昔の現場はもっと厳しかった
「ふざけるな」と言いたいね。そもそも、思い通りだったなんて甘い仕事は、世の中にないんです。確かに、テレビ業界を昔から知っている私が見ても、ADは3Kの職業として残っている典型だと思います。それでも、昔のADはひと言も愚痴をこぼさず、必死で仕事をやっていた。最近のADの子たちは、あなたのようにいろいろと僕にもこぼしてきますよ。
20年くらい前のテレビの現場はね、撮影セットを見下ろす所にプロデューサーがいて、ADが失敗するとダダダッとすごい勢いで階段をおりて来ては、「ふざけんな!」って、ADの頭を思いっきり靴ではたいたもんです。ぶっ倒れたADを前に、タレントさんたちも唖然としていた。でも、それで済んだんですよ。ADも自分が悪いとわかっているから「すみませんでした」と言って、次の日も現場に来る。でも、今のADに同じことをやったら、もう次の日は来ないでしょう。
つまり、現場で頑張る若い子がいなくなってしまった。それは、私がやっている調理の現場も同じです。うちには調理の助手が30人くらいいるんだけど、昨年なんか、14人は辞めたかな。働きたいと応募してくる人の中にも、10社以上もの会社を転々としている人がけっこういる。理由を聞くと、「自分を活かせる仕事じゃなかったから」なんて言う。要は「我慢ができない」ということでしょ。だから、私はそういう人を採用しませんよ。
達成感や満足感は苦しさの後にある
こんな話もありました。うちの調理師学校を卒業した子の就職先から電話がかかってきて、「3日目に逃げちゃった」って言うんです。その子の親御さんが車で迎えに来て、荷物をまとめて連れて行ってしまったと。そもそも親がそうやって甘やかしているからダメなんだし、あなたたちの世代は、好き勝手なことをやるのが自由だという風潮の中で育っている。それは間違ってるんですよ。人間、「苦しいことに挑戦していく」くらいの気持ちが必要なんです。
あなたは「苦しいことをあえてやる必要はない」と思っているでしょう?でも、もし将来こうなりたいという夢や志を本当に持っていたら、そこまでのプロセスは、どんなに苦しくても乗り越えられるはずなんです。「もう二度と登りたくない」と思うような苦しさを超えて山を登りきった人は、「ああ、やった!」という達成感によって、それまでの苦労を忘れる。だからまた、次の山を登りたくなるわけです。達成感や満足感というのは、苦しさの後にあるものです。
だからといって、ずっと苦しい思いをして我慢しろという訳じゃありません。志さえあれば達成する近道だってあるんです。それは、毎日人より10分でも早く職場に行く、早く帰らない、笑顔であいさつをする。この3つを実践すること。周りの人は見ています。誰よりも早く現場に行って、毎日掃除や準備をしていると、「お、あいつはいつも早いな」と、信頼を得られるようになる。そういう人が、「必要とされる人」として、上から引き上げてもらえるようになるものなんですよ。