プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 日本の常識は世界の常識ではない。それをいつも肝に銘じておくことです 藤巻健史さん(経済評論家)
ふじまき・たけし●1950年、東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年、米モルガン銀行入行。東京屈指のディーラーとしての実績を買われ、当時としては東京市場唯一の外銀日本人支店長に抜擢される。同行会長から「伝説のディーラー」のタイトルを贈られる。2000年に同行退行後は、世界的投資家ジョージ・ソロス氏のアドバイザーを務め、一橋大学で13年間、早稲田大学商学研究科で6年間、非常勤講師として半年間の授業を担当した。現在は、株式会社フジマキ・ジャパン代表取締役社長。東洋学園大学理事。
2012年10月10日

"伝説のディーラー"として、
世界の金融界でその名をとどろかせ、
当時、唯一の外資系銀行の
東京支店長にまでなった。
藤巻氏は、どうして成功することができたのか。

厳しい競争社会がやってくる

今の日本は資本主義ではない、と私は思っています。これは日本に赴任した外国人もよく口にすることなんです。例えば日本の企業で社長になっても、アメリカの企業と比べて年収の桁が1ケタも2ケタも違うわけです。そして日本の社長には、それほど収入が多くもないのに富裕層とみなされて最高税率が適用されるのです。いっそう、平社員との差は縮まります。

累進課税という結果平等税制や成功に対する報酬が低いという点で、日本は「働いても働かなくても」「成功しても成功しなくても」結果は同じ社会なのです。悪い平等が過ぎるのだと私は思います。これでは誰も働かなくなります。働いたり努力したりするのはくたびれもうけだからです。

今まではそれでも何とかやってきましたが、これからはそうはいかない時代になります。日本経済が拡大しているときは膨れた部分を皆にどう配分するかだけを考えていればよかったため、過ぎたる平等も可能でした。しかし、バブル崩壊以降、経済は沈滞化していったのです。それでも平等を保とうと、子・孫・ひ孫から莫大な借金を重ねて、ばらまきを続けてきたのです。その結果、とんでもない借金が溜まってしまったのです。もういけません。パイを大きくしないで、ばらまきなど継続できないのです。パイを大きくする唯一の方法は、真の資本主義国家への変身です。小さな政府・規制緩和・結果平等税制国家の設立です。その結果、もちろん競争社会になります。

若い人たちに言いたいのは、そのときまでに生き残るための準備をしておかなくてはならない、ということです。

外から日本を客観的に見ることが大事

では、厳しい競争社会を生き残るために、何をしたらいいか。まず一つめは、「外から客観的に日本を見る」ことです。

私は新卒で三井信託銀行に入行し、アメリカ留学を経て、米モルガン銀行に転職しました。モルガンでは「伝説のディーラー」と会長からあだ名をつけてもらうほどの成績を残すことができ、東京支店長にもなりました。

なぜ、そんなことができたのか。今になって振り返ると、「日本を客観的に見る視点を養っていた」からだと思うのです。5年間は海外に住んでいましたし、その後15年間は、モルガン銀行の東京支店で外国人に囲まれて働いていました。ディーラーの仕事は結果がすべてで、結果が出ないとすぐにクビですから、お互い本音でぶつかるわけです。上司や部下と喧嘩もたくさんしました。でも、彼らと喧嘩をすることで心が通じ合い、本音で話してくれるようにもなりました。そうすると、彼らがどんな風にものの見方をするのか、日本をどう見ているかが、だんだんとわかってきます。そのなかで私は、「日本の常識は、世界の常識ではない」と確信するようになりました。

日常の話からすると、例えば、風邪をひいたときに日本人は「体を温めろ」って言いますよね。でも、アメリカやイギリスでは、体を冷やすために水風呂に入るんです。これには驚きました。

