仕事の不安は解消できる?不安のタイプと対処のポイント

仕事をしていると、不安な感情を抱くシーンは何度もあります。

「ミスなく仕事をこなせているだろうか…」「もしかして、先輩や上司に嫌われている?」「このままでは目標を達成できないかもしれない」「責任ある仕事を任されたが自信がない」など、不安の原因や理由は人それぞれ。しかし、忙しく日々の仕事に追われているとなかなか対処法が見つけられずに、モヤモヤとした気持ちを抱えている方も多いようです。

この不安の正体は何であり、私たちはどう向き合っていけばよいでしょうか。今回は、人事・戦略コンサルタントでHRストラテジー代表の松本利明さんに、ビジネスパーソンが仕事で抱く不安とその対処法をうかがいました。

プロフィール

松本利明さん_プロフィール画像松本利明(まつもと・としあき)さん

人事・戦略コンサルタント。HRストラテジー代表。HR総研客員研究員。PwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の企業600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人のリストラと6500名以上のリーダーの選抜と育成に関わった「人の目利き」。最近は「誰もが自分らしく活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、ビジネスパーソンに教え、5000名以上への個別アドバイスをライフワークとして提供し、好評を得ている。『「いつでも転職できる」を武器にする』(KADOKAWA)、『「ラクして速い」が一番すごい』(ダイヤモンド社)、「稼げる人稼げない人の習慣」(日経ビジネス人文庫)などベストセラー多数。英国BBC、TBS、日経新聞社など、メディア実績多数。

不安の正体は「妄想」。消すことはできないが、軽くできる

日々の仕事に追われている中では、すぐに解決しにくいようなモヤモヤとした不安に、多くのビジネスパーソンが悩まされています。
不安の正体は「妄想」です。つまり、気にかかることについて頭の中で先回りをし、自分で作ってしまった悲観的なストーリーが不安なのです。例えば「先輩に嫌われていたらどうしよう」「上司がこわくて聞けないことがある」などの不安は、どちらも確固とした根拠がなければ、単なる自分の思い込みかもしれません。いつも怖そうに見える上司も、別に怒っている訳ではない場合も多いですし、腹を割って話せば「案外いい人だった」ということは、日常的にあることです。

一方で、仕事に対して責任感を持って取り組んでいれば、気がかりなことも増えますから、「妄想のタネ」となる不安は尽きないかもしれません。これはもちろん、著名人や社会的に成功している人でも同じこと。どんな人でも不安を完全に払拭することは難しいと考えた方がよいでしょう。

しかし、不安は整理することで軽くできます。
そこで、どのように不安を整理し、対処していけばよいのかを、具体的にご紹介します。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

どのように仕事の不安を軽くする?不安を整理するポイント

不安を書き出し、対処できるレベルまで小さくする

不安を整理するために、感情をブレイクダウンして、対処法を練ることができるレベルまで粒を小さくしていきましょう。具体的には自分が抱えている不安を書き出してみるのです。頭の中で悩めば悩むほど、モヤモヤとした不安は増しますが、思い切って書き出すと、不安の正体を冷静に客観視できるようになります。

例えば、「上司と仕事に対する考え方が合わない」「営業スキルの磨き方がわからない」など、具体的な事柄を書き出していくと良いでしょう。次に、それらの粒を自分の力で対処できることと、できないことに分けます。このとき、自力で対処できない不安、景気の変動やリストラに対する不安などは、前提としてバッサリと切り分けてしまいましょう。手がつけやすく自分で解決できそうなことだけを残し、対処法考えてみるのです。不安に思いを巡らせるだけではなく、「これならできそうだ」と思えるくらいまで不安を因数分解すれば、心が落ち着きます。そして自然と「どうすれば対処できるか」にフォーカスして考える余裕が生まれるのです。

小さくした不安を2つのタイプに分類する

対処法が練れるレベルの不安も、実は2つのタイプに分かれ、対処方法が異なります。具体的には「不安の元が本人の近くにある、また原因がはっきり見えやすい半径3メートル以内の不安」と「不安と感じる事柄について情報が乏しかったり、そもそも何が原因なのかをうまく言語化できなかったりする漠然とした不安」です。

1. 半径3メートル以内の不安

「上司との相性が良くない」「先輩に嫌われている気がする」といった人間関係、「なかなか仕事で結果が出ない」「新たな任務にプレッシャーを感じる」「ルーティンワークが多くて仕事に張り合いがない」など、悩みのタネが比較的手の届く範囲(半径3メートル以内)にある。対人関係や具体的な業務内容や会社の待遇に関する不安

