




シリーズ累計194万部の
ベストセラーとなった『嫌われる勇気』。
アドラー心理学ブームを生み出したこの本は、
多くの若者に自分の人生を生きる力を
与えた。
その著者である岸見一郎氏に
「仕事は何のためにするのか」と問うと、
意外な言葉が返ってきた。

幸せとは、誰かの役に立ったと 感じるときに訪れる
仕事は何のためにするのか。端的に言うと「他者貢献」です。もちろん、人は生きていかなければなりませんから、仕事でお金を得ることも大事な要素です。しかし、それだけを仕事の目的にすると、仕事は非常につらいものになる。そうではなく、他人のために自分の能力を活かすことを仕事の目的にする。幸せとは人の役に立ったと感じること、つまり「貢献感」から生まれるものなのです。自分のした仕事が誰かの役に立ったと思えるとき、頑張ろうという気になる。貢献感を持って仕事に取り組めば、人は幸せになれるのです。
貢献感を持てたら、「承認欲求」は消えます。人から認められることを仕事の目的にしてはいけません。小さいころから賞罰教育を受けてきたので、誰かから認められないと自分に価値があるとは思えない人が多い。仕事であれば評価はつきものですが、他人からよく見られたい、認められたいと思って仕事をするわけではありません。ほかの人に承認されたいとばかり思っていると、人に合わせて生きることになり、そうすると自分の人生なのに他人の人生を生きることになります。それでは幸せにはなれません。自分の価値を自分で認められる。難しいことですが、その先に幸せがあるのです。
「貢献感」を持てれば「自分に価値がある」と思えます。そう思えれば「勇気」を持てます。この勇気とは対人関係に入っていく勇気です。20世紀初頭に活躍した心理学者、アルフレッド・アドラーは、「あらゆる悩みは対人関係の悩みである」と説いています。人は一人では生きられません。仕事も同じです。誰かと協働しなければ仕事をすることはできません。しかし、ほかの人と関われば様々な悩みが生じることになります。しかし、傷つくことを恐れて、ずっと家に閉じこもっているわけにはいきません。対人関係は悩みの源泉ではありますが、生きる喜びや幸せも対人関係の中でしか得ることはできないのですから。幸せになるためには勇気が必要なのです。
「飽きっぽい」と言われたら、 「決断力がある」と思えばいい
では、どんな仕事に就けば自分の力を発揮できるのでしょうか。答えを先に言ってしまうと、どんな仕事に就いてもいいのです。仕事というのは実際に経験してみなければ、自分に向いているかどうかはわかりません。だから、まずは仕事に取り組むことが大切です。もしも向いていないと思っても、辞めるのは自分の仕事に貢献感を持てるところがないかを探してからでも遅くはありません。どんな仕事でも、貢献感を持てるからです。
私の経験を話しましょう。私は40歳になって初めて常勤の仕事に就きました。精神科の医院にカウンセラーとして就職したのです。それまでも大学の非常勤講師として働いてきましたが、常勤としては初めてのことでした。カウンセラーとして就職したものの、できたばかりの医院だったため人手が足りず、午前中は受付の仕事をしなくてはなりませんでした。私は受付の仕事は自分には向いていない、もっと適任の人がいるだろうと思いました。
自分が仕事に向いていないと思ったら、辞めることもひとつの選択肢です。私たちは何かを始めたら最後までやり続けなくてはならないと教育されているため、途中で方向転換してはいけないと思う人は多いです。会社を辞めると、せっかく入社したのにもったいないとか、飽きっぽいとか言われます。私も仕事に迷いが起きたとき、せっかく常勤の仕事に就いたのだからすぐに辞めてはいけないと思ったのは本当です。ほかの人から飽きっぽいと言われたら、「決断力がある」と思えばいいのです。
世の中に「自分にしかできない仕事」はありません。どんな仕事であれ、退職したら代わりの人がきます。あなたがいなくなっても組織は回っていくのです。ですから、仕事を辞めたいと思う人は、自分が辞めてからのことは考えなくていいと思います。
向いてないと思ってもすぐに切り捨てない。 与えられた中で探してみる
私の話に戻りましょう。受付の仕事を向いていないと思いつつしていた私ですが、ある日こんな話を聞きました。「病院において受付という仕事は、総師長クラスがやるもので、新人の看護師にはできない仕事である」と。確かに、初めて来院する患者さんは不調を感じているものの、何科を受診していいかわからない人が多い。電話対応にしても、「こういう症状だけど診てもらえますか」と聞かれます。ですから、病気に関する知識はもちろんのこと、病院内の仕組みや人事に関してもわかっていなければ受付の仕事は務まりません。その話を聞いて私は、徹底的に受付の仕事に取り組んでみようと思うようになりました。一人ひとりの患者の来院理由や現在の状況などを把握し、医師から尋ねられたときカルテを見なくとも説明できるよう努めました。最終的にはかかってきた電話の声を聞いただけで、どの患者さんかわかるようになった。すると、受付の仕事が面白いものになっていきました。
先に自分にしかできない仕事はないと言いましたが、他方、仕事をするときには私しかできないと思えることも必要です。そのためには、与えられた仕事の中で貢献できることを探してみましょう。他人から感謝されないので仕事を辞めたいという人がいますが、「ありがとう」と言われないから貢献感を感じられないということはありません。例えばコンビニでレジを打つ仕事は、商品を買いにきたお客さんを助けています。急に何かが必要になってコンビニに助けられた、という経験をしたことはありませんか。コンビニでの仕事でお客さんに貢献できるのです。どんな仕事でも貢献感は得られるはずです。



