「オンラインマネジメント」を円滑に進めるには?──マネージャー・メンバーそれぞれの動き方

在宅勤務を取り入れる企業が増え、慣れないリモートでのやり取りで、マネジメントする側もされる側も、双方がストレスを感じるケースが増えているようです。オンラインマネジメントで生じるストレスをどう解消すればいいのでしょうか。

マネジメントに関するプレゼンや講演も多数行っている澤円さん、人と組織の問題を解決するHRM-TECHプロダクトを手掛ける株式会社サンボウの尼留昌幸さん、多摩大学大学院経営情報学研究科の客員教授で組織行動論の専門家である須東朋広さんに、リモートワーク時代のマネジメントのあり方と個人の心構えについて語っていただきました。

「リモートではマネジメントできない」という勘違い

──リモートワークが増え、オンラインでのマネジメントが増えています。
一方で、リモートに不慣れでうまくいかないというケースが多いようです。現場はどんな状況なのでしょうか?

尼留:ひと言でいえば、「混乱」ですね。本部も現場も。どの部門にどれぐらい出社してもらえばいいか、オペレーションやマネジメント体制はどうすればいいか、指針決定も課題整理もまだしきれていないといった印象です。


株式会社サンボウ 代表取締役 尼留 昌幸氏

須東:感染予防策として出勤率を50%以下に抑制する動きがあります。出社しないと業務が回しづらい管理部門やマネージャー層の出社を増やした結果、営業部門にしわ寄せが及んでいるケースが見られます。

さらに、営業部門のマネジメントもオンラインになっており、計画通りの売り上げ・利益が確保できるのか、不安に感じている経営層や人事は多いですね。

:オンラインでのマネジメントに悩んでいる企業が多いようですが、「いまさら何を言っているのか」という印象です。これまではただの「管理」であって、マネジメントではなかったことが露呈しているだけ。今まで管理体制のインフラ投資を怠っていただけなんですね。

この状況下でも、出社しければ業務が回らない仕事をしている人もいます。その人たちがより働きやすくなるよう、他部門はリモートで業務を行い、「出社する人を邪魔しない」ようにするのがこれから求められる姿。なのに、出社しなくてもいい人まで出社させて「マネジメントをしているふり」をしている会社が多すぎます。

──そのような硬直化した経営方針に振り回され、疲弊している若手ビジネスパーソンも多いようです。

:そうした経営方針に対し、異論を唱えてこなかった現場側にも問題はあると思っています。もちろん、いち社員が提言するのは勇気が必要ですが、毎日満員電車に乗って出社することに疑問を抱いていなかったことも問題です。

僕はマネジメントサイドですが、ここ2年ぐらいほとんど出社していません。会社に行くのはクライアントに会うときだけ。マネジメントはすべてリモートです。マネージャーが国内にいるとは限らないし、同じ組織にいるとも限らない。

今後は、誰もがリモート前提に働ける環境を整えておく必要があるという意識を若手ビジネスパーソン全員が持つことはマストだと思います。


株式会社圓窓 代表取締役 澤 円(さわ・まどか)氏

尼留:リモートワークが進んでいる会社がありますが、未だ毎日出社して顔を合わせることを良しとする会社もあるようですね。考え方が二極化してる印象です。

:どんな仕事においても、クリエイティブなアイディアを生み出したいならばFace to Faceがベストです。ただし、ずっとFace to Faceし続ける必要はありません。アイディアの種が出てきたら、それをしっかり燃やして炎にするために集まるのは大いに結構。でも、まったく火種がないのに会っても仕方ないし、燃え上がった後ではやけどするだけです。

日本企業は、今まで無意味に集まり過ぎていたのだと思います。時間と空間を共有できている希少性にありがたみを感じていなかった。緊急事態宣言以降、「会いたいときに会えるのは、普通のことではなく、貴重なのだ」と気づいた人が多いと思います。しかし、日本人は正常化バイアスが強いので、すぐにそのことを忘れてしまう。今のうちに、意識をアップデートする必要があると思います。

須東:ただ無意味に集まるのではなくて、必要な時を見極めて集まるのが大事。皆が「オンラインとオフラインの意味合いや特性を理解して行動するようにする」ということですね。


多摩大学大学院 経営情報学研究科 客員教授(組織行動論)須東 朋広氏

:その通りです。「出社すること=オフ会」と捉えるとわかりやすいと思います。オフ会って、普段はオンラインでコミュニケーションをし、時々リアルな場で集まって時間と空間を共有することが醍醐味ですよね。

オンラインでじっくりコミュニケーションを取り信頼関係を構築しているから、オフ会の場でリアルに会うと新たな発見が得られる。初めて会ったとしても、信頼関係がすでに醸成されているので会話もスムーズです。これをビジネスに当てはめると、すべてがプラスに働くのではないかと思います。

しかし、現場では真逆のことが起きているのが問題。これまでずっと顔を合わせていたはずなのに、リモートではマネジメントできないなんて、マネージャーがメンバーとの信頼関係構築をサボっていた何よりの証拠です。

マネジメント方法を「管理」から「開発」へと変えるべき

──これからはさらにリモートワークによる業務が浸透しそうですが、信頼関係構築には何が得策でしょうか?

