プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 どんな仕事でも、自分の役割に感謝してがむしゃらに進んでいけばいい 西村雅彦さん(俳優)
にしむら・まさひこ●富山県生まれ。劇団文化座を経て、三谷幸喜率いる「東京サンシャインボーイズ」に加わる。劇団休止後の1994年に、テレビドラマ『古畑任三郎』の今泉慎太郎役で個性派俳優として脚光を浴びた。その後は、舞台だけではなく、テレビ・ラジオ・映画などさまざまな分野で活躍する。1997年には、映画『ラヂオの時間』『マルタイの女』で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞した。出演作にテレビドラマ『王様のレストラン』『やまとなでしこ』『華麗なる一族』、映画『沈まぬ太陽』『武士の家計簿』などがある。また、BS-TBSで放映中の『THEナンバー2 歴史を動かした影の主役たち』では司会を務め、新たなファン層を獲得している。
2011年11月16日

『古畑任三郎』の今泉慎太郎役で
一世を風靡したのが、34歳のとき。
それまでは、「東京サンシャインボーイズ」という人気劇団に参加しながらも、
引越やイベント設営のアルバイトを
していたという。
支えていたものとは、何だったのだろうか。

人に喜んでもらえる人になりたいと、ずっと思ってやってきた

仕事にはどうしてもお金がからんでくるから、お金がたくさんもらえる仕事がいい仕事だっていう感覚をもってしまう人がたくさんいるかもしれないけど、自分の場合は全然そんなこと考えていなかったんです。もともと出発がアマチュア劇団で、そこから新劇に入ってプロの俳優になっていくのだけど、ずっと「人に喜んでもらえる人になりたい」ということを強く思っていて、それがあって続けてきたわけです。いってみれば、お金は二の次だったんです。よく、「お金は後からついてくる」って言うでしょう? 求めると逃げていくし、突き放すとついてくる。男女の関係に似ているんじゃないかなあ。「好きです」って迫っていくと、相手が逃げてしまう(笑)。

仕事の評価も同じじゃないかな。何度も壁にぶつかって、その都度どう演じたらいいかを、がむしゃらに考えてやっていた。そうしたら、たまたま僕を認めてくれる人がいて、『古畑任三郎』というドラマで今泉慎太郎というコミカルな役をやらせてもらう機会をいただいたんです。その台本を読んで、自分にできることを必死に探したし、自分らしい演技をしようと、失笑を買いながらもやり続けました。そのときは評価なんか気にしていませんでした。守らなきゃならないものはなかったし、もう、次の作品がこなくてもいいやくらいの思いで…、いや、こなくてもいいとまでは思ってなかったかな(笑)。でも、そのくらい無我夢中で役に取り組んだんです。その結果、多くの人に楽しんでもらえました。

実はその後、評価されることに喜びを感じて、評価されることが目的になっていた時期がありました。だけど、それはちょっと違っていた。そんな経験があって、評価されることを目的にしちゃいけないんだと気付かされました。評価なんて関係なく、真摯な気持ちで作品に取り組む。やっぱり、これが大前提なんです。

いい仕事をしたいって、若い人はいうけれども、みんな「いい、悪い」にとらわれ過ぎなんじゃないでしょうか。何をいいと思うかは人によって違うんですから。

大切なのは、自分の信念を持って生きていくことだと思います。誰かの生き方を参考にすることは、何かのヒントになるかもしれない。でも一方で、自分の可能性を狭めてしまうことにもなる。世の中にはいろんな人がいる。誰もがみんな、必死にひたむきに生きてきたわけで、こうすればいいって成功論があれば、誰も苦労はしませんよね。こうやったらうまくいくなんて、そんなこと、誰にもわからないことですから。


1997年には、映画『ラヂオの時間』で
日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を
受賞した。
コミカルな役を得意とする印象があるが、
シリアスな役でも評価が高い。
さまざまなジャンルで活躍する西村氏に、
自分らしく働くヒントを聞いた。

自分の役割に感謝して、そこで生き抜く覚悟を決めることが大事

いろんな仕事があるから、世の中は面白いんです。製造業の人がいるから、紙を手にペンで書くことができるし、お米が食べられるのも農業をやっている方がいるからです。皆、役割があって、どの仕事がいいかっていうのはないですよね。

みんな主役になりたがり主役が脚光を浴びるけど、主役だけが面白くてかっこいいってわけではない。主役も役割分担のひとつだと思うんですよ。主役になれる人は、この人だと全体の統制が取れるとか、いろんな理由でなるべくしてなっている。それをちゃんと自覚して、自分の役割に社会的意義を見出して、感謝して取り組んでいけばいいと思うんです。そうやって、そこで生き抜く覚悟を持つことが大事なんじゃないでしょうか。

成功している人を見て、自分をワクにはめようとする必要もないと思います。私はこういう考え方で、私はこういう感性ですって、そうみんなに言えばいいし、それを信じて生きていけばいい。その人の個性なんですから。自分の立ち位置が定まらないまま生きていっても、何も生まれない。どこにも根を張ることなく一生が終わってしまうということのむなしさは…、とても耐えがたいことだと思うんです。

