10年後も今の生活をキープできるか
正社員になることを「損か得か」だけで考えたら「得」ですよ。長い目で見たらね。それは単純に生涯賃金を比べてみればわかること。でも、長い目で見るかどうかは、あなたの価値観次第なんだよ。人から大事なことだと言われても、自分にとってそれほどじゃないことはたくさんある。要はあなた自身がどう思うかってことなんだ。
仕事も趣味もある今の状態が心地いいのはわかるよ。でも、25歳で楽しいのはあたりまえ。今の生活が10年続くかどうか、そして10年後も気に入ってるかどうかを考えてごらん。キープできないリスクは大きいはずだよ。
昔からサラリーマンと言えば、「飲み屋で愚痴をこぼすこと」が代名詞だった。今の生活に不満があっても、人生をトータルで計算すれば「まあ得かな」と思って我慢してたわけだ。今でこそ年功序列や終身雇用制が崩れ、正社員の10年後も見えなくなってきたけど、それでも会社って温度が下がってくると勝手に追い炊きしてくれる風呂みたいに、環境は整えてくれるわけだよ。非正社員やフリーは自分で炊かなきゃならない。ぬるま湯につかってるだけじゃ、どんどん冷めていく。そのリスクは大きいよね。
じゃあ、そのリスクを減らすために何が必要かっていうと、スキルなんだ。だから、今のあなたの派遣先の仕事が誰でもできるものか、それとも資格とか必要とするような、あなたしかできない仕事なのかでも大分変わってくると思うよ。
現状維持だけでは目減りしていく
僕は出版社で編集の仕事をしながら、ライターの原稿料の伝票を切って「俺がやったら儲かるな」と思ってライターになった。まあ、会社を辞めて元手も人手もいらずにできる仕事がそれしかなかったんだけどね(笑)。
今でもほとんどは仕事場に泊まり込んで、自宅に帰れるのは週に1回。徹夜仕事だってざらにある。もし正社員だったら、土日は休めたのかもしれない。でも、正社員よりラクして稼ぎたいとか、いい思いをしたいっていうのは虫が良すぎると思うんだ。だからスキルだって磨いたし、責任もリスクも負ったわけだよ。今のあなたには、逆に「正社員にならないことがそんなに大事ですか?」って聞きたいなあ。仕事に支障がないようにって、それは正社員の発想じゃない。
非正社員でもフリーでも、ただ現状維持をしていこうとするだけでは、どんどん目減りするんだよ。フリーライターだったら、月30万円でいいか、と思って仕事をすると20万円しか収入はなくて、頑張って50万円にしようとして、やっと30万円を手にできるようなものなんだ。たとえば、めだかは傍目からはじっとしているように見えるけど、実は毎日必死で川の流れに逆らって泳いでるんだよね。流れに沿ったらどんどん流されてしまうから。そういうふうに頑張って、やっと人から「変わらないじゃん」って言われるわけだよ。女性たちだって「歳をとっても変わらないね」って言われるために、あらゆる努力をするじゃない。現状維持を続けるって、かなりの努力が必要なんだ。
損得やリスクのレベルで話しちゃったけど、あなたの「大事かどうか」のレベルもきちんと見つめ直すべきだと思う。たとえば「10年後までに家が欲しい」と思っているのだったら、ローンを組むのにお金貸してもらえないよ。一生を見渡せとまでは言わないけど、3年後の自分は何やってるか、どうありたいか、そのイメージくらいは見えていないと、どんどん落ちていく気がするな。
少なくとも「今の生活が気に入ってる」なんてことを言ってる間、進歩はないぞ。人間、すべての進歩は文句から始まるんだし、不満と不便から文明は発達してきたんだもの。寒いから服をつくって着る、腹が減るから何か食べる、生じゃまずいから焼く、とかさ。だから、もっと幸せになりたい、もっと稼ぎたいって、あなたが「もっと」と思う不満と欲望を探すんだ。それが正社員になれば解消されるのか、増えるのかを考えれば答えは出るよ。