グロースハックスタジオにてコンサルから開発までこなす前田洋平氏。クライアントのサービスやプロダクトの成長に貢献するのが今の彼の仕事だ。そんな彼に、今までのキャリアを通した「グロースハック」に対する想いを聞いた。
ビジネスに対しての高い意識を持ったエンジニア
現在の仕事に就くまで、SIerでの金融系案件から始まり、エキサイト社でニュースアプリ、電子書籍アプリの開発、アドイノベーション社での広告効果測定ツールの開発、マネーフォワードでAndroidアプリ開発など、エンジニアリングを軸にして多岐に渡る業務に携わってきた前田洋平氏。
本人いわく、「僕は興味の幅が広いので、プログラミングだけでなく広告や戦略といった専門外の分野にも刺激を求めていく傾向がありますね」とのこと。
そのフットワークの軽さと多様な経験により、エンジニアリング以外のビジネスに関する知識まで幅広く持ち合わせています。
「今の仕事はコンサルティングを中心にしたビジネスなので、クライアントとの打ち合わせや社内でのディスカッションなどに入る機会も増えました。そこでビジネスに関する知識が深くなったし、ものを作る上でも、ビジネスに関する思考のウェイトが多くなりました。それは、アプリケーションやツールを作る上でも役に立ちましたね。そのツールがどのように使われるのか、またどんな目的で使うのかといったことを考えるようになり、ツールを作る際の意識も変わったと思います」
また、「幅広い分野に目を向けていると意外な発見もある」と前田さんは語ります。
「今後エンジニアリングだけで食っていけるかは誰も分からないですし、事業戦略やマーケティングなどもある程度知っていたほうが、この先生きやすいのではないかと思います。それに、知識が増えることに比例して、点と点を繋ぐように自分のできることがさらに見えてくるので、新しく何かを始める際にも足を踏み出しやすくなるんです」
▲株式会社グロースハックスタジオ Data Scientist & Engineer 前田マーキュリー洋平氏
エンジニアリングとデザインとビジネスの3つの柱。
プロジェクトを円滑に進めるには、エンジニアリングとデザイン、そしてビジネスの3つの柱が重要だと前田さんは言います。
「技術職であるエンジニアとデザイナーは距離が近いんです。アプリケーションなどを開発する上で連携することが多いですしね。
でも、エンジニアもデザイナーも、ビジネスに触れる場面はそう多くはないんです。ビジネスの部分ってプロジェクトマネージャーやディレクターが作り上げてからエンジニアやデザイナーにタスクが割り振られるパターンがどうしても多いですし。
だからこそ、プロダクトの目的やユーザーの心理といった情報を、自分から積極的に取りにいかないといけないと思います。同じビシネスをやっているわけですから」
また、思考回路のちょっとした違いによって溝が生まれる場合も多いと前田さんは語ります。
「ディレクターなどビジネス側の人間は、広いところからブレイクダウンする思考の人が多いです。トップダウン型というわけですね。逆に、エンジニアはボトムアップ型、積み上げていく思考を持っています。そこでどうしてもすれ違いが生まれやすいわけです。
例えばディレクターが『こんなの作りたいんだけど、さくっとスケジュール出してくれる?』といった依頼を出したとして、エンジニアからすると『そんな内容が決まっていない状態でスケジュールなんて出せるか!』となってしまうんですよ。
ディレクター側からすると、とりあえず簡単にスケジュール引いてみたいから聞いただけなのに、エンジニアからすると、細かいところが決まってないと工数見積もりができない、と考えるのです」
マクロの視点とミクロの視点。その間には深い断絶があるように思いますが、エンジニアがビジネスの考えを理解し歩み寄ることで、プロジェクトを薦める上での細かなストレスやわだかまりを減らすこともできます。エンジニアリングとビジネス、両方に触れていると、コミュニケーションが円滑になり、ビジネス全体の風通しをよくすることができる、というわけです。
真のグロースハックとは何か
巷でもグロースハックという言葉をよく聞くようになりましたが、その言葉が正しく使われているかは疑問が残ります。
「グロースハックを表面上だけで捉えている人は少なくないでしょう。例えば、ボタンやバナーなどのABテストの話ってよく出ますよね。でもそれって結局、局所改善の話で、全体の成長に繋がらないケースが多いんですよ。コストと成果が釣り合っていない施策を見ると『それ、ほんとにグロースハックだった?』って聞きたくなっちゃいますね。グロースハックって本来はプロダクトマネジメントから考えなくちゃいけないんです」
「例えば、PDCAの『P』、プランについて。KPIに対して良好な反応を示したユーザーがいるとしましょう。そういったユーザーを増やすためには、彼らの動きにどんな傾向があるかを考え、それに対してどのような施策を打てば効果的なのかをプランニングします。また、そこで何を学びたいのかをちゃんと意識してPDCAをまわすと、最終的に学びを得ることができます。この学びをプランだけに反映させるのではなく、仮説や戦略にも反映させるようにしましょう」
こうしたサイクルをしっかり回すことが真のグロースハックだと、前田さんは考えます。
「巷で言われている局所改善のようなものは本質的なグロースハックではありません。みなさんには本質について見直してほしいですね。局所的な数字を増やすことばかりに注目せず、ビジネス全体やユーザーのニーズ、課題に対して考えないといけないのではないでしょうか。広い視野、長期的な目線を持つことが大切だと思います。そのためには、ユーザーと真摯に向き合わないといけない」
真のグロースハックについて熱く語る前田さん。そんな彼から、悩める若いエンジニアへメッセージを送ります。
「若いエンジニアたちには、目の前のものをこなすだけじゃなく、その先のユーザーに何を体験させたいか。そこをきちんと考えてほしいですね。『なんのために、だれのために作っているか』という部分に目を向けることが、これからのエンジニアには必要なことだと思います」
※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。