プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「プロ意識だけではダメ。イノベーションを生むのは理想を追求する「アマチュア性」」大平貴之さん(プラネタリウム・クリエーター)
おおひら・たかゆき●1970年生まれ。大学時代にアマチュアでは例のないレンズ投影式プラネタリウム「アストロライナー」の開発に成功。就職後も製作を続け、1998年に150万個(最終形は170万個)の星を映し出す「MEGASTAR(メガスター)」をIPS(国際プラネタリウム協会)ロンドン大会で発表し、話題に。2004年には日本科学未来館と共同開発した、 投影星数560万個のMEGASTAR-II cosmos がギネスワールドレコーズに認定された。セガトイズと共同開発した世界初の光学式家庭用プラネタリウム「HOMESTAR」シリーズは世界累計65万台(2013年4月時点)を超える大ヒット商品となる。 2008年6月には投影星数2200万個のSUPER MEGASTAR-IIを発表。2010年10月にはインド・ニューデリーに海外初常設設置するなど海外でも活躍。和歌山大学客員教授、相模女子大学客員教授。
2013年11月6日

「世界で最も先進的な
プラネタリウム投影機」として
ギネス認定された
「MEGASTAR(メガスター)-II」の開発者である。
小学生でプラネタリウム製作に目覚めてから、
30年近く作り続ける
敏腕エンジニアの「プロ論」とは。

プロとアマチュアの世界、両面を見てきたから、今がある

よく、「プロの世界はすごい」っていいますよね。野球やゴルフなどスポーツの世界でもアマチュアよりプロのほうが技術的に優れていることが多い。じゃあ、良い仕事をするにはプロに徹すればいいかというと、実はそうでもないんです。これまでの自分を振り返ってみると、「プロとアマチュア両方の側面を持っていたこと」がよかったのではないかと思っています。

僕はもともと、プラネタリウムを趣味で作っていたんです。作り始めたのは、小学校4年生の時。近所の文房具屋で夜光塗料を見つけたのがきっかけです。化学実験に興味を持っていた僕は、それで星空を作ろうと思い立ちました。

最初はオリオン座。5ミリくらいの小さな円形の紙に蛍光塗料を塗って、オリオン座の形にならべて明かりを消してみた。そのとき初めて、星空を自分の手で作り出すという感激を知って、そこからずっと星空を作り続けてきたわけです。蛍光塗料が電球に変わり、ピンホール式プラネタリウム、レンズ投影式プラネタリウムへと少しずつ進化させながら。

なんでも熱中する性格だったから、小学生のころレンズを手に入れるために、電話帳片手に片っ端からレンズメーカーに電話して、余っているレンズを譲ってもらったこともあります。一時はプラネタリウムだけじゃなく、ロケット製作にはまったことも。ロケットも、親に買ってもらった火薬で何百回と実験を繰り返し、ついには高校の卒業式でロケットの打ち上げをして。先生にはひどく怒られましたよ。当たり前ですよね、非常に危険な行為ですから。けが人が出なくて本当によかったと思います。

少し本格的なプラネタリウムを完成させたのは、高校1年生の時です。直径3メートルの傘の中に自作の投影機を入れたピンホール式プラネタリウムでした。文化祭で披露したのですが、BGMを流して自分で星空の解説もして。

大学では1年休学して、個人では作った人のいなかったレンズ投影式プラネタリウム「アストロライナー」を製作し、学園祭で公開しました。このころから数多くのマスコミに取り上げられ、学外の方から「うちで投影してみないか」と、声をかけてもらえるようにもなったんです。

「手の抜きどころ」を知っているのが、プロの良さ

こうして、わずかながらプラネタリウムでお金を稼げるようになったのですが、プロ意識が全くなくて失敗することもありました。初めて意識したのは、大学4年生の時です。ある企業のイベントで上映会をすることになったのですが、渋滞で集合時間に遅れてしまって。そのとき、ものすごく怒られましてね。お金をもらうというのは本当に厳しいことなんだと、つくづく感じました。

仕事の進め方もそうですよね。プロとアマチュアでは違います。大学生の時に、電源メーカーでアルバイトしたのですが、プロの仕事に面食らいました。それまで自分は、数式を駆使してプラネタリウムを理論的に作っていたんです。それがプロの現場を覗いてみると、経験則というか、カンに頼って作っていた。プロは高度なコンピュータを使って計算ずくでやっているのかと思っていたけど、いざ現場に入ってみると「う〜ん、このくらいでいいんじゃない?」みたいなアバウトな感じで(笑)。それでも、ちゃんと製品ができ上がっている。

でも、プロの世界ってそうじゃないと成り立たないんです。ガチガチに理詰めで作っても時間を食ってしまって、納期に間に合わない。人件費もかさむから利益も出ない。プロとしてやっていくためには、どこに力を入れてどこで手を抜くかわかっていなくちゃならないわけです。これを知ったことは、その後の活動にとって大きな収穫でしたね。


大学院を出て、電機メーカーに入社。
生産技術部で設計の仕事をしながら、
プライベートでプラネタリウム製作に没頭。
国際プラネタリウム協会の大会で披露した
150万個の星を投影する「MEGASTAR」が
絶賛され、一躍有名人に。
これは「アマチュア精神」の賜物だった。

