プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「しがらみを断ち切り、大変革を起こすなら、人に嫌われることを恐れるな」森岡毅さん(「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」著者 株式会社ユー・エス・ジェイ CMO(マーケティング最高責任者))
もりおか・つよし●1972年生まれ。神戸大学経営学部卒。96年、P&G入社。日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、ヘアケアカテゴリー・アソシエイトマーケティングディレクター、ウエラジャパン副代表などを経て、2010年にユー・エス・ジェイ入社。革新的なアイディアを次々投入し、窮地にあったユニバーサル・スタジオ・ジャパンをV字回復させる。12年より同社チーフ・マーケティング・オフィサー、執行役員、本部長。
2014年4月2日

業績が低迷していた
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を、
3年間でV字回復させた森岡氏。
社内を大改革する際に
心がけたこととは?

まずは、社員に「間違ったこだわり」を捨てさせた

私は前の会社で"野武士"と呼ばれていたんです。成果は出すけど、「お世辞が必要な」上司には嫌われる。そんな私を高く評価し、期待を持って迎えてくれたのが、CEO のグレン・ガンベルでした。2004年に経営不振から破たんに追い込まれたUSJを株式上場にまで持っていった経営のプロです。でも、自分ひとりの力では限界がある。彼は自分の右腕となる、マーケティングのプロを探していたんです。

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は開業当初こそ好調で、年間1100万人台の来場者数がありました。しかし、年々集客数が減少し、私が入社する直前の2009年には年間約700万人台前半まで落ち込んでいた。私はグレンを説得し、入社後すぐにドラスティックな社内改革を敢行。3年間で再び集客数を1000万人台にすることに成功しました。「奇跡的なV字回復!」なんて、あちこちで取り上げてもらえるようにもなった。でも、その回復は"奇跡"ではなく、苦労の連続だったんです。

USJにくるまで、私はマーケティングのプロとして外資系のヘアケア業界で成果を出していました。特に数字やデータから論理的に問題点を洗い出すことを得意としていたんです。そこで私は、入社が決まってからの数カ月間、膨大な資料を分析し続けました。

知りたかったのは、「間違ったこだわり」です。就任して一番初めに取り掛かったことは、それを社員に捨ててもらうことでした。当時のUSJには「技術のための技術」があふれていたんです。技術は顧客のニーズに則ったものでなくては意味がない。例えば、「ピーターパンのネバーランド」というショーアトラクションがあるのですが、そこで登場する海賊船は、職人がかなりのお金と時間をかけてエイジング(わざと古く見せる技術)していました。技術的には素晴らしかった。しかし、お客さんは、「ボロボロで汚い」という印象を持ってしまったんです。お客さんにマイナスの感情を持たれては意味がない。これらが「間違ったこだわり」です。

私はそんな「間違ったこだわり」を消費者理解をもとに洗い出し、限られた経営資源を消費者価値の向上に充てられるよう、無駄を排除していきました。当然、社内の反発は強かった。でも、そこでひるんではいけないんです。

嫌われても構わない。「自分が正しいと思ったことをすること」が正しい

大きな変革をするときに一番大事なこと。それは、「人に好かれようと思わないこと」です。もちろん私も人に嫌われるのはイヤですよ。でも、そんなことを考えていたら、思い切ったことは何もできません。

人に好かれようとか、誰かの顔を立てようなんて思っていてはダメなんです。みんなの意見を活かして丸くまとめようなんていうのは、カレーライスにすき焼きを混ぜて提供しようなんてもの。すき焼きを提供しようと思ったら、それを貫き通さないといけません。いくら社内にカレーライスが食べたいと言う人がいても、すき焼きで押し通す。これはもう、戦いです。いくら周囲から嫌われても、結果が出るまで戦い続けるしかない。今でも私は周りから嫌われていると思いますよ。でも、それは勲章だと思っています。結果として会社の業績も上がったし、従業員の給料も上げることができた。みんながハッピーになった。それでいいんだと思います。

みんな、子どものころから人の顔色をうかがい過ぎなんです。親や先生の期待にこたえようとして、自分の意志を貫くことに慣れてない。私はこれまでたくさんの失敗をしてきましたけど、それでわかったことは、「正しいかどうかは、他人が決めることじゃない」ということです。「自分が正しいと思ったことをすること」が正しいことなんです。

今までのやり方を変えるのはしんどいことです。変えさせる私だってしんどい。でも、「嫌われていいんだ。だって正しいことなんだから」と思うと、強くなれます。それで1つ1つ結果を出していけば、人はついてきてくれる。より多くの人を巻き込んでいけるんです。


