治療に向けて動くことが第一歩
もしもひどい腹痛であったら、「精神的に弱い」と決めつけるより、心身症である可能性も視野に入れて、科学的に検証してみるべきだと思うんです。休暇をとっても治らなかったのでしょう?それなら、例えば、精神科や心療内科の専門家を訪ね、治療に向けて積極的な動きをしてみることが、第一歩だと思うんです。
あなたの相談の文面から、会社に行きたくても行けなかった、そして、一所懸命頑張った末に休暇をもらった、ということがなんとなく伝わってくるんですね。その上でまた同じ症状が出ているのですから、ひとつの症状が固定化しているか、もしくは進んでいる可能性もないとは言えないんです。
今のあなたは、意識では出社しようとしながら、無意識では出社を拒絶しているという状態でしょう。人間って、自分で受け入れられる部分の記憶は、頭の中の引き出しにしまって、いつでも出せるように整理できるんです。ところが、思い出すことに大きな苦痛を伴う記憶は、無意識の中に隠ぺいすると考えられてるんですね。その無意識の方に封じ込められた記憶はいったいどうなるか。簡単に言うと、体に出る、体に異変が起こることになるんですよ。
認識することで回復に向かえる
僕も27歳の研修医だったとき、普段は全くならないのに、猛烈な肩こりになったことがあるんです。そのうち夢の中で、当時の指導医に毒づいてる自分が出てきて、「ああ、こんなに僕はあの人に対して怒っていたのか」と気づいた。これは僕の例だけど、そうやっていつの間にか体の中に溜まってしまうことを理解して、体からの声に耳を傾けることも大事です。
ところが、無意識に閉じ込めたことに気づくのは、とても難しい。しかも、ちゃんとプライドを持っている人が、自分で認識するという行為は、逆に震えがくるほど怖いことだし、ものすごく痛いんですよ。手術には麻酔があるけど、サイコセラピーには麻酔がありませんからね。精神科の薬を服用して治療するにしても、精神的に弱いという烙印を押された気分になってしまうので、これも勇気がいるんです。
特に日本人は、欧米人に比べてよく働くし、有能な人ほど仕事の中で自己形成したり、喜びを得たり、「仕事イコール自分」になっていく。そんな中で「まさか、こんな症状が出るなんて」ということは、認められないんですね。でも、専門家に助言してもらいながらでも、「認識することは怖くない、認識するからこそ、回復に向かっていけるんだ」ということを、あなたにも知ってほしいと思います。