プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「効率よく仕事をしなきゃ、植物はダメになる。そのために必要なのは、覚悟なんです」西畠清順さん(プラントハンター)
にしはた・せいじゅん●1980年、兵庫県生まれ。明治より150年続く、花と植木の卸問屋「株式会社 花宇」の5代目。 日本全国・世界数十カ国を旅し、収集・生産している植物は数千種類。日々集める植物素材で、いけばな・フラワーデザイン・室内緑化・ランドスケープなど国内はもとより海外からのプロジェクトも含め年間2000件を超える案件にこたえている。2012年1月 ひとの心に植物を植える活動である、“そら植物園”をスタート。 さまざまな個人・企業・団体と植物を使ったプロジェクトを多数進行中。著書は『プラントハンター 命を懸けて花を追う』(徳間書店)、『そらみみ植物園』(東京書籍)など。
2015年5月13日

プラントハンターという仕事を
ご存じだろうか。
海外から珍しい植物を手に入れ、
日本へ持ってくる仕事だ。
依頼主がいる場合もあれば、
偶然見つけた植物を日本に運び、
育てて売ることもある。
日本で最も有名なプラントハンターの清順氏が
この仕事を始めたのは、
ある食虫植物との出会いがきっかけだった

「食虫植物の王様」と出会って、21歳でプラントハンターに

21歳まで植物に全く興味がなかったんです。実家は150年以上続く植物の卸問屋で、父親が4代目。実はプラントハンティングの仕事を始めたのは、父なんです。私も後を継ぐことは決まっていたのですが、中学、高校と野球三昧。卒業後も、「海外で遊んで来い」という父の言葉のまま、オーストラリアでサーフィンをして過ごしていました。

そんな私がプラントハンターになったのは、21歳の時。熱帯地方へ単身旅行をしていたときに出会ったある花がきっかけでした。

その花とは、ネペンテス・ラジャ。真っ赤な食虫植物です。ネペンテスは“食虫植物”、ラジャとは“王様”の意味ですから、合わせて訳すと「食虫植物の王様」。ボルネオ島の奥地にキナバル山という標高4000メートルを超える高山があって、そこに登った帰り道、標高2600メートルのあたりでネペンテス・ラジャを見つけました。

その圧倒的な存在感。度肝を抜かれました。これまで野球、サーフィンといろんなことに打ち込んでいたんですけど、そんな興味が吹っ飛んでしまうくらいの突き抜けた感動でした。花の大きさ? うーん、自分の中では直径2メートルほどあった気がするんですけど(笑)。写真を撮るのを忘れてしまったくらい興奮していたので、実際どのくらい大きかったかはわからないですね。

すべてを手に入れた大富豪が最後に欲しくなったもの、それが植物だった

その花と出会った後、父の仕事を手伝うためにフィリピンに渡りました。父は日本の珍しい植物を入手し、フィリピンのある大富豪に渡す仕事をしていたんです。その大富豪は、豪邸や自家用ジェットはもちろん、スーパーカーやハーレーダビッドソンを何十台、自分専用のガソリンスタンドまで持っているという、けた外れのお金持ち。その人が大金をはたいて世界中から植物を集めていると言うんです。その話を聞いた時、正直、そんなに金があるなら別のものを集めたらいいのに、と思ったんですよ。それでその人の部下に、「なんで彼はそんなものを集めているのか」と聞いてみたんです。そしたらこんな答えが返ってきた。「彼はすでに欲しいものは全部持っているんですよ。すべてを手に入れて、最後に欲しくなったもの、それが植物だったんです」と。

今なら彼の気持ちがわかります。植物って、人を引き寄せる不思議な魅力があるんです。植物のもとには人が集まってくるでしょう? それは物質では埋められない心の豊かさを与えてくれるからではないかと思うんです。そしてもうひとつ、植物は「心の状態を図るものさし」でもある。心が豊かで幸せじゃないと、植物をきれいだとは思えない。植物にはそんな重大な役割もあるんです。だからその大富豪は植物を集め続けていたのではないでしょうか。

プラントハンターの使命もそこにあると思っています。植物を通じて人の心を豊かにすること。最近ではプラントハンティング以外にも、講演や本の執筆、植物に関するプロジェクトのプロデュースなどさまざまな活動をしていますが、この使命だけは守るようにしています。逆に言うと、この使命が果たせない仕事は引き受けないようにしているんですよ。怪しい話がいっぱいくるんで(笑)、どこかで線引きをしておかないと、何のために仕事をしているのかわからなくなりますからね。


年間12〜15か国を回り、
命綱なしで木に登り、枝を切る。
油断をすると大ケガの危険もあるし、
海外の猛者を相手にする折衝も、
一筋縄ではいかない。
大変な仕事にもかかわらず、
なぜ彼は続けるのか。

