プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「いつも楽しくあること。それができる人のところに人もお金も集まってくる」笠原将弘さん(日本料理「賛否両論」店主)
かさはら・まさひろ●1972年生まれ。高校卒業後、「正月屋吉兆」で9年間修行を積む。28歳のときに父が亡くなると、実家の焼き鳥店「とり将」を継いで繁盛店に育てる。2004年、日本料理「賛否両論」を恵比寿にオープン。毎月1日に翌月の予約が埋まるという人気店に成長させた。NHK「キッチンが走る!」などテレビにも多数出演。今年9月には名古屋店がオープン予定。近著に『ひき肉も、俺に任せろ!』(レタスクラブMOOK)などがある。
2013年9月4日

予約の取れない店として有名な
恵比寿の日本料理店「賛否両論」。
その店主が笠原将弘氏だ。
テレビや雑誌などでも
引っ張りだこの彼に、
「仕事で最も大切にしていること」を聞いた。

笠原の磨いた鍋は、きれいじゃないか

僕が一番大切だと思うのは、「いつも楽しそうにしている」ことです。お店だって、まずは楽しそうなお店にしなきゃいけない。店のトイレに「店主のひと言」を貼ったりしてね。料理だって同じです。いつも自分もお客さんも楽しめるように、新しい料理を考えている。楽しく作らないと料理は美味しくならないというのもありますが、楽しそうにしていたら、仕事も人もお金も集まってくるんですよ。子どものころ、遊ぶんだったら一番楽しそうにしているグループに混ざりたいと思いましたよね。大人が仕事をするときも同じなんです。楽しそうにしていたら、そこに何でも集まってくる。わざわざ自分から取りに行かなくてもね。

こんなことを意識するようになったのは、「正月屋吉兆」で修行を始めてからです。同期が5人いましたけど、4人は調理師学校を出ていて、僕だけ高卒で何も知らない状態。漫画によく出てきますよね。修業先でいきなり頭角を現して「あいつは味覚の天才だ」とか言われるようなヤツ。あんなのいるわけがない(笑)。どんな人でも初めはできないヤツだし、僕だって大きな声であいさつすることぐらいしか取り柄がなかったんですよ。

でも慣れてきたら、ちょっとずつできることが増えていきます。先輩の仕事を先読みして用意するだけでも、「笠原は気が利くな」と喜んでもらえる。地味でつまらない仕事だって、そこに何を見出すかで成果が変わります。例えば、洗い物をするときは、季節にあわせてどう器を選んでいるのかを勉強する。届いた野菜を冷蔵庫にしまうときは、野菜の産地を覚える。これだって立派な料理の修行です。

そういう努力をしていると、どんなことでも楽しくなります。そのうちに、誰かがきっと気づいてくれますよ。「笠原の磨いた鍋はきれいじゃないか」とかいってね。すると、それまでは野菜の皮むきをしていたのが、「今日は切ってみるか」と言ってもらえるときがくる。切れるようになったら「今日は桂むきを練習させてやる」に変わる。「吉兆」には9年いましたが、気づいたら2番手と言われる位置にいました。前任者が辞めたとき、料理長は代わりを入れるんじゃなくて「笠原でいいよ、できるだろ」と言ってくれた。この言葉は嬉しかったですね。そう期待されると、意気に感じて、ますます頑張りたくなるものなんです。

これは絶対ですよ。努力をしていたらいつか必ず誰かが気づいてくれる。余談ですけど、私のブログは「笠原将弘のオールナイトニッポン」というんです。あのラジオ番組とは全く関係ないんですけどね(笑)、大好きだったので名前を借りてブログ名にしていたら、番組にゲストで呼んでもらえたんです。行動を起こすと、誰かが気づいてくれる。逆に言うと、誰かが気づいてくれるまで、しつこく執念深くやり続けることが大事なんです。

例えば、外装と料理。ギャップが人を引き寄せる

28歳のとき、親父が亡くなりました。それをきっかけに実家のやきとり店を継ぐことになるんですが、これが人生の転機でした。前向きに考えると、28歳の若さでオーナーシェフになれてラッキーだったとも言えます。実際、自分でメニューを考えて、自分で料理して、自分の好きな器に盛ることができるのはすごく楽しいことでした。でも悪く言えば、修行が中途半端なまま、これといって特徴のない居酒屋を継ぐことになってしまった。正直、継いだ当初は、すぐ潰れちゃうんじゃないかと思うようなボロい店構えだったんです。

