結局、「働き方の選択肢」が増えると“何がどう変わる”の?――【7月24日一斉実施「テレワーク・デイ」】国が“本気出して”取り組むワケ

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来週7月24日(月)、「テレワーク・デイ」が開催される。政府は、東京都や経済界と連携し、企業や自治体などにテレワークの推進を推奨しているが、この「テレワーク・デイ」にテレワークの一斉実施を呼びかけている。

国を挙げてこのような取り組みを行う背景とは何か。そして、目指す将来とは?テレワーク推進を担当する総務省の今川拓郎さんに詳しく伺った。

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▲総務省 情報通信国際戦略局 情報通信政策課長(前・情報流通振興課長) 今川拓郎さん

「働き方の多様化」で働きたい人が働ける社会に

そもそも「テレワーク」とは何か、ご存じだろうか。

「テレワーク」とは、「tele=離れたところで」と「work=働く」を合わせた造語で、ICT(情報通信技術)を使って時間や場所を有効に活用する柔軟な働き方のこと。つまり、所属するオフィスではなく、サテライトオフィスや自宅で仕事をしたり、出張時の移動中などでモバイルワークをしたりするのがテレワークだ。

7月24日の「テレワーク・デイ」では、全国の企業や団体などに呼び掛け、一斉テレワークを実施する。7月13日現在、約650団体が参加を表明、3万人超が参加する計画にある。NTTデータ、マイクロソフト、NEC、パソナ、KDDI、コニカミノルタの6社では、1000人以上の規模でテレワークを実施予定。徳島県庁など地方でも参加企業・団体が増えている。また、当日にコワーキングスペースを開放したり、関連ソフトウエアのトライアル利用などに協力する「テレワーク応援団体」も229団体に上るという。

この『テレワーク・デイ』は、2020年に向けたテレワーク国民運動プロジェクトの一環。2020年の東京オリンピックの開会式にあたる7月24日を『テレワーク・デイ』と位置づけ、2020年までの毎年、テレワークの普及拡大につながるイベントを実施する計画です」

国を挙げてテレワークを推進する背景には、日本を取り巻く「社会的課題」がある。

まずは「少子高齢化の加速」。日本の総人口は2008年をピークに減少しており、今後さらに高齢化率が高まる見通しにある。そして、少子高齢化に伴う「介護・看護による離職」も深刻だ。家族の介護・看護により離職した15歳以上人口は約10万人(平成24年度)、将来的に介護を行う可能性がある労働者は、全体の半数以上に上るという(総務省「テレワークモデルの普及に向けた調査研究」平成27年度)。これらを背景に、日本の労働力人口は減少の一途をたどっている。

「女性の社会進出、活躍推進」が労働力人口の減少に歯止めをかけると期待されているが、30歳前後の女性における「就業希望者数」と、実際に働いている「就業者数」のかい離の大きさが問題視されている。「希望しているのに働いていない」理由として、家の近くの仕事がない、勤務時間が合わないなどの声が上がっているという(「男女共同参画白書」平成27年版)。

テレワークという「時間や場所を有効活用する働き方」を推進することは、就業者にとってメリットが多い。ワークライフバランスや通勤時間の削減が実現できるほか、前述の介護・看護離職者や、子育て中の女性など、「働くことを希望しているのに叶わなかった」人たちも自身のペースで働くことができるようになる。社会にとっては、労働力人口の確保や環境負荷の軽減などにつながり、企業にとっては生産性の向上、優秀な人材の確保・離職防止、事業継続性の確保(BCP)などが実現できる。

なお、2020年を目標に定めているのには理由がある。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、国内外から東京にたくさんの観光客が集まり、交通機関の混雑が予想されている。

2012年のロンドンオリンピックでは、ロンドンの市交通局がテレワークによる通勤混雑回避を呼びかけ、開催期間までにロンドン市内の企業の8割がテレワークに協力し、混雑を緩和したという実績がある。東京オリンピック期間のテレワーク活用のために、今からテレワークの普及を進めたい意向だ。

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なかなか広まらない「テレワーク」。そもそも過半数が知らない…

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ただ、足元での「テレワーク」の普及は緒についたばかりだ。

テレワークを導入している企業の割合

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導入企業のうち、テレワークを利用している従業員の割合

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※出典:平成28年通信利用動向調査(「ワークスタイル変革SUMMIT」パネルディスカッション資料より)

平成28年の「通信利用動向調査」によると、テレワークを導入している企業は13.3%にとどまり、導入予定を含めても16.6%。しかも、導入済みの企業における利用者数を見ると、「従業員の5%未満」に留まっている企業が45.4%と半数近くを占めている。そもそも、就業者の過半数が、「テレワークという働き方を認知していない」という調査結果もある。

企業が「テレワークを導入しない理由」はさまざまある。社内コミュニケーションに不安がある、顧客など外部対応に支障が出る、情報セキュリティが心配、といった「技術や社内文化における課題」のほか、テレワークに適した仕事がない、適切な労務管理が困難、人事評価が難しい、などの「労務・人事面での課題」に関する指摘が多い。「従業員がサボるのではないか」との声の一方で、逆に「働きすぎてしまうのではないか」という不安の声もあるという。

「いち早くテレワークに取り組んでいる企業の先進事例を紹介することで、解決する課題がほとんどだと考えています。『情報セキュリティ』の例を挙げると、ある銀行ではテレワーク中の機密情報を個人のパソコンには保存させず、ネットワーク上に保存する『シンクライアント』と呼ばれるシステムを導入し、情報セキュリティを確保しています。総務省では、すべてのノートパソコンが指紋認証対応で、万が一紛失しても情報が漏れにくいようになっています。こういう先進事例は積極的に共有していきたいですし、今回の『テレワーク・デイ』の実績についても公表することで、導入を後押ししたいと思っています」

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他人事ではない。将来の“自分”のために絶対必要なこと

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「テレワーク・デイ」を始めとした啓蒙活動で、テレワークを推し進めることにより、2020年には「テレワーク導入企業34.5%、雇用型テレワーカーの割合15%超」を目指している。

今川さんは「テレワークは、就業者が多様で柔軟な働き方ができるようになるための、一つのツール。活用の仕方は企業、就業者が自由に考え、設計していくことが重要であり、テレワークについての社会的な意識改革が重要だと感じている」と今川さんは話す。

実際、若手ビジネスパーソンの中には、「テレワークは自分とは関係ないもの」と捉えている人も少なくないようだ。

「若いうちは特段必要と感じないかもしれませんが、将来的に生活に何らかの変化が起こったときのために、働き方の選択肢が用意されていることはとても重要です。結婚し、子どもができたら育児に時間を割かれますし、病気になったら休まなければなりません。入学式や卒業式、授業参観などの行事も増えるでしょう。そして将来的には、家族の介護をすることになるかもしれません。そんなときに在宅ワークや病院内、週末に親のいる地元で働くなどの柔軟な働き方ができたら、仕事との両立がしやすくなるはずです。他人事と思わずにこれらを“自分事”と捉え、若い人にこそ積極的にテレワークを活用してほしいですね

※7月24日の「テレワーク・デイ」当日のリポートと、「テレワーク・デイ」の実績についての記事も、後日掲載予定です。ぜひ併せてご覧ください。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:刑部友康

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