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格闘ゲームの大会で、17歳で世界一になり、
その後も数々のタイトルを獲得。
「世界で最も長く賞金を
稼いでいるプロ・ゲーマー」として
ギネスにも認定される梅原氏。
勝ち続けるために、大切にしていることとは、
どんなことだろうか。

自分を痛めつけることと、努力することは違う
よく、「どうして勝ち続けることができるのか」と聞かれますが、僕がほかのプロの人たちと違うのは、「どうすれば自分自身が楽しめるか」を一番に考えているということなんです。
もちろん勝ちたいとは思っていますが、結果だけを追うと視野が狭くなって、考え方も窮屈になる。昔は僕もとにかく結果を出したくて、そのことだけで頭がいっぱいになってしまった時期もありました。しかしそうなるとセオリーにこだわり過ぎて、結局負けてしまう。セオリーが正しくないわけではないのですが、最善な方法って、実は対戦相手に読まれやすかったりするんです。自分自身が楽しんでやっていると心に余裕ができますから、独自の発想がたくさん出てきます。長い目で見ると、その方が成績も安定するんです。
特に若いころは自分に厳しいから、練習していない時間があると不安になったり、練習していない自分を責めてしまったりするものだけど、不安を埋めるために長時間練習を続けていても、苦しいだけで結局何も身に付かないし、いいことなんて何一つないんです。自分を痛めつけることと努力することは違うということですね。
それに気づいたのは、20歳を過ぎたころです。4連覇がかかった大会で、異常なプレッシャーから体の調子がおかしくなり、食事ものどを通らなくなった。体重も激減し、勝率が伸びなくなった。僕は現状を打開するために、もっと自分を追い込んだんです。食事もろくにとらず一日の大半を練習に打ち込みました。気づけば仲のいい友達とも話をしなくなるほど、精神的に余裕がなくなっていました。大会の結果はベスト8。結局、4連覇はできませんでした。「あんなに頑張ったのに、ダメだった」。何も考えられなくなった僕は、そこから半年間ゲームの世界から離れました。
そんな失敗を繰り返して、正しい努力の仕方があることに気が付いたんです。準備をすること自体はもちろん悪いことではないのですが、何も考えずに時間を使ってもダメ。それが本当に自分にとって必要なことなのか、ちゃんとプラスになっているのかを考えながらやっていかないと、費やした時間が無駄になるどころか、逆に負担になっていくんです。
練習量と緊張は比例します。だから練習は自分がベストでいられる時間だけに抑えたほうがいい。いろんな試合を振り返ってみても、つくづくそう思います。試合に向けてたくさん努力した人が必ずしも勝つわけじゃないんです。そんなに練習してなさそうな人が、勝ったりする。そういう人は結構いい動きをしていたりするんですよ。「オレは、こんなにやってきたんだ!」という気負いがないから、ほかの人が緊張してしまうような場面でもリラックスしてプレイができるんですね。本番では、練習の積み重ねよりも心の余裕が重要だということです。
一番理想なのは、自分のベストな練習時間で、自分に必要なものを確実に積み上げていくことです。実力に自信が加わるからです。「自分は上達している。勝ちに近づいている」ということを明確に認識できれば、試合の場でも落ち着いていられます。その余裕が柔軟な発想を生み、誰も思いつかない奇跡のような技を生み出すんです。
モチベーションを維持するという点でもそうです。好きで始めたことでもプロとして活動していくと、さまざまな苦しい出来事に遭遇します。そんなとき、結果だけを追いかけていると、壁にぶつかるたびにどんどんモチベーションは低下してしまうんです。やっぱりいつも楽しい状態でプレイすることを心がけていないと、実力を維持することはできません。だから、勝ち続けるためには、「自分自身が楽しむ工夫をすること」が一番大事だと思っています。それが一番難しいことでもあるんですけどね(笑)。
自分の成長が感じられれば、楽しみはずっと続く
では、楽しむためには、どんな工夫をしていけばいいのか。僕は、楽しみは「ずっと続くもの」でなくてはならないと思っています。
例えば、ゲーム機に新しい技が追加されたとします。その瞬間は楽しいでしょう。でも、すぐに飽きてしまいます。別の刺激を待っていても、いつやってくるかなんてわかりませんよね。人から与えられる楽しみを当てにしていては、いつも楽しい状態ではいられません。自分で見つけられる楽しみを持つことが大事なんです。
では、ずっと続けられる楽しみは何かと言ったら、それは「自分が成長していくこと」です。新しい気づきとか、自分が変わっていく様とか。そういったものは工夫次第でいくつでも見つけられるし、飽きがきません。そうやって毎日、自分の中に新しいことを発見できれば、楽しいし、成長もするし、結果として勝ち続けられるようになるんです。



