プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 キャリアプランは考えない。直感でピンときたものに進めばいいんです 岩瀬大輔さん(ライフネット生命保険株式会社 代表取締役副社長)
いわせ・だいすけ●1976年生まれ、埼玉県出身。東京大学法学部卒。在学中に司法試験に合格。ボストン・コンサルティング・グループ、リップルウッドなどを経て、ハーバード経営大学院に留学。卒業時に日本人では4人目となる、成績上位5%内に入る成績最優秀称号(ベイカー・スカラー)を受ける。帰国後、ライフネット生命保険の設立に参画。2009年より副社長。著書に『入社1年目の教科書』(ダイヤモンド社)『入社10年目の羅針盤』(PHP研究所)などがある。
2012年7月11日

東大在学中に司法試験合格、
ボストン・コンサルティング・グループ、
ハーバードビジネススクールを経て、
ライフネット生命を起業した。
華々しい経歴を持つ岩瀬大輔氏。
どうしてそのようなキャリアを
積むことができたのか。

退屈な作業のなかに仕事の本質が宿っている

僕は、基本的に仕事が辛いとか苦しいとか、思ったことがないんです。20代から今に至るまで、いつも楽しく仕事をしてきました。ハードな仕事をしていないという意味ではありません。最初に就職したボストン・コンサルティング・グループでは、深夜まで仕事をして会議室の床で寝て、朝になったらシャワーを浴びに家に帰って、またすぐに会社に戻る、というような生活をしていました。その後、夜12時から飲みに行く、ということもあったかな(笑)。

今だって、うまくいくことばかりではありません。経営者の役割って何か起きたときのトラブル処理みたいなものなんです。うまくいかないことばかりのなかで、もがいてもがいて、でもこれが仕事なんだ、このなかで自分は強くなっていくんだ。今はそんなマインドでいます。

「楽しい仕事はどこにあるんだろう」とたくさんの若い人が悩んでいる、とよく耳にします。でも、仕事ってそもそも面白いものでしょうか。実際には、どんな仕事も、嫌なこと、面倒なことの連続だと思うんです。つまり、仕事って楽しくないのが当たり前なんですよ。でも一方で、仕事を楽しんでいる人がいますし、実際、僕も仕事は楽しい。多分、これは仕事に向かう「姿勢」の問題なのだと思います。

僕は、いわゆる単純作業でも楽しいと思えます。例えば、すべての保険会社の決算情報をひたすらエクセルに入力する作業。僕なら、それをやれと言われたらむしろ嬉しいぐらいですし、もちろん今でもやれと言われたら全然やりますね。

というのは、自分の手を動かしてみて初めてわかってくることがあるからなんです。この数字が大きいのはどういうことだろうとか、この会社とこの会社の違いはどこにあるのかとか、資料を眺めているだけではわからないことが見えてきます。名刺の整理だって、こんなところにこんな会社があるんだ、なんて、やってみるといろんな発見がある。そう考えると、つまらない仕事どころか、仕事の本質というものは、こういう地味な単純作業のなかにあるのではないかと思うくらいです。

だから、会社に入りたての若い人が、何もできないうちから「マーケティングみたいな華やかな仕事がしたい」なんて言っているのを聞くと、「ちょっと待てよ」と言いたくなる(笑)。そんなことを言う前に、仕事を楽しむ方法を覚えたほうがずっといいですよ。

キャリアとは、大陸を鉄道で横断する旅のようなもの

子どものころから決めているのは「迷ったらやる」ということ。キャリアに関してもそうです。司法試験に合格したのに弁護士にならず、ボストン・コンサルティング・グループに入社して、その後2回転職し、ハーバードビジネススクールに留学、そしてライフネット生命の立ち上げ。職を変えてばかりで、一貫性がないように見えるかもしれませんが、僕は自分の気持ちに素直に従っているだけなんです。直感的に「いい」とか「しっくりくる」と思ったら、すぐ動いてしまう。

ほかの人から見たら、行き当たりばったりに見えるかもしれないし、世間で言われている「キャリアプランを考えよう」といった意見とは正反対ですが、僕の場合は実際これでうまくいっているような気がします。

僕は5年も10年も先のことまでキャリアプランを考えるなんて、間違っていると思っているんです。だって人生は、プラン通りに進むものじゃないでしょう。10年経てば、社会も自分も大きく変化しているでしょうし、そもそも明日死んでしまうかもしれません。そんな条件のなかで自分にできるのは、そのときそのとき目の前にある仕事を一生懸命にやることであって、それがキャリアパスというものだと思うんです。

それに、計画通りにいく人生なんて、つまらない。計画通りにいかないから人生は面白いんです。偶然の出来事があって、だから夢とロマンがあって、涙があって、笑いがある。僕が望むのは、そういう人生なんですよね。

実は、以前の僕はちょっと違っていました。ハーバードに留学する前までは、早く司法試験に受かりたい、早くマネジャーになりたい、早く留学したいというように、1つの目標を達成したらまた次の目標を立てる、のくり返し。つまり先のことばかりを考えていたんです。でも先を目指すばかりだと、いつまでも今の満足感が得られない。ハーバードに留学してからは、そんなことを仲間とよく議論していました。

