プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 
計算するな。がむしゃらに向かえば、必ずなんとかなる
ドン小西さん(ファッションデザイナー)
ドン・コニシ●(株)小西良幸デザインオフィス代表。ファッションデザイナー。1950年、三重県生まれ。明星大学理工学部中退。文化服飾学院卒業後、81年に株式会社フィッチェ・ウォーモを設立。「FICCE」「YOSHIYUKI KONISHI」「d.k.f」などのブランドを主宰し、 東京、ニューヨーク、ミラノでコレクションを発表するなど国際的にも活躍。2011年4月から呉服「ODASHO」より着物ブランド「ドン★きもの」を展開。最近ではテレビ、雑誌等でマルチデザイナーとして幅広く活躍中。91年 毎日ファッション大賞、98年 FEC(ファッションエディターズクラブ)デザイナー賞 受賞。名古屋学芸大学大学院メディア造形学部ファッション造形学科 特別講師。
2011年7月20日

辛口のファッションチェックで人気のドン小西氏。
その半生は波乱万丈だった。
29歳でブランドを立ち上げ、数々の賞を受賞。
一世を風靡するも、後に15億円の負債を抱えてしまう。
刺激的な人生を歩んできた小西氏が、
面白く生きるコツを語る。

自分の信じることに従う。その延長線上でここまできた

僕は計算をしないんですよ。何年先にこうしようとか、こうなっていたいとか、そんな風に考えたことはない。やりたいことをやって、直面したことに全力でぶつかってきただけ。

ファッションデザイナーになったのも、そのときそのとき興味のあることを選択してきた結果です。もともと僕の家は、父方は医者の家系で、母方は呉服商。家の中に渡り廊下がある、時代劇に出てくるような広いお屋敷で、美しい反物や帯に囲まれて育ちました。父親は医者になって欲しかったみたいだけど、僕はどうもしっくりこなかった。西陣帯など色彩豊かなものに囲まれている方が楽しかったわけ。自分で段ボールにいろんな色を塗ったり、古い時計を分解したり、遊びも自己流。そのころはまだデザイナーなんて職業はなかったから、糸と布を使って何かを表現する仕事が具体的に浮かばなかったけど、ビジュアル的なもので人に感銘や感動を与えるような仕事に就きたいとは思っていました。

高校を卒業して、一時は理工系の大学に進むんだけど、全然ピンとこなくて辞めちゃった。そんなとき出会ったのがグラムロック(1970年代に流行したロックのスタイル)。音楽もそうだけど、その衣装にほれ込んだ。それでロックの中心地ロンドンに渡って、半年間ファッションを学んだ。帰ってきても、そのときに見たかっこいいシルエットが忘れられなくてね。どうやったらあの形を自分のものにできるのだろうかと、服飾の専門学校に通い始めたんです。布を使った作品で人を感動させたい。そのために型紙のつくり方を学ぼう。しっかりとした目的を持っていたから、周りの生徒なんか眼中になかった。自分のやりたいことをやる。自分の信じるものに従う。僕は昔からそうで、その延長線上でここまできたんです。

ビニールのひもやコードを編み込んだニットが大成功

卒業した後は、アパレル会社に就職しました。デザイナーとしてずいぶん評価もされていたから、そのまま会社にいたら出世したんじゃないかなあ。でも僕はそういうのに興味なかった。自分だけのワールドを作りたかったし、自分のブランドを持って世間を驚かすようなことをしたかったんです。それで思い切って29歳で独立しました。

資金は無謀にも60万円。そんなのオフィスを整えるだけですぐになくなってしまいました。洋服の素材を仕入れるお金もなくてね。そこで思いついたのがニット。普通は問屋から何百キロ単位で糸を購入するんだけど、僕にはそのお金がなかったから、半端に売れ残った余り糸を安く譲ってもらった。ウール、カシミヤ、麻などいろんな素材、さまざまな色の糸がありました。それらを全部使って編み込んだ。しまいにはビニールのひも、スピーカーのコードと、編めるものはなんでも使って編み込んでいった。そしたらそれが「アートだ」って言われて、大変な評判になったんです。

糸だけじゃなく、当時流行っていたフレアースカートで出る余り布をもらってきて、パッチワークにしてカラフルな洋服にしたこともあった。僕は色の組み合わせが得意だったんです。小さいころから帯や反物の素晴らしい色彩を見て育ってきましたから。1枚のセーターに100色くらい使っても野暮にならず、絶妙のコーディネートができたのは、育った環境が大きかったのだと思う。これは僕の強みです。誰にでもあると思うけど、自分が得意とするものを知ることはすごく大事です。得意がわからなければ、人と違う部分でもいい。そしてそれを活かす環境に身を置くこと。これができれば成功しますよ。


