太田光代×大渕愛子 リーダーを目指す女性へのメッセージ

安倍政権が推進する女性の活躍支援策により、各企業において女性が働きやすい職場作りや、女性を管理職に登用しようとする動きが高まっている。そんな環境を受け、将来のキャリアとして「管理職」を選択肢に加えている女性も増えているのではないだろうか。今回は、芸能プロダクション社長の太田光代氏と、弁護士事務所代表を務める大渕愛子氏という2人の女性リーダーに、やりがいや苦労、得られる喜びについて話を聞いた。リーダーとしての心構えなど、管理職を目指すうえでのヒントになる意見も多数飛び出した。

2014年3月20日

(プロフィール)
太田光代(おおた・みつよ)
1964年生まれ。モデル、タレントを経て、1993年に芸能プロダクション「タイタン」を設立し社長に就任。漫才コンビ「爆笑問題」など18組のタレント、構成作家などを抱える事務所に成長させたほか、関連会社5社の代表も務める。爆笑問題の太田光氏とは1990年に結婚。『奥さまは社長―爆笑問題・太田光と私』(大和出版)など著書多数。

大渕愛子(おおぶち・あいこ)
1977年生まれ。アムール法律事務所代表弁護士。中央大学在学中に旧司法試験に合格し、2001年より大手法律事務所に入所。9年間経験を積んだのちに、2010年に独立。専門分野は離婚問題、男女問題、職場問題など。日本テレビ系『行列のできる法律相談所』レギュラーなど、テレビ出演や講演活動なども行う。

聞き手:株式会社リクルートキャリア『リクナビNEXT』副編集長 原田芳江

■リーダーになったのは「やりたい仕事を追求するため」「状況的にやるしかなかった」

――リクナビNEXTが女性リーダー250人に行ったアンケートによると、財務、会計、経理などの専門職と呼ばれる職種で女性リーダーが多く活躍しています。弁護士の大渕さんは、まさに「専門職」ですね。


大渕 弁護士になろうと決めたのは高校生のときです。当時、進路を考えるうえで、働く女性を目指すか、専業主婦になるかで悩んでいました。でも、将来結婚するかしないか、子どもを産むか産まないかなんて今の段階ではわからない。どういう選択をしても対応できるよう、自由が効いて自分の判断でできる仕事に就きたい、キャリアがあるほうが、何が起こるかわからない人生においても乗り越えていける…という結論に至ったんです。そんなときに観た映画『告発』に出てくる弁護士の姿に感動して、弁護士を目指しました。

太田 今は独立されているのよね?

大渕 はい。4年前に独立し、弁護士事務所を開設しました。大学卒業後に入所した大手の弁護士事務所時代には、いろいろな案件を担当し、幅広い経験を積むことができましたが、基本的に上の指示通りに動いていたので、自分自身ができる選択の幅は狭かったんです。自分がいいと思うことをやってみたいと思い、独立を選びました。自分の名前だけでやっていけるかどうか不安はありましたが、失敗を恐れずやってみようと。

太田 私の場合は、大渕さんと違って、「リーダーにならざるを得ない状況だった」のよね。もともとは私もタレントで、爆笑問題の2人と同じ芸能事務所に所属していたのですが、彼らが事務所を飛び出してしまって。しばらく仕事のない状態が続いていたので、「私が何とかしないと彼らは潰れてしまう」と思ったんです。


大渕 なりたくてなったわけではなかったのですね。

太田 ええ全然。経営なんて全く興味もないし縁もなかったから、会社を立ち上げると決めてから慌ててHow to本を買って勉強したぐらい(笑)。でも、設立して1週間ぐらい経ったころ、「あれ?社長に向いているかも」と実感したんです。私は一つのことを考えすぎるきらいがあって、物事を「なぜ?なぜ?」ととことん突き詰めるタイプ。その間はほかのことが手につかないし、正解がないことも突き詰めてしまうから、自分自身この性格をとても苦しく思っていました。でも、社長業は、会社をうまく回すためのアイディアをとことん考え抜くのが仕事。いくら考えても、考えすぎということがない。欠点だと思っていた自分の性格がピタっとはまったんです。これには自分でも驚きでした。何事もやってみないとわからないって。

大渕 責任はありますが、すべて自分のやり方次第。そこがリーダーの魅力ですよね。「考えすぎてしまう」という太田さんにピッタリはまったというのも、とてもわかる気がします。

■挑戦する前から怖がらないで。「やってみたら向いていた」も大いにあり得る!

――リクナビNEXTのアンケート調査では、「管理職になって得られたものは?」との問いに対して、「裁量範囲が広がった」「責任ある仕事を任される」など、仕事において自由に動ける範囲も広がったことが上位に挙がっていました。お二人はいかがですか?


大渕 「裁量範囲」「責任ある仕事」については私も実感しています。5位の「人脈が広がった」、6位の「新しい仕事に挑戦しやすくなった」も共感できますね。

太田 私の場合は「人脈が広がった」ことが大きいですね。私はもともと社交的ではないタイプなんですが、社長になって変わりました。人が人を呼び、自然に人脈が広がって、自然と性格も変わっていったんです。

大渕 本当に社長業が向いていたんですね!

