少子高齢化、労働力不足などの問題を補うために、ダイバシティを積極的に取り入れる企業が増えてきた。ダイバシティの要は女性と外国人。確かにここ数年で社内に外国人が増えてきたことを実感する人も多いに違いない。
グローバリゼーションの波が押し寄せる中、日本で働く外国人から我々はどう見られているのか。どうしたら文化や考え方が違う人々とうまくコミュニケーションが取れるのか。
そこで、今回は、日本で働いた経験のある外国人女性3人を招き、日本人ビジネスパーソンに対して感じた「不思議に思う言動」について聞いてみた。
<登場人物紹介>
▲左からサンドラ、ジェニファー(仮名)、レティ(仮名)、高嶋
■サンドラ
ドイツと日本のハーフ。複数の日本企業および外資系企業との仕事経験がある。著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』(中公新書ラクレ)、『満員電車は観光地!?』(流水りんことの共著/KKベストセラーズ)、『「小顔」ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~』(流水りんことの共著/KKベストセラーズ)など計10冊。
■ジェニファー(仮名)
アメリカ人。アメリカの企業のみならず、おもちゃメーカー、広告代理店など複数の日本企業で働いた経験がある。イギリスの会社で働いたことも。
■レティ(仮名)
フランス人。フランスの企業のみならず、ゲームメーカーなど日本の企業で働いた経験がある。日本の大学でフランス語の教鞭をとることも。
■高嶋
日本人。求人誌・転職情報サイトに編集者として15年以上在籍。キャリアコンサルタントとしても活躍。著書に『トップ1000人に学ぶ 一流理論』『「○○業界の法則」辞典』(PHP研究所、高嶋ちほ子著)などがある。
目次
<ここがヘン!その1>制服を着たままランチをするときは、言動に気を付けましょう
サンドラ:この前、ある会社のトイレで「制服を着たままランチをするときは、言動に気を付けましょう」というこんな張り紙を見たんだけど、つくづく日本の会社は大変だなあと思いました。「制服を着ているときは●●社の人間として見られてますよ!だから発言には注意してください!」ってことなんでしょうけど、女性のみに制服が義務付けられている職場もありますし、そうすると、結果的に男性よりも女性のほうが「言論に気をつけなければいけない」ってこと???なんて疑問に思ったり。そういう会社は女性のネイルとかストッキングの色とか、何かにつけてうるさそう。
ジェニファー:何にせよ、発言が縛られるのはキツいですね。たとえばこういう会社って髪の色とかもうるさそう。自由に好きな色に染められないというのはちょっとなぁ…。あ、でも制服については、毎日、服を選ばなくてすむから、それはそれで合理的で便利なのかもしれない。
高嶋:アメリカの会社には制服はあるんですか?
ジェニファー:見たことないですね。日本の会社では受付の人が制服を着ていることが多いですけど、アメリカの受付はきちんとした服を着ていればそれでOKです。「きちんと」の意味が各々違ってたりしますけど(笑)。事務職で制服もまず見ませんね。
高嶋:ドイツの会社は?
サンドラ:基本的にないですね。あるのは航空会社のパイロットやキャビンアテンダントとか、駅の車掌さんとか。ホテルでも制服はベルボーイくらいでしょうか。デパートでも制服がないので、誰が店員かわからない(笑)。
レティ:フランスもないですよ。でも、やっぱり誰が店員かわからなくて困るということで、書店やスーパーでエプロンやベストをつけるようにした、なんて話は聞きます。とはいえ、そのエプロンをつけているからって、言動に気をつけなきゃという感覚はないですね。フランス人は服装はもちろんのこと、言動も自由じゃないとダメ。個人の自由が縛られるような会社で働く人はいないんじゃないかな。あ、恋愛もそう。社内恋愛も自由(笑)。
高嶋:さすがはフランス、自由でいいですね(笑)。日本には、同じ部署内は恋愛禁止という会社もあります。
サンドラ:えー? じゃあ、社内恋愛をしたら隠すんですか?
高嶋:同じ部署内で恋愛禁止の会社の場合は、上長に報告してどちらかを違う部署に異動させてもらう人が多いと思います。ただ、社内恋愛してもいい会社であっても、日本では隠すのが一般的ではないでしょうか。別れた時に周りに気を使われて気まずいというのもありますしね。
レティ:別れた時に気まずいのは万国共通だと思いますけど、フランスでは付き合っていることを全く隠さないですよ。付き合っている人同士が2人仲良く連れ添ってランチに行ったりするし、下手すると、会社の前でキスしたりしてますよ。
サンドラ:わかる、わかる。ドイツでもそう。社内でもすきあらばキスしてる…。
高嶋:なんと! 結婚したらどちらかが異動、っていうのもないんですか?
