プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「野球はメンタルが8割、技術が2割。心が体を動かすんです」森本稀哲氏
(野球解説者)
もりもと・ひちょり●1981年1月31日生まれ。 東京都出身。小学校1年生の時、汎発性円形脱毛症を患い、髪の毛を失った。帝京高校野球部の主将として第80回全国高校野球選手権大会に出場を果たす。1999年、ドラフト4位で日本ハムファイターズ(現北海道日本ハムファイターズ)に入団。2006年から2008年まで3年連続ゴールデングラブ賞、07年にはベストナイン賞を受賞するなど、06年、07年のリーグ連覇に貢献した。横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)、埼玉西武ライオンズを経て2015年に現役引退。現在は野球解説や講演活動などを行う。
2017年9月13日

日本ハムファイターズ時代には、
2006年、07年の連覇に貢献。
新庄剛志選手らとの
賑やかなパフォーマンスでも
ファンを沸かせた。
2015年に現役引退。
不振に苦しんだ時期も長かったが
明るい「ひちょり」選手であり続けた。
強いメンタルを保つ秘訣とは?

引退するまでの2年間、野球人生をやり直すことができた

プロ野球人生のスランプといえば、2006年、07年と日ハム(日本ハムファイターズ・当時)がリーグ連覇した後のことを思い出します。控えから這い上がってレギュラーとって、「日ハムを常勝チームにするんだ!」というエネルギーが、目標を成し遂げたことで枯れてしまったんですね。それだけ07年の優勝は壮絶でした。前の年に新庄(剛志)さん、小笠原(道大)さん、岡島(秀樹)さんたちスター選手が抜けて、07年は名も知れない選手が多かった。そのため、あまりクローズアップされない年ですが、ものすごくいいチームで。打率はシーズン当初、リーグ最下位でした。なのに優勝してしまうんですから、まさに最強のコストパフォーマンス(笑)。まるで漫画みたい。僕が理想としていたチーム力のある、本当の意味での「強い」チーム。理想としていた勝ち方ができたシーズンでした。

08年も、5月に左手小指を骨折するまでは調子よかったんですよ。でも休んで治るのを待っている間、ふっとね、緊張がほどけたんです。怪我が治っても不振が続いて、その年は自身最低の成績で終わりました。僕には心のスキがあったんです。問題は、なんで心のスキが生まれたか。

それは、「自分に余裕ができたから」だと思います。チームは2年連続のリーグ優勝。加えて、個人的にも年俸が1億3000万円まで上がり、CMにも出て、世間に注目され、勘違いもしました。怪我が治ればレギュラーに戻れるだろうという慢心もありました。野球ってメンタルが7割か8割、技術は2割か3割くらいのものだと思います。結局、心が体を動かす。心のコンディションを崩したら以前のようには活躍できません。2軍での試合ではよく打っていたのに、1軍で同じピッチャーと対戦するとかすりもしない、ということがありますが、それと同じ。変わったのは自分の心以外、何もないんです。

慢心からあらためて野球に真摯に取り組めるようになったのはなぜか。うーん。やっぱり人は学ぶんですよね。調子がいい時って、悪いことは1つも言われないんです。でも結果が出なくなると、ファンもチームメイトもフロントも裏方さんもガラッと変わる。今まで当たり前だったことができなくなる。レギュラーだったら許されていたことが許されなくなるんです。そこで気づくことがたくさんあります。

その後、自分から希望し、FA(フリーエージェント)で横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)に移籍しました。そこからの3年間は、ほんとに苦しくて。結果を出したくても出せない。でも、苦しみながら自分は何をしなきゃいけないか、と考えたんです。僕にとっては、全力で走ること。思いつく限りの準備をすること。野球選手にとって基礎中の基礎ですよね。でも基礎って調子がいいときほど忘れがち。本当は、調子がよくても悪くても常にそういう気持ちが大事なんだなと考えられるようになったのは、スランプがあったからなんです。

全力で走ること、準備を怠らないこと。これさえできればあとは「なるようになる」と思える、どんな結果になっても受け入れられるんです。横浜では戦力外通告を受け、その後、テスト生から埼玉西武ライオンズに入団し引退するまでの2年間、僕は野球人生を「やり直せた」という感覚があります。皆さんに納得してもらえる結果ではなかったですけど、「引退」を僕が受け入れられたのは、そういう“準備”があったからなんです。

