「働く女性の成功、成長、幸せのサポート」という理念のもと、キャリア支援やコンサルティング、結婚コンサルタントなど、幅広い領域で活躍されている川崎貴子さん。その経験と女性経営者ならではの視点から、のべ1万人以上の女性にアドバイスをしてきた川崎さんが「“働く女性”に立ちはだかるさまざまなお悩み」に厳しくも温かくお答えするこのコーナー(→)。
今回は、「結婚間近に彼が転勤…ついていく?これからのわたしのキャリアはどうなる?」というお悩みについてです。
<今回の相談内容>
現在、結婚を考えている彼氏がいますが彼の勤めている会社は転勤があり、今回とうとう彼も内示がでました。私自身、今の仕事をようやく楽しめて面白くなってきた状況で、今後もこうしたことが何度も繰り返されると思うと自分のキャリアがどうなってしまうのか不安です。結婚はしたいし、離れたくないと思いますが、仕事もしたい。妻になるなら夫の転勤についていくべきでしょうか?転勤についていくとしたら、どんな風なモチベーションで仕事をすればいいのでしょうか。
(30歳 営業職)
30歳、仕事も任されてこれからキャリアも本番に差し掛かる時期。相談者さんのお悩みは多岐に渡って深刻であろうと、心中お察しいたします。
そして、冒頭から「そもそも論」で申し訳ないのですが、彼氏の転勤は二人の将来において本当に必要なのかどうか、転勤するメリットとデメリットを「2人のこと」として話し合っているかどうかが私は今猛烈に気になっております。
転勤は2人にとって喜ばしいことかどうか?
転勤とは、日本の高度経済成長期、企業がスピーディに拡大するために、社員の終身雇用や年功賃金制度を支え、社員育成や癒着防止の観点からも日本の多くの企業に導入され、定着した制度です。
ところが、終身雇用や年功序列は過去の遺物となり、蓋を開けてみれば「人事異動による社員の能力アップ」もデータ上よくわからない。転居を伴う社員の異動は会社側もパワーやコストがかかる制度でもあるし、昔のように拡大路線に舵を取れない、社員に十分な安定と報酬を与えられないのになぜかそれ(転勤)だけは、サラリーマンの禊のように慣例化されました。
当然ですが、ご本人もその家族も転勤ウエルカム!なら、何も問題はありません。海外や色々な場所で仕事がしたくて会社や職業を選んでいる、という人たちもたくさんいます。
しかし、「入社時に転勤があると言われているから」という転勤消極派、結婚を機に「転勤はやっぱり避けたい」と思うようになった派の方々にとって転勤の辞令とは、労働者のワークライフバランスを無視した「昭和の悪しき制度」の一つではないかと、私は思うのです。
そして、いち早くそれに気づいた企業の多くが転勤制度の見直しに動いています。優秀な社員が辞めなくて済むように、転勤が多い金融業界で転勤制度を撤廃したAGI損害保険、社員のワークライフバランスを考えて転勤制度を見直したギャップジャパン。それに続く企業がこれからどんどん出てくるに違いなく、今は過渡期ではないかと。
何より「転居を伴う転勤」は、共働き夫婦がスタンダードになった現在、配偶者のキャリア問題、慣れ親しんだ子育ての協力者やネットワークを剥奪されること、子どもの教育ビジョンが立てられないこと、不動産を買えないこと、など、労働者のプライベートに負荷がかかりすぎます。配偶者や子どものことだけではなく、働き盛りの労働者が実親の介護問題に直面していることも、「転勤制度」にまつわる問題として企業は考えていかねばならない時期に来ているのだと思います。
と、経営者である私はつい経営目線で熱くなってしまいましたが、そろそろ本題に入ります。
夫婦の収入問題
実際に、結婚した男女のどちらかに「転勤」が命じられれば
1 どちらかが今の仕事を辞めてついていく
2 単身赴任する
3 転勤を断る
4 転職する
という選択肢があります。
どれが正しい道ということではなく二人がそれぞれ後悔なきよう選択するしかありません。
ただ、夫婦二人が知識として知った上で決断してほしいのは、妻の年収面です。
「子どもを産んで仕事を辞めた妻の生涯年収は2億4千万円の損」と言われているように、子どもを産んでもキャリアを手放さずに正社員で勤め上げた場合と、辞めてから数年後に非正規で働いた場合に、その世帯年収に大きな差を作ります。
これは、夫の転勤によってキャリアを断絶した女性にも言えることです。
ラッキーにも妻の会社が、夫の転勤先地域に移動させてくれる場合は別ですが、
辞めてついて行った場合、転居先によっては仕事がなかったり働けない状況だったり、働けたとしても「転勤族の妻」ということで夫にいつ次の転勤辞令がおりるかわからないため正社員になれなかったり、責任のある仕事を任せられない可能性が高いということは、よく聞く話です。
「夫が出世するため、夫の給与が上がるため」と自分に言い聞かせて、1を決断する妻も、「現段階で妻の年収は自分より低いから」という計算で、1を選択する夫も
