プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「生きる目的があれば、自分の能力を高く活かせる」伊勢谷 友介さん(株式会社リバースプロジェクト代表)
いせや・ゆうすけ●俳優、映画監督、株式会社リバースプロジェクト代表。1976年生まれ。東京藝術大学美術学部修士課程在学中に、映画『ワンダフルライフ』で俳優デビュー。NHKのテレビドラマ『白洲次郎』『龍馬伝』、映画『ブラインドネス』『あしたのジョー』などの出演。監督作品に『カクト』『セイジ―陸の魚』がある。映画『清須会議』『利休にたずねよ』が2013年冬公開予定。
リバースプロジェクト公式サイト http://www.rebirth-project.jp/
リバースプロジェクトECサイト http://shop.rebirth-project.jp/
リバースプロジェクトfacebookページ http://www.facebook.com/#!/RebirthProject
2013年5月22日

俳優、映画監督と多方面に
才能を発揮していた伊勢谷さん。
2009年には、これからの環境や社会を
見つめ直すための活動「リバースプロジェクト」を始動。
なぜ、この活動を始めたのか。

自分は何のために生きるのか、それを突き詰めて考えた

大学(東京藝術大学)時代は映画監督を目指していました。その前はファッションデザイナーになりたいと思っていました。実は、腹違いの兄がファッションデザイナーの山本寛斎で、その影響があって、デザインに興味を持っていたんです。

そんなとき、『ドラキュラ』という映画を観て、衣装デザインに魅了されました。石岡瑛子さんという方が衣装デザインを担当されていたんですが、彼女がやっている衣装デザインという表現は、映画の中できちんと成立するんです。 でも、普段着る服はそうじゃなく、ファッションデザイナーがいくら思いを込めて服を作っても、その服を一番綺麗な形で着てもらえるとは限らないわけです。でも、映画の衣装デザインだったら、100%完成した形で表現することができる。そう思って、映画の世界に興味を持つようになりました。

だけど、よくよく考えたら、衣装デザインより映画監督の方が、それ以上に自由にさまざまな世界観を表現することができますよね。それで、そっちの方が面白そうだと思ったことが、映画監督になりたいと思ったきっかけです。

俳優の仕事を始めたのも、映画監督になりたかったからです。監督の一番近くで映画を学べる場所はどこだろうと考えたら、それが俳優でした。俳優なら、直接、監督から演出を指導してもらえますから。それで、映画『ワンダフルライフ』のオーディションを受けて、俳優の仕事を始めました。

その後、俳優のキャリアを積んで、25歳のとき、『カクト』という映画を撮りました。エゴイスティックに自分たちの好きなように生きる若者を描いた作品です。でも、映画を撮り終わって、監督になるという夢が叶ってしまったことで、心がエアポケットのようになってしまった。映画を作ること自体が、自分の目的じゃなかったと気づいたんです。

それで、「自分は何のために生きるのか」ということに立ち返ってみることにした。「人としてどうありたいのか」。それを突き詰めて考えていったんです。

いい人になるためには、何ができるのか

実は映画を撮る2年前、転機となることがありました。大学の卒業旅行で友人たちと沖縄に行ったときのこと、僕だけ帰りの飛行機に乗らずに島に残ったんです。

理由は、沖縄にはヒッピーみたいな生活をしている人たちがいて、その人たちとしばらく暮らしてみたかったから。その人たちは、「人として生きる道」というものを、自分の人生を伴って考えようとしていました。つまり彼らは、「人は、どういう風に生きたら幸せなのか?」ということを考えながら暮らしていたんです。

僕はそのとき東京で、たくさんの物に囲まれて暮していました。でも、何もない中で「どうやってその日の食べる物を得るか」ということを考える生活のほうが、ずっと刺激的に思えました。そのとき感じたことがずっと心に残っていたんです。

映画を撮り終わってよみがえってきたのは、そのときの思いでした。僕は「人として、どう生きたいのか」と考え続けました。うまく答えが出なかったので、「いい人になりたいのか? 悪い人になりたいのか?」と考えてみました。そう聞かれたら、多くの人が「いい人になりたい」と答えますよね。じゃあ、「いい人って、何をすればいい人なんだろう?」と、もっと掘り下げて考えていった。そしたら「働くという行動が、ともなっていることが大事なんじゃないか」と思うようになりました。そして、「それは、どういう形なんだろう? 今、私たちは何をしなくちゃならなくて、僕には何ができるのか」と、もっと深く考えていったんです。それが「リバースプロジェクト」の原点です。

まずは、現実を直視することから始めないといけない

僕たちがまずしなくてはならないこと、それは「現実を直視すること」です。「エコロジカル・フットプリント」という指標があります。日本人と同じような生活を地球に住む人類全員がすると、地球は約2個半必要だという計算になるそうです。アメリカ人だと約4個。私たちの消費は、その現実の上に成り立っているのです。

今後、人類が存続するためには、その現状を変えなくてはならない。そのためには、まず“作る側”が変わっていかなくてはならないと思っています。作る側が消費する人たちに、新たな選択肢を提示することで、消費する人たちの意識が変わっていったら。僕たちは、「リバースプロジェクト」の活動を通じて、そのきっかけを作りたかったんです。

