




関西弁を話すインドの神様が出てくる
自己啓発本『夢をかなえるゾウ』は、
170万部を超える大ベストセラーとなった。
作者の水野氏に聞く。

持って生まれたもので差がつく世の中はおかしい
僕の原点はコンプレックスですね。中学、高校と男子校で、ものすごくモテない不遇の時代を過ごしまして。それこそ6年間でまともに話した女性は母親だけという(笑)。でも男子校の中にもモテる男はいたんです。学園祭のときなんか、たくさんの女子生徒がそいつを見るために集まってくる。僕と何が違うのかというと、顔ですよ、顔。そんな持って生まれたもので勝負がついちゃうなんて、世の中おかしいじゃないですか。
一発逆転してやろうと、猛勉強して慶應(義塾)大学に入って「大学デビュー」したんですけど、やっぱり全然モテない。それで、恋愛関係のマニュアル本を手当たり次第、読みまくりました。恋愛に役立ちそうな心理学や哲学関係の本を入れると、全部で100冊くらいは読んだと思います。
もちろん実践もしました。渋谷の宮益阪で女の子に道を聞いてみることから始めたんですが、自意識過剰で、6時間経っても声をかけることすらできなかった。そんな調子ですから、マニュアル本に書いてあることをいくらやっても全然うまくいかないわけです。それでもなんとかしようと、女の子と飲み会に行く度に大学ノートに反省点を書いてみたり、学内のイケてる男に自分から声かけて教えを請うてみたり。モテる男になるために何でもしました。
当時は苦しかったですね。自分を変えなくちゃいけないし、プライドも捨てなくちゃならない。めちゃくちゃ頑張っても、ふられまくりでしたから。でも、試行錯誤していく中で自分なりの恋愛理論を生みだせた。人生初の彼女もできましたしね。その経験が後のマニュアル本出版につながっていくんです。
「自分が負けている場所」にあえて行く
でも、すぐに作家になろうなんて考えていたわけではありません。特になりたいものが浮かばないまま、気づいたら大学3年生になっていて。とりあえずみんなと同じように、就職活動を始めました。
当時は、人気業界に就職しないとかっこ悪いという雰囲気がありましたから、テレビ局からはじまって、外資系証券会社、広告代理店、商社、と、まあ、就職ランキングで上位になるような人気業界ばっかり受けていったんです。でも、全然うまくいかなくて。
面接では「モテなかったんで、恋愛マニュアル本を片っ端から読んで実践してました」と正直に答えました。本当にそれしかやってなかったですから。その場ではものすごくウケたんですが、だいたい2次面接までで終わりでしたね(笑)。
就職活動がうまくいかなかったことをきっかけに、ストリートパフォーマンスを始めました。内容は1分間100円で人をほめまくるというもの。芸人になりたかったわけじゃなくて、とにかく思いついたことは何でもやってみようと。いわば自分探しですよね。
25歳になっても、月の収入は週2回の居酒屋のアルバイトで10万円。大学時代の友人はみんな一流企業に入っていましたから、自分はかなり変わった存在でしたね。ただ僕は「自分が負けている場所」に行くのが好きなので(笑)、あえて同窓会に行ったりしてました。開き直って「オレは毎日まかないの鶏肉しか食っとらん」とか言ったら意外と溶け込めて、「お前、自由でいいなあ」と言って笑ってくれるんですよ。ついでに飯もおごってくれて。これはもう、こいつらに寄生していくしかないなと(笑)。
でも、今考えると正解でしたね。自分と全く違った環境の人と接すると、自分を客観的に見ることができますし、何より自分の現状をみんなに笑ってもらうと、楽しいんです。本当だったら「お前、何やってんの?」と言われてもおかしくなかったと思うけど、笑って自分を受けて入れてくれる友人がいたというのが本当に良かった。「あ、こうやって面白がってもらえるんだ。意外と俺のポジションあるじゃん」と思ったんですね。そうすると自信がつくし、自分が何をしたいのかも、なんとなく見えてくるものなんですよ。