目先のことだけではなくロングスパンで妻の生涯年収を捉えて一度考えてみる必要があると思います。そして、2という選択も、3や4という選択も十分あり得る話です。
「結婚」か「起業」か、迷いに迷ったあの頃
相談者さんのお悩みを読んだ時、他人事とは思えない懐かしさに襲われました。
というのも今から20年前、結婚前提につきあっていた彼(商社マン)の海外赴任が決まり、日本で起業準備に取り掛かっていた私は「ついていくのか否か」と、相談者さんと同じように大そう悩んだものです。親はもちろん、周囲にも祝福されて、何より彼のことが大好きだったので、自分の可能性(起業)と女性としての幸せ(結婚)の間で揺れに揺れました。
決断までの期日は着々と迫っているのに決めかねていたある日。
急に自分の「ついていったバージョン10年後」が、映像並みのリアルさで脳の海馬に迫って来ました。
「海外生活はそれなりに楽しかった。だけど日本に帰ってきて、同世代の働く女性たちの活躍に嫉妬を隠せない。そして、私は思うのだ。私にはやりたいこともチャンスもあったのに、“彼についていったから”私は自分のキャリアを形成できなかったのだと」
そんな独白をしている10年後の私をリアルに想像した時、未来の自分に吐き気がしたのと同時に「自分の人生を他人マターにしない」「人のせいにしない生き方ができるほうを選ぼう」と腹落ちし、結局、海外で活躍したいと願う彼とお別れしたのでした。
ただでは帰ってこない転勤妻
私のように丁か半かで転勤妻というポジションを捨てた女と違い、私の周囲には「夫の転勤についていったことがきっかけで、社会的に活躍している」という女性たちもいます。
Aさんは夫のアジア転勤についていき、現地で日本にはないアクセサリーブランドを見つけて販売契約をとりつけて帰国、女性誌に取り上げられて今や一躍有名ブランドに。Bさんは夫のアメリカ転勤についていき、これまた日本になかったファッションブランドを仕入れて大成功を収めています。Cさんも駐在先で感じた「グローバルな人材の必要性」に気が付き、帰国と共に起業。
また国内転勤であっても、Dさんは地方転勤の度にその土地の郷土料理を教わり、東京に戻った今は日本各地の料理を自分流にアレンジ。それが好評で予約の取れない料理教室を展開。あちこちに住んだ経験を活かして執筆しているコラムニストのEさんなどなど…。
どの女性たちも一度手にしたキャリアを手放して夫についていった末の成功であり、「ただで戻ってたまるか!」という気迫と、「転勤先では思うように働けなかった」という鬱屈したマグマが噴火したかのような大活躍です。
転勤先で何かを持ち帰ったり、その期間に語学を習ったり資格を取ったり。「手ぶらでは戻らない妻」という選択肢もあったのだと、彼女たちの生き様に教わりました。
夫婦の数だけ選択肢がある
長々と書いた上に大変申し訳ありませんが、この転勤問題に関して「この道が正しい」「こうするべき」と提示することはできません。
働き方も、夫婦の在り方もドラスティックに変化している今、さらに変化していくであろう未来を予測し、
二人で「私たち夫婦はどんな人生を送りたいのか?」を突き詰めて話し合うこと、
話し合って軌道修正し続けることが、一番大切だと思うからです。
昔のように「妻が夫の仕事についていくことが当たり前」ではなくなり、多様な夫婦関係・働き方が生まれている今だからこそ、オリジナルの「二人のビジョン」を一から作っていくことを心からお薦め致します。
ちなみに余談ですが、20年前に「結婚」か「起業」かと迷って別れを決断した後日談…。
海外での活躍を望んでいた彼は、その4年後に日本企業に転職。当時の私があれだけ悩んだのに!とも思わなくもないですが、「絶対海外勤務派」も心変わりするようです。人生何がどう変わるかはわかりませんが、私が今、一点の曇りもなく「20年前の選択、間違えないで良かった!」と思っているように、彼もまた数々の選択の末に行きついた今を幸せに謳歌しているのではないかと思います。
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回答者:川崎貴子
リントス(株)代表。「働く女性に成功と幸せを」を理念に、女性のキャリアに特化したコンサルティング事業を展開。
1972年生まれ、埼玉県出身。1997年、人材コンサルティング会社(株)ジョヤンテを設立。女性に特化した人材紹介業、教育事業、女性活用コンサルティング事業を手掛け、2017年3月に同社代表を退任。女性誌での執筆活動や講演多数。(株)ninoya取締役を兼任し、2016年11月、働く女性の結婚サイト「キャリ婚」を立ち上げる。婚活結社「魔女のサバト」主宰。女性の裏と表を知り尽くし、フォローしてきた女性は1万人以上。「女性マネージメントのプロ」「黒魔女」の異名を取る。2人の娘を持つワーキングマザーでもある。