森岡氏は、マーケティングの
プロフェッショナルとして、
USJにヘッドハンティングされた。
その手腕は、ヘアケア業界で
勇名とどろくほどだった。
どうして、そのようなキャリアが
歩めたのだろうか。

チェックメイトの盤面を明確にし、最初の一歩を踏み出す。これはキャリアでも同じ

私は趣味でチェスを打つんですが、勝てるときは、最初に「チェックメイトする盤面」が見えているんです。その盤面に行きつくように、さかのぼって最初に打つ手を考えていきます。これはビジネスでも同じです。チェックメイトの姿、つまり、目的を明確にしてから、それに行きつくまでの道筋を逆算して考えていく。必ず、ゴールから考えることが大事です。

これはキャリアでもいえることだと思いますよ。まずはゴールを明確に描く、つまり成功を定義することが大事なんです。キャリアでの成功って人それぞれでしょう? 自分にとっての成功は何なのか。まずはそれを考え、今日やる仕事を決めていく。よく「今日一日が幸せだったらいい」とか、「与えられたことだけを必死にやればいい」なんていう人がいますが、私はそのやり方はできません。ゴールを定めていないと不安になります。どこに向かっているかを明確にしてはじめて、今日の一歩を踏み出せるんです。

ただ、ゴールは途中で変わってもいいと思います。私の場合もそうでしたから。20代で今の姿を描いていたかというとそうではありません。その都度ゴールは明確に描いていましたが、必要に応じて何度も変わっていった。それでいい。でも、ベースプランがないまま歩き出すのでは、あまりに無駄が多いし、大したスキルが身に付かないと思います。

まあ、これは私のやり方ですから、違う人もいると思います。天才的に、直感で物事を判断し、その場その場でいろんなことを生み出せる人もいますよね。それぞれに合ったやり方があると思う。大切なのは、自分に合ったやり方を見つけることなんです。

向き不向きを知って、それを活かせる場所に行けば、人は成功する

私がこういったキャリアを積んでこられた理由をあげるとすれば、「自分の向き不向き」を把握して、「活躍できる環境」を選択していたからなんですね。そのためには、たくさんの経験が必要です。成功体験だけでなく数多くの失敗経験があれば、自分に向いたやり方がわかってきます。

私もたくさん失敗しましたよ。例えば、ヘアケア業界でマーケティングに従事していたころの話です。40歳を過ぎた女性のハリやコシのない髪の悩みを解決するためのシャンプーを開発しました。でも、結果は惨敗。発売前の調査では、確かにニーズがあったのに。発売後、1対1で顧客の声を聞いてわかりました。女性は「40歳を過ぎた人のためのシャンプー」と言われると買いづらいんです。メーカー側は女性の問題を解決したつもりでも、消費者の気持ちを理解できていなかったんですね。これで何十億円の損失です。クビにならなくてよかった(笑)。こういう失敗がさせてもらえるのは、いい会社だと思います。

これら多くの失敗は、私に自分の強みと弱みを教えてくれました。私は論理的に考えるのは得意ですが、共感性が低い。消費者がどう感じるかが感覚的にわからないんです。でも、弱みがわかったことが大きな収穫なんです。あとは開き直ればいいんですから。共感性が低いなら、論理的にニーズを探ればいい。だから私はとにかくデータを重視し、さまざまな角度で切り取って仮説検証を繰り返します。

誰にも「特徴」があります。それがよく働くか悪く働くかは、「文脈」が決めています。「文脈」とは、環境と言い替えたらわかりやすいでしょうか。自分の特徴が生きる文脈に行くことができたら、人は成功します。自分の場合もそうですよ。USJに入社するとき、社長のグレンと会って、自分と同じ野武士のにおいを感じたんです。この会社なら、説得する上司が少ない。社内政治(根回しや合意形成)に時間をかけすぎずに、自分の信じた道で改革を進めたいタイプの私にうってつけの環境だ、これはいける、と。若い人も自分の特徴が活かせる場所にどんどん移っていけばいい。成功者はみんなそうやって腕を磨いて、キャリアを築いているんですよ。

information
「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」
森岡毅著

2年連続、年間100万人以上の集客増を実現したマーケティングのプロ森岡氏のアイディア発想術が詰まっている本。タイトルにもなった「後ろ向きに走るジェットコースター」など、起死回生のずば抜けたアイディアはどこから生まれたのか。マーケティングの基本がわかりやすく書かれているので、ビジネスの入門書としてもおススメの一冊だ。また、就任直後に震災で大打撃を受けるなど、数々の困難を経て実現した大改革も詳細に書かれている。厳しい時代に生き残る戦術が満載の本なので、リーダー論としても価値が高い。20代〜50代まで、どの世代であっても学びが多い本。ぜひご一読を。
KADOKAWA刊

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
宮田昌彦

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