自分自身が楽しむことを
何より心がけているという梅原氏。
実は世界チャンピオンになった後
ゲームを楽しめなくなり、
別の世界に飛び出したことがある。

「人生には終わりがあること」を介護の世界で知った
23歳の時です。世界チャンピオンになってしばらくすると、周りに強い対戦相手がいなくって、ゲームに面白みを感じなくなってしまったんです。本当は、成長は自分の中にあるもの。自分自身を見つめることで課題を発見していくものなのに、そのときはライバルという目標がいなくては成長できないと思ってしまったんです。
その後、麻雀の世界に入り、プロを目指します。でもその世界でも、勝ち負けとは違う部分で挫折してしまうんです。初めのうちは勝ちに向かって努力をする楽しさがあったのですが、強くなると、勝つむなしさというか、普段、仲がいい人でも、自分が勝つことで関係が変わってしまうことに嫌気がさした。勝って人から恨まれるのが辛くなってしまったんです。
そこで今度は、勝ち負けのない介護の世界に入りました。介護を選んだのは、両親が医療関係で働いていたから、身近だったということもあります。
介護の現場で働いてみると、自分が何気なくやっていたこと、例えば、人と普通に会話して、のどが乾いたら水を飲んで、腹が減ったらご飯を食べるというようなことが、できない人たちがたくさんいた。なかには会社を一代で築いて大きくした、なんて人もいました。自分を含めて、みんな歳をとればそういう風になっていく。その姿を見た時に、学校の先生や親が言っていた「若いうちしかできないことをやっておけよ」という言葉を思い出したんです。「ああ、本当にそうなんだな。今しかできないことっていうのがあるんだな」と、その時初めて実感しました。
実はそのころ、友人から強引にゲームセンターに誘われたのをきっかけに、ずっと離れていたゲームの世界に再び足を踏み入れていたんです。会社帰りにゲームセンターに通い、サンフランシスコでおこなわれた大会にも出場し、海外の会社からスポンサーになるからプロ・ゲーマーにならないかと声をかけられるようにもなった。でも、その話をずっと断っていたんです。「勝負の世界はもういいや」という気持ちがありましたから。
しかし介護の仕事を続けていくうちに、今しかできないこと、好きなこと、そして自分にしかできないことを優先してやってみようと。誰でも人生の終わりを迎える、それを考えたらチャレンジするぐらいなんでもないと、開き直ることができたんです。
今でも何か選択を迫られた時、基本的には進む方向で物事を考えます。それはやっぱり介護の世界で「人生には終わりがある」ということを実感させられたからなんですよ。
いくら他人が反対しても、好きなものは譲ってはいけない
プロ・ゲーマーになってしばらくすると、大学卒業を控えている若い人たちに、「認められないことを、よく続けられましたね」と聞かれるようになりました。ゲームって、オタクっぽいし、お金もかかるし、非生産性だというイメージがあって、親や先生からよく思われないものですよね。多分、彼らにもすごく好きなものがあったと思うんですけど、それが世間から認められるものじゃなかったためにあきらめてしまった。一度は「これで仕事ができたらいいのに」と思うけれど、そんなことをちらっとでも友達に言おうものなら、「バカだよ、そんなの仕事になるわけないじゃん」と言われる。彼らはそれに負けちゃったんじゃないかと。
じゃあ、僕の場合は何で続けられたのかというと、極度の意地っ張りというのもあったんですけど(笑)、それに加えて、周りが「これをやりなさい」とか「あっちのほうがいいよ」というものを一度でも選択してしまうと、ほかのことも他人に左右されてしまうと思ったからです。だったら、好きなものはひとつであっても譲らないぞと。そういう思いが自分の中にずっとあって、他人からどう見られようと、好きなことにこだわってきたんです。
何かをあきらめるときって、大抵人の目が気になるからなんですよね。でも、よくよく考えたら気にしなくちゃいけないことって本当に少ないんですよ。小さいころ、人と違っているといじめられたりした経験があるから、大人になってもそんな風に思ってしまうのかもしれないけど、社会に出たら、嫌なヤツじゃなかったら、人と違っていても嫌われることはありません。だから、もしやりたいことが見つからない人は、既成概念とか、常識とかそういうものを一度、全部取っ払ってみるといい。その先に「本当にやりたいこと」が見えてくるんじゃないかと思います。
努力の仕方を間違わなければ、才能は越えられる
よく、「向いてないから」という理由で好きなことをあきらめるという人もいますが、それもやっぱり違うんじゃないかと。僕は「才能を凌駕する能力」というものがあると思うんです。もちろん、この人はこういうのに向いている、得意だというものはあります。でも、「彼は天才だ」という人を見てあきらめてしまったり、「彼は才能があるから、追い越すことができない」なんて、どうしてそんなことが言えるのかと。たとえ今、1番じゃなくて3番であっても、やり方次第では1番になることができる。僕は昔からそう思って努力してきたし、過去の経験からも、努力の仕方を間違わなければ、才能は越えられるものだと思います。
向き不向きなんて大したことではないんですよ。なのに、そんなことで好きなことをあきらめちゃうのはもったいない。「向いてない」くらいのことであきらめちゃうと、どんどん選択肢が狭くなってしまいます。それでは人生が楽しくない。何十年と続く人生を楽しみたいなら、好きなことをあきらめないことが何より大切だと思うんですよ。


梅原大吾著
17歳にして世界一になり、日本で初めてプロ・ゲーマーとなった梅原大吾氏。偉業を成し遂げた彼の成功までの道のりとさまざまな挫折が語られている。「プラスとマイナス両方を分析して努力を続けない限り、成功はない」「才能に頼っていては、いずれ勝てなくなる」「成長のためには、相手の弱点を突いてはいけない」「人の目が気にならない世界で生きるのは楽しい」など、ゲームの世界で得た独自の成功論がたくさん盛り込まれており、違う業界で働くビジネスパーソンも多くの気づきをもらえる一冊だ。
小学館新書。
- EDIT/WRITING
- 高嶋ちほ子
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 栗原克己


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