自分には何ができるかって悩んでしまう人は、何も考えないで何でもいいからやってみたほうがいい。自分に向いているということを基軸にしてしまうと、何もできなくなるでしょう? はじめから当たるとわかっていることしか、やらなくなってしまう。たった1回の人生です。それではあまりにもったいないですよね。

ぶつかっていくと、痛い思いもするでしょう。でも、それでもいいじゃないですか。傷つかないまま生きていても、ちっとも楽しくない。人生が楽しい事ばかりだったら、楽しいという感覚そのものがなくなってしまいます。大変なこともあって、楽しいこともあって、もっというと、その楽しいことがむなしいと感じることもあって…。そんな経験をたくさんしてみる。それを繰り返すことが、生きるっていうことだと思うんです。

自分が変わらないと、人は変わらない

どういう風にチャンスをつかんでいいかわからないっていう人がいるけど、僕はとにかく突き進めばいいと思うんです。果敢に攻めていく。自分には可能性がある、きっかけさえあればやれる力があると思うのだったら、恐れずに進めばいい。大変な痛みが伴うかもしれない。でも、それは当たり前のことです。壁にぶつかるかもしれない。だけど、これは一つの経験だと考えて、何があっても止まらずに、壁をぶち破っていくんです。大事なことは、あきらめないこと。そして勇気を持って進むことなんですよ。

面白そうなことをしている人をうらやんで、ただ見ていてもしょうがないと思います。楽そうに見える仕事でも、実際やってみるととんでもなく大変だった、ということもあるわけですから。楽しそうな仕事というのも、それは外から見たものであって、実際はどうだかわからない。だから飛び込んで、自分で感じてみることが大切だと思うんです。

今、『THEナンバー2 〜歴史を動かした影の主役たち』という番組の司会をしているのですが、歴史を知れば知るほど、見方によって物事は全然変わって感じられるものなんだとつくづく思います。「歴史は強者によってつくられる」とよく言われますが、通常、歴史はナンバー1の視点から語られている。でも、普段、脚光を浴びないナンバー2の視点から見ると、歴史は全く違って見える。これは私たちの時代でも同じだと思います。

要は見方次第なんです。自分がつまらないと思えばつまらないし、面白いと思えば面白くなる。向いていないと思えば、向いてないように思えるんです。世界は自分次第。だったら悩んでいないで、「この仕事、自分に向いている」と思って、仕事が面白くなるように、どんどん自分を変えていった方がいい。つらかったら、無理矢理笑ってみて、自分に面白いと思い込ませるとか。それくらいしちゃってもいいんじゃないでしょうか。

12月からはじまる『90ミニッツ』という舞台では、「倫理観」がテーマになっています。それぞれがそれぞれの立場で、正しいと思ってやっていても、一方から見れば、それは「やってはいけないこと」だったりするわけです。仕事をしていれば、倫理観の違いは当然出てきます。でも、それはなんとかして埋めていくしかない。どうすればいいかというと、まずは否定から入らないことだと思います。相手を否定することから入ってしまうと、仲たがいした関係のまま加熱されて、どんどん関係が悪化していく。相手の考え方を認めて、歩み寄ることって、すごく重要だと思います。もし、向こうが歩み寄らないのであれば、こっちから歩み寄ればいい。そうすると向こうも、「自分とは、全然倫理観が違うけれど、この人、折れてきている?」と気づき、態度を軟化させます。そうするとお互いにわかりあえますよね。仕事をする上で、相手を認めて歩み寄るっていうことはすごく重要なことだと思うんですよ。

結局、自分が変わらなければ人は変わらない。でも、自分が変われば、周りは変わっていくんです。そうしていれば、そのうち、手を差し伸べてくれる人も出てくると思います。

information
パルコ・プロデュース公演
「90ミニッツ」

三谷幸喜生誕50周年を記念して催されている「三谷幸喜大感謝祭」。そのラストを飾る作品が、1996年に公演された「笑の大学」以来、15年ぶりの共演となる西村雅彦・近藤芳正の2人芝居「90ミニッツ」だ。今回のテーマは「倫理」。それぞれがそれぞれの立場で「正しい」選択をするが、それは一方から見れば、「やってはいけないこと」でもある。そんな状況は、職業、宗教、国のイデオロギーなどさまざまな違いで起こりうる。しかし、時と場合によっては、その「倫理」を越えたところで、行動しなければならないこともある…。2人の個性派俳優が演じる男性が、それぞれの「倫理」でぶつかり、葛藤していく様を描いていた会話劇。
作・演出/三谷幸喜 出演/西村雅彦・近藤芳正 企画製作/(株)パルコ
日程/2011年12月3日〜30日PARCO劇場、2012年1月6日〜8日福岡・北九州芸術劇場中劇場、1月11日〜23日大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、1月25日〜26日石川・金沢歌劇座、2月1日〜2日仙台・電力ホール、 2月4日〜5日よりりゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場、2月24日〜26日名古屋・名鉄ホール、2月28日〜29日、広島・アステールプラザで上演。
問い合わせ/電話03−3477−5858 パルコ劇場 http://www/parco-play.com/

EDIT / WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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