳男性からのお悩みです。

曽和利光さんメインカット曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。最新刊『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)も好評。

これまで昼夜なく働いてきたが…これからはマイペースでいきたい

 

<相談内容>
CASE50:「バリバリ働くのを止めて楽に生きるには?」(29歳・IT関連会社勤務)

30歳を目前に、これからはあくせく毎日働くのではなく、「楽な生き方」を目指したいと思っています。

うちの会社は成果主義で、頑張れば頑張った分給与が跳ね上がります。私も「早く成長してキャリアを積み、稼げるようになりたい」とこの会社を志し、昼夜なく働きトップクラスの営業成績を収めてきました。

しかしコロナ禍で在宅勤務が増え、業務負荷が減少。顧客とのやりとりはリモートになり、毎日のように入っていた会議も大幅に減りました。

急にマイペースで働けるようになったことで「仕事観」が徐々に変化、今までの反動からか、バリバリ働いて高給を稼ぐことに魅力を感じなくなり、もっと気楽に働きたいと考えるようになりました。

会社は私に対し、今まで通り営業部門をけん引する働きを求めていると思いますが、給与はそこそこでいいので、ストレスなく働きたいと思っています。理想は今のタモリさん。いつかは好きな仕事だけをマイペースでやれるようになれれば…なんて考えたりもします。ただ同期は皆、「役職者への昇進も見えている今が頑張りどころだろう」というのですが…。私のような考え方は、アリなのでしょうか?そして、楽な生き方を実現するには、どんな方法を取ればいいのでしょうか?(営業職)

 

楽な生き方を選択するのはアリだが、サステナブルとは言えない

曽和利光さんインタビューカット

コロナ禍で、半ば強制的にバーンアウトさせられたような状態ですね。
「バリバリ働くのは止め、気楽に生きたい」という考え方は、ありかなしかと言われれば「あり」だとは思います。

ただ、今の時世や相談者の置かれた状況を考えると、気楽に生きるのはもう少し先の目標にしたほうが良さそうです。

我々を取り巻く環境は決して明るくはありません。以前もご紹介しましたが、国税庁の民間給与実態統計調査によると、1997年には467.3万円だった日本人の平均給与は2019年時点で436.4万円に減少しています。2020年は新型コロナウイルスの影響が大きく、さらに下がると見られています。

あなたに「営業部門をけん引する働きを求めている」会社において、生活をがらりと変え気楽に働くには、数字で評価されず残業がない部門への異動願いが必要になるでしょう。そうすれば気楽に働くのは可能だと思いますが、それがサステナブルかどうかと言われると疑問です。

異動先の仕事が合わない、勤務時間の減少で給与が下がったのが予想以上にしんどい…などの理由で「やっぱり前の生活に戻りたい」と思っても、ブランクが空けば同じ環境に戻るのは難しいもの。相談者は29歳、ビジネスパーソンとして脂が乗り、能力開発の効果が出やすい時期に立ち止まってしまうのは、あまりお勧めできません。

実業家であり詩人のサミュエル・ウルマンは、「青春」という詩の冒頭で、「青春は人生のある時期を言うのではなく、心の持ち方を言うのだ」と綴っていますが、能力開発においてはそんなことはありません。人は例外なく老化するものであり、能力開発できる時期には限りがあります。相談者の覚悟のほどはわかりませんが、その時機を逃してしまうのはあまりにもったいない気がします。

 

もうひと頑張りして「処理の自動化」を目指せば、今の仕事も楽になる

曽和利光さんインタビューカット

「楽な生き方をしたくなった」ということは、相談者はおそらく営業としてバリバリ働くことがしんどかったのでしょう。
「もう十分やり切った感」があるのかもしれませんが、残念ながらしんどさを感じている時点ではまだ、営業としての能力は身に付いていない状態にあります。

人は、一つのことを何度も繰り返すことで能力を身に付けることができます。心理学用語で「処理の自動化」と言いますが、無意識でも自動的に物事ができる状態が「能力が身についている」状態です。従って「しんどい」と感じているということは、無意識の域に達していないということになります。

私は32歳の時に大手企業の採用責任者になり、毎年4~5月には新卒採用のため1日10人以上の面接を毎日ぶっ続けで行っていました。この期間だけで約600もの面接をこなしていた計算になりますが、その時点ですでに「処理の自動化」ができていたので全然辛くありませんでした。「このタイプにはこの質問」「こういう答えが返ってきたらこう掘り下げる」などが考えることなく自然にできるので、精神エネルギーを消費しなくて済むのです。

もちろん、決して適当にやっていたわけではありません。それまで何度も何度も、努力と工夫、失敗や苦労を重ねてきたからこそ処理の自動化に達し、コンフォートゾーン(快適な空間)に入ることができたのです。コンフォートゾーンに入ってしまえば、本当に楽です。私はこの時点で「採用面接に関する能力開発」は完全に終え、この分野に限って言えば今まで20年間、苦労せずやってこられました。

なお、能力開発の観点から言えば、能力が身につきコンフォートゾーンに入ったら、そこに安住してしまうのではなく、新しい領域にチャレンジしたり転職したりするなど、次の艱難辛苦を与えてくれる環境に移ることがビジネスパーソンとしての成長につながります。

本当に楽な生き方をしたいのであれば、これを逆手に取るのです。すなわち「今の仕事でもうひと頑張りしてコンフォートゾーンに入る。そしてそのままコンフォートゾーンに居続ける」という選択肢です。営業の能力が完全に備わり自動化できるまでになれば、相談者にとって今の仕事が自分にとって最も「楽な仕事」になります。このほうが能力開発の意味でも、今後不透明な世の中を生きていくうえでも、いい選択と言えるのではないでしょうか。

これはあくまで余談ですが…相談者が営業としてもうひと頑張りして、コンフォートゾーンに達したら、その頃にはもしかしたら「営業の仕事は楽にできるようになったから、もう一段上を目指してみたい」という志向に変わっているかもしれません。もしもそうなったら、同期が言うように「役職者への昇進コース」に乗ってしまいましょう。役職者になれば、転職活動の際に「役職者の転職市場」に入ることができ、給与アップのチャンスが広がります。今よりもっと先の話にはなりますが、ある程度の地位と給与水準を得ることで「今よりもっと楽に生きる」が実現できるかもしれません。

相談者の理想は「今のタモリ」とのこと。彼だって「平日の昼に8000回以上、32年間にわたりレギュラー番組を仕切る」というものすごい努力をしてきたからこそ、今、自分のしたい仕事ができているのです。本当に彼のようになりたいのであれば、コロナ禍でも「もうひと頑張り」を検討してみてください。

 

アドバイスまとめ

 

楽な生き方へのチェンジはいつでもできる。
能力開発ができる間にもうひと頑張りして
「処理の自動化」を目指したほうが将来的にも安心

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EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:刑部友康

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