僕はみんなに「個人の目線だけでなく、宇宙人の目線でもきちんと見られるようになって欲しい」と思っています。“宇宙人の目線”というのは、地球を俯瞰から見てみるということです。自分の苦しみだけを考えていると、それに対する解決策は、ものすごく短期的なものになってしまいます。でも、俯瞰から見たら、全然違う目標が生まれてくるはずです。つまり、「人類は、滅亡に向かっていると気付きながら、直視しない生物である」という風に見えてくる。それを食い止めるためには、一人一人が「何ができるか」と考えながら行動することが重要だと思います。

「リバースプロジェクト」では、「人類が地球に生き残っていくために、資源の循環を守るため・作るためのアクションを起こす」という理念のもと、衣食住に関する様々な問題を提起し、それを商品にして消費する側の人に参加してもらう試みをしています。消費する側の人たちが商品を購入したり、プロジェクトに参加するという形でそれを選択してくれて、そうじゃないものを作っている人たちが選択されなくなってくれれば、悪い生産活動が抑えられる。この積み重ねで社会全体が変わっていけたらと思っています。

「リバースプロジェクト」を株式会社の形にしたのもそのためです。僕たちの活動をいちばん効率的に行うには、今ある社会を変革させることだと。僕は、それを一時的な思い付きや善意に頼るのではなく、ビジネスとしても成立できることを証明したいと思いました。だから、株式会社を組織し、自分が代表となり事業経営する手法をとったんです。

ただ、設立当初は、いろんな人から「できるわけがない」と冷ややかな反応が返ってきたことも事実です。確かに利益を中心に考えればそうでしょう。でも、働くこと、本来の意味を考えてみると、違った見方もできるわけです。

そもそも働くという言葉には“傍(はた)を楽にする”という意味があります。“傍”には、僕たちが救いたいと思う“未来の人”も含まれるはずです。だから僕たちは、このプロジェクトを続けています。だとしたら、利益の追求は二次的なものになり、一次的には社会のためになることをしていく活動ができるのではないかと。お金を稼ぐことが悪いと言っているわけではなく、社会のためになることをしていった結果、その活動がお金になっていくというシステムを作りたい。そういう思いで起業した「リバースプロジェクト」は、その後、いろんな形で広がりを見せることができました。


一人一人が、自分で考え、
生きる道を選択していくことが
大事だと語る伊勢谷氏
では、まず何から始めたらいいのか。

生きる目的をはっきりさせれば、自分の能力も高く活かせる

何から始めたらいいのかわからない人は、できることから始めるといいと思います。僕たちは「人類が生き残っていくために、変革を起こしたい」という大きい目的を持って活動していますが、やっぱり一歩目は、自分たちに“できること”から始めているんです。

自分にできることが起業という形でもいいですし、どこかの会社に所属することでもいい。どういう働き方をするにしても、「自分は何がやりたいのか?」、まずはその目的をはっきりさせることが重要なのではないかと。目的がはっきりしていれば、「どの会社に就職するべきなのか」も自然にわかってくると思います。

社会に出て最初のころなら、目的がないまま「当たって砕けろ」という思いでとりあえず何かやってみるというやり方もあるとは思うのですが、でも、20代後半になったら、やっぱり自分が生きる目的というのを決めた方がいい。その方が自分の能力を高く活かせますから。

そして、その目的は、自分自身を見つめるだけではなくて、社会全体を見つめることによって、発見していくといいと思います。社会を俯瞰から見て、そこから「自分はこういうことだったら、できるかも」と考えていく。そうしたら、自ずと自分の力を最大限発揮できる場所も分かってくる。そうして活動を続けていれば、今度は社会のほうからその人の力を頼ってくれるんです。それが仕事のやりがいや、もっといえば生きがいにつながっていくのだと思います。

人生を逆算して考えると、できることは少ない

僕は、人生を逆算して考えています。僕が60歳まで現役で活動するとしたら、あと23年しかないわけです。その23年の間にできることなんて、これっぽっちのことなんです。でも、だからといって諦めないで、そのこれっぽっちのことを、いかにして有用なものにしていくか。それしかないんです。

僕の目指す“究極のいい人”は「自分たちの子孫が生きられる状態をずっと維持させられる人」だと思っています。それが働く意味だと。今、生きている人しか、未来に対して責任を持てません。逆に言うと、生きている人は、その責任をすべからく持っていると思います。じゃあ、そのために、その限られた命をどう使っていくかと考えていく。僕はそういう考えでここまで来ました。

人のために生きることは犠牲ではないと、僕は思っています。人のために生きることは、結局、自分の助けになることなんです。人を助けること以外に働く目的を持つと、途中で目的を見失ってしまう人が多いですよね。人を助けることを働く目的にする。それが仕事の醍醐味だと思います。つまり、人を助けているようで、自分が助けられているっていうことなんですよ。

information
『社会彫刻』
伊勢谷 友介著

デニムメーカーの倉庫に埋もれていた売れ残ったジーンズにデザインを加え、新たな商品として蘇らせるなど、利用価値が低いとされる廃材を独自のアイディアで再生し、消費者に提供する。2009年に、人類が地球で生き残るために、持続可能な社会を目指すことを目的に生まれた「リバースプロジェクト」が、今注目を集めている。俳優、映画監督と幅広く活躍してきた伊勢谷氏は、なぜ、株式会社を設立したのか。本書には、その理念から設立の経緯、活動内容まで詳細に描かれている。何かしたいけど、何をしていいのかわからない人に、「今、できること」を提示してくれる本だ。
朝日新聞出版刊。

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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