プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「自然災害で生物は強くなり、ピンチがあると進化する。だから何があってもプラスにとらえたら良い」鎌田浩毅氏
(火山学者、京都大学大学院人間・環境学研究科教授)
かまた・ひろき●1955年生まれ。東京大学理学部卒業。通産省(現・経済産業省)を経て97年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授。理学博士。専門は火山学・地球科学・科学コミュニケーション。著書に『成功術 時間の戦略』(文春新書)、『一生モノの勉強法』『一生モノの人脈術』『一生モノの時間術』『知的生産な生き方』(東洋経済新報社)、『一生モノの英語勉強法』(祥伝社新書)、『火山噴火』(岩波新書)、『火山はすごい』(PHP文庫)など。
2016年1月13日

テレビやラジオに引っ張りだこの
人気京大教授である。
現在は学生から絶大な支持を得ている
熱血火山学者だが、かつては
やる気のないダメ公務員だったという。
何が鎌田氏を変えたのか

落ちこぼれ学生から、なんとなく公務員へ。それがスタート

僕は学生時代、落ちこぼれだったんですよ。東京大学理学部地質学科出身なんですが、そこは化石や鉱物に興味のある人が専攻する学科なんです。でも、僕の場合はなんとなく。教養課程に3年在籍するほど成績が悪かったから、行きたい学科にいけなかったんです。一応実験室にこもったりもしていたけれど、やる気なんてなかったし、研究におもしろさなんて全く感じませんでした。4年生のとき思っていたのは、理学からは足を洗って、さっさと就職したいなと。一般の会社に勤めて独身貴族になれたらいいな、なんて思っていたんです。

でも人生というのはうまくいかないもので、いざ就職活動をしようとしたら、就職先がなかった。第二次石油ショックの影響でほとんどの民間企業は新卒採用をストップしていたんです。そこであわてて国家公務員試験を受けてなんとか合格したものの、やはり「今年は行政官の採用はありません」と言われてしまって。

でも「どうしても今年就職したいんです」と粘ったら通産省(現・経済産業省)の研究所に回されて、地質調査の仕事をするはめになったんです。僕としてはシャキっとネクタイをしめて、日米貿易摩擦なんかをかっこよく解決するつもりだったのに、与えられた仕事は来る日も来る日も地味に岩石と向き合う仕事。「落ちこぼれ学生」の次は「とりあえず公務員」(笑)。これが僕のスタートなんです。

本物の自然と良い師匠。「物と人」との出会いが、人生を変えた

特にやる気もなく1年くらい地質調査の仕事をしていたころ、僕に転機が訪れます。九州の地熱プロジェクトに参加することになったんです。大分県と熊本県にまたがる「宮原(みやのはる)」という火山地域で地質図を作る仕事。岩石がいつの時代のものでどういう順番で積もって地層となったのか、実際に現場をてくてく歩いて地層を調べ、色分けしていくんです。

その仕事をするうちに火山のメカニズムに魅せられて、地質学ってなんて面白いんだと思うようになった。そこからは勉強することが楽しくて楽しくて、いろんな知識もどんどん頭に入っていったんです。

地質学に何の関心もなかった僕が、なんで急にのめり込んだのか。理由は2つあります。

1つは、「本物に触れた」こと。プロジェクトに参加して初めて連れて行ってもらったのは、九州の阿蘇カルデラでした。目の前に広がる火砕流台地の風景はとても壮大で、心の底から感動したんです。

今は何でもインターネットで見られるでしょう? でもそれではダメなんです。実際に自分の目で見て、岩に触れて、川に足を突っ込んで。そうやって本物を直接、自分の五感で感じなくては、人生を変えるようなものとは出会えないんです。

もう1つは、「素晴らしい師と巡り合えた」こと。とにかく先生がよかったんです。そのプロジェクトには小野晃司さんという世界的な火山研究者の方がいて、小野さんは一緒に山を歩きながら、1つ1つ岩石を手に取り、どうやってできたのかを丁寧に説明してくれました。“自然の岩石には理屈があって、それを知ることで時空を超えた様々なことがわかる”。そんな科学の面白さを初めて僕に教えてくれたんです。それこそ、1つの岩石から何千万年前のことも分かるし、九州にいて北海道のことも分かる。学問というのは見えないことを見せてくれるもの。だから熱中するんですね。