若手には若手の、ベテランにはベテランの盛り上げ方がある

気持ちが腐ったこともありますよ。特に2013年、横浜(ベイスターズ)での3年目はキャンプの時から2軍で。開幕直後には中畑清監督に「夏までは2軍で頑張ってくれ」と言われた。これはきつかったですね。別の真意があったのかもしれませんが、「4カ月間、絶対に一軍に上がれないのか」と感じてしまいました。3年契約の3年目、僕にはあとがないのに頑張る機会も与えられないなんて。

でも、これほど勉強になった年もありません。あの時僕は「そもそもなんで横浜にきたのか」と考えたんです。もちろん結果を残すためになんですが、それ以外に、何か横浜にいいものを残していきたい。だったら1軍に上がれなくてもそれで終わりじゃないですよね。苦しい状況のなかでも練習する姿を後輩たちが見ているかもしれない。後輩が調子を崩した時、今の僕の姿を思い出してくれるかもしれない。そんな気持ちで、自分を鼓舞していました。夏の横浜は暑かったですけど、手を抜かず、より全力で走りました。

それに役割分担もあると思うんです。若い選手がチームの中心としてみんなを引っ張ろうとしても無理ですし、逆にベテラン選手がガムシャラにやっても「ほかにやることあるでしょう」となる。

僕が日ハムでレギュラーになる前は、チームのことより自分のことで必死でした。前のバッターが初球から打ちにいってアウト。普通だったら、数球見逃して球筋を見ますよね。でも僕はそんなときでも初球からガンガン振りにいった。それが僕のスタイルだったし、その時には僕の元気は、そういう形で見せるしかなかったんです。でも僕がベテランになって、同じ状況で初球を打ちにいくかといったら、それは考えないと。若い人には若い人なりに、ベテランにはベテランなりに、今その時の自分にしかできないことがあります。そういう自分の立ち位置のなかで、出せる力を出し続けていく。それができれば、どんなチームにいってもチームに溶け込めるし、チームを盛り上げていける。チームに貢献するってそういうことだと思います。


印象的なスキンヘッドは、
小学1年で発症した
汎発性円形脱毛症がきっかけ。
当時は「風呂でも帽子が脱げない」
ほど悩んだという。
だいぶ回復してきた今でも、
同じ病気の人を励ます意味で
「あえて髪を剃っている」。
どうやってコンプレックスを克服したのか。

人間の美しさ、格好よさは、心のなかのエネルギーに宿るもの

なんていうか、「人は自分が思っているよりもやさしくて、自分が思っているよりいい人がたくさんいる」ということを、野球を通じて学んだんです。病気で髪の毛がなくなった僕を人がどう見ていたのか、本当のことはわかりません。でも野球にのめり込んで、野球がうまくなりたいと、そればかり考えるようになってからは、いつの間にか髪のことなんて気にならなくなったし、周りの人にも“いち野球少年”にしか見えなかったと思うんです。

今でもね、見た目を気にしている人って会うとわかるんですよ。そのくらいもともとは、見た目をすごく気にしてましたし、髪の毛がないことをコンプレックスにしていました。それが全く気にならなくなったのは、人間、見た目の美しさ、格好よさというのは大したことがないとわかったからです。それよりも、人のなかにあるエネルギー。もっというと、自分は何をしたいか、どうありたいか。そこに人間の強さや美しさ、格好よさがある。野球を通じて、いろんな人と出会う中で、自分が感じてきたことです。

高校生になって病気が治ってからも、カミソリで頭を剃って試合に出ていました。それはスキンヘッドを武器にしてやろう、自分が注目されたら同じ病気を持っている人を勇気づけられるだろうと思ったからです。見た目を気にしている人の気持ちは、すごくよくわかる。普通の人より、ずっとよくわかる。だからこそ、そんなの関係ないと僕は言いたい。自分は何をしたいか、どうありたいかって、そういうエネルギーを見せられる生き方が大事なんです。

結局、何が原因で発症して、何が原因で治ったのか、わからないままです。ただ不思議なことに、「髪の毛なんてなくていいや、野球で認めてもらえれば何ということはない」って思い始めた途端に生えてきたんですよね。「ここで生えてくんのかよ、もういらないんですけど」みたいな(笑)。病は気からって本当だと思いました。