アマチュアの自己満足が、ギネス認定された「MEGASTAR‐U」を生んだ

大学院を卒業した後は、電機メーカーで会社員をしながら、プライベートの時間をほとんど使って、プラネタリウム作りに没頭していました。それこそ、恋人を作る時間もありません。そのせいか、42歳でいまだ独身です(笑)。

転機となったのは、国際プラネタリウム協会が主催する大会に出たこと。最初は大阪大会で自作のプラネタリウムを披露したんですが、評判は上々。国内外のプラネタリウム関係者から声をかけてもらって、次のイギリス大会にも出ることになりました。そこで披露したのが、大人一人で運べる重さと大きさで、150万個の星が投影できる「MEGASTAR」。当時は肉眼で見える範囲の1万個前後の投影が一般的でしたから、会場でずいぶん驚かれました。

自分がプラネタリウムで生活しているプロだったら、そんな多くの星を投影しようなんて思わないと思います。だって、149万個の星は肉眼では識別できないんですから。でも、実際の星空の臨場感を出すには、星はできるだけ多い方がいい。そう考えて改良を続けたわけです。言ってみればアマチュアならではの自己満足(笑)。でも、MEGASTARはアマチュアだったからこそ、生まれたものなんですよ。

プロ意識だけでは、イノベーションは生まれない

結局、プロとアマチュアの違いは、「誰を満足させるか」だと思うんです。プロは、「お客さんの満足」を目指す。アマチュアは、「自分の楽しみ」のため。この違いです。

プロはお金をもらってやっていますから、お客さんに満足してもらうためには、高い技術を必要とされる場合が多いわけです。だから、必要に迫られて日々、鍛錬するようにもなる。

これはプロとしての良い部分なんですが、悪い部分もあります。それは「顧客ニーズへの最適化」なんです。例えば、お客さんがスイッチを小さくしてほしいと言っているからとりあえず改良しようとかね。プロの世界では、顧客の要望を聞いて、技術が進歩していくんです。要は、プロは「ニーズに合わせて種を品種改良する人」です。これは、成熟したものに対して完成度を上げていくには正解なんですけど、イノベーションを生もうとすると、逆に足かせになってしまう。プロ意識だけだと、「はじめに種をまく人」にはなれないんです。

僕が「MEGASTAR」をイギリスで発表したときは、まだ会社員でしたからアマチュアとして製作していたわけです。だからこそ、肉眼では1万個しか見えないにもかかわらず、150万個の星を見られるようにした。アマチュア精神の産物なんですよ。プロだったら、顧客の用途に合わせて、予算内でなるべく早く、自社の利益も出るように、と考えていくと思います。でもアマチュアは、自分のお金で自分が作りたいものを、時間をかけて作る。だからこそ、これまでになかったものが生まれるんです。

だからプロであっても、みんなが驚くような良いものを作りたければ、アマチュア精神が必要です。プロならではの「自分の作りたいものより顧客ニーズを優先させる」意識がモノづくりを邪魔してしまう。それはもったいないことですよね。

「誰かの役に立つものを作りたい」。それがモノづくりの本質

一方で、アマチュア精神で自分の作りたいものだけを作っていればいいかというと、そうでもない。それだけではいつか満足できなくなるんです。僕は2003年に会社を辞めて、プロのプラネタリウム製作者となりましたが、それは「より多くの人に喜んでもらえるものを作りたかったから」なんですよ。

ロンドン大会に出た時、「すごい、感動した」とみんなから言われる一方で、「実際にどこで見ることができるの?」と聞かれて、何にも答えられない自分がいました。確かに自己満足はしたのですが、それだけでは物足りなくなった。それから、「このプラネタリウムを実用化するには、どうしたらいいか」を真剣に考えるようになりました。

結局、自分一人の楽しみだけでは、最終的な満足は得られないということです。以前、「あまりに星空が素敵過ぎて、隣にいる恋人と結婚したくなりました」と感想をくれたお客さんがいましたけど、すごく嬉しかったですね。

やっぱり自分の作りたかったもので、満足してくれる人がいて初めて、本当の大きな喜びが生まれる。自己満足だと喜びは小さいんです。「誰かの役に立つものを作りたい」。それがモノづくりの本質なんだと思いますよ。

information
「移動式宇宙体感シアター SPACE BALL」

プラネタリウム・クリエーターの大平貴之氏が開発プロデュースを手がけ、全身が星空に包まれる移動式宇宙体験シアター『SPACE BALL』。宇宙空間を自由に旅することができる世界初の移動式全天球シアターだ。 会場には、直径約10メートルの球形スリーン内部にガラスでできたフローティングステージがあり、前後左右、上下と全身が果てなき星空と映像、立体音響に包まれるという。世界最高峰の宇宙データベース「Uniview」開発者の高幣俊之氏と、『HAYABUSA-BACK TO THE EARTH』監督の上坂浩光氏と大平貴之氏が共同制作。JAXAの協力により実現した最新の衛星画像と宇宙からの映像を使用し、リアルな宇宙の旅を再現。貴重な宇宙体験ができる貴重な機会だ。

日程:2013年8月20日(火)〜11月17日(日)
会場:豊洲IHIビル1階アトリウム
詳細はhttp://tx.spaceball.jp

WRITING/EDIT
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
和田佳久

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