2. 漠然とした不安

「自分に自信が持てない」「成長している実感がない」「このままこの会社にいていいのだろうか」といった、内面的な悩みや自分のキャリア、将来に関する不安。業界や企業によっては、今後の業績の悪化や、それに伴う雇用面での不安など

では、この不安のタイプに応じた対処方法のポイントを解説しましょう。

仕事に不安を抱えるビジネスパーソンのイメージ画像 Photo by PIXTA

8,568通り、あなたはどのタイプ?

【タイプ別】不安へのアプローチのポイントは?

そもそもですが、粒を小さくした不安への対処法として、個別の方法論やテクニックを覚える必要はありません。凝った方法を身につけても、すぐにうまくいかないと余計に不安が増し、悪循環になるからです。

シンプルな方法でも、すぐに結果につながれば、不安は解消されます。先ほどご紹介した「半径3メートル以内」の不安と、漠然とした不安、それぞれへの対処のポイントをご紹介しましょう。

(1)「半径3メートル以内」の不安への対処法:周りの力を借りる、考え方を切り替えるなどして対処する

例えば、「仕事でなかなか結果が出ない」といった目の前にある不安であれば、どうすれば対処できるのかを周りに率直に聞くのが一番の早道です。たずねるときのコツは「どうしたらいいですか?」ではなく「どうすればできるようになりますか?」と聞くこと。Howを聞けば、相手は具体的な方法論を教えてくれるので、物事を前に進めていくヒントがつかめます。もっと突っ込んで「〇さんだったらどうやりますか?」と聞けば相手は喜んで教えてくれるでしょう。何人かに聞き、一番正解に近く、自分でもできそうなことから始めればいいでしょう。業務に関して言えば、特に若手ビジネスパーソンの場合、自分の経験が足りずに不安になっている場合も多いと言えます。周りに聞くことで解決の「見通し」が立つだけでも、気持ちが軽くなるはずです。

また、人間関係の不安ですが、そもそも他人の性格を変えるのは無理なこと。かといって、相性が悪い人、嫌われているのではと心配な人と真っ向から向き合って仕事をするのはつらいものです。ここでの対処法は「あの人はそういうキャラクターだから」と割り切ることでしょう。自分には理解できなくても「キャラクターだからしょうがない」と思うことができれば、相手の特異な行動もあきらめがつきます。例えば、心の中でこっそりキャラクターにあった「あだ名」をつけてみましょう。その人のキャラクターを認めるには、良い方法かもしれません。世にあるマンガや物語のストーリーは、個性の強いキャラクターがそろわなければ、面白い方向に進みません。現実もそれと同じようなものです。その人の言葉や行動に心を奪われず、考え方の切り替えることで、対人ストレスを減らしてみましょう。

(2)漠然とした不安への対処法:「新しいこと」を取り入れ、不安を軽減する

では、「自分はここ(今の会社)にいていいのだろうか」といった不安や、将来への不安にはどう対処すべきでしょうか?そもそも現代のビジネスパーソンが、こうした漠然とした不安を抱える原因は2つあると私は考えています。

まずは、働くことに対する情報量・選択肢の多さです。かつての終身雇用の時代は、就職した会社で懸命に働けばキャリアが開けると考えられていました。しかし、今は「会社」「仕事」「働き方」の選択肢が無数にあります。それ自体は素晴らしいことですが、選択肢が多すぎると選ぶことができなくなるのが人間です。その迷いが不安を増幅させてしまうのでしょう。
さらに、キャリアや働き方のお手本となる人が近くにいないことも理由の一つです。上司として組織をまとめている人の仕事観や働き方が、時代に合わないことも少なくないのです。

そこで漠然とした不安には、キャリアの選択肢を広げることでアプローチしましょう。

「キャリアの選択肢」は、自分のカードの枚数を増やすこと、組み合わせること、強くすることで生まれます。ここでいうカードは、職歴や経験、スキル、資格など、仕事の武器になるものですが、注意が必要です。