作家デビューは、25歳のとき。
友人と共著で出版した『ウケる技術』が
いきなり25万部を超えるヒットとなった。
なぜ、水野氏のマニュアル本は面白いのか。

「だから、ダメだ」に大きなチャンスがある
マニュアル本はたくさん読んでいましたから、自分でも書きたいとは思っていました。でも、マニュアル本って、ものすごい偉業を成し遂げた人しか書いちゃいけないような気がして。
転機は24歳のときです。アルバイト先の居酒屋の料理長がむちゃくちゃクセのある人で、みんなどう接していいのかわからなくて困っていた。そこで、僕が「料理長 完全攻略マニュアル」という小冊子を作ったんです。「料理長がこんなセリフを言うときは機嫌が悪いから、こう接しろ」とか、そういうもの。そしたらむちゃくちゃウケたんです。仲間の役に立てて嬉しかったし、何よりつくっているとき、ものすごく面白かった。
マニュアルを作る仕事は自分に向いているんじゃないかと思いました。ひとつ結果を出したことで、自信もついた。それがあったから、『ウケる技術』を書くことができたんです。普通は、笑いの技術を体系化するなんて、ダウンタウンの松本人志さんくらいの大物芸人じゃないとやっちゃいけないものだと思いますよね。でも、そんなことはないのではないかと。実績のない人間でも読者を納得させる方法は何かあるはずだと、あきらめずに抜け道を考えるようになったんです。
『ウケる技術』が売れたとき、「オレもそういう本を出そうと思っていた」という人が多かったんです。確かにそうだと思います。面白いアイディアっていうのは、意外と多くの人が考えつくものですから。でも、思いついても「○○だから、ダメだ」で終わらせてしまっている人がほとんどです。本当は、その「ダメだ」に宝の山がある。その「ダメだ」をひっくり返してこそ、大きな成功が得られるんですよ。
インプットする暇があったら、アウトプットしたほうがいい
僕の事務所には、若手が数人いるんですが、そいつらにはいつも「アウトプットしろ!」とうるさく言います。よく、「いいものを作りたかったら、いいものをたくさん見ろ」って言うでしょ。1日何本も名作映画を見たり。僕はそれよりアウトプットをたくさんする方が大事だと思っています。インプットは楽。それに比べてアウトプットはしんどい。いろんな人からいろいろ言われて、傷つきますしね。僕なんか人一倍傷つきやすいから大変ですよ。でも、それでもアウトプットをしなくちゃダメ。なぜなら、人は経験からしか学べないからです。
みんな傷つくのが嫌で逃げちゃうけど、傷つくのって実はいいことなんです。傷つくからもっとうまくなりたいと思うし、現実と理想のギャップを知ることができる。それだけでも大きな収穫なんですよ。
『夢をかなえるゾウ』では、最初の構想から出版までに数年かかっています。執筆にあたって、400本くらい「教え」を抽出したのですが、単にそれだけ並べても面白くない。それで別の企画で考えていた「神様がマニュアルを教える」というアイディアと合体させました。それ自体が面白い要素ではあるんですが、売れた秘密は別にあります。実は完成までに、何度も人に見せてアドバイスをもらっているんです。その都度、少しずつ軌道修正して、どんどん面白いものにしていった。最初の試作品でほぼ完成しているのですが、それをみんなに見せることでさらに課題を見つけて、どんどん磨いて120点にしていく。これが僕のやり方です。
何度も練り直すのはめんどくさいですよ。でも、僕は自分の才能を常に疑っていますから、大変だけどありがたい。直せるっていうことは、本当の実力より、もっと大きく見せられるってことですから。
こんな風に思えるのは、僕に強いコンプレックスがあるでしょうね。追いついても追いついても理想の自分が先にいて、いつもそれを埋めたいと思っている。コンプレックスはなくなることがありません。「夢をかなえるゾウ」が170万部売れても、飲み会で会った女の子が知っているのは僕ではなくて、ドラマで主演した小栗旬さんですから。ああ、自分はまだまだだなと(笑)。
「ダメな自分を飲み込めたら楽だったのに」と思いますよ。でも僕は、絶対に自分がダメだって認められなかった。だったら、やるしかないでしょう。行動して、傷ついて、学んで。それを繰り返すのみです。
今、昔と少し違うのは、「自分がダメだったからよかったんだ」と思えるようになったことです。ダメな自分を認めたくないから、不安だから、傷つきたくないから、もっと頑張ろうと思えた。成長っていうのはそういうものでしょう。「成長と傷つくのはセットなんだ」。僕は傷ついたとき、いつもそう思うんですよ。


水野敬也著
「たった一つの成功法則」を教えてもらうために、会長室の扉を開けた男が見たものとは?(「深沢会長の秘密」)、「突然、駅のホームで幽霊になってしまった男が参加した不思議な「人生」の授業。男がそこで学んだこととは?(「見えない学校」)、深夜、誰もいない遊園地で、氷でできた親子がとった行動とは?(「氷の親子」)など、4つのショートストーリーから構成される全く新しいマニュアル本。「マニュアル本は気持ち悪いという人にこそ読んでほしい。マニュアル本の持っていて恥ずかしいという部分をあえて除いてつくりました」という水野氏。幸せになるためのヒントがたくさん詰まった4つの物語。心を痛めることの多い時代だけに、たくさんの人に手に取ってほしい本だ。
文響社刊
- EDIT/WRITING
- 高嶋ちほ子
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 阪巻正志


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