プロ中のプロが認めてくれることが、大きなモチベーションになる

「一番楽しいのはどんなときですか?」とよく聞かれるんですけど、実はどの瞬間もむちゃくちゃ楽しいんですよ。珍しい植物を見つけたときも嬉しいし、見つける過程も面白いし、その植物を依頼者に届けるときも、花を管理しているときも、報酬をもらうときも楽しい(笑)。

その中でも大きなモチベーションとなっているのは、植物を通じていろんな人と出会えることですね。修業時代に言われたことがあるんです。「この仕事には、まだ“トップ”といえる人はいない。だからいい仕事をすれば、日本の小さな会社の職人でも世界の超一流の人と渡り合うことができる」と。確かにそうなんです。いい仕事をしていけば、華道家やデザイナーはもちろんのこと、いろんなジャンルの超一流の人と肩を並べて仕事することができます。プロ中のプロが認めてくれる。これは仕事をする上で大きいですね。

じゃあ、いい仕事をするにはどうしたらいいかというと、ポイントはいくつかあります。一つは「時代を見据える」こと。自分たちを含めて生産者は、単に作るだけじゃなくて、常に時代を考えて供給しなくちゃならないと思っています。デザイナーやアーティストが使いたいと思うものを先読みして持っていくということです。

例えば、バブルのころは「とにかく豪華な花もってこい!」だったけど、今は違う。IT革命後に無機的な考え方が主流になって、今はその反動で有機的な考え方が求められている。ただ美しいだけではなく、「どうしてこの木なのか」といった“背景”があることが重要になっているんです。

こういうことは、雑誌を読んでも浮かびません。そもそも雑誌を読んで木を見つけに行っても遅いですしね。だから自然と浮かんでくる感覚を大事にしています。

効率よく仕事ができることがプロの条件

あとは、「アイディアをためる時期を作る」ことですね。実は私は下積みが長いんです。21歳でこの仕事を始めてから10年間、ひたすら野山を駆け回って植物を集め続けていました。その間、全く取材は受けませんでした。もともとうちの稼業は目立ってはならない仕事とされていたんです。それもあって、いろいろ考えが浮かんでも、それを公にすることはありませんでした。

でも、ブログを始めたことがきっかけで、本を出版することになり、どんどん表舞台に出るようになったんです。3年前からは東京に「そら植物園」という事務所を作り、植物に関するプロデュースをしています。植物関係者だけでなくいろんな業界の人と一緒に植物に関するプロジェクトをするようになったのですが、想像以上にたくさんの人を巻き込むことができました。そんなことが可能になったのも、10年間積もりに積もったアイディアが自分の中にあって、それが情熱とともに一気に噴き出したからじゃないかと思います。

それから、「根を張れる仕事をする」っていうこともありますね。“1回で終わらない仕事”をするというか。仕事って、同じ人と何回か繰り返すことでいい結果が残せたり、高い目標をクリアできたりしますよね。私の場合は、植物の不思議な魅力も手伝って、一緒に仕事をしている人とむちゃくちゃ仲良くなるんです。まあ、海外の人の場合は、一筋縄ではいかないときもありますけどね。10年も一緒に仕事しているのに、金をふっかけられたりとか(笑)。もう、大ゲンカですよ。それでもね、大ゲンカしながらでも長い間一緒にやっていくことで、2人の間に生まれるものがあるんです。

最後に、「効率よく仕事をすること」です。植物は生ものですから、効率よくこなせないと命取りになる。3秒で荷造りできる仕事に15秒かけてるスタッフがいたら、「おらあ!何やってんだ」ですよ。自分も若いころ、車の切り返しが1回でできなかったら「何回やってんだ!」と怒られましたよ。職人気質っていうのもありますが、効率よく仕事ができることがプロの条件なんだと思います。プロは予算も時間も限られた中で常に結果を出さなきゃならないんですから。

じゃあ、効率よく仕事をするにはどうしたらいいかって? “覚悟”を持つことじゃないですか。覚悟があればゴールまで迷わず行ける。覚悟を軸にすれば、ぶれずに判断を下せます。プロには覚悟が絶対に必要なんですよ。それこそ一流と言われる人は、みな覚悟を持っているものですよ。

information
『教えてくれたのは、植物でした 人生を花やかにするヒント』
西畠清順著

「植物は、いかに隣にいるものを出し抜こうとしているかを常に考えている」「植物だってちゃんと向き合っていれば、声が聞こえてくる」「人が植物を好きになるメカニズムは、人が人を好きになるメカニズムと似ている」「人も植物も遺伝子で決まっている部分と、環境によって決まる部分と、両方の組み合わせによって、今日の姿や能力が変化する」「足を使うことが最高のプレゼンテーション」など、植物を扱う仕事を通じて西畠氏が感じたこと、植物から教えられたことがちりばめられた珠玉の一冊。植物も人も根本では同じ。植物のセオリーや本質を知ることで、人間を知るヒントになる。いい仕事をしたい人、必読の書だ。徳間書店刊。

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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