「若手はどんどん調子に乗ったらいい」高級缶詰のパイオニア「缶つま」開発者の発想力とは

果物をはじめ、水産・畜肉などいろんな種類がある缶詰。中でも「K&K」のロゴがある缶詰は皆さん見覚えがあるのではないでしょうか。製造している国分グループ本社は東京・日本橋に拠点を置く創業306年目を迎える老舗企業です。缶詰「K&K」ブランドも明治期に生まれてすでに110年。長く日本の食生活を支えてきました。

社名を知らなくても「缶つま」シリーズを作った会社といえばピンと来るかもしれません。2010年にお酒に合う缶詰というコンセプトで展開され、1缶500円前後を中心とした高価格ながら素材の良さとおいしさで今もファンを増やしています。今回「缶つま」を開発した国分グループ本社株式会社 マーケティング統括部 マーケティング開発部 開発一課長 織田啓介さんに、新商品を生み出す発想の工夫についてお聞きしました。

織田啓介(おだ けいすけ)

1996年に国分株式会社入社したものの、急遽、国分フーズ株式会社に出向。缶詰の開発製造部門で厳しいコスト競争を体験する。2010年に高級缶詰「缶つま」シリーズをヒットさせ、2012年より現部署配属。今も開発責任者として主力商品である缶詰「K&K」ブランドと「tabete」ブランドの開発全般に携わっている。

人が集まる場所に、自分の足で行く

–商品開発とは、具体的にどんな業務ですか。

私が携わっているのはおつまみ缶詰「缶つま」シリーズ、果実缶詰「にっぽんの果実」を中心とした「K&K」ブランド、麵やフリーズドライ、商品で構成している「tabete」ブランドの開発全般です。商品開発は年2回ある量販店との商談会に向けて進めるのが基本で、まず商品化できそうな素材と一緒にコンセプトを定め、実際に料理をしながら自分たちで土台となる基本レシピを作ります。そのレシピと素材を製造工場に渡して試作品を作ってもらい、試食を繰り返して商品化するものを絞っていく流れです。

私はもともと水産学部を出ていて魚好きなので、魚介類の産地へ行って原材料を味わってみたり、漁協さんや網元さんたちと情報交換したりして素材を見つけています。「缶つま」シリーズは多少高価な原材料でも商品化が可能なので、面白いと思った素材はすぐ工場へ送ってしまいますね。

–商品化が決まる前に工場で一度試作するのですね。

試作した結果、缶詰適性に不向きな場合がよくあるからです。いったん工場の調理プロセスを通してみないとわからないので、とにかく面白い食材を見つけたら試すようにしています。試作する頻度は時期によって違いますが、今は5,6品を一気に工場に委託して、試食・判断をくり返しているところです。

–「缶つま」シリーズというと珍しい食材や調理法を使うなどバラエティ豊かです。新しいアイテムや着想はどうやって見つけるのでしょうか。

以前から心がけているのは「人が集まる場所」に行くことです。例えば新しい建物ができて話題になっているなら行ってみる。流行になっている店や観光地にも足を運んでみる。リブランドに成功した水族館や動物園も対象ですね。食品に限らなくてもいいんです。人が集まるには何か理由があるはずなので、実際に行ってそこの魅力を考えます。

個人的に、女性のほうがこの種のアンテナは高いと感じます。だから女性の人気を集めているスポットやアイテムにも興味がわくんです。女性が「かわいい」と評したものはあとから流行に乗ってくることが多い。そこからヒントを得ることもあります。

詳細な企画書よりも「その商品とは?に対するひと言」が言えるかどうかが大事

–商品化の前には企画書などを書かれるんですか。

いえ、紙に落とし込むのは次の段階ですね。まず考えるのは「ひと言」で「ああ、それは面白いね」と言ってもらえるコンセプトです。ひと言目が面白かったら、それを生かすように誰に対して売り強みは何かという具体的な内容を詰めていく。コンセプトから詳細まで一貫した流れが作れたら非常に熱量を持った商品ができるんです。