また、うちの長男はイギリスで生まれたのですが、日本だったらお母さんを産後1週間ほど入院させますが、イギリスでは「入院はなるべく短いほうが体にいい」と、2、3日中には退院させます。日本では産後すぐのお母さんは、しばらくお風呂に入らないほうがいいと言われますが、イギリスでは産後すぐ、塩を入れたお湯につかります。

ビジネスの面でもたくさんあります。日本だと会社で偉くなって専用車がつくことがステータスシンボルのようなところがありますが、アメリカには専用車なんてありません。ニューヨークにいるモルガン銀行の会長は、毎日電車通勤をしていましたよ。夏はスニーカーを履いてナップサックを背負って通っていました(笑)。

モルガン銀行の国際会議に出た時も驚きました。開催地がシンガポールでものすごく暑いんです。私は我慢してスーツにネクタイ姿で会場に向かったのですが、そんな恰好をしているのは私1人。オーストラリアからきた支店長なんか、短パンに半袖のいでたちで入ってきた(笑)。実はその部屋、冷房がきき過ぎていて、みんな途中からガタガタ震えていましたから、結果的には私の方が正解だったんですが、でも、やっぱり常識が違っていて、バツの悪い思いをしたことは確かです。

世界全体の動きが読めないと大損してしまう

マーケットの見方でもそうです。モルガンでは、それぞれの国の国債を扱うチーフはその国の人がなります。つまり、アメリカ国債はアメリカ人が、イギリス国債はイギリス人が、日本の国債は日本人、つまり私が売買をします。各国のチーフはそれぞれ情報を共有していますから、自然と多様化した考え方になっていきます。読んでいる新聞もウォール・ストリート・ジャーナルからニューヨーク・タイムズ、イギリスのフィナンシャル・タイムズと多様です。結果、広い視野でものを見ることができるので、全員が一緒に大負けすることはまずありません。一方、日本の銀行では、ロンドン支店にいてもイギリスの国債を扱うのは日本人。そうなると、日本の新聞だけに影響されて物事を判断してしまうことが多いのです。そのため、ものの見方が一方通行になってしまい、世界全体の動きが読めず、大損してしまうことがあります。

やっぱり日本人の見方だけじゃなくて、外国人の見方も知ることが大切なんです。「日本の常識は世界の常識じゃない」、つまり「自分の常識は違っているかもしれない」という意識を常に持って、多角的に分析していかなきゃならないということなんですよ。


厳しい時代を生き抜くために、
もうひとつ必要なこと、それは、
「その道のプロになること」だと、
藤巻氏は語る。

ジャンルはなんでもいい。その道のプロになることが重要

先ほど、日本はものすごい競争社会になると言いましたが、生き残るためにもうひとつ大切なのは、「その道のプロになる」ということです。日本の企業は、まだまだジェネラリスト、つまり何でもできる人を重視する傾向がありますよね。一方で海外の企業はプロ集団ですから、上に上がるためにはその道のトップにならないと難しいわけです。

海外では、どんな偉い人も何かのプロです。M&Aのプロかもしれないし、為替のプロかもしれないし、金利商品のプロかもしれない。ジャンルは何でもいいけれど、その道で一番優秀な人が、部長になり役員になり会長になっていきます。日本の企業も、近い将来そうなっていくと思います。そうじゃないと、激しい競争社会では生き残っていけませんから。だから若い人は、プロになることを考えて人生設計すべきだし、自分の専門分野を一生懸命勉強してスキルを磨いていかなければならないのです。

20代は特に、どんな仕事をしていったらいいか迷うかもしれませんが、最初はジャンルを広げ過ぎず、1つの分野を追及していった方がいい。道は狭い方がいいんです。その道でがむしゃらに働くことによって、深く、深く掘り下げていく。とにかく深く、深く、です。広く深くできたら一番いいけれど、それは不可能だから、「広い」より「深く」を考える。そうすれば、なんらかのプロになれると思います。

