特定の技術や華やかに見える職種ほど不安定
あなたは大きな勘違いをしているんじゃないでしょうか。総務というのは素晴らしいスキルなんです。逆に、いろんな部署をゼネラリストとして経験してきて、その会社の管理職しかできない、というのが世間でいちばん通用しにくいスキルだと私は思いますよ。転職市場から見ると、「総務がきちんとできます」というスキルを持っていることは、特定の技術しか持たない人よりも遙かに売りやすい。狭い技術を持ってる人ほど雇用は不安定なんです。
たとえば、私が以前いた職場の親会社では、90年代のバブル時に花形だった、ある言語のエンジニアを大勢抱えてたんですが、その後、ものすごい数のリストラがありました。また、一般的にクリエイティブと言われる職種の人だって、売れなくなるとばっさり切られたりします。しかも、そう簡単に他の職種へ転換できるスキルではありません。一見、華やかに見える仕事ほど、生き残れる人はほとんどいないのが実情です。芸能界を見たってそうでしょう。
それに対して、総務ができる、苦情処理ができるといったスキルは、地味に見えますが、どの会社でも最も必要としていること。確かに、総務って基本的には雑用なんですよね。でも、雑用というのは、裏返すと定型化できない、ある意味ではすごくクリエイティブな仕事。明確なマニュアルもなく、どう対処すればいいのかは、その人の総合力にかかってるわけですから。
お互いの利害の中で問題を調整できる力は貴重
総務には日々いろんな人が訪ねてきますよね。株主や取引先、消費者、時には怖いお兄さんも(笑)。そんな状況下の交渉場面で、お互いの利害が衝突して一歩も譲らないとなった時でも、取り立てて強い権限を持たずに相手を押さえるにはどうするか考えながら調整するわけです。政府で言うと内閣官房に当たる重要な役割ですよね。
しかも、1本の苦情の電話が入った時、最初にどう答えるかは、問題をその後とんでもなく大きくする可能性もあるし、逆にきちんと対応できれば、その場で収まっちゃう場合もある。その場で収めるためには、明るく毅然と論理的で、しかも誠実に聞こえるよう、対処できなければならないわけです。これを内部や外部ときちんとできる力が身につけば、サラリーマンとしてこれ以上のスキルはありません。まさにあなたの言う、どこでも通用するキャリアじゃないでしょうか。
経理など、資格があれば安心と思うかもしれませんが、それも間違いですからね。最もクリエイティブで、最も社会で通用する職種は営業なんです。営業能力が高ければ無敵。転職市場で需要が減ってるのをいまだに見たことがありません。本当の営業スキルがあれば、相手がどう要求を出してくるか、その背景や相手の持ってる情報、本心を見抜き、どう言えば喜ばれるかがわかって、いちばん有利な条件で折り合えるわけです。そして、それは総務の能力とある意味で非常に似ています。
もしあなたが、電球を取り替えるような社内の小さな雑用ばかりさせられてイヤだと思っているのなら、総務の中でも対外折衝できるような仕事をさせてほしいと、上司に申し出てみるのがいいと思います。本当の調整役をやらせてもらえるようになれば、もっと仕事が面白くなると思いますよ。
どこに行っても通用するキャリアを磨くに当たって、あなたのいる大手企業の総務部というのは極めていい環境だと思います。不安に思うことも、ましてや転職を考える必要もありませんよ。