例えばヒットした缶詰「にっぽんの果実」シリーズの軸は国産果物です。でもそのまま「国産」と名づけても訴求力が弱い。同じ意味を持ちながら商品の世界観をうまく表せるワードを探して、行き着いたのが「にっぽん」というひらがな表記でした。ほかにない表記で特別感を出しながら良質で柔らかい雰囲気もある。この商品名が開発を引っぱり、営業のしやすさにもつながりました。

–「缶つま」という言葉もひと言で内容を表していますね。

はい、「缶つま」には「缶詰のおつまみ」と「簡単なおつまみ」をかけています。そのひと言があれば続く商品で何をすればいいかわかるでしょう。この「ひと言キャッチフレーズ」ができるかどうかで商品化の行方が決まるんです。

「缶つま」の「スモーク」シリーズもひと言が面白そうだと判断して商品化しました。当時はアウトドアで燻製を作るのが流行っていたので、要素を取り込みつつ「燻製」ではなく「スモーク」の名称を選んで売り込む。これは当たって直近の「缶つま」の中で一番のヒットになっています。

いわば「缶つま」という大きなひと言があり、それに続く二言目をシリーズにしている感じです。商品の核になるキーワードは常に探しています。

本気で面白いと思うものに熱量が生まれる

–新しいものを生み出す開発者に必要なものは何でしょう。

面白いと思わせるコンセプトにたどり着く前に、自分が本当に納得して「面白い」と思っているかが大事だと思っています。「この売価にするためにこれくらいの商品を作ろう」という発想だと、途端につまらないものになるんです。

社内会議では「それは売る立場からと買う立場からの、どちらの意見ですか」とよく聞きます。国分グループは卸・流通が主体の会社なので、たしかに開発部門は卸にとって武器になる商品を開発しなければいけない。だからといってその理論だけで「こういう商品が求められているので開発しました」という商品は継続して売れない。消費者が面白いと思える商品は、やっぱり開発者が全力で面白いと思ったところからしか生まれないと考えています。

生産者や工場もしっかり利益を得られる売価で、それ以上の価値を付けられるように「面白さ」を形にするのが商品開発です。面白いけれど高いからダメと反対することはあまりないですね。

–うまくいかない企画とはどのようなものでしょうか。

コンセプトに続く具体的な内容に一貫性がないと、みんなから質問が飛びます。例えば以前、山田錦を使った甘酒が提案されたのですが頓挫してしまいました。良い米を使うのでのどごしはスッキリ、実際に飲むととてもおいしいんです。でも「女性をターゲット」としたとき果たして山田錦からの訴求が女性にとって響くのか、もっとお酒を知った人でなければ買わないのではないかという疑問が出ました。

そのとき課内では「これでも女性に売れる」という自信と説得力が足りなかった。ひょっとして出したら売れたのかもしれませんが、「面白い」と思える度合いがそこまでではなかった。商品化するまでの最初の大きな山場は部内会議かもしれません。もし提案に一貫性があり、納得したら営業も売るために力を尽くします。部内を説得するほどの熱量が保てる内容か、自分が本気で面白いと感じているかはやっぱり大切だと思います。

若手に告ぐ、30代前半までは調子に乗っていい

–熱量というのは大事なキーワードですね。

今の20代や30代はパワフルだと思いますよ。若い人はどんどん調子に乗っていいと考えています。若手社員が出した成果に対して時折「あいつは天狗になっている」と言われることもありますが、その鼻が本当にへし折られてしまう日まで若手は調子に乗っていて構わないんじゃないでしょうか。自分がこの会社を動かしているんだと肩で風を切るくらいでいい。

私も20代30代はかなり怒られた記憶があります。新米のころは全国の営業が集まる会議で生意気なことを言って、散々怒られました。正義感ではないのですが、その発言をすべきだと信じたから手を挙げました。でも30代半ばを過ぎて部下もできると、人は調子に乗れなくなってくる。

特に商品開発は尖った感覚を出さなければいけない仕事です。だから若手には萎縮しないでほしいし、調子に乗れるときはぜひ乗ってほしい。その自信から本気で「面白い」と思うことを提案して、商品につながればいいなと思います。

国分グループ本社株式会社

インタビュー・文:丘村 奈央子  撮影:是枝 右恭

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