まず、誰でもすぐ取れる資格など、中途半端なカードを安易に増やしてもキャリアの選択肢は広がりません。大切なのは、自分の持ち味やキャラクターにあったカードを選ぶことです。強みやスキルは、周りと同じ仕事をこなす中では差がつきにくいでしょう。しかし、同じ仕事をするにしても「速くてありがとう」「正確でありがとう」のように、キャラクターに沿った提供価値(=持ち味)は違うものです。詳しくは前回の記事で紹介したので、参考にしてください。

一方、キャラクターやスキルなどのカードを組み合わせることでも、キャリアの選択肢は広がります。格闘技ゲームのコンボは、一撃のダメージが少なくても、組み合わせることで大ダメージを与えることができます。カードも同じであなたがしょぼいと感じても、コンボさせることで、あなたらしい持ち味を見つけ出すことができ、キャリアの選択肢が広がるのです。

カードを増やすこと、組み合わせることは、すぐに実践できるでしょう。手に入れたカードを活かすのに一番効果があるのが「逆張り」です。例えば、大胆で行動力がある営業が主体の会社なら、その逆張りで細かく緻密なことが苦手な人が多いことが予測できます。あなたのキャラクターや持ち味をみんなが苦手な領域で活かせれば、ライバルはいません。キャリアの選択肢は爆発的に増え、不安も減るでしょう。

もしカードを強くしたいのに、身につけたいスキルや経験が社内の先輩や上司に学べないなら、外部の優秀な異業種の人を見つけて学ぶ方法もあります。幸いなことに現代は、インターネットを利用することで社外の識者から学べる機会が一気に増えました。機会を選ぶときは座学で終わらせず、プレゼンなどの実践を行い、自分のカードが社外でも通用するかどうかを試せるようなプログラムを選ぶとよいでしょう。似た価値観を持って一緒に伸びていく仲間とのネットワークを持つことも大事です。お互いに刺激し合うことが、ひとつ上のレベルを目指すには、欠かせないことだからです。

ほかにも、複数の仕事を同時進行するパラレルワークをやってみるのもいいかもしれません。複数の仕事の軸を持ち、自分で稼げる方法が2、3見つかれば、会社の待遇面に対して寛容になれるかもしれません。企業によっては社内で多くの経験を積むこともできます。例えば、社内でポジション募集などあれば、積極的に手を上げて経験を増やして行きましょう。

不安を増幅させないためには、振り返りの仕方も大切

ここまで不安の対処法をアドバイスしましたが、きっとこれから実践してみようと思う方もいるでしょう。
最後に、仕事の不安全般を増幅させないために注意してほしいことをお伝えします。それは、ミスについて論点のはっきりしない「振り返り」をしてはいけないということです。

私はこれまで外資企業でも人事として働いたことがありますが、日本人がミスをしてしまったときの振り返りの特徴として、「なぜあんなミスを…。」という内省が先に立ってしまうことが多いように感じていました。そうして、自己肯定感が低下した結果、「自分がダメだったから」と、ますます不安になることがよくあるのです。

これは起こったミスに対して、「Why(なぜ)」から考えてしまうのが原因です。論点がはっきりしないまま、「Why」を続けるとただ落ち込むだけです。遅刻の理由を考えるとたくさんでてくるのと一緒で本質的な問題個所も打ち手の決定打は見つかりにくいのです。そのため、ミスの対策を考えるときは「5W1H」に従い、まずは「Why」以外を明確にしていきましょう。「いつ(When)、どこで(Where)、誰と(Who)、何をしている時に(What)、どのような(How)ミスは起きるのか」と振り返れば、問題箇所(Why)が見つかります。問題箇所が見つかった後に原因を探り、明確な打ち手が見つかれば、不安は取り除かれることでしょう。ぜひこのことを忘れないようにしてください。

不安を感じたときこそ、成長のチャンスが巡って来ている

前述のように、現代のビジネスパーソンが抱える不安の中には「選択肢が多すぎる」「近くにお手本がない」といった、成長していきたいと考えるからこそ生まれるものがあります。周りの情報に惑わされて、自分から不安を呼び込んでしまうことも往々にしてあるでしょう。しかし、不安の原因を整理し、できるだけ多くの経験を重ねることで、不安を軽くできるはずです。

裏を返せば、不安を全く感じない人よりも、不安の大きな人の方が、仕事人として成長するチャンスにより多く恵まれるというわけです。先の読めない時代だからこそ、ビジネスパーソンは、ぜひ自分自身の不安を成功のためのバネと捉えてほしいと思います。

INTERVIEW&WRITING:鈴木恵美子
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