プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「プロフェッショナルが本気でぶつかり合うとイノベーションが生まれる。それが1粒1000円のイチゴとなった」岩佐大輝さん(農業法人GRA代表取締役CEO)
いわさ・ひろき●1977年、宮城県亘理郡山元町生まれ。大学在学中の2002年、24歳でITコンサルティングを主業とする株式会社ズノウを設立。東日本大震災をきっかけに、農業法人GRAおよびNPO法人GRAを創設。先端施設園芸を軸とした東北の再創造をライフワークとする。現在、日本およびインドで5社のCEOを務める。専門はITサービスマネジメント。経営学修士MBA。
http://www.gra-inc.jp/index.html
http://www.gra-npo.jp/
2014年1月22日

東日本大震災で被害にあった町を
救うために生み出された、
1粒1000円のイチゴがある。
ITを駆使してつくられた
高糖度の「ミガキイチゴ」だ。
生みの親である
農業法人GRA代表・岩佐大輝氏に聞く。

育った場所が破壊され、遺体が並ぶ風景を見て決意した

3年経った今でも、震災の時に見た風景は現実として受け止められていません。震災当日は東京の自宅にいたのですが、宮城県南部の山元町にいる両親と連絡が取れず、心配な気持ちのまま出社。会社のメンバーと緊急連絡用のポータルサイトを作って両親からの連絡を待ちました。しかし、翌日になっても連絡がない。安否を確認するために地元、宮城県の山元町に車で向かったんです。

地元に帰ると、育った場所のほとんどが破壊されていて、道には車や遺体がたくさん転がっていた。その横を自衛隊の車が走っていて、現場は異様な空気が流れていました。山元町はイチゴが特産なんです。でも、きれいなイチゴ畑は見る影もなく、がれきの山となっていました。

幸い両親は無事だったんですが、多くの仲間や友人を失ってしまった。そのなかで「今、自分がここに生きている」っていう感覚…、どうしようもなく突き動かされるものがありました。

これまでITコンサルの会社を10年間経営してきて、大学院でMBAも取得して、そういうスキルを今ここで使わずに、何のために生きてきたのか。僕には、ここにエネルギーを投じない人生の選択肢というものはありませんでした。

僕が最初の会社を立ち上げたのは、大学在学中の24歳の時です。中小企業向けITシステムの設計・構築・運用までをカバーするITコンサルの会社を起業。たまたま同じような会社でアルバイトをしていたことがきっかけです。当時、その分野は需要に比べ供給が極端に少なく、自分がやったらもっと上手くできるんじゃないかと思って起業しました。もともとコンピュータは得意分野でしたから。

10年間で会社は順調に成長、上場に向けて準備をしていました。当時の夢は、会社を大きくして、経済的な成功を収めること。どちらかと言うと、ソーシャルよりもエコノミーなことを考えている典型的なIT会社の経営者だったと思います。

でも、あの風景を前にした途端、変わりました。使命を感じたんです。亡くなった1万人以上の方、その人たちが見ることができなかった新しい東北をつくらなくてはならない。それがわれわれ生きている者の責任なんだと、強くそう感じて。

農業を産業として飛躍させるには、IT化、ブランド化が必要だった

「新しい東北」というのは、原状復帰とは違います。東北が日本の中での先進地域になることです。もっと言うと、世界の中での先進地域になること。その地位が築けて初めて復興したと言えるんです。

実は山元町は、もともと過疎化の問題を抱えていた場所でした。山元町は東北で冬の日照時間が一番長く、イチゴ栽培に必要な条件が揃っている地域です。そのため、盛んにイチゴ栽培がおこなわれていました。でも近年、若い人の農業離れで人口がどんどん減っていた。そこに震災でしょう?復帰しても、人口が減っていく状況は変わりません。抜本的な改革、農業を産業として改革する必要があったんです。

キーワードは、農業のIT化とブランド化です。これまでイチゴ栽培は、「匠の技」で行われていました。ベテラン農家が適切な温度と湿度を肌で感じて感覚で作っていた。でも、見て感じて覚えろでは、若い人はなかなかついてこない。だから、農業離れ、そして過疎化が進んでしまったんです。

そこで僕たちは、地元のベテラン農家の人に協力してもらって、「技」の数値化・データ化を始めました。ベテランでなくとも質のいいイチゴを安定して収穫できるようなシステムがあれば、産業として成り立ちますから。

2011年3月に活動を開始し、ほぼ1年かけて山元町のイチゴ産業の問題点を洗い出しました。そのために九州から東北の端っこまで、日本中の有力なイチゴ農家や研究機関の視察をして回ったんです。最終的にはIT農業の先進国オランダにも訪れ、戦略を練りました。

加えて、力を注いだのがブランド化。これまでは「仙台イチゴ」としか謳っていなかった商品に「食べる宝石」というコンセプトを加え、「ミガキイチゴ」に改めました。

このIT化による品質改善とブランド化が成功すれば、商品に付加価値がつく。今、われわれのイチゴはそれらに成功して、最高で1粒1000円という価格で売れています。

ただ、震災が起こらなければこんなことはしなかったと思います。農業は、農地法という規制もありますから、民間企業の参入は難しい業界なんです。

研究用の園芸施設を設立するため約5億円の投資をしたんですが、普通に考えると投資に対するリターンは、ほかの業界より少ない。そこにあえて挑戦しようとしたのは、やっぱり山元町をなんとかしたい、東北をなんとかしたいという強い思いがあったからなんですよ。

