小宮山悟×道端アンジェリカ「チャレンジする40代、50代は美しい」

40代、50代ビジネスパーソンのいぶし銀スキルに注目し、金のたまごならぬ「銀のたまご」として採用する「銀たま採用」という動きが高まりつつある。そんな状況を受け、今まで培った経験をもとに新しいことにチャレンジしたいと考えるベテラン層は少なくないだろう。今回は、元プロ野球選手で野球評論家の小宮山悟氏に40代を超えて新たな挑戦を続ける「ベテラン代表」として、モデルとして幅広く活躍する道端アンジェリカさんに「若手代表」としてご登場いただき、輝く40代、50代についてざっくばらんに語ってもらった。

2014年3月28日

(プロフィール)
小宮山 悟(こみやま・さとる)
1965年生まれの48歳。早稲田大学野球部を経てドラフト1位でロッテオリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)に入団。1年目からローテーション入りし、エース投手として名を馳せる。その後、横浜ベイスターズを経て、2002年にメジャーリーグに移籍、ボビー・バレンタイン監督率いるニューヨークメッツにて1年間活躍する。2004年に千葉ロッテマリーンズに復帰し、09年に引退。現在は野球解説者として活躍。今年、Jリーグの理事(非常勤)に就任。

道端アンジェリカ(みちばた・あんじぇりか)
1985年生まれの28歳。ファッションモデルとして雑誌やショーなどを中心に活動するほか、先日、『道端アンジェリカのキックエクサダイエット!』の本も出版するなどさまざまな場所で活躍。姉の道端カレン、道端ジェシカもモデルとして活動中。

聞き手:株式会社リクルートキャリア『リクナビNEXT』副編集長 原田芳江
1985年生まれ。2007年神戸大学卒業後、リクルート入社。人事部で新卒採用を経験後、中途採用領域にて転職情報サイト『リクナビNEXT』の企画に携わり、転職者/企業人事/経営者の取材実績多数。2014年1月より『リクナビNEXT』副編集長。

40代からの新たな挑戦の際につきまとう「不安」。どう向き合えばよいのだろうか?


――小宮山さんは、道端さんぐらいの年齢のころ、ご自身のキャリアをどのように考えていらっしゃいましたか?

小宮山 1989年、25歳の時にロッテに入団しましたが、実は入団当初から「将来は指導者として貢献してほしい」と言われていました。なので、ほかの選手とは少し違い、選手でプレーしながらも「将来のためにいろいろ勉強しよう」というスタンスで臨んでいましたね。本当は選手として、一つひとつの試合にがむしゃらに全力投球しなければならないのでしょうが、私は一歩引いて、自分の立ち位置を考えながら取り組んでいました。

道端 そうだったんですね。そのころは、何歳まで現役を務めようと考えていたのですか?

小宮山 当時は、40歳までを一つの区切りに置いていました。25歳から5年かけてある程度自分の形を作り、次の5年でピッチャーとして名を成すレベルまで達し、最後の5年は野球を楽しんで幕引きにしようと。でも、実際は20年近く現役でいられたので、予定より長い間、楽しい時間を過ごせたなと感謝しています。

――その間、メジャー移籍などさまざまなご経験をされてきましたが、新しい環境に飛び込むことを決断する際に意識していたことはありますか?

小宮山 「やらずに後悔するよりは、やって後悔したほうがいい」と常に思っていました。後からうじうじと「やっておけばよかった」と後悔することほどみっともないものはないですからね。「アメリカで新しい挑戦がしたい」と思ったときも、気負わず普段の感覚で「よし!後悔のないよういろいろ体験し、見てこよう」と考えました。…なんていうと気軽なノリで決断したようですが、不安はありましたよ。でも、日本にいて妄想の中で不安がっているだけでは何も進みません。「不安のもと」を実際に現地で自ら体験し、確認できたことで、不安は解消されました。「予想と全然違った!」ということもたくさんありましたしね。「不安がない人はいない」という前提で、一歩踏み出してみることからですよね。