最初はけっこう忙しかったんですよ。親父と仲が良かった常連さんや僕の同級生がきてくれましたし、でも、彼らもだんだんこなくなりました。常連さんは親父としゃべるのが楽しかったわけで、僕じゃ物足りない。同級生はまだ若くて、そうそう飲み代を出せません。

そこで気づいたのは、料理って食べてくれる人がいないと空しいものだ、ということ。食っていくためにはまずお客さんを呼ばないといけない。でも、吉兆で出していたような高級な料理は出せない。店をおしゃれに改装するお金もない。

じゃあ何ができるのか。僕は「ギャップ」だと思ったんです。ぼろい外観、内装なのに、器はかわいらしいとか、料理のボリュームだけは異常にあるとか(笑)。そういう、ちょっとやりすぎなぐらいのギャップです。

外の黒板には、毎日「近況報告」を書きました。張り切って築地にいったのに定休日でしたとか、ほんとにくだらないこと。でもそれを面白がって店に入ってくれるお客さんがいました。一回来てくれたらしめたものです。料理には自信がありましたし、値段が安く量も多い。いい店だなと、また来てくれるようになるわけです。

面白いのは、お店がお客さんで賑わっていると、それに惹かれてますます人が集まってくることです。やっぱり「楽しいところに人が集まる」んです。魚屋さんにいっても、大量に仕入れられるから、いい品を用意してくれるようになる。いつの間にか、毎日予約で一杯になる繁盛店になりました。

ギャップも重要です。それがあれば、楽しそうなお店にも見えるし、楽しそうな人間にも見えます。すごく悪そうな顔をした人が「実はボランティアしてる」と聞くと、「いい人」の印象が何倍も強くなりますよね。だから、くせのありそうな人間やお店であるほうが面白がってもらえるし、物事がいいほうに進むと思っているんです。「賛否両論」だって「こんな名前の店あったら嫌じゃない?」というところから始まったんです。普通が一番、面白くないですよ。


2013年9月、「賛否両論」2号店が
名古屋にオープンする。
ますます多忙を極める笠原氏だが、
「人の4倍働くつもり」だという。
彼を仕事に駆り立てるものは、
いったい何なのか。

「つまらない」と言っていられるほど人生は長くない

もちろん、僕も普通の人間ですから、楽しそうにしていられないこともあります。親父にも吉兆の師匠にも教わりました。人生に「ずっと順調」はあり得ないんだって。でも、楽しくいられるように、僕は努力したい。

去年、同い年だった妻をガンで亡くしました。僕は高一のときに母を亡くしています。28歳のときに父が亡くなって、今度は妻が。何でこんなことが自分の身に降りかかるんだろうと思いましたよ。仕事なんて、全然やる気がしなかった。でも、2日後には仕事に戻りました。寂しいし、悲しいけど、僕が暗いままでいたら誰もハッピーにならないでしょ。子どもたちも、うちのスタッフも、お客さんも。妻だってそれを望んでいるとは思いません。

修行時代から僕を支えてくれた妻でした。あのころは、将来はこんなことをしたい、世界に通用する料理人になりたいって、そればかり話していた。今の僕があるのは妻のおかげです。僕はこれまで「人の3倍働いてやろう」と思って生きてきました。それは、早くに亡くなった両親の分まで働きたかったからです。今度は、妻の分も入れて4倍働いてやろうと思います。妻の分まで、楽しんであげようと思います。

家族を亡くして思うのは、生きているだけで幸せだ、ということです。あんなに元気だった人が、突然いなくなってしまう。借金があるとか会社が潰れたとかは、屁のようなものですよ。人生の時間は無限じゃない。だから仕事でも遊びでも、今できることを精一杯やる。一瞬一瞬を楽しく過ごす努力をする。毎日がつまらないとか、楽しくないとか思うのって、本当にもったいないですよ。

information
『手羽も、俺に任せろ!』
笠原将弘著

2013年9月に「賛否両論」2号店を名古屋にオープンさせる笠原氏の最新レシピ本。実家の焼き鳥店を継いだこともあり、鶏肉の調理はお手の物。特に今回は、名古屋出店を記念し、名古屋名物の「鶏手羽」をテーマに65品のレシピを紹介する。鶏手羽の解体の仕方から、焼く、煮る。揚げるなどの各調理法も解説しており、鶏手羽料理を完全マスターできる一冊に仕上がっている。
角川マガジンズ レタスクラブムック。

WRITING
東雄介
EDIT
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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