眞鍋政義×リクナビNEXT副編集長 全日本女子バレー眞鍋監督の「女性リーダーの育成・抜擢」論

政府により女性の管理職比率の数値目標が設定されたことを受けて、女性の育成・活用やリーダーへの抜擢に積極的に取り組む企業が増えてきた。しかし、リクナビNEXTが実施したアンケートによると、現場では、どうやって女性リーダーとなり得る人材の資質を見抜き、どのように育てればいいのか…と迷っているケースが多いようだ。そこで、全日本女子バレーボールの監督としてチームをまとめ上げ、ロンドン五輪で銅メダルに導いた眞鍋政義監督にインタビュー。女性リーダー候補の見抜き方や育成方法について語ってもらった。その独自の理論は、企業の人材活用の現場でも活かせるはずだ。

2014年3月25日

(プロフィール)
眞鍋政義(まなべ・まさよし)
1963年生まれ。中学時代からバレーボールを始め、大阪商業大学在学中に全日本メンバーに選出される。卒業後、新日本製鐵(現・堺ブレイザーズ)に入団し活躍、93年からは選手兼監督としてVリーグでチームを2度の優勝に導く。退団後、イタリアのセリエAなど国内外のチームで活躍し、41歳で現役引退。2005年に久光製薬スプリングスの監督に就任。初めて女性チームを率いることになったが、2年目にはリーグ優勝を実現する。2009年、全日本女子の監督に就任し、翌年の世界選手権で32年ぶりの銅メダル、12年のロンドン五輪では銅メダルに導いた。

聞き手:株式会社リクルートキャリア『リクナビNEXT』副編集長 原田芳江
1985年生まれ。2007年神戸大学卒業後、リクルート入社。人事部で新卒採用を経験後、中途採用領域にて転職情報サイト『リクナビNEXT』の企画に携わり、転職者/企業人事/経営者の取材実績多数。2014年1月より『リクナビNEXT』副編集長。

■抜擢の条件は「実績」が基本。しかしときに「ポジションが人を育てる」こともある

――眞鍋監督は、1993年の新日鐵でのプレーイングマネージャー就任以来、長らく男子バレーチームを率いてこられましたが、2005年から女子チームの監督を担っておられます。男女両方のチームの指導者を経験してみて感じた「男女の違い」はありますか?

眞鍋 全然違いますね。一番に感じたのは、「女性は何よりも不公平を嫌う」という点。選手一人ひとりに公平に接しないと、「あの人ばかりひいきして」と不満を感じてしまう。その不満の感情が、チームメンバーとのコミュニケーションやプレーにも表れてしまうことに驚きましたね。男子チームではそんなこと気にしたこともありませんでしたから。

――では、そんな女性をマネジメントするうえで、気を配ったこと、工夫したことを教えてください。

眞鍋 公平性を高めるためにデータを重視し、アタック決定率やサーブレシーブ成功率など、数字がいい選手から起用するようにしました。女性は数字で判断されることを嫌いますが、何よりも公平なジャッジ方法ですからね。試合や練習後に結果の数字を貼り出すことで、メンバーの士気を高めました。加えて、「一方通行のコミュニケーションを止める」ことにもこだわりました。上から指示されたとき、何も考えず「はいはい」と返しておけば、とても楽です。でも、それでは勝てるチームにはならない。そこで、一人ひとりが、どうすればより良いチームになるのかを考え、発言する機会を作りました。発言するからには、自分の言ったことに責任を持たなければなりません。一人ひとりの当事者意識が高まり、練習にも今まで以上に身が入るようになりました。


――「公平性」と「コミュニケーション」を重視しているのですね。

眞鍋 はい。普段の会話においても、頻度を増やしました。たわいないのない内容でも積極的に話しかけたり、ときに失敗談を交えて自分をさらけ出しながら、個人単位、グループ単位、ポジション単位などで、とにかくひんぱんに会話をしました。女性は男性上司に対してすぐに心を開いてはくれませんが、会話を繰り返すことで少しずつ心のドアが開かれ、コミュニケーションが円滑に取れるようになりました。また、重要な試合の前は、選手の今までの練習風景を収めた「モチベーションムービー」を全員で観て士気を上げるのですが、それも必ず全員が映るように編集しています。…ちなみに、プライベートでのちょっとしたコミュニケーションにも力を入れていますよ。たとえば、誕生日にお祝いメールをしたり、「髪型を変えた」などのちょっとした変化も見逃さずに声をかけています。選手と行く少人数の食事会も、人によって回数が偏らないように気を配る…など、地道に努力しています(笑)。

――最強チームを作る上では、チームメンバー全員の「意識の底上げ」が重要なのですね。その中、チームをまとめるリーダー(キャプテン)の存在も欠かせないと思いますが、どうやってリーダーとなり得る人の資質を見抜き、選出されるのですか?