――まず一歩踏み出すこと、非常に大切だと思います。しかし、実際に40代・50代のビジネスパーソンにお話を伺うと「失敗がこわい」というお声もよく聞かれます。

小宮山 非常によくわかります。私たちの世代になると、若手に比べると「成長の機会」は得られないものですが、挑戦して失敗して、その失敗を糧にまた新しいことに挑戦…とつなげていくことで、人はいくつになっても成長できるのだと思います。「失敗を、失敗として捉えられるかどうか」が大切なのかもしれません。「失敗した!」と気づき、反省して次に活かそうとする気持ちがある人は、失敗しても傷口が浅いし、それ以上の成長ができる。そんなに恐れることはないと、私は思っています。

道端 本当にそうですね。私もあまり失敗は恐れないほうです。やってみないと失敗を経験することもできないですからね。だから何かで失敗しても「失敗させてくれてありがとう」という感謝の気持ちを持つようにしています。もちろん40代・50代になってもそうでありたいなと思っています。

40代・50代で新しい環境へ飛び込むことのメリットは?

――リクナビNEXTのアンケート調査では、40代、50代で転職をしたことがある人は18.9%、そしてそのうちの61.3%が「転職に満足」と答えています。40代、50代というと、「キャリアの終盤」のように感じている若手ビジネスパーソンもいますが、新しい環境で新しい仕事に取り組む意欲的な人も少なくないようです。小宮山さんも、現役引退後、野球解説をしながらもJリーグの理事に抜擢されるなど、新しい分野に活躍の場が広がっていますね。

小宮山 そんなに新しいことをしている意識はないのですが…言われてみれば、確かにそうですね。私は元プロ野球選手であり、今までもこれからも「野球が軸」になりますが、その延長線上で経験を活かせる場面があれば、たとえ異分野でもチャレンジしたいと思っています。Jリーグ理事のお話も、「野球人としてのご意見をJリーグで活かしてほしい」というご相談だったので引き受けました。理事就任後、野球関係者にいろいろ声をかけられましたが、皆一様に「サッカー界は柔軟だね!」と言いますね。

道端 「柔軟」というと具体的にはどういうことなのでしょうか?

小宮山 野球界では、異業界の人間を抜擢するなんてまずありません。問題が起こったときの、解決までのスピード感も、野球界とは比べ物にならない速さと私自身は感じています。日本国内でのプロの歴史は、野球のほうが圧倒的に先輩ですが、物事への対応の柔軟さ、風通しのよさ、フットワークで言えば、サッカー界のほうが2歩も3歩も先を行っていると感じます。その中に身を置けるのは刺激的だし、しっかりビジョンを持って発展を目指すサッカー界の考え方は勉強にもなりますね。40代からの新たな挑戦ではありましたが、まだまだ自分が学べること、成長できることがあるのだな、と発見の毎日です。

目標としている40代・50代はどんな人?

――道端さんは、こんな40代・50代になりたいという未来予想図を描いていらっしゃいますか?

道端 何歳になってもモデルという仕事は絶対に続けていたいですね。そのほかには「モデル」という仕事は軸にしながらも、新しいことへのチャレンジを続け、失敗を重ねて成長することで、素敵な40代になりたいと常日頃から思っています。とはいえ、新しい世界に踏み出す時には不安に感じたり、尻込みしたくなるときがあるのですが、今の小宮山さんのお話を聞いて、輝く40代になるにはやっぱり挑戦が必要だって思いました。やらないとわからないこと、気づけないことって、たくさんあるはずだから。

小宮山 道端さんのような若いモデルさんの場合は、周りにブレーキを掛けられちゃうかもね(笑)。その点、野球選手はブレーキをかける人など誰もいなくて、すべてが自己責任ですから、自分の行動に責任を取れるならば、いくらでも伸び伸びやりたいことができた。そんな環境に身を置けたのはありがたかったですね。

道端 いえいえ、私も頑張りますよ!(笑)モデル以外にも飲食店を経営してみたい、プロデュース商品もどんどん出していきたい、いずれは自分のブランドも立ち上げてみたい、とやりたいことは尽きません。歳を重ねるのが本当に楽しみです!

――お二人の周りにはお手本となるような理想的な40代、50代はいらっしゃいますか?