向き不向きは考えなくても大丈夫です。まずは目の前にある仕事で何らかのプロになれば、自然と道が開けていくからです。私は新卒で三井信託銀行に入行して、千葉支店で外回りの営業の仕事に就きました。地元の個人宅を訪問し、不動産の売却代金や退職金を預かるのが、私の仕事でした。もともと私は、知らない人と話すのが苦手な性格で、玄関のベルを鳴らすにも一大決心が必要なくらいでしたから、外回りの営業の仕事は、精神的にとてもきついものでした。それでも死ぬほど働いたわけです。教職員の退職金発表日など繁忙期には、運転する車の中で3食、食事をすませていました。朝から晩まで車を運転し続けるので、知り合いのタクシーの運転手さんから、「フジマキくん、あんまり車を運転しすぎると体を壊すよ」と言われたくらいです(笑)。でもそのかいあって、社内でトップの成績を取ることができました。

頑張ったご褒美はもうひとつありました。トップになれたおかげで、英語の成績がひどく悪かったにもかかわらず、アメリカの大学院に社費留学する機会を与えてもらったのです。このことが外資系銀行に転職するきっかけにもなったし、ディーラーとしてスペシャリストになる道が開けたのです。

一生に一度は、死ぬほど働いて、死ぬほど勉強しなさい

私はよく若い人に、「人生にせめて一度は、死ぬほど働いて、死ぬほど勉強しなさい」と言います。私自身、円形脱毛症になるほど精神をすり減らして働いたこともあったし、アメリカに留学した時も英語が苦手だったから、単位を取るために死ぬほど勉強しました。

若い人はすぐ「仕事が楽しくない」といいますが、バカ言っちゃいけないと思います。楽しいことをやるんだったら、金払えと。楽しくないことをやるから、お金がもらえるんです。辛いことなんて、あって当たり前なんですよ。

生きがいがどうのとかいう前に、「働くということは、生きるためにするものだ」と認識することがすごく重要だし、そう思って嫌なことも飲み込んで、必死になって働くからこそ、その道のプロになれるんです。そうなったら、少なくともその業界の中では敬われるようになる。それで「アイツのいうことは、すごい」と、業界内で言われるようになったら、仕事は俄然面白くなるし、そこで初めて仕事が生きがいになってくるんです。若いうちから仕事に生きがいなんて求めちゃいけません。

専門を深く掘り下げていくと、もうひとついいことがあります。それは、優先順位をつけられるようになることです。何が緊急で何が緊急じゃないのか、重要度がわかるようになります。これは仕事でも情報収集でもそうだし、勉強の仕方でもそう。限られた時間を有効に使えるようになってきます。そうするとだんだん、好きなことをする時間もできるようになります。そうなったら、いろんなことに挑戦してみるといい。私は物書きになるのが夢の一つでしたから、今、経済を軸にたくさんの本を書かせていただいています。

モルガンの上司も、早くに引退して今は農業をやっている、なんていう人、意外と多いんですよ。自分で選択して好きな第二の人生を歩める。そういうの、素晴らしい人生だなと、僕は思います。そのためにも、何らかのプロになることが必要なんですよ。

information
『経済のことはみんなマーケットで学んだ 外資で働き、金融で成功する法』
藤巻健史著

どうして藤巻氏は「伝説のディーラー」になり得たのか。死ぬほど勉強した浪人時代から、三井信託銀行で「泣きながらお金を集めた」外回り営業、そしてモルガン銀行を退職し、名投資家ジョージ・ソロスの下で助言者として働くまで、藤巻氏がどんな風に働き、成果を出していったのかが、克明に書かれている。藤巻氏は、「ぜひ息子に読ませたい本」として、本書を執筆したのだという。金融業界だけでなく、企業社会で成功したい人、一生食べていけるスキルを身につけたい人、社会に不安を感じている人にぜひ読んで欲しい。きっとたくさんのヒントが見つかるはずだ。徳間書店刊。2012年10月23日発売。

WRITING / EDIT
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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