夢を追うなら眠らない、楽をしないと決める
ノンフィクション作家の仕事は、つらくて辞めてしまう人が多いので、あなたのような方は大歓迎です。なぜ続かないかというと、ほとんどの場合、作家だけで食べてはいけず、生活費と取材費を別の仕事で稼がなくてはならない。しかも、小説ではないので、取材相手がいます。相手の都合に合わせて時間を取りながら、書く作業もありますから、何倍もの時間がかかります。忙しいんです。時間が取れないというのは、あなたに限ったことではなく、まさに私もそうです。
私は時間がない分、「どこでも書く」ということをしています。取材したデータさえあれば、場所を選ばずに書けますから、聞いたこと、見たこと、すべてを記録に残しておくことが大切だと思います。作家に限らず、音楽家や芸術家などになろうと夢を持っていたら、自分で時間をつくり出していくことが必要不可欠になりますよね。もちろん、睡眠時間だって削る。やりたいことのためには、眠らない、楽をしないと、自分で決めてしまえばいいことです。世の中で大成している人たちのほとんどの方は、例えば睡眠時間など、何かを犠牲にしてきているはずです。
じゃあ、収入や時間があれば、書けるのかというと、そうでもないんですね。どうしても知りたい、取材したいと、心を動かされ、強い好奇心をかき立てられるテーマでなければ、納得いくまでつらい取材はやりとおせません。私は1日1人以上を必ず取材させてもらうと決め、ずっと休まず実行してきました。かといって、書けるネタはそんなに出てくるものではありません。ただ、「このひと言を活字にしたい」と強く思うセリフをうかがえると、お一人の話だけでは連載や本にならないので、続けて文章にできる人を探したくて、取材を重ねました。誰にも会えない日をつくるなんて、もったいなくて未だできません。
今の仕事は心の肥やしになっていきます
あなたのように「人の話を聞くのが好き」とは逆で、私は苦手なことだったからこそ、毎回、胃を痛めるほど真剣に対面し、続けられたのだと思うんですね。取材では、いつもいい話が聞けるわけではないし、期待を裏切るような話もたくさん出てきます。「好き」だけだと、飽きてしまったらそれまで。でも、私は仕事だという軸を持っているから、イヤな場所へも行けるし、吐くほどつらい話も聞けるのだと思います。ぜひ、あなたには、あまり人に期待せず、淡々と真っ白な気持ちで、先入観も偏見も持たず、人と会ってもらいたいです。取材でどんな話が出てきても、さあ、どう料理しようかな、と楽しみにするくらいの姿勢が大事ですよ。
また、あなたの言う「自分が書きたい人と出会える仕事」に転職したとしても、そこで一度本を書いてしまったら終わりなので、これはあまりいい方法とはいえません。ノンフィクション作家を長く続けていくには、もっと広い目で人と出会うことを考えたほうがいいですね。それより、今、あなたがされているのは、とても大切なお仕事だし、絶対に心の肥やしになっていくはず。思いやりと優しさを持って、人の心の痛みが書ける作家になるには、たくさんの苦労をしてほしいんですね。今のお仕事を大事にしながら、夢を目指して頑張っていただきたいと思います。