そのうちに、「キャリアというものは、大陸を鉄道で横断する旅のようなもの」ではないかと思うようになったんです。目的地にたどり着きたかったら、飛行機に乗ればすむことですよね。じゃあなぜ、鉄道で旅をするかといったら、目的地までの過程が楽しいからです。車窓から景色を眺めるとか、街の人と会話をするとか、そういう「寄り道」が楽しいんです。旅の魅力って、この「寄り道」そのものでしょう。僕にとっては、キャリアも旅と同じです。キャリアは目的地に早く着くことが目的ではない。目的地までの旅を楽しむこと、それがキャリアだと思う。だから、「社会に足跡を残したい」という目標は持っていても、それに応じて細かくキャリアプランを立てるようなことは、僕はしないんです。


10年先のことはわからないという岩瀬氏。
そんな彼の「幸せの価値観」を
大きく変えたのは、
ハーバードでの経験だった。

思い通りに生きたからといって、人生が幸せとは限らない

ハーバードに留学しているころ、30年前に卒業した6人が、卒業して5年、10年、15年、20年とどのような人生を歩んでいったか、追跡調査をしたレポートを読まされたことがあります。これがすごく面白かった。

その6人はみな、卒業直後は「この先は明るい未来が待っている」と信じてウキウキしていました。でも実際には、子どもが亡くなった人もいれば、事業が失敗した人もいた。一人だけ、特にトラブルなく同じ会社に務めた人がいましたが、僕にはそれが幸せな人生だとも思えなかった。

僕はその調査結果を読んで、頭をがーんとやられた感じだったんですよね。それまでは僕も、ハーバードを卒業したら人生が開けて思い通りの人生が歩めると思っていました。でも実際は、思い通りになることもなければ、万が一思い通りになったとしても幸せになるとは限らないわけです。「これが人生の本質だよな」と納得してしまいました。

先日、ハーバードの同窓会があって、僕の同級生のその後を知る機会がありました。やっぱり「会社が潰れた」とか「転職活動中」とか、計画通りにいっていない人が多かった(笑)。卒業時に「なんでそんな道を選ぶの?」と周囲から不思議がられていた人が一番充実した毎日を送っていた、ということもありました。彼はトレーディングの会社に入ったのですが、いまでは会社も上場し、多額の上場益も手に入れたと聞きました。お金が入ったことが成功だとは思いませんが、彼がいちばんイキイキとしていたことは確かです。

その彼と、僕自身には重なるところがあります。僕はいつも、周囲から「なんでそんなことするんだ?」と言われてきました。司法試験に受かったのにコンサルティング会社への就職を選んだときも「もったいない」。辞めるときにも「順調なのになんで?」。ハーバードを卒業してライフネット生命を始めるときも「なんで生命保険を?」。でも、そんなこと気にしなかった。

多少のリスクがあっても、みんなと違うことであっても、自分の好きな道、楽しそうだと思える道を選ぶこと。それで思い通りの人生を送れるとは限りませんが、僕たちにできるのは、今このときを懸命に生きることだけ。もしキャリアに迷っている人は、もっと気持ちに素直に、感じるままに生きてみたらいい。その結果、転職に失敗したって、気にする必要はありません。どんなに頑張ってもうまくいかないときもあるんですから。

僕はいくつかの転職をしてきましたが、振り返ってつくづく思うのは、転職は恋愛と似ているということです。その人がどんなに素晴らしくても、相性の問題でうまくいかないことがある。僕も、バンバン面接で落とされました。ボストン・コンサルティング・グループを辞めた後も面接で2社落とされていますし、ハーバードだって2回落ちた末の3度目の正直でやっと合格したんです。僕のことをすごい経歴だと褒めてくれる人がいますが、努力しても落ちるときは落ちる(笑)。

だから、面接に落ちたぐらいでいちいち悩まないでいいんです。落とされたら、ただ「合わないんだろうな。わかってないな」と思っていればいい(笑)。恋愛と同じで、相性が悪ければ受からない。ある企業から評価されなくても、別の評価基準の会社にいけば、まるで違った評価を受けるかもしれないんですから。

そういう意味では、転職活動って、自分が評価される場を探すことでもあると思うんです。それが見つかるまでは、何度も落とされてしまうかもしれない。でも、心配しないで欲しいんです。きっと、いつかは自分と相性のいい会社が見つかるはずですから。恋愛と同じようにね。

information
『入社10年目の羅針盤』
岩瀬大輔著

前作『入社1年目の教科書』(ダイヤモンド社)が10万部を超えるヒットとなっている岩瀬大輔氏。今作はその続編的な内容として、入社から10年目を迎え、その先の生き方・働き方を模索する30代向けに、指針となる考え方を紹介している。「何をやるかよりも『誰とやるか』が大事」「できない仕事は『借りる力』で解決せよ」「単純作業こそ最高の英才教育」「『少し危険だけど面白い手』を打ってみる」など、「つまらない仕事が楽しくなる」55のアドバイスが収録されている。PHP研究所刊

WRITING
東雄介
EDIT
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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