仕事が辛い、つまらないって、そりゃ若い人のせいじゃない。日本の会社がバカ過ぎるんだ。人間はみんな働くのがイヤなんだよ。誰だって遊んで暮らしたいよ。だけど人間は、牛や豚みたいに誰かにエサをもらえるわけでもない。泣いても笑っても飯が食えないから働くんだ。それなのに成績が悪ければ給料を下げる、「今休まれたら困る」とか言って有給も取らせない、そんな会社があふれてる。誰がやる気を出すもんか、バカバカしい。だから未来工業はまるで逆のことをやっている。

残業は一切禁止。夕方5時前には社内には誰もいなくなる。営業のノルマなし。全員正社員。年間の有給休暇は140日あるし、5年に一度は社員旅行で海外にいく。定年は70歳。65歳の平社員の給料は700万円。特に多いとも思っていなかったんだが、大手企業は60歳を過ぎたら給料が3分の1になると聞いて、それならウチは多いんだろうと。今うぬぼれ中です（笑）。

普通、経営論で教わるのは「馬に人参」なんだよ。走ったら人参をあげる。確かに、動物は何かうまくやった後にご褒美をもらうんだ。普通の会社もこれをやる。これだけ仕事したら金をやるぞ、休みをやるぞとね。でも、社員は人間だ。だから先にご褒美をあげる。だから社員たちは、会社のために頑張ってくれるんだ。経営者の一番大事な仕事は、そうやって社員のやる気を引き出すことだと思っている。それで創業以来40年以上、赤字ゼロです。

それに普段はドケチだよ。800人の社員がいる会社なのに乗用車ゼロ。社長だって自分の車に乗っとるよ。でも「乗用車もない会社の商品は買わない」なんてお客さんはいないんだから、いらないの。廊下の電気も消してある。書類は全部裏紙を使う。節約できるところはドケチをやる。そのかわり、大事なところでは太っ腹に使う。これがウチのやり方だ。

人と違うこと、常識と違うことをやるのはこわいことだよ。でもウチみたいな中小メーカーは大手と同じことをやっていたら勝ち目がない。大切なのは差別化だ。だから習慣に流されるな、常に考えろというのがわが社のテーマだ。それで工場から廊下から事務所から、しつこく「常に考える」という貼り紙がある。茨城にある工場には「何故、なぜ、ナゼ」と看板もいっぱいぶらさがっとる。それでな、会社に新しいアイディア出したら、1件500円もらえる仕組みにもなっている。いやになるほど、なぜ、なぜ、なぜや。こうしていると、新しいアイディア、強いアイディアが生まれる。

ものを考えるクセをつけようと思ったら「人の反対」を考えるといい。例えば、どこの会社でも報告・連絡・相談の「ホウレンソウ」をやっているが、未来工業ではホウレンソウを一切禁止にしている。いちいち上の指示を仰いでいたら自分の頭で考える習慣がつかないからだ。それに現場のことは現場の人間が一番良く知っている。ホウレンソウをなくせば、私もラクができる。私は社長なんてバカだと自覚しているからね。現場のことは社員に任せたほうがうまくいくんです。ぜんぶよその会社の反対だ。そうやって何でも反対に考えることで、ものを考える訓練ができるというのが私の言い分。

こういう訓練をしておくとビジネスのヒントもひらめく。未来工業は電気資材メーカーだが、少し詳しくいうと「強電」という業界になります。実はこの業界は工夫のしどころが難しい。テレビだったら、画面が大きい小さい、薄い厚いと勝手に製品をつくれるが、電気資材というのは何にせよ法律で決まりがある。どのメーカーも長さ、大きさ、形状が同じ製品しか作れないということだ。これがウチのような中小メーカーには辛い。大手電機メーカーと全く同じ製品で競争しないといけないなんてな。ちょっと変えようと思ったら法律違反で捕まります。もちろん逮捕されると困るから、真面目につくるわけだが、真面目に作ったら勝てっこない。そこで法律に違反しない中で色んな工夫をしています。

例えばウチの製品に電線を通す電線管というのがある。要はパイプだ。建物の外壁、天井裏、床の下をこれが走っている。このパイプは外径内径、電線の外径内径、芯の導線の太さまで、ぜんぶ法律で決まっとる。こうなると普通は工夫のしようがない。競争相手は3社。どれも大企業で価格競争でも勝ち目はない。ところが、その3社のパイプはどれも色がグレーだった。明治からパイプといえばねずみ色というのが伝統だったからだ。しかしただの伝統で、法律で決まってはいない。

私はそこに目をつけた。それに建物は大抵白いんだから、ねずみ色なんかよりアイボリーとかベージュとかの色のほうがきれいやろう？これまで誰もやらなかった色のパイプをウチが作った。あっというまに日本一のシェアだ。色を変えただけでな。それからは日本のパイプからねずみ色が消えたよ。これが小さい会社が大きな会社に勝つためのアイディアなんだ。伝統や常識をひっくり返せば、飯の種がいっぱい入っている。不況だってアイディア次第で乗り切れる。今も日本のGDPは500兆円もあるんだよ。モノが売れないなんてウソ。ただの思い込みだ。まだまだ売るところはたくさんあるんだ。常識が邪魔して、何も見えてないの。

日本人は、みんな一緒が好きだからな。人と違うことをするのを怖がる。それがダメなんだ。だから若い人も新しいことを始められない。せっかく若いのに、もったいない。例えば会社をおこすことを想像してみるといい。何を始めようとしても、たいてい先輩の会社があるわけだ。同じことをやるほうがこわくないか？先輩会社はお金持ってる、社員持ってる、技術持ってる、お客さん持ってる。同じことをやったら必ず負けるよ。こわくないの？でも日本人はやるんだよな。

未来工業は、岐阜県で一番早く週休二日制を導入しました。そしたら岐阜県の経営者連中は何といったか。「お客さんが働いてるのにウチだけ休んだらお客さんに逃げられますよ」。試した経験もないのに怖がるんだ。でも現実に未来工業はうまくいったんだよ。ここにお手本があるじゃないか。うまくいかないかもしれないというのはマイナス思考。未来工業がうまくいったから自分もうまくいくかもしれないというのは、プラス思考。どっちを選ぶか。どっちを選ぶにしてもこわいんだよ。でも、何か新しいことを始められるのはプラス思考の人間だけだ。

誰だって立ち止まって迷うことがある。迷うということは、目に前にプラス思考の道とマイナス思考の道の両方があるということだ。そういうときにどうしたらいいか。簡単明瞭なんだよ。プラス思考の道を選べ。どっちが正しい道かなんて聞くなよな。そんなものわかりっこないんだから。実際、プラス思考の道が間違っていることもあるだろうから、そういうときはすぐ止めればいい。日本人はもともと農耕民族だから、止めるのも下手なんだ。雨が降ろうと日が照ろうと畑に出ないといけない、そのころからの習慣だろうな。でもビジネスの世界でそれはまずい。ダメだと思ったらすぐ止めろ。「あきらめるな」と教えられてきたかもしれないが、それこそただの常識だ。疑ってみなさいよ。人生は、やってみなきゃわからんことばかりだ。やってみようじゃないか。一歩踏み出してみようじゃないか。私はこわくないよ。「こわい」という言葉が私の字引にないから。ナポレオンのよりもすごい字引だろ？