本物の自然と良い師匠。この2つに出会ってから、僕は落ちこぼれから脱出し、これまでの10倍、勉強しました。やっぱり、心からすごいと思えるものじゃないと、人は本気で勉強しないんですよ。そういうものを勉強しないと面白くないし、身に付かない。だから、心からやりたいと思うものに出会うまでは「低空飛行」でもいいんです。人生、いつ出会うかは全くわかりません。学生時代に出会ったらラッキーだけど、僕のように社会人になってからかもしれない。人それぞれだから面白いのです。でも、誰でも必ず人生で出会う。それは間違いありません。

ではどうしたら、人生を変えるようなものと出会うことができるか。まずは今やっている仕事を楽しむことです。僕の場合も出会った時は旅行気分でした(笑)。九州の地熱プロジェクトと聞いて、「ああ、九州ってむかし修学旅行で行ったな」と遊びのような気持ちで出向いたんです。今思うと、その気楽さがよかった。なぜかというと、出会うためには“直感”が必要だからです。

会社に入ると、カリキュラムやマニュアルに沿って仕事をするでしょう? 終業後は会社の同僚としか飲みにいかないとかね。そんな生活をしていると直感が衰えてしまうんです。

仕事は仕事で一生懸命にする。でも終業後は全然違った業界の人と会ったり、美術館に行ったり、図書館で勉強したり、仕事とは違ったことをする。そうすると次第に直感は磨かれていきます。

そのポイントは、「左脳から右脳へ」です。「これだ!」と感じる力も右脳。新しいものを生み出す力も右脳です。日本の教育は左脳を鍛えることばかり。だから自分で右脳を鍛える努力をしなくちゃいけないんです。


この地層図が完成するまで、
15年の歳月を要したという。
しかしこの間の研究結果が認められ、
41歳のとき、京都大学から
教授にならないかと声がかかった。
そして、担当の講義は毎年数百人を集め、
教養科目1位の評価を得るまでになった。

夢や志は、偶然出会うもの。だから、ピンチも楽しまなくてはならない

僕自身、やる気のない学生だったからよく分かるんですが、学生たちに講義内容へ興味を持ってもらうのは難しいんです。人の集中力は長く続きませんから、飽きないように15分おきにテーマを変えたり、休憩時間に服装を変えて登場したりしています。

なぜそこまでやるのかとよく聞かれますが、僕には夢があるんです。それは「人の命を救うこと」。1990年に雲仙普賢岳で噴火が起きました。翌年、予期せぬ火砕流が発生し、43人もの命が奪われました。そのなかに私の友人でもある3人の火山学者もいたんです。

火砕流に対して最先端の知識を持っていたはずの火山学者すら殉死してしまうほど、自然というのは予測できないものなんです。2011年の東日本大震災でもそうです。マグニチュード7クラスの地震がくることは予測していましたが、実際に起きたのはその千倍もの威力があるマグニチュード9の地震でした。そしてあれほど大きな津波がくることは予測できなかった。

2014年に起きた御嶽山の噴火もそうです。あの噴火を予知できず60人以上の犠牲者を出したことは、火山学の敗北です。このことを真摯に受け止め、科学者は研究を続けなくてはならないと思っています。しかし同時に、僕にはもうひとつ重要な役割があります。それは、アウトリーチ(啓発・教育活動)。つまり研究の結果を分かりやすく一般の人々に伝えることです。

僕は雲仙普賢岳で起きた噴火災害を見て、好きな研究だけをしていてはいけない、と強く感じたんです。自然の脅威や火山の恐ろしさを一般市民に知らせることが自分の使命だと思うようになった。研究者としての目標がガラッと変わったんです。だから、そのためにできることは何でもしていこうと思っています。

夢や志があると、仕事はぐんと面白くなります。生きがいにつながるからです。でも、見つけようと思って見つかるものではありません。やはり偶然に出会うものなんですね。この偶然はいい出会いもあるけど、マイナスの出会いもある。僕も雲仙普賢岳の噴火というマイナスの出来事から、それをはね返すために未来の夢が生まれました。