アドラーは「あらゆる悩みは
対人関係の悩みである」と説いている。
実際に対人関係で悩み、
離職する会社員はとても多い。
どうしたら、うまくやっていけるのか

「誰」が言っているかではなく、 「何」を言っているか、に着目する
仕事というのは一人ではできません。必ず誰かと一緒にしなくてはならない。そのなかには、人間的に苦手だと思う人もいるでしょう。でも仕事なのですから、「誰」が言っているかではなく「何」を言われているか、に着目するといいでしょう。話の内容だけに注目し、おかしいと思ったら違うと言えばいい。上司であっても顔色をうかがうことなく、指摘することが大事なのです。
会社に入ってみて想像していた環境と違うと思うことも多いでしょう。働き始めるといろいろな内情が見えてきて失望することもある。どうしてもだめだと思ったら辞める選択ももちろんあります。でも、その前に先に見たように、自分の仕事に貢献感を見つけること、そして、職場を変える努力をすること。組織は、自分が所属したことで変わっていくものです。ただし、その変化は自分が変わることで、その影響をほかの人に及ぼすという仕方でしかできません。それができるためには、自分の仕事における「第一義」を知っていなければなりません。第一義とは、「自分の仕事において何を一番大切にするべきか」ということ。それに基づき、自分で考えて行動していけば、周りが少しずつ変わっていくでしょう。
一人を見て、一般化しない
覚えておいてほしいのは、一人を見て一般化しないということです。カウンセリングをしていると「みんなそうなんです」と言う人が多いですが、「いつも」「必ず」「みんな」という言葉が出てきたら要注意です。職場でも、嫌な上司や同僚がいるでしょうが、すべての人がそうではありません。どんな職場でも「この人とだったら仕事をしたい」と思える人はいます。
どうやってそういう人を見つけるか。私の基準は「友達としても付き合っていけるか」です。友達なら臆することなく自分の意見を言えます。お互いが本音を言い合えて初めて、いいものができるのです。思えば、『嫌われる勇気』もそうでした。ライターの古賀史健さんと編集者の柿内芳文さんとで率直に意見を言い合い、2年かかって作り上げたものです。仕事の面だけでなく、人間としても付き合っていきたいと思える人と仕事ができたことは、本当によかったと思います。そういう出会いが仕事の喜びでもあるのです。


岸見一郎・古賀史健著
第2弾『幸せになる勇気』も合わせて累計で194万部のベストセラーとなった『嫌われる勇気』(ともにダイヤモンド社刊)。フロイト、ユングと並ぶ心理学界の三大巨匠として世界的に有名なアルフレッド・アドラーの個人心理学を、初心者にもわかりやすく説いた名著。仕事の対人関係に悩んでいるときに読んでほしい本だ。また、この本を原作としてドラマ『木曜劇場 嫌われる勇気』(木曜日22時からフジテレビ系)もスタート。アドラーの考え方を体現した刑事がさまざまな難事件を解決していくという非常に面白い設定だ。原作を読んでいても読んでいなくとも楽しめる内容になっている。
- EDIT/WRITING
- 高嶋ちほ子
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 宮田昌彦


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