「今っぽさ」「面白さ」「ゲーム性」を取り入れて社内風土を一新。社員を「本気のファン」に変え、理想の会社づくりに挑む⽼舗ものづくり企業
株式会社島田電機製作所

「今っぽさ」「面白さ」「ゲーム性」を取り入れて社内風土を一新。社員を「本気のファン」に変え、理想の会社づくりに挑む⽼舗ものづくり企業
株式会社島田電機製作所
株式会社島⽥電機製作所は、1933年創業の⽼舗ものづくり企業である。BtoBビジネスを主体とし、オーダーメイドのエレベーターボタンや表⽰灯は国内シェア6割を超え、ニッチながらも業界では一目置かれる存在だ。
そんななか、釈然としない感情を抱えていた人がいた。代表取締役社長の島田 正孝さんである。
「日本企業全般の課題として、意欲的に働く社員が少ないことが挙げられます。それは当社も同様でした。以前は『閉鎖的な空間でひたすら黙々と製品を製造する』『年功序列の⾵⼟が⾊濃く、声の⼤きい職⼈の意⾒が絶対』という、旧態依然の町⼯場のイメージを体現したような会社でした。
しかし、私が作っていきたいのはそんな会社じゃありませんでした。昔に比べ今は、世間が企業に対して求める価値観が⼤きく変わっています。採用の⾯接でも、若い人たちは特に給与や出世より、⼈間関係や成⻑を重要視していると実感します。そういった変化に順応し、社員がもっとイキイキとやりがいをもって働ける環境を提供していきたいと強く感じていたのです」(島田さん)
理想の会社づくりに向け、島田さんには思うところがあった。
「会社の風土とは、私は『社員一人ひとりの個性の集合体』だと思っています。そこを根っこに理想の会社づくりを考えると、キーファクターは従業員エンゲージメントの向上。もっというと、『どれだけ社員に会社のファンになってもらえるか』です。そこで、ファンづくりに向けたさまざまな取り組みに乗り出しました」(島田さん)
こうして島田さんの「本気のファンづくり」活動はスタートするのだが、驚くべきはその数。なんと、大小あわせて30にも及んだのだ。その中のいくつかを紹介しよう。
一つ目は、社内Bar「ボタンちゃんBar」の設置。従業員であれば誰でも無料で利⽤でき、個⼈でもグループでも基本的には利⽤⽅法は⾃由だという。コロナ禍で外飲みが難しくなったこともあり、ここでコミュニケーションの促進がはかられたようだ。
二つ目は、カンパニーソングのリリースだ。島田さん自身が作詞を、プロミュージシャンである島田さんの兄が作曲を担当。自社レーベルを立ち上げ、社員51名全員が参加してレコーディングを社内で完結させた。こうして生まれた社歌『ボタンを押せば』(ボタンズ)は、各種サブスクリプション・サービスを通じて一般にも配信している。普段の業務とはまったくかけ離れた⾮⽇常的なことを社員全員で行うことで、社内の⼀体感が高まり、新しいことへチャレンジする意欲も誘発されたという。
「今っぽさや面白さ、ゲーム性を取り入れて進めていくことがとても重要だと思っています。この他にも、社員表彰では大きなサイコロを振って賞金を決めるなど、ささいなことから面白みを持たせ、社員が当事者意識を持って楽しく参加できるようにしています。
ただ、Barやカンパニーソングは内輪ノリだけになりがちです。なので、そういった試みは積極的に社外にも広報しています。メディアで取り上げられ、一般の方にも面白い会社だと感じてもらうことで、社員にますます会社を好きになってもらえることを狙っています。
ちなみに、1年前に子ども向けの工場見学で用意した“1000のボタン”という展示物はSNSで大バズり!外から注目されることで、社員も自社の良さを再発見していました」(島田さん)
ファンづくりの取り組みは人事制度にまで及んだ。
「自分を活かす人事制度」と銘打ち、さまざまな価値観を持つ従業員がそれぞれの個性を活かして⼒を発揮できるよう、コアワーク(技術⼒:技術領域を深めて専門性を強化)、エンワーク(⼈間⼒:マネジメントなどチーム作りを担う)、デベワーク(開発⼒:新たな技術や事業の開発を担う)の3つのワークスタイルを導入したのだ。
社員は、自分の志向がどこに向いているかを考え、3つのワークスタイルから⾃分で選択。ワークスタイルを選択したら、次に上司との面談で⾃分の役割(レベル)を設定。この役割は従来の等級制度に相当するが、今回の制度では年齢や在職年数に加え、これまでの資格や能⼒、結果、成果は関係がない。⾃分次第で、誰でも評価を⾼めるチャンスを掴めるという。
「目指しているのは、社員が主体的に決めることで、能⼒や志向を⾃覚し、組織での役割をまっとうする意識を育み、自分の成⻑と組織貢献につなげていく姿です。自分で決めた働き⽅と役割はバッチとして胸につけ、⾒える化します。本⼈の意識を⾼めつつ、組織全体の連帯感も⾼め、⼀⼈ひとりの成⻑に仲間全体で伴⾛するのです。
ポイントとなるのは、自分の可能性を考えてもらうこと。そして、キーワードは『らしさ』。この制度を導入した根本には、『組織の持続的な成功に必要なのは、技術⼒、⼈間⼒、開発⼒の3つの⼒』という想いがあります。働き方の自由度を高くして、社員が『素の自分』を発揮できるようにすることが一番の有効打だと思ったのです。なので、新人事制度とあわせて『成長応援制度』も導入し、イキイキ働きワクワク生きるを支援します。イキイキ働くは、自分の業務スキルに関する研修などで、ワクワク生きるは自分の趣味や習い事など自分を高めることも会社が費用を負担します」(島田さん)