小宮山 今までを振り返ってみると、ボビー・バレンタイン監督から一番影響を受けましたね。あふれんばかりのエネルギーを持って物事に取り組む素晴らしさを、間近で見てきたので、彼をお手本にしたいという思いはあります。…ただ、彼はエネルギーがすごすぎるがゆえに、周りとぶつかることも多いので、そういう面ではどうかな(笑)。また、ここ数カ月で言うと、新しくJリーグのチェアマンに就任された村井満さんには敬服しています。サッカー界出身ではないのに、日本のプロサッカーリーグを取りまとめなければならないという重責を引き受けただけでもすごいですが、自分が今までビジネスの場で培ってきたノウハウを活かして「われわれはどうすべきか」という思いをブラすことなく皆に示す姿に感心しています。あのようなリーダーは、どの世界でも望まれるでしょうね。仮に私がそういう立場に就くことがあれば、村井さんのような姿勢を目指したいですね。

道端 私の周りには、魅力的な40代、50代の経営者が多いのですが、皆さんチャレンジ精神が旺盛。例えば、美容関係の事業をしていたのに、飲食業界に進出したりと、好奇心の赴くままに柔軟にご自身の世界を広げています。そういう方はいつもイキイキと輝いていて、勉強熱心で、「私もああなりたい」と思いますね。よく「もっと自分の可能性に気付きなさい」というアドバイスをもらうんです。人生の先輩からそういったアドバイスをもらえることで、自分自身の考え方も日々変わってきていますね。

「挑戦したい40代、50代」へのアドバイス

――40代、50代で新しい一歩を踏み出そうとしている人、踏み出したいけれど二の足を踏んでいる人に、アドバイスはありますか?

道端 新しいチャレンジを続ける人は、年齢や性別に関係なく、みんなキラキラ輝いています。私の周りにもいらっしゃいますが、人として尊敬できる人ばかりです。前向きに新しい世界に飛び込みたいと考えているならば、ぜひ一歩踏み出してほしいですね。

小宮山 新しいことを始めるにあたって重要なのは「準備」だと思います。思うようにいかないということは、準備が足りなかったということ。準備にさえ手を抜かなければ、いくつになっても何でもできると僕は思います。決断は大事ですが、中途半端な気持ちで新しいことに挑戦するのは危険すぎる。やると決めたら、その準備にすべてを費やすぐらいの気持ちで臨むことをお勧めします。

道端 小宮山さんご自身も、新しい挑戦をする際には準備をして臨まれたのですか?

小宮山 新しい挑戦に限らず、普段から準備は怠らないタイプでした。現役時代の試合前の準備にはだれにも負けない自信がありますよ(笑)。通常の練習だけでなく、対戦相手のすべてのデータを頭に叩き込み、イメージトレーニングをしていました。直近のデータだけではなく、過去2〜3年分の対戦データを調べて、今の自分や相手のコンディションも踏まえながらイメージする。全試合です。実際は、準備した通りのボールが投げられず、打たれてしまうこともありましたが、覚えたデータを有効活用して次の一手を考えることができました。そして、勝敗で一喜一憂して、その日の成績を次の対戦に活かすために振り返り、次の策を練って…と朝まで数字とにらめっこしていました。今振り返ると、試合そのものより準備の時間のほうが楽しかったかもしれない(笑)。


道端 そんなに徹底的に!本当にすごいです。

小宮山 いやいや、プロとしては当たり前なんですよ。才能がある人はそんなことしなくてもよいのかもしれない(笑)。だけど私はそうやって準備することで成果を出すようにしてきたんです。こうやって常に万全の準備をしていれば、どんな新しい環境でも対応できると信じています。20年以上、そうやってキャリアを積んできたんだから。

――今後も、思わぬ異分野からオファーを受けることがあるかもしれませんね!

小宮山 そういう機会をいただけるのはありがたいですね。どんなオファーであれ、準備には全力投球すれば、オファーをいただいた相手にご迷惑をかけることはないはず。40代、50代の皆さんも、ぜひ準備の段階から、新しいチャレンジを楽しんでほしいですね。

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