レティ:ないない。そんなことしたら怒りますよ。一緒にいたいのにって。
サンドラ:ドイツでは結婚しているカップルの一方を違う地域に転勤させるのは禁止なんです。日本だと夫婦で同じ会社にいて、旦那さんだけがが福岡に転勤とかありますよね。
高嶋:ありますね。その場合は、妻が会社を辞めるか、夫が単身赴任というケースが多いですね。
レティ:単身赴任なんて、信じられない。一緒にいないとどんどん恋愛感情がなくなりそうじゃないですか。フランス人は恋愛第一だから。夫婦間でも恋愛感情がなくなったら、すぐに離婚ですよ。
高嶋:えー! それで離婚していたら日本は離婚大国になりそう。アメリカでもそんな感じで離婚するんですか?
ジェニファー:いやもう、バラバラです。10人に聞いたら10人が違う離婚理由を言うと思います(笑)
サンドラ:ドイツ人夫婦の場合、「週末は毎週一緒に過ごすのが当たり前」、「一年のうち約一ヶ月ある有給休暇も夫婦で一緒にバカンスに出かけるのが当たり前」の文化なので、一緒に過ごす時間がとれないと離婚になるケースが多いですね。たとえ忙しさの理由が「仕事」だとしても理解されないことが多いです。
高嶋:じゃあ、「亭主、元気で留守がいい」なんて言葉は流行らないですね(笑)
<ここがヘン!その2>デスクの上でお菓子を食べるな
ジェニファー:日本企業で働いていた時、フードのついたパーカーを頭からかぶって仕事していたら怒られたことがあって。「どうして悪いんですか?」と上司と言い争いになったことがあります。私としては仕事に集中したかっただけなんだけど(笑)。
レティ:集中したいっていうのはわかるなあ。フランスでは集中したいときに、ヘッドホンしながら仕事していても何も言われないですよ。個人の自由ですから。
サンドラ:日本の会社は欧米に比べて業務と直接関係ない決まりごとが多いですよね。「デスクの上でお菓子を食べるな」とか。欧米だと、朝、会社にきていきなりサンドイッチを食べたり、デスクでお菓子とか普通に食べますよね。
高嶋:確かに会社で厳密に決められていなくとも、お昼休みや休憩時間以外はデスクで物を食べないという人、多いですよね。周りの目が気になるのでしょうか。
レティ:フランス人にはそれがないなあ。周りの目が全く気にならない。
高嶋:自由でいいですね(笑)
レティ:あとフランスの夏は暑いから、仕事中も頻繁に飲み物を飲まないと辛いんですよ。学校でも子供たちが授業中にジュースを持ち込んで普通に飲んでますよ。
高嶋:日本の夏も結構暑いんですけどねえ…。
<ここがヘン!その3>休憩室でお弁当、一緒に食べませんか
サンドラ:ランチは結構、お国柄が出ますよね。日本とアメリカは「ランチより仕事優先!」のイメージがあります。
レティ:わかる。アメリカの会社って忙しそう。パソコンの前でささっとサンドイッチを食べておしまいという感じですか?
