




六本木ヒルズや日本橋三井ホールなどで
開催され、延べ215万人を動員した、
観賞魚を使った水中アートの展覧会
「アートアクアリウム展」。
そのプロデュースを手掛けるのが、木村氏だ。
アートアクアリストという
世界初の職種は、どのように生まれたのか。

「大学なんか行かずに、このまま店を続ければ」で事業部長に
最初の転機は、19歳の時。近所に謎の熱帯魚店を見つけて。昼間はいつも閉まっていて、夜だけひっそり開いている。当時私は浪人生で、ちょうど自分の部屋で熱帯魚を飼い出したところだったので、どうにもその店が気になって。思い切って入ってみると、壁一面に見たこともない珍しい熱帯魚がたくさん置いてあったんです。お店の人に話を聞くと、昼間は別の仕事をしていて、半分趣味のような形で夜だけお店をやっているという。
そういう店でしたから、雑誌や本でしか見たことがないようなマニアックな魚がたくさんいて面白い。どんどん熱帯魚にのめりこんでいったんです。
そうするうちに、お店の人から「昼間、アルバイトしてみない?」と言われまして。日中は店を任されていたので、自分で試行錯誤してみたところ、お客さんがついて売り上げは上り調子。そろそろ本格的に受験勉強しなくちゃならない時期なのに、辞めると言い出せなくなって(笑)。お店の人からも「大学なんか行かずに、このまま店を続ければ」と勧められて、結局、進学せずに、店のオーナーの会社でアクア事業部を立ち上げることを条件に、そこの事業部長として働くことになりました。
その会社に就職することにしたのは、熱帯魚が好きだったというより、インターナショナルに活躍できる仕事だと思ったからです。ほとんどの熱帯魚は海外から仕入れます。小売りだけではなく、小売店に魚を卸す問屋、そして海外の原産地で魚を仕入れ輸出するシッパーと、仕事の幅を広げていけば、いろんな形で世界を相手に仕事をすることができる。もともと私は海外志向が強かったのですが、海外旅行なんて行ったこともなかった。それだけに世界に憧れていたのかもしれません。
その会社には5年間在籍し、独立しました。その後は、フィリピンで1年半、観賞魚のシッパーをやって。本当に生死をかけた大変な仕事でね。命からがら帰ってきた(笑)。帰国後は、海水性熱帯魚の小売店向けコンサルタント業を始めました。単に熱帯魚を売るだけでなく、売り場の設計デザインや、仕入れや飼育のアドバイスをしながら世界各地の珍しい海洋性観賞魚を輸入販売する仕事です。「日本初入荷」なんていう魚もたくさん仕入れましたよ。当時、そういう仕事をする人がいなかったので、需要は多かったんです。それから4年間、寝る暇もなく働きました。20代は本当にがむしゃらに働きましたよ。やっぱり好きなことで食べていくなら、時間を惜しまず働かないと。待遇とか、給料とかを考えていたら、次のステージに成長していくのは難しいと思います。
やりつくした感に襲われて、28歳でセミリタイア
2回目の転機は28歳の時です。急にやりつくした感に襲われて。1年半、セミリタイアしたんです。そこからは日本と世界を旅して、とにかくいろんな人に会い、いろんなものを見ました。特に影響を受けたのは、芸術家や建築家、デザイナーといったアート関係の人々。そういう人たちと交流を持つようになって、自分もゼロから何かを作り出すことがしたくなったんです。
流通業は、「右から左に商品を流す」ことで利益を生む仕事です。それでは飽き足らなくなってしまったんですね。それで、自分には何ができるのかいろいろ考えた。その結果が、「アートアクアリウム」でした。もちろん今のような形がすぐに浮かんだわけではありませんが、漠然と「アート」「デザイン」「エンタテインメント」という自分が興味を持っている分野と、これまで仕事で培ってきた「アクアリウム」の分野を融合できないかと、方向性だけは決めていました。
とはいえ、すぐには実現できません。構想を温めながら、新たなビジネスで再出発しました。実は以前から、観賞魚の最前線で働くなかで、海洋保全を全面に打ち出して観賞魚に新しい価値を生み出せないか、と考えていたんです。そこで、数年前に見学に行った米国ハーバーブランチ海洋学研究所の養殖海水魚「ORA」を、日本に輸出するビジネスを思いつきました。これは当時の日本では新しい発想だったので、浸透させるのは難しいと思っていたのですが、ちょうど映画『ファインディング・ニモ』でクマノミの人気に火がついたこともあって大成功。テレビや新聞など数多くのメディアにも取り上げられ、自分自身の知名度も上がっていきました。そうして資金や協力者を集めながら、「アートアクアリウム」の実現に向けて動いていったんです。
そのうちに観賞魚業界のイベント事務局を任され、さまざまなイベントを手掛けるようになりました。そこでは、観賞魚とアートとを結びつける試みを行い、観賞魚業界のイメージを変えようと尽力しました。例えば、今まで「水中レイアウトコンテスト」という形で行われていたイベントを「水中アート」という形で、タイトルのついた作品として発表する機会を作ったり。そういった「アクアリウム」と「アート」を結びつける試みが実を結び、六本木ヒルズで「アートアクアリウム展」として実現することとなりました。



「アートアクアリウム」という
新しい世界を創った木村氏。
観賞魚、水槽をはじめ、
映像、音楽、ライティング、空間構成も
自らデザイン、および監修した
「アートアクアリウム展」を開催。
有料入場者、延べ215万人を動員した。
夢を叶えるために、実践してきたこととは?