:マネージャーは、まずメンバーに謝る!「私が悪かった」と(笑)。
これ、半分冗談ですが、半分は本気です。つまり、マネージャーが自己開示をしないことには絶対にオンラインマネジメントはうまくいかない。リアルに会えているときに信頼関係を構築できていなかったことを、まずは詫びるべきです。

それなのに、「オンライマネジメントがうまくいかないから、もっといいツールを探さなければ」なんてあまりにとんちんかんな発想。リアルでのマネジメント方法も見直すいいきっかけにしてほしいですね。

アメリカのMBAでは日本企業のマネジメントという教科があり、「日本企業は社員を子ども扱いしている」と教えています。新入社員は無知であるという前提のもと、まるで子どものように手取り足取り一から育てていると見られているのです。

須東:日本の場合は、新卒一括採用というのが大きく影響していますね。地頭の良い「空白の石板(職務概念の欠如)」で新入社員を受け入れる、という意識が強い。

:年功序列、終身雇用の時代はそれでよかったかもしれませんが、人材流動性が高まっているこの時代にそんなのんびりしたことはできないはず。ましてや、オンラインマネジメントもどんどん取り入れなければならない時代。新入社員も一人前として扱い、入社初日から自分の頭で考えさせることが重要です。

そのためには、コミットしなくてはならない仕事の成果をちゃんと明文化して一人ひとりに伝える必要があります。日本企業においてはジョブ・ディスクリプション(職務記述書)がほとんど浸透しておらず、自らのポジションや業務内容、業務の範囲、求められていることを個人が理解していない。

これは個人の役割を決めずに野球チームを作って、適当にグラウンドに送り込んでいるようなもの。会社にジョブ・ディスクリプションのシステムがないなら、マネージャーがリモートででもメンバー一人ひとりと会話をしながら作っていけばいいんです。それがオンラインマネジメントのベースにもなるはず。

須東:これを機に、メンバーを「管理する」から「開発する」にマネジメントを変えたほうがいいと思います。もっと具体的に言えば、「発達」と「開発」が必要で、前者は今ある能力をどう伸ばし、とがらせていくか。後者は潜在的な力をどう引き出すか。

中でも後者の「開発」が重要であり、そのために人事は教育と評価の方法を見直したほうがいい。本来は、働く個人にとっての「やりたいこと・あるべき姿」が開発の土台になるはずですが、多くの企業では個人の想いは後回しで「企業のあるべき姿」が先に立っているんですね。だから「管理」になってしまっている。

個人にとっての「やりたいこと・あるべき姿」を可視化してこそ、イノベーションは生まれます。企業はそれをしっかり突き詰め、知見を広げ興味を伸ばせる機会を提供することが重要だと思います。

ナレッジや実績数値はツールを活用して「見える化」する

尼留:「リモートワークでは仕事がしづらい」「遠隔では上司が的確にマネジメントしてくれない」といった不満を述べているだけでは何も見えてきません。自分のキャリアを作れるのは自分だけ。「会社が悪い、マネジメントが悪い」ではなく、不満があるならば自ら行動して、自分の力で自分の理想のキャリアを創り上げるんだという発想に一日も早く転換すべきだと思います。

いくら会社の仕組みが変わったとしても、個人のマインドが変わらなければ、仕組みは運用されずただ形骸化していくだけ。ジョブ・ディスクリプションの話もありましたが、個人の意識変革がすべての大前提になります。その上で、オンラインツールの使い方を考えるべき。ツールの機能を知り「使いこなして」ほしいですね。

須東:ツールは、ナレッジの「見える化」にも非常に役立ちます。今、営業を中心にリモートワークが増えていますが、それに対して「リモートになって売り上げがどう変化したか?」ばかりに注目が集まっている印象を受けます。

しかし、「リモートでどのようにクライアントとコミュニケーションを取っているか」「どのように商談すれば成果が上がるのか」などのナレッジを横展開することも重要です。

師弟関係を示す「守破離」という思想があります。師匠から教えられた型を「守」り、それを自分のものにする過程で師匠の型を「破」り、自分の型ができたら師匠の型から「離」れて飛躍する、という考え方です。

ところが、多くの現場では、この「守」ができていないケースが圧倒的に多い。先輩社員は後輩に越されたくないから敢えて見せない・見えないようにしています。リモートワークでオンラインマネジメントツールを活用して見える化できます。

そうなると「守」が構築され、多くの社員の成果が上がることができます。実はオンラインマネジメントツールによる「見える化」こそが全体を底上げし、成果を高めてくれるものであると思っています。