ジェニファー:時間とお金の節約になるので、そういう人も多いです。でも、人それぞれですね。高級な店でビジネスランチをする人もいれば、昼休みを利用して歯医者に行く人もいる。家事をしに家に戻る人もいますよ。
高嶋:やっぱり忙しい(笑)。しかも個人行動が多いんですね。日本では一人で外に食べに行く人より、職場の人と何人かで食べに行く人が多いような気がします。
ジェニファー:以前、イギリス系の会社に勤めていた時、社員同士が仲良くなる目的で、週に一度、職場のみんなでピザを食べに行くという試みがあったんです。でも、いくら会社のお金とはいえ、やっぱり嫌でしたね。正直うざったかった。
レティ:私は今、日本のメーカーに勤めているんですが、結構周りに気を使われます。お昼はお弁当を買って持って行き、一人で休憩室で食べていたんです。すると「一人で食べているのは、かわいそう」と職場の人たちが気を使ってくれて、外に行くのをやめ、お弁当を買ってきて一緒に食べてくれるようになりました。すごく驚きましたけど、こういうやさしさは日本人のいいところだなと。正直、一人で食べていても何の問題もなかったんですが。
サンドラ:ドイツ系の会社は、男性同士もつるんでゾロゾロと4、5人でランチに出かけますよ。いつも同じ男性メンバーでオープンエアのカフェに行って、日焼けしながらランチしていますね。
レティ:フランス人もオープンエアでランチするの、大好きですよ。あと、公園もとても好き。ハムを挟んだだけのバゲットを会社近くの公園で食べる、なんて人、すごく多いです。
サンドラ:ドイツ人もフランス人も、日に当たるの大好きですよね。平日も欠かさず日に当たろうとするのが日本人と違うところかな。ランチタイムは少しでも日光に浴びたいから外に出る。会社の中でお弁当ってめったにいないかなあ。
ジェニファー:イギリス人もそうだって聞きました。一日中オフィスにこもっていると、体に良くないですよね。気分も暗くなるし。
高嶋:お昼休みは外に出て日光浴するっていい習慣ですね。日光はストレスを軽減するから身も心も健康にもなれそう。日本は弁当男子が増えていますが、社内でなく公園でお弁当を食べると財布だけでなく体にも優しいランチになりますね。あ、でも会社の近くに公園がないことが多いから、外で食べていると午後の始業時間に遅れてしまうかも…。
サンドラ:そういうところが日本人は仕事優先だなあと思います。ドイツ人はランチタイムが過ぎても気にしません。例えばみんなでランチを食べに行ったとき、ドイツ人は全員の注文が揃うまで、食べずにずーっと待ってます。それがマナーだからなんですが、それをかたくなに守る。だから12時~13時がランチタイムなのに、食べ始めるのが12時40分なんてざらにあるんです(笑)。でも気にせず、最後のデザートもやっぱりみんな揃うのをずーっと待ってから食べる。そんな調子なので午後の始業時間に遅れることも多いんです。でも、全然気にしない。
レティ:フランス人もランチは1時間ではすまないですね。大体2時間くらいかな。もちろん会社から決められているランチタイムは1時間ですけどね(笑)。お酒も飲みますよ。やっぱりフレンチにワインは欠かせない。
高嶋:ランチワインですか! それじゃ、1時間では終わらないですね。
サンドラ:ドイツ人も飲みますよ。ランチにビール。ドイツ人にとってビールはお酒じゃない(笑)。流れるパンみたいな感覚。一杯くらいなら酔わないからいいかと飲んじゃう人、多いですね。
<ここがヘン!その4>“年下の上司”の存在が耐えられない
サンドラ:よく日本の雑誌には、「年下の上司や年上の部下とどう対応したらいいのか、わからない」という相談が載っていますが、その感覚もドイツではあまりないですね。
レティ:フランスでもそうですね。年上、年下に限らず、上司に敬語を使うこともなくなってきましたから。役職は単なる役割に過ぎません。上司、部下というより、一人の人間として付き合うイメージでしょうか。
ジェニファー:キャリアがある人に対してもそんな対応ですか? アメリカでは年齢は関係ありませんが、キャリアや経験は重視されます。
レティ:そうですね。同じです。「上司=取りまとめをして指示を出す人」といった感覚ですから、極めてフラットな関係です。
高嶋:逆に考えると、フランスの上司は大変かもしれませんね。自由な感覚の人たちを取りまとめなくてはならないのですから。
レティ:みんな言いたいことをお構いなしにいいますからね(笑)。やりたくないことはやらないし。相当コミュニケーション能力が高くないとまとまらないですね。
サンドラ:ドイツでもそうです。コミュニケーション能力は上司の能力に重要な要素ですね。そのせいか、日本人のマネージャーに比べてドイツのマネージャーは饒舌(じょうぜつ)ですよ。ドイツには寡黙な上司っていないですね。部下を励まして乗せてあげられる能力が必須ですから。
高嶋:部下のモチベーションを上げる能力ですね。確かにこの人といるとなぜかやる気になるっていう人、いますよね。逆もいますが(笑)。
サンドラ:ドイツの上司には“自信のオーラ”がみなぎってますよ。10メートル先からも上司だってわかるくらい。オーラがあり過ぎて自慢がすごい人っていう人も多いですけど(笑)。
ジェニファー:アメリカでは、やっぱり経験がものを言います。上司は部下の悩み事を聞いてあげなくちゃいけないんですが、自分の経験からアドバイスをすると、説得力が生まれます。
高嶋:日本企業も社内にどんどん外国人が増えてきましたからね。今後ますますマネージメントが大変になってくるでしょう。日本人も年齢を気にしている場合じゃないのかもしれませんね。今日はありがとうございました。
構成/高嶋ちほ子