やっぱり仕事には、大きな志が必要なんだと、つくづく思います。志があれば、人もどんどん集まってきます。志が確固としたものであれば、無理じゃないかと誰もが思うようなことでも実現できる。生きがいという意味でもそうです。志を持って生きていけば、人生は豊かになる。そのために安定を捨てることになっても、そのほうがずっといい人生を送れるのではないかと。この事業を始めて、そう思うようになりました。


「1万人の雇用を創出する」。
その志をもとに始まったイチゴ栽培は、
1年間で1億円の収益を上げた。
2012年からはインドにも進出、
貧困地帯でイチゴ栽培を成功させ、
新たな雇用も創出した。
成功の要因は何だったのか。

プロフェッショナル同士がぶつかり合うと、イノベーションが生まれる

僕が仕事をする上で一番大事だと思うのは、「セレンディピティ(何かを探しているときに、別の価値があるものを見つける力。偶発力ともいう)」を起こす場を作ること。

そのための条件は3つあります。1つ目は、「まず動く」こと。動けば何かが起こります。動くことでセレンディピティが誘発され、思ってもみなかった良い出来事に巡り合える可能性が高くなるんです。だからまずは行動してみることが何より大事だと、僕は思っています。

2つ目は「ひとりではなくチームで物事を進める」こと、そして最後は「多様性を受容する」ことです。

「多様性」というのは、何かのスキルを持ったプロフェッショナルたちが集まる場ということです。いい成果を出すためには、組織は常にプロフェッショナル集団でなくちゃいけないと思っています。

例えば、イチゴの広告を作るとき、素人が集まって何時間も考えるより、プロのコピーライターとアートディレクターが、その何時間のうちの5%の時間を使ったほうがはるかにいいものができますよね。「素人の100%よりもプロの5%のほうがパフォーマンスが高い」ということです。

実はGRAには、「プロボノ」(スキルを活かして社会貢献する専門家)と呼ばれるボランティアの人たちが、700人近く登録しています。私たちは、その人たちの力を活かす場、つまりプラットフォームを作って事業を運営している。だから、短期間で大きな事業をいくつも同時に回すことができたのです。

効率だけの問題ではありません。プロフェッショナルが集まると、そこにイノベーションが起きます。何か持っている人たちが本気でぶつかり合うと、今まで存在しなかった面白いアイディアや価値ある発想が湧きあがってくる。これは貴重です。

イチゴ栽培のIT化にしてもそうです。この事業は、ITの専門家だった僕と、町の福祉協議会で働いていた橋元洋平(現株式会社GRA取締役副社長、COO)、そしてイチゴ作り35年のベテラン農家の橋元忠嗣さんと3人で始めました。全く分野の違う3人の専門家がそれぞれの方法で解決策を考え、それを融合させたから、イチゴ栽培の数値化、データベース化を思いついたし、実現することができたんです。ケンカもたくさんしましたけど(笑)。

成長するために、自分が批判を受けやすい環境に身をさらす

仕事が面白くないと感じる人は、今の職場から離れて、プロフェッショナルが集まる場所に身を置いてみるといい。職場を変えなくてもできることはあります。プロボノみたいな場所でもいいし、MBAを取りに大学院に行ってもいい。それは日本でもできます。最前線で働いている人たちばかりの集まりの中に身を投じて、自分のバリューというのを、もう一回見つめ直してみる。そうすると、やるべきことも見えてくるし、仕事もぐんと楽しくなります。そうすることが成長につながってくるんだと思います。

もうひとつ、成長するための特効薬をあげると、それは「自分が批判を受けやすい環境に身をさらす」ということです。批判って嫌なものに感じるけれど、実はそうじゃない。「社会からのフィードバック」なんですよ。僕は「極を取る」という言い方をしているのですが、ソーシャルメディアを使って、あえて「極端な意見」を発信しているんです。もちろん、批判も賞賛もたくさん来ます。でも、そうすることで、自分が主張している考えの甘い点や弱い部分がわかるんです。結果、考えをブラッシュアップすることができます。

批判を恐れてあいまいな意見しか言えない人が多いけど、成長するには「考えを言語化すること」がすごく大事。それは自分を客観視するために役立つからなんです。そうやって自分自身をいつも見つめることで、今、自分が何をすべきか、自然とわかってくるんですよ。

information
スパークリングワイン「ミガキイチゴ・ムスー」

「食べる宝石」をコンセプトとして作られた新ブランド「ミガキイチゴ」。2013年グットデザイン賞を受賞し、メディアの注目を集めた。そのイチゴを使ってスパークリングワインが作られた。香料や着色料は使わず、イチゴ100%にこだわったワイン。イチゴ本来の「赤」を活かした、華やかなサーモンピンクが特徴。
【容量】720ml 【原材料】宮城県産イチゴ100%
【味】やや甘め 【炭酸】やや強め 【アルコール度数】12%
【販売価格】3,150円(税込)
http://store.shopping.yahoo.co.jp/migaki-ichigo/wine0001.html

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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