人生では意外と、マイナスから夢や志が生まれることって多いんですよ。だから偶然、マイナスの出会いがあっても、プラスにとらえた方がいい。どんな出会いも自分を変えるチャンスだと思って、偶然をポジティブに変えてゆく。つまり、偶然そのものを楽しんだらいいんです。

人生は自然界の現象と同じです。人生も火山も、予測と制御が効かない場合がたくさんあります。だから予測と制御ができなくても何とかする、つまり「想定外を受け入れる力」が必要なのです。

でも、あまり難しく考えなくても大丈夫。日本は昔から地震や噴火が多い国ですよね。地面の変動が当たり前という土地柄ですが、自然災害があるとそこに住む生物は強くなる。そしてピンチがあるとさらに進化する。

つまり自然災害の多かった場所に住んでいる日本人は、変化やストレスに強いDNAを持っているんですよ。だから日本人は変化に強いんです。よって、人生でも自然界でも想定外を受け入れることには慣れている。

「ありあわせで生きる」この考え方ができると、将来が不安でなくなる

フランス語に「ブリコラージュ」という言葉があります。もともとは日曜大工という意味なんですが、「ありあわせのものでやっていこう」という考え方です。みんな「お金がないからできない」とか「環境がよくないから成長できない」とか言うでしょう? そうではなくて、今いる会社から与えてもらった仕事で、自分のやりたいことを見つけるんです。「ない袖は振れない」ではなく、「ある袖で振る」。この考え方ができると、人はたくましくなります。貯蓄なんてしなくても、将来に不安はなくなります。

後は、自分探しをやめること。やりたい仕事になかなか就けないと思っている人も多いけど、そもそも仕事というのは、「自分のやりたい仕事」が与えられるものではないのです。「あなたにやってほしい仕事」しか与えられないんです。

でも、やり続けたら必ずいいことがあります。というのは、与えられる仕事とは、オマエなら出来ると周囲が判断して与えるものだからです。その与えられた仕事をコツコツやり続けて一人前になったら、今度は社外にも目を向けてみるといい。

自分の能力を使ってどんどん社会に貢献していると、いつか「生きがい」が生まれてきます。さらに、それまで費やした労力が、他人から良い評価となって戻ってくるのです。でも、半年や1年では戻ってきませんよ。何年か何十年か先の話です。いつくるか分からないから、待つのが楽しいんです。

だから、ギブ・アンド・テイクなんて言ってちゃダメです。ギブ・ギブ・ギブの姿勢で困っている人を何年も助け続けていると、ある日突然、高い評価がやってきます。ヘッドハンティングもあるでしょうね。そこから、世の中とウィン・ウィンの関係になるんです。

ちなみに、人生の成功は3つあります。1つめは好きなことができる。2つめはそれで食べていける。3つめは人に評価される。この3つをすべて得るためには、「とりあえず採算は度外視する」精神が必要です。

そして「まあ、いっか」と「とりあえず、やってみよう」と気楽に引き受けてみる。これで大抵のことはうまく運びます。そのうち、思わぬ出会いがあり、人生が面白い展開になってきます。僕も全くそうでした。実は「想定外」が、人生に素晴らしい出会いをもたらすんですね。こうして「想定外を楽しむ」のがプロフェッショナルの生き方だと思います。

information
「一生モノの超・自己啓発 京大・鎌田流『想定外』を生きる」
鎌田浩毅著

「一生モノの勉強法」など数多くのビジネス書を書いてきた鎌田教授。しかしこれだけの大変革期において、今まで書いてきたビジネス書では通用しなくなったという。今はマニュアルは通用しなくなった時代。本書では想定外のものを受け入れ、楽しんで仕事をする術が指南されている。「必要なものはすでにあなたの中にある。今あるものを使って生きればいい」「目の前の今を楽しむことが大事」「あなたは生きているだけで価値がある」など、読んでいるうちに気が楽になってくる本だ。貯蓄するストック型の人生から、あるもので生きるフロー型の人生へ。将来に不安を感じる人、どんな時代でも生き残れるようなたくましい生き方をしたい人にとって必読の書。朝日新聞出版刊。

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
宮田昌彦

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