これらの取り組みについて、社員はどう考えているのか。古参の社員と若手社員、両方の声を拾ってみた。
古参社員はこう振り返る。
「新人事制度が始まったときは、私はすでに部長職でした。もとが製造畑だったので、専門性を高めたいと思いコアワークを選びました。ただ、一時、社長の勧めで営業を経験したことがあり、そのときに『仕事の枠は狭めない方がいい』とも感じていたので、働き方はコアワークですが、メディア対応や職場体験の準備など、外部の人に当社を知ってもらうための活動には積極的に協力するようにしています。得意ではありませんが、案外楽しいですよ(笑)」(製造部長/樋口 岳さん)
「入社後5年間は設計を担当していましたが、2010年からの5年間は、上海で市場開拓をしていました。こういった体験を通じて『自分自身で新たな価値を作りたい』と考えるようになり、私はデベワークを選びました。個々人の働き方は違っても、そこに垣根があるわけではないので、私個人の成長もそうですが、仲間の背中を押すアクションを起こせたときに最も楽しさを感じます」(製造部 組立グループ長 兼 営業技術部 設計グループ長/伊藤 翔平さん)
若手社員は尚のことポジティブだ。
「自分を活かす人事制度で、働き方や役割を自分で決めるのは意外と難しいと思いました。そもそも、『自分が何をしたいのか、この会社でどうなりたいのか』を考える習慣がなかったんですよね。でも、この制度をきっかけに自分と向き合う機会が格段に増えたと感じています。結局は、もともとバンド活動などクリエイティブなことが好きだったので、私はデベワークを選びました。そんな志向性を活かし、社歌のレコーディングではギター演奏を担当させてもらい、今は会社の公式Twitterも担当しています。投稿がバズって大きな反響を生んだときは、普段の業務とはまた違ったやりがいを感じましたね」(企画部 企画グループ/仲松 拓弥さん)
「もともと学生時代から人と関わることが好きで、周りに働きかけながらポジティブに物事を動かしていけることが強みだと思っていたので、エンワークを選択しました。担当業務の一つに新卒採用があるのですが、熱を込めて取り組んでいるのが『自由服・カジュアル面談・ラブレター』です。『自分らしさを伝える就活で、なぜ黒髪とスーツ?』と、私自身ずっと疑問に思っていたので。ラブレターは、『自分の好きなところ』とか、どんな内容でもいいので書いて、面談時に持参してもらっています。履歴書だけで、本当の魅力なんて分からないですから」(企画部 企画グループ/小倉 心愛さん)
「自分の強みは段取りを組んで仕事を進めることなので、エンワークを選びました。ですが、新しい価値を生み出していきたい志向性もあるので、デベワークにも興味があります。働き方がずっと固定ではなく、自分の可能性を広げていけるのも新人事制度の魅力ですね。今は通常業務のほか、ブランディング活動をおこなうチームにも所属し、工場見学のアテンドをしています。普段の製造業務だとお客さまが見えづらいのですが、実際にお客さまから生の声を聞くと、自分たちのモノづくりに一層強いプライドを感じられますよね」(製造部 組立グループ/千葉 侑那さん)
もちろん取り組みが順風満帆だったわけではない。古参社員からの反発もあり、当時約50人の社員のうち、古参を中心に3分の2ほどが辞めていった。その意味ではかなり大ナタをふるう改革でもあったのだ。
「古参の社員に去られるのは残念でしたが、以前のままでは、これからを担う人たちが働きにくいままだったことは事実です。このタイミングこそが、当社にとっての第2創業なのだと腹をくくりました」(島田さん)
こうした島田さんの決断と、会社のファンとなった社員一人ひとりの活躍は、次第に大きな成果となって実を結ぶ。
例えば採用面。全国各地から応募が集まるようになり、新卒定着率は直近3年間で100パーセントを誇る。また、1年で80件もの取材を受けるなど、メディアへの露出が⼤幅に増加。その反響から、これまでにない他業種からの問い合わせが増え、初めてエレベーター業界以外の会社から⼤規模受注を獲得した。既存の取引先も、島⽥電機製作所の取り組みを好意的に受け取ってくれ、より⼀層信頼関係が深まった。
会社への高まる注目は、社内にも好影響をもたらしていった。社員から「会社を誇りに思う」「ここで働いていることを自慢したい」「もっといろんなことに挑戦してみたい」といった声が聞かれるようになったのだ。かつての上意下達の組織風土の残り香は、今ではほとんど感じられない。
「会社の風土が変わったり、売り上げが伸びたりしていることはもちろんうれしいです。でも、なによりうれしいのは、社員一人ひとりの力を結集させてそれを成しえたということ。以前は私が面白いことを考え、言い出しっぺになることがほとんどでしたが、最近では社員と一緒にアイデアの種を育てていく場面も増えているんですよ。これからも楽しく企み続け、社内にも社外にも、より多くのファンを生み出していきたいですね」(島田さん)
そう言うと、島田さんはいたずらっ子のように微笑んだ。
(WRITING:大水崇史)
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