新庄選手から学んだ「セルフイメージを大きくしろ」

やっぱり、野球のおかげで学んだ人生。野球には感謝しかないですよね。人から教えてもらったこともたくさんあります。例えば06年、07年と日ハムを優勝させたヒルマン監督の情熱はすごかった。「絶対にこのチームを変えてみせる」という気持ちでぶつかってくるんです。

2003年に僕を初めて開幕スタメンで起用してくれたのもヒルマン監督です。その試合では期待にこたえられなかったんですけど、ヒルマン監督がすごいのは、僕を起用する時に、「ヒットを打てなくてもいい」と言うところ。「とにかくエネルギッシュにいけ、ハッスルしろ!」と。そんなこと言われたら、僕は「はい!」と奮い立つしかないですよね。

ヒルマン監督は、なんとか僕のいいところを引き出そうとしてくれていたんだと思います。それまでの僕は、「バットの角度は、タイミングは」って小さなことで悩んでたんです。でもそれだと全体の動きがスムーズにならない。例えばお箸を使うときに、「こういう力加減でひじはこう曲げて」と細かく指示されたらギクシャクするじゃないですか。「パッと取ってパッと食べるんだ」といわれたほうがスムーズにできたりする。ヒルマン監督はそれを狙ったんだと思うんです。「あれこれ考えずにやれ、思い切って振れ、全力で走れ。それでいい」って。そのおかげで僕は、ピッチャーとの勝負にも集中できるようになった気がします。

それから何と言っても、新庄さんとの出会いは大きかったですね。影響を受けすぎてしくじったこともありますけど(笑)。一番ありがたかったアドバイスは「セルフイメージをもっと大きくしろ」ということでした。実力があるのに「自分はこのぐらいの選手なんだ」とイメージを小さく持ちすぎている。スーパースターになりたいとか、注目されたいと思うのであれば、そういうセルフイメージを持たない限りは無理だよ、と。新庄さんのセルフイメージは、ものすごく大きいですよ。だからあれだけのスーパースターになれるんです。それまでの僕は「レギュラーになりたい」とは思っていたんですが、正直、注目されたいとまでは思っていませんでした。でも新庄さんと一緒にいることで、自分が思っていたよりも大きなセルフイメージを持たせてもらった。だから、あそこまでの成績と人気がついてきたんです。レギュラーをとったあとも、ファンの皆さんに喜んでもらいたい、僕のことを覚えてもらいたいと思って、ファンサービスをずっと続けていました。

自分がどうありたいか、答えを先に出すこと

仕事に全力を尽くせるかどうかは、まず「自分がやりたいことがはっきりしてるかどうか」だと思います。野球選手は全員が結果を出したい。だから苦しくても成功したいというエネルギーに変わっていきます。会社員でもそれは同じだと思うんです。その仕事自体がしたいのか、お金を稼ぎたいのか、どんな環境で働きたいのか、そのあたりの気持ちが定まっていないと、頑張れないですよね。

逆に「絶対に稼ぐ」となったら、どんな環境でも頑張れる。あるいは、自分がやりたいと思っている仕事についている人は、悩んでいてもエネルギーはたっぷり、だから頑張れる。自分が何をやりたいのか整理できている人は、自分で会社を選べると思うんですね。「私がやりたいと思っていることと合わないから、お断りします」。会社から言われるんじゃなくて、自分の口からそう言えるようになるし、それだけ考えがまとまっていれば、採用する会社もあるはず。「どこか自分に合う会社はないかな」では多分、答えは出ない。まず、自分がどうありたいか、どう生きたいか。答えを先に出すこと。そうしたら、行きたい会社、合わない会社もわかってくると思うんです。

information
『気にしない。 どんな逆境にも負けない心を強くする習慣』
森本稀哲著

子どものころ、汎発性円形脱毛症でスキンヘッドに。治療法も見当たらず、ふさぎこんでいた。そんな少年が、派手なパフォーマンスでファンを沸かせていた森本稀哲選手になるまで、何を考え、何を学んだのか。日本ハムファイターズ(当時)、横浜ベイスターズ(当時)、埼玉西武ライオンズの時代のものを含む、40のエピソードを収録。「ひちょり」選手を応援した野球ファンにも、どんな逆境にも負けず、ポジティブに生きるための習慣を知りたいビジネスパーソンにも、必読の書。ダイヤモンド社刊。定価1400円(+税)。

EDIT
高嶋ちほ子
WRITING
東雄介
PHOTO
富貴塚悠太
DESIGN
マグスター

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