「こうなったらいいな」を、「憧れ」ではなく「自分ごと」にする
「こうなったらいいな」と思うこと、誰にでもありますよね。でも多くの人は、それを「憧れ」で済ませてしまうんです。私の場合、すべて「自分ごと」にしてきました。どんなことでも「いいな」と思ったことは絶対実現できると本気で思っていたし、いつもそのためにどうすればいいかを具体的に考えていました。
夢をかなえたいという人によく言うのは、「夢を口にすること」。私はいつもかなえたいことはすべて、他人に話していましたよ。不思議なことに、口に出すと、数年後にチャンスがやってくる。もちろん、ただ、ボーっと待っていてもダメ。どうしたらそこに行きつけるか、手段を考えながら、一つずつできることから始めるんです。要は準備ですね。そのうちに、チャンスが向こうからやってきます。それがチャンスかどうかを見極めるためにも、しっかり進みたい方向性を決めて、自分の軸にしておくといい。
あとは、「チャンスだ」とピンときたことに対しては失敗を恐れずに、どんどんチャレンジしていくだけです。たくさん失敗もしましたが、「自分はこうなりたい」という軸をしっかり持ち、その軸だけはぶれないようにして、後は起こったことにフレキシブルに対応していく。それさえ守っていれば、大抵のことは何とかなります。
自分の軸をしっかり持つためには、「いつも好きなものに囲まれておく」といいですよ。日本橋で開催した「アートアクアリウム展」で金魚をテーマにしたときも、家の中には、大好きな江戸時代の資料や着物など、好きなものがいつもあふれていたから。そこから派生して「花魁」など作品のテーマがいくつも生まれました。
フェラーリ好きが高じて、貯金をはたいて思い切ってフェラーリを購入したこともあります。28歳でセミリタイアしたときです。でも、それが縁で、自分が素敵だなと思う人や価値観が合う人とたくさんつながりができた。自動車業界へのパイプもできて、2009年には東京コンクール・デレガンス、その後もジャパン・クラッシック・オートモービルなどの総合プロデュースを務めることもできたし、フェラーリ社主催のコンコルソデレガンツァの審査員にもなることができました。やっぱり、「好きなものに囲まれる」と自然と道が開けていくんですよ。
「子どものころの遊び」に、センスの種がある
よく「センスはどうやって身につけるのですか」と聞かれますが、センスは成人になって手に入れるものではなくて、すでに子どものころに身に付いているものだと思うんです。自分の過去からそれを探して、あとは磨いていけばいい。見つけるヒントは、「子どものころの遊び」にあります。私の場合は、昆虫など野生の生き物を捕まえて飼うのが好きだった。それが今の仕事にセンスとして活かされています。
そのセンスに、「子どものころに欲しいと思っていたもの」が加わると最強です。私の場合でいうとインテリアかな。子どものころは自分の部屋がなかったから、ずっと自分の部屋がほしくて、インテリアにも興味を持つようになったんです。それが高じて、デザインやアートへの関心とつながっていきました。私は美大を出ているわけではありませんから、アートやデザインは独学です。仕事の合間をぬって、いろんなものを国内外に見に行ったり、いろんな本を読んだりして身につけていったんです。誰に頼まれたわけでもないのに(笑)、たくさんの時間とお金をアートやデザインの勉強に費やすことができたのは、やはり、子どものころから欲していたことだったからかなと。
子どものころに「夢中になったこと」と「欲しかったもの」。何をしたらいいのかわからない人は、この2つを自分の過去から探してみるといい。これらは誰にでもあると思います。そこに天職のヒントは必ず隠されているんですよ。


2013年夏、東京日本橋で50万人、名古屋で30万人を動員した「アートアクアリウム」。江戸時代から日本人に親しまれてきた"金魚"をテーマに、和をモチーフにデザインされた水槽と、光・映像など最新の演出技術が融合した水中アートの展覧会。この大人気のイベントが、2014年も7月から9月にかけて、日本橋で開催することが決定。日本各地での開催も計画中。詳細はホームページやFacebookにて随時発表される。
HP: http://h-i-d.co.jp/art/
Facebook: https://www.facebook.com/artaquarium1
- WRITING/EDIT
- 高嶋ちほ子
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 和田佳久


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