斬新なデザインで、時代の寵児として
世間から注目を集めるようになった小西氏。
ニューヨークにも進出し大成功を収めるが、
多忙な生活の中、気がつけば会社は
崩壊状態になっていた。

自分の気持ちを書き出してみると、自分を客観視できる

30代、40代はがむしゃらに働いたね。デザイナーとしての評価が上がるにつれて、会社はどんどん大きくなり、年商数億円、全国に50店舗を構えるほどになった。デザイナーとしてだけでなく、経営者としても相当な忙しさでね。しだいに洋服を楽しむ時間もなくなっていった。だって年に数回、コレクションを発表するだけでも大変なのに、決算や人事など会社の運営もしなくてはならない。いつも「あれ、やらなきゃ」と追い詰められている状態でね。精神的に限界だったんだと思う。ついにうつ病になってしまったんです。

うつ病は5年間続いた。業績も評判もうなぎ登りの全盛期にうつ病になるなんて皮肉だけど、とにかく忙しかったから自分を見失っていたのかもしれない。何とか治そうと、自分が思っていることや感情をスケッチブックに片っ端から書き出していきました。「何でこういう風に思うのか、どんなときに嫌な思いをするのか」。毎日毎日書き出すことで、自己分析をしていったんです。そうすると自分のことがよくわかってきた。さらに周りの人のことも、仕事のこともわかるようになって、効率的に物事が運ぶようになり、うつ病がよくなっていったんです。

これは今でも続けています。毎晩その日にあったことを思い返して反省するんです。こういうことをすると損をするぞ、でもこの損のために個性を捨てる必要はないな、とか。嫌なことがあったけど、自分に必要のないことだから放っておこうとか。

こうして自分を振り返る習慣をつけていると、自分を客観視することができます。そうすれば自分の強みも弱みもわかるし、自分にとって本当に必要なものもわかってくる。自分の物差しを持つことができるようになるんです。

あきらめずにぶつかっていれば、必ず復活できる

あと、もうひとつ大切なのは、決してあきらめないこと。僕の場合もあきらめなかったから、今がある。47歳でニューヨークコレクションに参加し、デザイナーとして世界的にも大成功した。でも帰国してみると会社はむちゃくちゃな状態になっていた。1度傾き出すと、いいときは調子よく集まっていた人たちがみんな去っていった。そこから9年間、15億円の借金を抱え、本当に大変な思いをしました。

でも、あきらめずにやっていれば、必ず復活できる。一生懸命やっている姿を見ていてチャンスをくれる人が必ず出てくる。僕も裸一貫になってもあきらめず、いろんな仕事に必死で取り組んでいたら、辛らつな発言が面白いって、メディアで注目されました。何が幸いするかわからないわけです。

今大変な状況にいる人も多いだろうけど、自分を信じて目の前のことにがむしゃらに取り組んでいたら、なんとかなるものです。僕だってたくさん面接に落ちているし、挫折もあった。でも今、実を結んでいるのは、あきらめないで腐らないでやってきたからなんです。

ああやったら、こうなるかな、なんて計算していてはダメ。来るもの拒まず、出会いはみんなチャンスと思えばいい。嫌なことから逃げていては何も得られません。嫌いな上司も試練だと思って、そこから何かを吸収しようとしていれば、得られるものはある。今の状況に感謝すること。そこで自分にできることを考えること。せっかくきた仕事や出会った人を「これは違う」なんて、勝手に選択するからうまくいかないんです。

本気なら何でもできるでしょ。失敗する人はたいてい途中であきらめるんです。年収でも地位でも評価でも、何でも上がっていけばいくほど、苦労も多い。大変な神経をすり減らす。でも、苦労と達成感は比例するんです。さんざん苦労して何かを成し遂げたとき、その充実感は何物にも代え難いものがあります。それを知ると苦労が楽しくなる。苦しくても苦しくても、やめられなくなるんですよ。

大きなものを手に入れたいなら、リスクを負わないと。何かを捨てないと。何が大切かは、人それぞれ違います。それこそ自分のものさしでないと測れません。まずは、自分を知ることから始めていったらいいと思いますよ。

information
逆境が男の「器」を磨く
ドン小西著

15億円の借金、5年間のうつ病と、波乱に満ちた人生を歩んだドン小西氏が独自の人生論、仕事論を語る。「逆境は自分の殻を破るチャンス」「強い目標意識が自分の首を絞める」「いい加減は粋である」「休日はジャージで過ごすな」「自己観察から真実の姿が見える」「トラブルには本能で当たれ!」「社長の服で会社がわかる」など、ビジネスパーソンにとって興味深い内容が目白押し。最近どうも調子が悪いと思っている人、大変な目にあっている人、必見の1冊だ。
講談社α新書

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
阪巻正志

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