太田 私みたいに、向いていないと思っても、やってみたら合うというケースはきっとたくさんあるはず。これを読んでいる女性の皆さんも、チャンスがあればぜひ管理職に挑戦してほしいですね。ダメだったら戻ればいいわけですし。まあ、ダメだったら会社がそのままにはしておかないでしょうしね(笑)。


大渕 その通り。重く考えすぎず、まずはチャレンジしてみることをお勧めしたいですね。リーダーになることに不安を感じている人もいるかもしれませんが、せっかく広がろうとしている可能性の範囲を、自ら狭めてしまったら、その後は「その狭めた枠の中」で生きていかなければなりません。一歩踏み出して、失敗したからといって、人生が終わるわけではない。いくらでもやり直しは効くものです。私自身、独立する際は「もし失敗しても、やり直しはできる」と心に言い聞かせていましたよ。

太田 「リーダーになるかならないかで迷う」ってことは、「やってみてもいいかも」と心の中で思っているからだものね。迷って止めた結果、ほかの人が役職に就いて成功したら、きっと後悔するのでは?それってとても残念なこと。人生は一度きりしかないのですから。


大渕 「管理職になって犠牲にしたもの」の1位に「趣味に費やす時間」が挙がっていましたが、私の意見は逆。収入が増えることで、できるようになることが増えると思います。確かに、自由な時間そのものは減るかもしれませんが、時間とお金をコントロールできる立場になることで、いくらでもプライベートの楽しみ方は増やせると思いますね。

太田 日本人は遊ぶのが下手よね。仕事の区切りで、自分にご褒美を上げることで人生はもっと華やぎます。アンケートの「管理職になって得られたもの」の中に「服装の自由度」「おしゃれにかける時間」という答えがありましたが、好きなことにお金を使うのも人生においては大事なこと。それができるのがリーダーの楽しみでもあると思いますよ。

■管理職になることで、部下のため、世の中のために力を発揮する喜びを感じてほしい

――大渕さんは自由と裁量を求めて自ら独立の道を選び、太田さんは自ら希望してリーダーになったわけではないけれど「向いている」と感じておられるとのこと。その一方で、「リーダーならではの苦労」も感じておられるのでは?


太田 そりゃ、ありますよ。私の場合は夫が所属タレント(爆笑問題の太田光氏)という苦労が一番大きいですね。夫婦げんかをしているときも、仕事では彼のことを考えなければならない。クライアントに太田を褒めまくって売り込んでいるときには、「大ゲンカ中なのに…何やっているんだろう」なんて思うこともあります(笑)。でも、夫以外のタレントやスタッフに対してはそんな苦労は感じませんね。彼らの魅力を引き出し、活かせる仕事は何かと常に考えています。彼らにも、私がみんなのことをちゃんと見ていると伝わっているようで、それにより信頼関係が成り立っていると感じます。

大渕 リーダーは、部下が一番輝ける役割を与える一方で、逆にやりたくないであろう仕事も頑張ってもらう必要もあります。その「嫌な仕事」を気持ちよくやってもらうためには苦労するし、気も使いますね。でも、その経験も大切であり、キャリアのためには意味があるのだということも、しっかり伝えるようにしています。

太田 言わなければ、伝わらないですよね。うちも、好きな仕事、得意な仕事だけさせるのではなく、やりたくないことも経験値を上げるために敢えてやってもらっているし、それをやる意味も伝えています。人生に無駄な仕事なんて一つもないってことを部下に伝えるのは、管理職の重要な役割ですね。


大渕 そしてその結果、部下が輝き始めるときは、この上なく嬉しいですよね。

太田 そう!タレントの場合は、売れ始めるとみるみる変化し、キラキラ輝いていく。その過程を見るのがとても楽しいんです。タレントだけでなく、スタッフもそう。ふと気付くと、自主的に仕事を進めていたり、自ら新しい仕事を生み出したりしている。成長を手に取るように感じられるのが嬉しいですね。

大渕 うちでは大学を出てすぐの弁護士を雇って育てているので、初めは裁判書類はもちろん、メールの文面まですべてチェックして、赤字を入れて直させています。だから初めはすごく手がかかるけれど、これを繰り返していくと確実に修正が減っていく。成長を実感できるし、私の負担は減るし、苦労して育てて良かった!と思いますね。一人ひとりが成長すると、ほかの人にも好影響を与えられるから、チームでやれることはその倍以上になる。この好循環はお金では買うことができない価値だと実感しています。


――リーダーのさまざまな魅力、やりがいを教えていただきましたが、最後に「将来管理職になるかもしれない」女性ビジネスパーソンにメッセージをお願いします。


太田 女性には、男性とは違った発想が可能です。男性のみの発想や考え方だけで運営してきた結果、頭打ちになっていた会社が、女性の発想を取り入れて変わったというケースもたくさんあります。過去の慣例やしがらみにとらわれず、自由な感性で新しい価値を生み出してほしいですね。

大渕 管理職になるのに際して、「責任を負うのはこわい」「プライベートが犠牲になるのでは」という不安は当然あると思います。でも、女性の力は今、世の中に必要とされているし、女性が力を発揮しやすい環境も整いつつあります。自分のためだけではなく、世の中のために力を発揮することの充実感を、ぜひ多くの女性に感じてほしいですね。


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