眞鍋 基本的には実績を重視します。一定の経験と実績を積んだ人には、メンバーはついていきやすく、団結力も高まるからです。かつ、自分のことだけではなく、チームメンバーやチーム全体のことも考え、行動できる「メンタルの余裕」や「コミュニケーション力」があれば尚いいですね。


――昨年、キャプテンに抜擢された木村沙織選手は、その条件を満たしていたということでしょうか?

眞鍋 いえ、必ずしもそうとは言えません。今挙げた条件も、すべてを満たすことが絶対ではなく、「役職が人を育てる」部分も大いにあると思っています。木村は実績こそ申し分ありませんが、どちらかというと自分中心にものを考えるタイプだし、マイペースでのほほんとしている。でも、実績面で言えば彼女しか適任はいないし、キャプテンになることで今より一回りも二回りも大きくなれると確信できたんです。

――それはなぜですか?

眞鍋 17歳から全日本のエースとして活躍してきて、10年以上のキャリアがあるうえ、吉原、竹下、荒木という3人のキャプテンと共にプレーをした経験を持つのは彼女だけ。さまざまな「キャプテン像」を間近で見て、体感しています。この経験をもとに、彼女ならではの新しいキャプテン像を作り上げてくれると期待しました。つまり、実績というベースがしっかりしているので、キャプテンに抜擢することで、彼女に足りない「心の余裕」や「コミュニケーション力」を自ら埋めに行ってくれると思えたんです。

――この1年、キャプテンとしての彼女を見てきたご感想は?

眞鍋 1年で、ガラリと変わりましたね。それまでは、周りと積極的にコミュニケーションを取る姿はほとんど見ませんでしたが、自ら若い選手に話しかけたり、食事の時にはいろいろな選手の中に入っていきコミュニケーションを取るようになりましたね。視野も広がり、自分のことだけでなくチーム全体を考えた発言が増えてきました。どれも私から指示を出したわけではありません。キャプテンに就任したことで、リーダーとしての自覚が芽生え、自ら行動を見直したのだと思います。目覚ましい成長を見せてくれていますね。

■女性リーダーを「育てる側」も、チームで連携を取ればいい

――一人ひとりの当事者意識を高め、公正なジャッジでやる気を引き出すことで、意識面から女性メンバー全体を育成し、そのうえで実績とコミュニケーション力を備えたポテンシャルある人材を抜擢する…ということですね。しかし、企業の人事担当者や管理職がそれを一人で担うのはなかなかの重責かもしれません。

眞鍋 一人でやろうと思わないで、育成・抜擢する側もチームでやればいいんですよ。実際われわれも、スタッフみんなで協力しています。トレーナーやコーチ、データを分析するアナリストなど、全日本チームには選手以外のスタッフも数多く携わっています。全日本期間中は、その日練習であった出来事をスタッフ陣みんなで話し、共有し合っています。どの選手が、どこでつまずいていたか、どんな成長や気付きがあったかなど、事細かに共有することで、皆がチーム全体の状況を把握し、翌日の最適な練習メニューが考えられるんです。ある選手とスタッフがケンカしたときなんかは、次の日に別のスタッフがフォローに入ったりもしますね(笑)。会社においても、一人では見られる範囲も限られますが、周りと連携を取れば多方面から見ることができ、一人ひとりに合った的確な育成ができるようになりますよ。


――今、女性の管理職登用を促進する動きが高まりつつあります。この動きを、監督はどう見ておられますか?

眞鍋 とてもいいことであり、応援したいと思いますね。女性はひとたび「この上司のために頑張ろう」と腹を括ると、ものすごい力を発揮します。女性の力が、会社や組織をいい方向にがらりと変えることも大いに期待できます。ただ、女性が世の中にどんどん進出するからには、彼女たちを「抜擢する側」がもっとコミュニケーション力を磨かねばならないと、自戒を含めて思いますね。コミュニケーションを密に取ることで、一人ひとりの志向や性格を把握し、理解する。そのうえで一人ひとりに合う役割を示すことができれば、信頼関係は築けるはずです。


JVA承認2014-03-006
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