【権利主張よりも、職責果たせ】イクボス代表の川島高之さんに聞く、キャリアと育児を両立させる「イクメンの心構え」

育児や家事と仕事を両立する「イクメン」は徐々に定着しつつありますが、「イクメンでありながら、キャリアも追求するのは難しい」と感じる男性は多いようです。そこで、資産運用会社の社長でありながら、NPOファザーリングジャパン理事、NPOコヂカラ・ニッポン代表理事を務める「イクボス」の川島高之さんにインタビュー。イクメンがキャリアと育児を両立させるための「心構え」を聞きました。

※「イクボス」とは…男性の従業員や部下の育児参加に理解のある経営者や上司(男女含む)のこと。積極的に子育てをする「イクメン」を職場で支援するため、育児休業取得を促すなど、仕事と育児を両立しやすい環境の整備に努めるリーダー。

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(プロフィール)
1964年生まれ。1987年に大手総合商社に入社し、2012年に資産運用会の社長に就任。同年に立ち上げたNPO法人コヂカラ・ニッポンの代表理事も務める。一人息子は現在高校2年生。今も家族の朝食と長男のお弁当づくりは川島さんの担当。

聞き手…株式会社リクルートキャリア 西村創一朗 大学時代にパパになり、26歳にして2児の父、NPO法人ファザーリングジャパンの活動も行う。

■1.5倍の成果を出さないと、時間制約のない人に負ける。

――川島さんのようなイクボスが上司だったらいいのですが、世のイクメンの大半は男性の育児参加に理解のない「イクボスではない上司」の元で働いていると思われます。そんな環境下で、キャリアも育児もあきらめないためには、どうすればいいでしょうか?

 どんな上司だろうが、「権利よりも職責」の姿勢を崩さないこと。そして、周りへの感謝を忘れないことです。が、どんな環境下でもイクメン・イクボスを目指すポイントだと思います。

 最近の若い人に多いのですが、「男性だって育児のために早く帰る権利がある」などと主張していては、敵を作るだけです。やるべきことを十分にやれていないのに、権利ばかり主張されては、周りは「ふざけるな!」となる。「フリーライダー」と言われてしまうのも当然です。でも、やるべきことをきちんと行っていれば、週1~2回定時で帰ると言っても受け入れてもらえやすいでしょう。つまり、イクメンの基本は「権利主張よりも、職責果たせ」です。
 仕事の成果は周りが決めるものですが、私の場合はずっと、非イクメンの1.5倍の成果を出そうという気持ちで仕事に臨んでいました。同じ成果を挙げていては、「定時で帰らず、夜の飲みの誘いにも付き合える、フットワークのいい人」のほうがどうしても評価が高くなるもの。1.5倍の成果ならば、その差を埋めて認めてもらえるようになると個人的に考えていました。時間はほかの人より少ない、でも成果はほかの人より挙げるとなると…おのずと2倍速、3倍速で働く必要があります。だから、真剣に取り組むようになるのです。

 また、育児のために定時で帰るということは、多かれ少なかれ、周りの人に協力をお願いしていることになります。退社後に鳴った電話は、周りの人が取って応対することになりますし、突発事項が発生したら別の人が対応しなければなりません。「やるべきことはやったから帰ります」と帰る権利を主張するのではなく、「今日は早く帰らせていただきます。いつもありがとうございます」という感謝の姿勢が大切です。

 そのうえで、大切にしてほしいのが、「これだけは譲れない」という基軸を一つ決めておき、それだけは何があっても守る、ということ。「週に2回は定時で帰りお迎えをする」「週に3回は家で子どもとご飯を食べる」でも、どんなことでも構いません。ただ、一つ決めておくことで、目標が明確になり、緊張感を持って仕事に臨めますし、「それを守れれば、あとは柳のごとく柔軟に対応する」というスタンスも築けます。

■会議の効率化、部下への権限移譲。この2つで業務時間はぐっと減らせる

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――川島さんは、ご自身が経営する資産運用会社でワークライフバランスを考慮した企業運営をされており、イクメンだけでなく皆が働きやすい環境を整えておられます。どのような方法で企業体制づくりを行ったのですか?

 私はイクメンとして仕事と子育ての両立を徹底してきたので、社長就任を機にその考えを自社でも取り入れ、社員が家族や生活を重視した働き方ができるよう改革に取り組みました。まず取り組んだのは、会議を減らすことと、社員のやる気を高めることです。

 特に力を入れたのが、会議の見直し。会議は、最も時間ねん出につながるものだからです。
 社長に就任した当初、部下が設定した会議に出席したのですが、2時間半もかけたのに何一つ決まりませんでした。これはイカン!と思い、私が考え、実行してきた「会議のルール」を皆に徹底させました。
 まずは、事前に資料を作り、出席者に配布します。そして、出席者に事前に目を通してもらうように伝え、会議は「皆が読んだ前提でスタート」するようにしました。会議って、初めに配った資料をダラダラ読み上げる時間がムダですよね?それに、だいたい誰も聞いていないものです。
 そして、時間は15分単位で考え設定するようにしました。初めから1時間に設定するから、早く終わるはずなのにダラダラと1時間かかってしまうんです。1時間かかるかもしれない会議でも、15分×4コマと設定することで、「3コマで終わったら早く切り上げる」ことができます。
 また、基本的なことですが、開始時間が来たら、来ていない人がいても会議を始めてしまいます。遅れたほうが悪いのですから。これを繰り返すと、皆、時間きっかりに来るようになります。
 これで、1回あたりの時間は半分、回数も2分の1にできます。となると、会議に割く時間は現状の4分の1まで縮められます。また、会議を効率化すれば出席者も半数程度まで減らせますから、最大で8分の1にまで減らせる計算になります。

――かなりドラスティックな会議改革を行ったのですね。2時間ダラダラの長期戦から、15分刻みの短期決戦に、スムーズに移行できましたか?