:見える化つながりで言えば「数値を定義し、見える化する」こともマネジメントのポイントになりますね。

例えば、営業ならば1つの商談までにどれぐらい時間がかかったか、どれぐらいの人数と会って会話したのかなどを確実に測れるようにする。いつでも進捗がつかめるように見える化すれば、いちいち遠隔で働くメンバーを呼び出して問い詰めなくても状況がわかります。数値を見て「今週まだ5人しか会えていないようだけれど、大丈夫?」などと声を掛け、アドバイスすることができます。

結果に対して小言を言うのではなく、「このままでは達成できない」「納期まで間に合わない」原因となる火種を見つけて、早めに手を打つのがマネージャーの仕事。前倒しのフォローでメンバーが心理的安全性をもって働ける状態を整備することが重要なのです。

オンラインマネジメントを円滑にするためにできること

──「自分で努力しようにも、上司がITに疎くてオンラインマネジメントが全然できていない」というケースもあるようです。そのような場合、メンバー側で何かできることはありますか?

:上司がいくらIT音痴でも、イライラして「そんなこともわからないんですか?」などと責めてはダメです。上司と闘うことは構いませんが、恥をかかせてもいいことはありません。

お勧めしたいのは、上司のサポート役を買って出ることです。「こういうツールご存知ですか?」「よかったら私にサポートさせてください」と申し出てみましょう。そして、ほかの部署の役職者にドヤ顔ができるよう、お膳立てをしてあげるのです。

その上で「わからなかったらいつでも声をかけてください!」と言えば、今後何かにつけて頼ってくれるようになるはず。オンラインでのマネジメントが円滑に進むようになるし、働き方やキャリアの話にも耳を傾けてくれるようになるでしょう。

尼留:若いITネイティブ世代ならではの、賢いやり方ですね。

須東:柔軟な発想を持てる若手だからこそ堅苦しく考えすぎず、ある意味ゲームだと思ってさまざまなことにチャレンジしてほしいと思います。もし本当に成し遂げたいことがあるならば、それ以外のことは退いてチャレンジしたいことをもぎ取れるよう企てる。

どうしても上司を納得させたいことがあるならば、9割は論破されても1割は納得してもらうような筋書きを考える。たとえ難易度が高いことであっても、その過程を楽しむぐらいの気構えで臨むことが成功のポイントになるでしょう。

出来なくても失敗しても命は獲られません(笑)。ただし、報連相はこまめにしっかりと行うことが大切です。

尼留:ビジネスパーソンの中には、少なからず「マネジメントしてもらえる」という受け身な姿勢の人もいますが、自ら動くことが円滑化に向けた第一歩だと思います。

そして、澤さんのアドバイスのように「相手を立てつつ、うまく使う」。上司に限らず、自分が成功するために人をどう使うかを意識することですね。

:もう一つ付け加えるならば、「自分にタグをつけておく」こと。「ITツールといえば田中君」というように、「〇〇と言えば」という純粋想起される人は圧倒的に強いし、リモート下ではさらに強みを発揮する。大事なときに一番先に思い出してもらえる人材になっておくことが、マネジメントされる側のメリットになると思います。

<プロフィール>

株式会社圓窓 代表取締役 澤 円(さわ・まどか)氏

立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、外資系大手テクノロジー企業に転職、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。琉球大学客員教授。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。著書に『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界№1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『あたりまえを疑え。―自己実現できる働き方のヒントー』(セブン&アイ出版)。

多摩大学大学院 経営情報学研究科 客員教授(組織行動論)須東 朋広氏

一般社団法人組織内サイレントマイノリティ代表理事、専修大学経営学部非常勤講師(キャリア論)、日経BP総研 客員研究員、人事実践科学会議副代表理事。人事部(CHO/CHRO)研究、ミクロ・ダイバーシティ研究・中高年キャリア研究を行っている。「輝けなくなった人を磨き、輝ける場所で輝きを取り戻す」「全ての人がイキイキ自分らしく活躍する方法を広めて行く」ことがポリシー。「CHO~最高人事責任者が会社を変える」(2004,東洋経済新報社)、「キャリア・チェンジ」(2013,生産性出版)「人材マネジメント革命」(2019,日経BP社)など共著している

株式会社サンボウ 代表取締役 尼留 昌幸氏

2020年3月に、人と組織の問題を解決するHRM-TECHプロダクト『サンボウ』の企画・開発・販売を行う株式会社サンボウを起業。社会心理学や組織行動論の理論を活用した人と組織の可視化フレームワーク、AIを活用したコンディションの定量化と未来予測(特許取得)等を活用し、現場と経営における人や組織の問題解決を支援している。

WRITING:伊藤理子 EDIT&PHOTO:馬場美由紀 PHOTO(澤円さん):刑部友康

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