 20代、30代の若手は内心「ダラダラ会議は嫌だ」と思っていたようで、すぐに対応してくれましたが、「こんなことできない!」という反発もありましたよ。そういう人たちはだいたいが40代、50代のミドル層。昔ながらのやり方が、体に染みついている人たちです。でも、ダラダラ会議が減って、若手のモチベーションが上がれば、自分たちがラクになるはずなんですよね。なぜそういう組織にしようとしないのか?と訴え続けました。

――「部下のやる気を高める」ためには、どんな方法を取ったのですか?

 部下に裁量権を渡しました。ゴールのイメージと期限は設けますが、それ以外のことには一切口を挟まず、アウトプットをひたすら待ちます。ただ、「何か困ったことがあったら、随時相談して」と、トラブルがあったときは私が出ていくようにしています。
 経験上、これがワークライフバランス型組織にする、一番の秘訣だと思っています。仕事を任せることで、部下はあれこれアイディアをめぐらし、自分で考えて行動します。一人で決断しなければならないことも多く、責任は重いですが、それだけやりがいも大きく、表情がどんどんイキイキしてくるのです。
 私にいちいち決裁を仰がなくて済むので、業務時間は必然的に短縮します。それに、社員のやる気が高まっていますから、10時間かかっていた仕事が1時間で終わるなんてこともザラ。
 無駄な会議の時間が減ったことと相まって、「ワーク」にかかる時間はぐっと短縮します。すると、「ライフ」の時間が捻出され、家族との時間、プライベートの趣味など「ライフ」の充実に勤しむことが可能になります。

 加えて、「仕事は常に、9回裏2アウト満塁の気持ちで取り組め」と常日頃から伝え続けるようにしました。試合が終わるまでは気を抜かないで、没頭する。気を抜いたら2軍落ちです。こういう気構えで仕事に臨めば、絶対に仕事は今までの半分の時間で終わります。これは私自身の経験則から自信を持って言えますね。

――ワークライフバランスの充実を図るため、まず制度面の整備に重点を置く企業は多いですが、「意識面」に着目する企業は少ないと感じますね。制度面ばかり重視して意識をおざなりにした結果、制度はあっても運用されず、形骸化していくケースも多いようです。

 当社では、女性の産休・育休はもちろん、男性にも産休・育休を付与したり、介護休暇やボランティア休暇、アニバーサリー休暇などを整備しています。ただ、制度は、それが運用される風土を作ってこそ初めて機能するもの。会議を減らし、社員の意識改革を行うほうが先決であると、私は思います。

■早晩、ライフも重視する「イクボス」が必須の時代が来る

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――世の中にイクメンが増えるよう、彼らを後押しする「イクボス」が、もっと当たり前の存在になる社会が来るといいですね。そして、イクメンたちがどんどんキャリアを追って、いずれ川島さんのような「イクボス」になってほしいと思います。もちろん、私も目指したいですね。

 イクボスと言われていますが、そもそもイクボスって決して特別なものではなく、ボスとして普通のことをしているだけなんですよね。第一線でバリバリ活躍する女性は年々増えています。そして、多様な国籍の方も、日本企業において活躍するようになっています。グローバルベースでみると、働く父親が家族を重視しない国なんてほとんどありません。人材がどんどん多様化する中で、働く母親を支援する仕組みを整えたり、ワークライフバランスを重視した体制を整えるのは、今後さらにボスの必須業務となってくるでしょう。つまりは、「イクボスという視点がないと、マネージャーとして成功できない」という時代が、早晩やってきます。
 となると、仕事も家庭もフルコミットしてきたイクメンはもちろん、仕事だけではなくライフも重視してきた人が、より評価されるはず。「家庭もフルコミット、仕事もフルコミット」のイクメンが、どんどん増えてほしいですね。

――川島さんご自身も、「家庭も仕事もフルコミット」を徹底されていますね。2つのNPO活動のほか、息子さんの野球の朝練をしたり、PTA活動にも積極的に取り組んだとか。ワーク、ライフともこれだけ忙しくて、疲れませんか?(笑)

 全然!週末の地域活動や学校行事、NPO活動は、仕事とは全く違った楽しさがあります。ワークがいくら楽しくても、ワークばかりしているとどうしてもストレスが溜まりますが、ライフでそのストレスを発散できる。そして、週末ライフに打ち込んだ疲れは、平日のワークで発散する…いい循環が生まれています。
 …先ほど「イクメンは昇進・昇格に有利」と言いましたが、ライフの活動では、仕事だけでは築けない「人脈」や「多様性」が身につきます。これは仕事においても絶対にプラスになるもの。仕事だけやっていては生まれない、切り口の違った発想が生まれ、今までにない行動も取れるようになります。ワークだけでなくライフが充実している人は、仕事でも高い成果を出せる人だと、私は確信しています。

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EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:刑部友康

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